サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの36:妖魔祓い氷炎戦⑤

「かかって来い。ブギー、メガモリーヌ!」

 

『その戦い、ちょーっと待ったぁ!』

 

「!?」

 

 張り詰める緊張感の中、戦場に高らかな声が轟いた。

 人間も魔物も問わず、この場の誰もが声の方向に振り向いてしまうようなその声の主は、グロッタ闘技場に飛び出すように建造された英雄グレイグ像の頭頂部へと立っていた。

 

 声の主は道化師のように派手な仮面をしていたが、体つきは線の細さを意識しつつも戦士のものであり、その体格に見合ったレイピアを腰に帯びていた。

 隣には金刺繍の施された白い礼服を着る目元を隠した仮面の男も立っており、こちらは頭痛がしているかのように頭を抑えていた。彼もまた戦士のようで、二刀流を得意とするのか、片手剣を二本腰に帯びていた。

 

「とうっ!」

 

「クッ……!」

 

 華麗なフリップを決めながらジャンプする声の主と、それにつられてグレイグ像から降りてくる仮面の男。

 彼らはともに青く輝くイレブンの側に立つと、魔物に向かって相対する形で剣を抜き放つのだった。

 

「アタシの名はシルビ……いえ、アタシは『レディ・マッシブ』! 笑顔を守る愛の戦士として、わる~い魔物ちゃんにはオシオキよ! ……そして!」

 

 レディ・マッシブと名乗る彼女の目配せで、隣の同じく仮面を被った青年も歯噛みしながら宣言する。

 

「クッ……私の名はイリアス! 民の安寧を奪う魔物どもには……っ、ええい、御託はいらん! 覚悟しろ……この姿を見られたからには生きて返さんぞ、魔物ども!」

 

「そう言うワリには顔は仮面で隠してるじょ! と、というかあなた様は次期魔軍司令の……」

 

「ええい、うるさい! 私は愛の戦士イリアスだ!」

 

「は、はひっ!?」

 

「ク、この呼び名が本来の私とかけ離れているおかげで、存外役に立つのが恨めしい……!」

 

「いいじゃない、名前なんて適当に決めておけばいいの。どんな気持ちで呼ばれるかが大事でしょう?」

 

 愉快そうに剣を取るシルビアの隣でイリアスと名乗った仮面の青年は両手に二刀の剣を抜いて構え、闇の魔力を解放して剣からドルマを撃ち放つ。

 突然の登場から展開を無視した魔法の発動に面食らったブギーはドルマを避けきれず着弾しかけるも、隣接していたメガモリーヌが四つ腕を全てクロスさせる鉄壁の防御でかばい事なきを得る。

 イレブンは突然の増援に困惑するが、相対していたブギーもそれは同じであった。

 

「なによ、意外と姑息なマネしてくれるじゃない! いいわ。ボコボコにされたいなら、まとめて面倒見てあげる!」

 

『ちょぉーっと、待ったぁ!』

 

「こ、今度はなんだじょ!?」

 

『行くわよセーニャ……メラミッ!』

 

『はいっ、お姉様!……バギマッ!』

 

 二人の連携により炎を巻き込んだ風の渦が、グロッタの門を大きく揺らす。

 

『ゆけ、リタリフォン!』

 

『ブルルッ……ヒヒィン!』

 

 レディ・マッシブたちとは逆方向、グロッタ大橋の魔物の軍勢を蹴散らしながら、黒い旋風がやってくる。

 収束により貫通力を増した火球により氷をひび割れさせながら食い破り、荒ぶる風は炎の壁と進路の魔物たちを一気に巻き込み、最後に馬の剛脚と大剣の一撃で魔物の軍勢を力ずくで蹴破ることで現れたのは、黒鎧の偉丈夫と赤と緑の平服を着た少女たちの奇妙な三人組であった。

 

 二人は双子であろう幼い少女。赤い服の少女は魔法使い、緑の服の少女はすれ違いざまにカミュら傷ついた勇者陣営にホイミをかけて回る姿から、どうやら僧侶のようであった。

 

 そして、黒鎧を着た偉丈夫は双頭の鷲をかたどるデルカダールの紋章を輝かせながら鎧馬を駆り、双子と共にブギーら魔物の頭目へと一直線に迫っていた。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

「っ、ブギー様に寄ってたかって次々と! そんなこと、このアタシがさせないわよ!」

 

