サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの26:追憶の始まり

 

 望外の僥倖というべきか、不測の事態とでも言うべきか。覚醒イベントとやらも控えたユグノアへの道すがら起きた出来事は、時系列を少しだけ整理しながら、順を追って話を進めたほうがいいかもしれない。

 たぶん原作を知っているならば、そして何より俺自身の予想を超えた邂逅が同時多発的に起こっているような、信じがたいような出来事の連続だったから。

 

 これはユグノアにおける目的のすべてを終えた俺が命の大樹を通して視る"追憶"であり、あの時を振り返るように懐かしむ俺の、まどろみの中に零れた間隙の中の観劇談だ。

 

 その物語をはじめから紐解いていくためにも────まずは、グロッタの道中で起きた比較的小さな一件について語ろうか。

 

 

 

 

「大変だッチ! 勇者サマがいきなり現れたッチよ!」

「たぶん、草むらから飛び出したのはきみの方だと思うけど」

 

「おいイレブン、しゃがみ込んでなにをブツブツ話してんだ?」

 

 小鳥ほどの身長に対して引きずるようにひょろ長く伸びる手を必死に動かして半透明のそれは驚きを告げるが、カミュは俺に怪訝な顔を向けるだけであった。

 どうやらこのユニークな生物が、皆には見えていないようだった。

 

 長い手に半透明の身体、そして俺、正確には勇者以外に見えたり触れたりされることは決してない。これらの特徴を持つそんな彼らは「ヨッチ族」という。

 時を司るありがたい種族であり、それでいてそんなありがたみもあまり感じさせないような、なんとも言えないゆるさを持つ種族でもあった。

 

「俺の頭がおかしくなっていない前提で聞いて欲しいんだけど、ここに小さくて半透明の生き物がいるんだ」

「はぁ? 何いってんだ?」

「だろうね。俺もマヤの立場ならそう返す。だけどね、これは事実なんだよ」

「……今更だけど、おれってこんな不思議ちゃんに助けられたっての……?」

 

 怪訝な顔でこちらを見るマヤを含め、皆の反応はおおかた予想通りだった。ヨッチ族の実在を証明するのは、それこそ彼らの村に連れて行ってもらうくらいしかないのだから。

 そして、それが叶うのはおそらく英雄たち、いわゆるドラゴンクエストシリーズ歴代の主人公たちが記録された冒険の書が何者かによってめちゃくちゃに書き換えられる大事件(実際は、ヨッチの族長が起こした勇者への力試し)が起こるまでおあずけになることだろう。もうわかりきっている未来なら、そんなことするなと族長に言い含めておきたいが。

 

 さて、彼らヨッチ族がなぜここまで動揺しているのかは分からないが、とりあえず話を聞いてみる。

 仲間からの怪訝な目など慣れたものだ。ショックなんて受けてないんだからね。

 

「落ち着いて聞いてくれ。俺が勇者だとして、なんでそんなにも動揺する?」

「勇者サマは死んだはずだッチ! 現に、ここから先のユグノア城で魂が魔物に囚われちゃってるんだッチよ!」

 

 ……ん? 少し話が噛み合わない。齟齬があるというよりも、まるで俺以外にもう一人勇者が存在したような口ぶりだ。ヨッチ族は命の大樹に親しい種族であり、勇者を見間違えることはない。これは原作でもサマディー王国への道中という、まだ勇者の力の一端のみを使え始めたようなタイミング(体験版)でも勇者を見抜いた実績からわかることだ。

 そして、先のヨッチ族の発言に俺は心当たりがあるし、動転している彼の要領を得ない説明と思い違いを一つひとつ解きほぐすと、こういうことだ。

 

 ひとつ、彼の指している死んだはずの勇者サマとはおそらく過去の、過ぎ去りし残響たる以前の俺のことだ。時に近しい種族であるが故に時間感覚に大変ルーズな彼らはおそらく、以前の俺の残響を俺自身だと思っている。このあたり、詳しくやれば話が入り組みすぎる割りには端的に言って「特殊な人違い」の一言で済むので次へ。

 ふたつ、その勇者はユグノア城に囚われているらしいこと。これは俺の見た夢とも一致する、ユグノアに関する俺個人のモチベーションの一つだ。原作通りの墓参りとは違い、俺はたぶん、アーウィンやエレノアを自身の父母だと思うことは原作よりもいっそう難しいだろう。

