「で、あたいの所に来れたってわけだ。……はぁ~、頼まれたもんはしょうがないからね。途中でへばるんじゃないよ?」
険しい野を越え山を越え、道中でキャンプの極意をテオに教わりながら進むこと十数日間。
俺が子どもであること、そして緊張状態にあるデルカダールの刺激を避けるような険しいクライミングを伴うルートを取ることも考慮してかなり余裕を持った日程を組んでくれたテオのおかげもあり、無事にドゥルダ郷へやってくることができた。
道中で見たテオの実力はかなりのものだった。
若い頃に冒険家としてブイブイ言わせていたという彼の言は孫くらいの子どもに対して大きく盛ったほら話でもなく、しっかり世界を巡れるだけのレベルにして28~35くらいの実力を備えており、ドゥルダ郷までの道のりでは、気分はパパスについていくDQ5主人公のようだった。
だが俺も何もしなかったわけじゃない。
ふくろ*1に入れて持ってきていたふしぎな鍛冶セット(with錬金釜と変な玉)を使い、子供用にリサイズした剣や鎧を山で取れる素材から作って、テオの目の届く範囲で下位の魔物と戦っていたりもする。
イシの村の周辺と違って、外の魔物はすぐに襲ってくる者ばかりだったのは驚きだが*2、それならそれでしっかり意識を切り替えていくことにした。
ゲームのようにレベルアップしてスキルを割り振ってという訳ではないものの、着実に実戦経験が着いたという意味でのレベルアップは果たしているように思う。
魔物と戦うという非日常にも、元一般人である自分にしては慣れてきたように思っていた。
それに、テオに教えられて特技としてはかえんぎり、呪文としてはメラ、ギラ、ホイミが使えるようになった。
呪文については「そろそろ教えてもいいじゃろう。……んぬぅぉ〜〜〜〜、そりゃ、ほりゃ、とりゃあっ!」という掛け声でメラの呪文等を伝授してもらったのだが、原作パーティメンバーのベロニカが同じようにルーラを勇者に教えたことから公式設定とはいえ、それでいいのか魔法使い。
……で、話を現在に戻そう。
俺はお目通りが叶ったニマ大師に、誠意を示す基本姿勢である土下座を用いて、弟子にしてくださいと頼み込んでいた。
きれいなジャンピング土下座はサマディー王子ファーリスも使う由緒正しい王族の懇願方法*3なのである。
「お願いします! 俺は強くなりたいんです!」
「強くなって何をするつもりだい?」
「子孫を残したいんです!」
「このバカモノーっ!」
「いだーっ!!?」
バチーン、と小気味いい快音。
土下座ゆえ無防備なプリティーショタのお尻に、ドゥルダ伝統のお尻叩き棒で闘魂が注入された音だ。
「つつ、くぅ~……い、いえ、そっちも大事なんですが……俺は世界を救いたいんです!」
「世界を?」
「はい、勇者として! そんで子孫を……」
「このバカモノーっ!」
「いだーっ!!?」
再びバチーン、と小気味いい快音。
土下座ゆえ無防備なプリティーショタのお尻に、ドゥルダ伝統のお尻叩き棒で闘魂が注入された音であることはまさに疑いようがなかった。
「感心させる大望が飛び出したかと思えば、ぬけぬけと……まぁいいよ、助平なところはアイツと瓜二つさね」
「アイツというと?」
「ロウ。あんたの祖父にあたる男さ」
ついてきな、とニマ大師は結った銀髪を揺らしてツカツカと歩いてゆく。
テオは俺と別行動で、知己の相手だという僧正たちにあいさつをして回っていた。
やはり元冒険家だけあって顔が広い、ドゥルダ郷にまで知り合いがいるとは。
しばらく歩いて、大修練場を通り過ぎ、僧正たちの居住区、その空いた一室までやってくる。そこは人が長らく住んだ形跡がなく、なんとなく埃っぽい一室だった。
ニマ大師はその髪からほうきにちりとり、雑巾、はたきなどを取り出して、こちらに渡してくる。
「お前の最初の修行は掃除さ。今から住み込むこの部屋を綺麗にするんだよ。それじゃ、しっかりおやり」
ニマ大師はそう言って、俺が言葉を返す暇もなく、居住区からさっさと帰っていってしまった。
まぁ、要はなんとかここでの修行を認められたようだ。
なら、ファンタジーな修行で強くなり、おまけに師匠もトンデモ美人。
これは張り切る要素しかない。
ナイス、未来の勇者イレブン!
そうして張り切りながら掃除を始めるこのときの俺は、ドゥルダの修験者たちが自らに課す荒行につぐ荒行とあまりに詰め込みまくる座学につぐ座学のキツさを知らず。
そしてニマ大師は別に俺につきっきりで修行を付けるわけがないという当然の事実の見落としに気づくことなく、坊主頭の修験者たちが行う容赦なんて微塵もない地獄の荒行荒行アンド荒行が免許皆伝まで続くだなんて露ほども思っていなかった。
ファッキン、未来の勇者イレブン。
肉体がミンチかペースト状になるかと錯覚するような水量の滝に打たれつつ写経をしながら、俺の心は揺らがず未来に向かって一点を見つめていた。