 四つ腕でがっぷりと押しとどめるメガモリーヌは黒馬による突進(チャージ)と拮抗する。

 

「なんの……これしきっ!」

 

「? え、えぇええっ! このアタシのメガトン級の腕力が押されっ……!」

 

「フンッ!」

 

「きゃあっ!?」

 

「め、メガモリーヌちゅわんが力負けしたぁっ!?」

 

 単純な膂力勝負で負けたことのないメガモリーヌは驚きに一つ目を大きく見開き、ブギー含む魔物たちに一瞬の隙が生まれていた。

 

『マヌーサ!』

 

『バイキルト!』

 

 その瞬間、赤と緑の双子がブギーらに呪文を唱えながら風に乗って跳躍する。

 メガモリーヌはバイキルトによる後押しにより強化された偉丈夫の膂力でついにその体勢を崩し、ブギーは三つ目でまともにマヌーサを喰らったために、訳のわからない幻覚に包まれた。

 押し倒したメガモリーヌを踏み台に偉丈夫は馬を駆けてブギーらに相対し、双子はイレブンの両隣にそれぞれ降り立った。

 

「やっと見つけたわよ、勇者様!」

 

「お会いできて光栄ですわ、勇者様」

 

「キミたちは……」

 

「あらあら、アタシたちが颯爽と助太刀を決めたと思ったら、急にかわいらしい双子ちゃんにいいオトコも助太刀に来てくれたわね?」

 

「グレイグ! 貴様、なぜここに……!」

 

「あらやだイリアス、あのいいオトコと知り合い? 実はアタシもなんだけど、その話までやってると収拾がつかなそうね」

 

 顎に指を当てて考えたレディ・マッシブは剣を抜き放ちブギーへ向け、スポットライトを浴びるかのように自然と周囲の注目を集める。

 視線を注がれた先にいる彼は、笑顔でこう宣言した。

 

「そう、簡単に言えばアタシたちはこのグロッタ防衛を引き受けてくれている彼らを助けにきた"魔物ちゃんお仕置き隊"! 町のみんなの笑顔を奪う悪い魔物ちゃんたちは、アタシたちがみーんなやっつけてあげちゃおうってワケ!」

 

 レディ・マッシブの宣言に、一同は度肝を抜かれながらも納得した。

 思惑は違えど、彼らの敵は定まっているのは確かであったからだ。

 

 そして、唐突に援軍がやってきて困惑を未だ隠せずにいるイレブンへとくるりと向き直ったレディ・マッシブは、彼の乱れたサラサラの髪を手櫛で直すと小さく微笑んだ。

 

「イレブンちゃん……だっけ? あなたがここのリーダーよね? 今からアタシたちはアナタの麾下(きか)*1に入るわ。存分に命令しちゃってちょうだい!」

 

 グロッタ大橋、燃える氷壁のコロシアム内に現れた望外の援軍、『魔物ちゃんお仕置き隊』。

 イレブンは驚きにゾーンを思わず解除してしまったが、目の前のシルビア……もとい、レディ・マッシブや続々と現れた心強い人物たちが協力してくれるという状況を何とか飲み込み、もう一度集中してゾーンに入り直し、覇王斬による光の剣を手に取った。

 

「了解。……作戦は『バッチリがんばれ』! みんな、お互いに攻撃を当てないことだけに気をつけつつ、自由に動いて!」

 

「初対面じゃあ連携も何もないものね、オッケーよ!」

 

「勇者様、後でわたし達のお話を聞いてくださいますか?」

 

「セーニャ、それは後! まずは全部終わらせてから!」

 

 黒馬リタリフォンから飛び降りた双子はイレブンの隣で魔法を唱える。赤の少女はピオリム、緑の少女はスクルトであり、対象はここに集まっていた全員だ。

 

「ホメロス……お前、ここで何をして」

 

「グレイグ、腑抜けたか貴様! 戦場を前にしてどこを見ている!」

 

「……ああ、そうだったな!」

 

 リタリフォンをどうどうと宥めつつ、既知の仮面騎士に当惑するグレイグに一喝するのは当事者たるイリアスだ。

 グレイグは山ほどある聞きたいことをすべて飲み込み、気炎を身体に漲らせる。

 その問いはこの戦いが終わってからでも構わない。ならば、最速で終わらせる。常勝の将軍による全力の解放は、弱い魔物ならば気絶するほどの威圧感を放っていた。

 