 ルビスによる召喚によって勇者となった俺自身は哲学的に言えば五歳ほどから発生し、その時点で既に生前の俺の記憶すべてを保持していたからだ。このあたり、実際に会えば感想が変わるかもしれないが、それも今は主題じゃない。

 そんなわけで、俺個人としては「以前の俺に会う」ことをモチベーションとして動いているところがあった。過ぎ去りし時を求めたということは、俺たちの求めたハッピーエンドはおそらく迎えられなかったのだろう。だから、その無念を継ぐために俺はユグノアへ足を動かしている。覚醒イベントとやらはまあ、期待はしすぎない程度にだが。

 

「その勇者は以前の俺だ。説明すると長くなるけれど……」

「! ────そういうことッチね!」

 

 ポン、と長い腕を器用に先端で合わせて勝手に納得するヨッチ族。どの辺りで納得してくれたのかは分からないが、どうやら丸く収まったらしい。こういう時は相槌を打っておくのが一番だと、俺の経験が言っている。ドラクエ主人公の特権だろうか、うなずくだけで大体の情報はあちらから話してくれるのだ。なぜか。

 

「お願いだッチ、勇者サマ! 魔物のとっておきのデザートになった勇者サマの魂を救ってあげて欲しいッチ! あれじゃあ勇者サマがあまりにかわいそうだッチよ!」

 

 魔物、というのは夢を操り絶望を主食とする悪趣味な魔物、バクーモスのことだろう。元よりそのつもりである俺は、間を置かずに頷いた。

 

「!! さっすが勇者サマ! チカラ強いお返事だッチ!」

「あのー、イレブン? そろそろ行かないと、日も高くなってきているわ」

「わかった。そろそろ行こうか」

 

 それじゃあ、と指でつまむようにして彼の手を握り、半透明で冷たい彼らに確かな意思を伝えて立ち上がる。

 仲間の目がどんどんと「長旅で疲れが……」「勇者として、王子として思うことも多いじゃろう」とお労しいものを見る目になっていたことは断じて、断じて関係がないが、そろそろ本道に戻るべきなのは間違いない。

 

 ヨッチ族のお願いは、俺の目的にも合致している。理由は分からないが、これらもすべて「行ってみれば分かる」ことだ。

 直感だとかそういうものではなく、俺が俺自身ならそう取り計らうという確信の上でそう思う。

 

 もし俺がハッピーエンドを迎えられなかった時、過ぎ去りし時を求めるまでに無策で挑むことはおそらくない。そんな不用意な性格ならドゥルダで修業なんかしていないし、お気楽勇者として幼少期から16歳の旅立ちに至るまで、エマとガッツリイチャイチャ方面へ舵を切っているだろう。*1

 

 さて、長い手を振るヨッチ族に見守られながら長いユグノア地方の旅、グロッタまでの道中へ戻るわけだ。のちの道すがらでは他に変わったことが起きなかったことを鑑みて整理するならば……後からそうだと知った時系列の通りにお話を進めていくのがやはり望ましい。

 

 それならば、我らが旅芸人にして凄腕の剣士シルビアと、なんの因果か彼に見つかってしまったがゆえに俺たちとも原作より数段早く邂逅することになった、双翼の片割れたる白き彼のお話をするべきだろう。

 彼らと俺たちは、のちに道を同じくすることになったのだから。

 

 

 

 

 靴を隔てて痒きを掻くとはこの事かと嘆息が口をついて出る。

 ああ、鬱陶しいことこの上ない。

 

 頼んでもいないのに隣へ勝手にまとわりついてくる奇抜な服装の旅芸人であるシルビアに、私──ホメロスは現在、非常に辟易していた。

 

「またため息? 早く迎えに行ってあげなきゃ、幸せが逃げていっちゃうわよ?」

「チッ……誰のせいだと思っているんだ」

「あら、まさかアタシなの? それなら、お詫びにとっておきの」

 

 シルビアがなにかを取り出そうとする仕草を全力で止める。

 

「やめろ、私の真横でとっておきを披露しようとするんじゃない! 次は何が出てくるか知らんが、すでにどんどん人が集まってきているだろうが!」

「いいことじゃない、活気があって!」

「私にとっては、まったく、良くないんだっ! クソ、こいつといると隠密行動も何もあったものじゃないな……」

 

 この女──世間にそこそこ、いや、かなり名を知られる旅芸人であるコイツ────シルビアの存在が、今の私にとってはすこぶる腹立たしく、もどかしい目の上のたんこぶのようなものだった。

 人目を憚るどころか見せびらかすその軽率な振る舞いに、ここグロッタの民は惹き付けられているというのも度し難い。これでは、私の任務は遂行などできたものじゃない。 

 

 ……いや、そもそもこいつと出会ったプチャラオ村の時点から、歯車は既に狂ってしまっていたのだろう。ある種のカリスマとも呼べる、人を惹きつける魅力を持つ彼女は、得意の軽業や軽妙な語り口で意図せずして常に周りに人を呼び込み、その度に私の任務のことごとくを邪魔しているのだった。

 

「さあ、みなさんのリクエストにお答えして、次はとっておきの……」

 

「だからやめろと言うにっ!」

 

 ────嗚呼、早く私に興味を失ってもらえないだろうか。秋の濡れ落ち葉のように引っ付いては離れないこいつがいる限り、私の思うように事は進まない。

 キャラバンにでも所属していれば帰るように促せるが、こいつはまさかの一人旅ときた。

 

 なんなんだこいつは、本当に。 

 

 制止を聞かず"とっておき"を披露し、大通りを埋め尽くすほどの町民たちが大量に集まってしまったのを見て、こめかみを貫く頭痛から逃避するように、私はここまでの道中を思い返していた。

 

『"イリアス"ねぇ……名前は聞いたこともないけど、騎士が一人旅なんて珍しいわね。丁度いいわ、一緒に近くの村まで行きましょう! 旅はナントカ世はナニカ、って言うじゃない?』

『「旅は道連れ世は情け」だ。ほとんど何も覚えていないじゃないか。……そして、この言葉は私が最も信用ならないと考えている言葉のひとつだ。準備もなしに一人旅など、まともな感性を持った奴のやることじゃない』

『ま! このアタシの前でいい仏頂面をしてくれるじゃない。……そんな顔されるとアタシ……アナタの笑顔ってやつを、がぜん見たくなってきちゃったわ!』

 

『……勝手にしろ』

 

 シルビアの反りの合わない態度に呆れ返り、勝手にしろと早歩きで振り切ろうとしたのが運の尽き。

 

『それじゃ、勝手についていっちゃおうかしら?』

 

 仮にもデルカダール筆頭の騎士である私に(最後には本気で走ってもなお)容易く着いてきたこのシルビアという女は、その後も事あるごとに騒ぎを起こし、トラブルを起こし、そのトラブルも無駄に洗練された身のこなしとやけに高い処理能力で華麗に解決し、こいついわく人々に笑顔を振りまくための旅をこなしていた。

 

「悪さをしてた壁画ちゃんとの戦いで、アタシたちも息が合ってきたんじゃないかしら」

「誰が貴様といいコンビだ。こちらが合わせただけに過ぎん」

「へえ、ひとりのアナタにも昔はいいコンビがいたの?」

「詮索は無用だ、旅芸人風情が私に立ち入るな」

「ま、怖い顔。アナタは笑顔のほうが素敵よ、イリアス」

 

「……貴様に何がわかるというのだ」

「なんでもお見通しよ、アタシには。アナタがいま、笑っていられる余裕もないようなつまらない人生に足を引っ張られちゃっている……なんてことも、ね?」

 

 私の過去など知りもしないまま、私の笑顔など見たこともないだろうに、素敵な笑顔を見せてほしいとシルビアはそう言って朗らかに笑う。

 こいつの存在そのものが私への当てこすりなのではないかと被害妄想にも陥りかねない、もはや芸術的な神経の逆撫でっぷりだった。

 

 そして、案の定集まってきた野次馬たちの人だかり。私は秘密裏に動く必要があるのに、これではまるで任務にならん。もはや半ば諦め調子ではあるが、ウルノーガ様の厳命であるからして放棄するわけにもいかず、単独調査の期間はズルズルと伸びて、既に数週間が経っていた。

 

 だが……『ユグノア地方を探れ』とは、ウルノーガ様も何を考えておられるのか。勇者の兆しであろう光の柱については私の手の者がクレイモラン近辺の港が出どころである、と突き止めたにも関わらず、このような廃墟も同然の打ち捨てられた土地にいまさら赴いて、一体なにがあるというのだろうか?