 相対する魔物の軍勢の頭目たちはそろそろ状況に慣れたのか、いつもの調子に戻ってゾーンを発動する。

 青い輝きに包まれたメガモリーヌが"魔物ちゃんお仕置き隊"なる胡乱な寄せ集めに啖呵を切る。

 

「ふん、ちょっと数が増えたからってイイ気にならないでよね! ブギー様とあたしの恋の連携は最強なんだから!」

 

「! ……メガモリーヌの言う通りだじょ、ニンゲンたち! ────そう、ボクちんたちの戦いはこれからだっ!」

 

 

 ────と、望外の増援からほどなくして。

 

 俺、イレブンとその一行は増援として来てくれた"魔物ちゃんお仕置き隊"の協力を経て、驚くほどあっさりと妖魔軍の制圧を終えていた。

 

「あの登場の仕方でここまで強いなんて……!」

 

「その点については俺も同意見だよ、メガモリーヌ。正直、君とブギーの連携は俺じゃ確実に止められなかった」

 

「当たり前よ。アタシたちのメガトン級の愛が、たったひとりのニンゲンに止められるわけないわ。……だから、アタシは愛を証明したまま逝ける」

 

 メガモリーヌの後ろには、すでに膝をつき消滅を待つだけのブギーがいた。メガモリーヌは風前の灯であるその生命を守るように、二本の足で立っていた。

 

「この人のためなら死んでもいい……アンタには、そういうニンゲンがいるかしら?」

 

 メガモリーヌの問いに、俺は言葉に詰まっていた。

 だが、俺はゆっくりと頷いて返す。

 

「あいにく、愛する人は生きて幸せにするのが俺の信念だよ、メガモリーヌ。でも……君の愛も、否定はしない」

 

「フン、メガトン級の甘ちゃんね。まぁ良いわ……愛する人を死ぬまで守りながら満足して逝くアタシと、愛する人を生きて幸せにしていくと言ったアナタ。その最期は幸せに逝けるのか……いつかアタシに聞かせてみなさい?」

 

 四つ腕は既にダラリと本来の機能を失い、自慢の兜は剥がれ落ち、それでも気力のみで立っていたメガモリーヌは、背中越しのブギーへ声をかける。

 

「ブギー様……アタシは」

 

 ブギーは既にそこには居ない。漂う魔力として霧散した妖魔軍王は、メガモリーヌの独白を聴くことはなく。

 

 そして、愛を伝えたメガモリーヌの声は小さく、しかし静寂を取り戻した戦場にてやけに響いた。

 その想いの丈の詰まった言葉をつぶさにここで語るのは、たとえ相手が魔物であろうと、俺にはどうにも憚られるものがあった。

 

 長く続いた妖魔祓い氷炎戦。

 その終幕に訪れたのは他者に災禍を撒き散らしてなお純粋な、切なく潰えるひとつの愛の結末だった。

*1
戦闘を指揮する人物の統制、あるいは指揮下につくこと




 これで5話と本作の戦闘シーンを最長記録を樹立した妖魔祓い氷炎戦は無事終息です。
 最後はちょっとだけ駆け足でしたが、理由としては素直に全部書くと文量が増え過ぎるのと、勢力図が逆転しすぎていて戦力差でゴリ押すだけの塩試合になっちゃうので泣く泣くカットしている関係上そうなっております。
 そりゃあ無傷シルビアホメロスグレイグベロニカセーニャ参戦のイレブン陣営VS負傷ブギー+メガモリーヌ&画面外でやられてる妖魔軍なんて戦力比になっちゃったからには、もう……ネ……?

 個人的にはブギー&メガモリーヌのコンビネーションVS新戦力組をもっと書きたかったりしたのですが、展開のだらけを気にするとこの辺りが落とし所だと思ってます。
 一応、参戦後の戦場ではこの場の全員が比較的のびのび戦える環境にあったので、読者の皆様が各々で想像した通りの活躍をキャラクターたちはしていると思ってください。これぞ行間を読むというヤツです。(丸投げともいいますね)

 ともあれ無事イレブンは原作にてブギーを討伐することで入手できる称号"妖魔ばらい"を獲得し、ここグロッタを守り切ることができたというわけですが、タイトルの元ネタとしていた前述の称号について気付いていらした方は生粋のDQ11マニアかもしれません。もしそうならばニヤリとして頂ければ幸いです。特にそうでない場合は意外とこだわってんだねぇ、と適当に流して頂ければ幸いです。

 それでは次回もお楽しみに〜。
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