 少なくとも、そこにウルノーガ様が恐れるものなどあろうはずがないのだから。

 

 ユグノアにあった勇者の血は既に絶え、脅威など見つかるはずもないし、あるとすれば……故郷を偲ぶ心惜しき民の献花と、いまはこの辺りで少ない非番をその献花に明け暮れているであろう、我がデルカダールの双翼たる将軍のしょぼくれた顔くらいのものだろうに。

 

「そういえば、だけど……それにしても許せないわよね、魔王ちゃんったら! みんなを目で楽しませてくれる絵画の世界を利用して誰彼かまわず笑顔を奪っちゃうなんて……アタシ、そういうヒトは許せないわ!」

 

 魔法の鍵と小型の魔法の扉を使ったマジックショーを終えて、おひねりを大量に頂戴したシルビアはぷんすかと珍しく怒りをみせた。

 

「……」

 

 その話に対して素直に頷くことは、ウルノーガ様に……いや、過去、陛下に化けたウルノーガに屈して配下となった俺にはできそうもない。

 

 ────ふと、昔を思い出す。

 ただグレイグと研鑽を続け、モーゼフ陛下が正気であられたあの頃ならば、いま発されたこいつの言葉に一も二もなく同調できたのではないか……と。

 

 要らぬ感傷だと切り捨てようとし、それでも霞みがかった頭には確かな澱みが残る。

 

「チ……そんなもの、興味がないな」

「ふうん。……そのわりには苦しそうな顔をするのね、イリアス」

 

 シルビアの見透かすようなその目は、私を更にかき乱す。

 

 結局、イリアス───デルカダールの白き片翼であるホメロスたる私は、結びの緩んだ後頭の紐を乱雑に結び直してその感傷に蓋をした。

 

 

*1
幼少期、無策でイシの三角岩にタイムカプセルを取りに行ったことは都合よく忘れているらしい。




 お待たせしました。いえ、お待たせしすぎたのかもしれません。
 サラサラの追憶編にかかわるすべての事柄についてある程度考えがまとまったので、ここから更新速度が上がったり上がらなかったりしていきます。
 劇中ではすべてを体験したイレブンと語られている時点のイレブンの意識が混在する形で進んでいきますが、これはあえての仕様です。
 基本は読者の皆様と同じ立ち位置にいるイレブンの語り口で進み、ときおり紙芝居をめくるように物語を進めていく未来のイレブンが追憶を辿るように進行していくのが、今回の「追憶編」の由来とその根幹に関わる要素であるからです。
 イメージとしてはFFXにおけるティーダの追想や、スパイダーマン冒頭によくある「ぼくのことを知らないって? わかった、それじゃあ最初から始めよう!」などの描写の派生形と考えてくだされば分かりやすいかと思います。

 今回はその手始めとして、ヨッチ族の登場回とシルビア・ホメロスコンビのお披露目回をお送りしました。特にホメロスとシルビアの、方向性は違いつつもともに騎士道から外れた二人の化学反応にもご期待ください。
 作中でシルビアは"女"として描かれていますが、これはシルビアの性自認を尊重し、かつダーハルーネでのカミュの発言などなどを基にした描写であり、性転換ではありません。
 シルビアはソルティコの騎士ジエーゴの息子ゴリアテですし(大ネタバレ)、騎士道を理解しながらも自分の信念を貫くことを両立したステキなおねえさまでもある原作通りの人物像です。
 今後も"女""彼女"と描写はしますが、その点については誤解なきようお願い致します。

 ちなみに二人はチラッと描写した通りプチャラオ村近辺で出会っており、この際に原作ボスであるメルトアは画面外で二人に倒されています。(メルトアの持つまほうのカギも現在はシルビアたちが所有しています)
 たったひとりであろうと絵画に誘うために迷子を装うメルを放っておかないであろうシルビアはここでメルトアに引っかかり、ホメロスはその巻き添えを食らってはからずもウルノーガの手駒をひとり失わせる大失態を起こす形になっていたりします。(残念ですね)
 パーティ二人縛りでメルトア戦とはなんとも苦行じみていますが、ホメロスとシルビアなら攻撃回復バフデバフと実は一通りの手段が揃っているので、そんな苦行を乗り越えてなんとか倒せたことでしょう。たぶん。

 余談ですが、考えていた副題のもうひとつは「オーレ!シルビア! 双翼の白騎士と旅芸人」でした。そっちでもよかったかもしれませんが、シリアスめの導入にしたので今回のサブタイトルと相成った経緯があったりします。
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