ロウ・マルティナの二人と再会した俺は、自分がユグノアの王子であること、当代の勇者であることを二人から改めて知らされる。
ロウからはマルティナとともにユグノアの友好国であったデルカダールに来るよう勧められもしたのだが、来たるべき日のために修行を優先したいと言って丁重に断った。
……その理由は二割ほど本当だが、実際のところは『現在のデルカダール王は魔王ウルノーガに操られ意識を取って代わられており、どこかに潜む勇者を自身の目的のため幽閉・抹殺しようとしている』ということを原作での動向から知っているためだというのが八割だった。
まだ幼く、なんなら投獄された先に居合わせる仲間(カミュ)もいないこのタイミングでデルカダールに行くことだけは本当に避けたいところなのだ。
デルカダール王の動向に娘として違和感を持つマルティナからも賛成が得られデルカダール行きは保留となったが、ロウからはいずれ故郷であるユグノアには顔を出してほしいとお願いされ、そちらは言われるまでもないと了承するのだった。
それからの生活はイシの村に行ってエマと遊んだり(前世では幼馴染派なので)、マルティナと修行の成果を試しあったり(前世ではおねショタ派だったので)、ロウとテオのお腹を同時にぽよぽよしたり(ふかふかで気持ちいいので)、ドゥルダに帰ってからは俺の腑抜けた様子に怒髪天のニマ大師やお尻叩き棒を振るう鬼畜眼鏡ショタ(実際は天才利発少年)として頭角を表している後輩サンポくんから直々にしごかれる壮絶な修行を乗り越えながら、怒涛の年月が過ぎていった。
その間、ふしぎな鍛冶セットについてもテオやロウ・マルティナが世界中から集めていた素材を使わせてもらって練度を上げていき、ふしぎな鍛冶の奥義『熱風おろし』の体得にまで至ることができた。
そろそろ貴重な素材を使ったレシピを試してみたいものだが、いかんせん取りに行けるだけの強さはついてきたものの、良質な素材の目利きだけはままならない。
この辺はロウやテオなどの年長組を含めてもどうにもなるものではないので、どこかで目利きのできる人物の雇用も視野に入れた、商会並みの資金作りを始めるきっかけとなった。
資金作りの手始めにドゥルダ経由で医療用品や服などを卸す事業を開始したのだが、魔物と立ち向かうことになる兵役で傷つくことも多い兵士たちはどこの国も良質なやくそうを求めており、これは飛ぶように売れた。
そして、いちおう現代人でもある俺は自身の布の服や旅人の服一辺倒からの脱却も鑑みて似たレシピからTシャツやスーツを製作し、レディースはマルティナや帰省した際のエマにも意見を聴きつつアパレルブランドを発足してみたのだが……これが意外にも隣接したデルカダールを中心に大いに受けた。
現代のセンスが受け入れられるかも不透明であり「たまに売れればいいかな」程度で発売したのもあり、予想以上どころの騒ぎではない反響は考えもしていなかったが、衣料品の需要が高いのは結果論的に考えれば必然だったとロウが分析してくれた。
デルカダール市民は都会派でおしゃれに敏感であり、デザイン性が高く守備力まであるふしぎな鍛治製よそいきウェアは魔物の蔓延るこの世界で特に心を掴んだようだ。
それに最終的には、
「これを普段着とすれば市民が生き延びる確率が上がるので宣伝を」
「軍学校の卒業論文に必要なんです!」
「グロッタの英雄像がモチーフロゴになった英雄デザインTシャツを着たところが見たいんですの、よろしいかしら?」
「おいグレイグ、これを着ろ」
とさまざまな理由で非番の度に着せ替え宣伝大使と化したグレイグ将軍の姿が強力な広報となったようで、ふしぎな鍛治による衣料品ブランド「D.R.D」は一定の地位を確立するに至ったのだった。
その影響で、俺たちの資金はデルカダールの外貨をカービィよろしくの勢いで吸収してかなり潤沢な支度ができるまでになり、僅かなお布施での細々とした経営が続いていたドゥルダ郷にも最新鋭のトレーニング施設が作られることとなって、より効率的な修行が行えるように変わっていった。
……重力トレーニング施設とか、一体どこの技術なんだ?実は変装した神の民が技術協力していたりしないだろうかと俺は訝しんだ。
そして、現在。
10歳になった俺はニマ大師から、
「及第点、今のトシでもう教えられることはないよ。続きは体が出来上がってからだが、これからも修行は怠らないように」
との評価とともに師範代としての免許皆伝を伝えられていた。
これは俺の後輩であり、たった半年でその才覚をニマ大師に次ぐNo.2候補にまで仕上げたサンポ大僧正に次ぐ、歴代二位の快挙だった。
……俺よりも年下なのにそのドゥルダの申し子っぷりで俺より数段早く免許皆伝したサンポくんが同世代にいるおかげで、俺が「3年でドゥルダの免許皆伝とかチート主人公かよ草、なろうじゃんw」と外なる神に謗られることは無さそうで何よりだが、件のサンポくんにも「尊敬します!」と屈託なく祝われ、
「あ、うん……快挙なんだよね、もちろん……」
と、ドゥルダの長い歴史の中でも今後抜かれることがないであろう最短皆伝が出たすぐ後の出来事であるからして、俺はなんとも釈然としない顔をしてしまうのだった。(フォローするとサンポくん自身はとても聡明で快活な子で、増長もせず気も優しい完璧超人である。もちろんなかよし。)
ロウとマルティナに皆伝とドゥルダ郷を降りることを伝え、イシの村への帰路へ着き、慣れた抜け道から二日ほどの道程で、イシの村に辿り着いた。
帰省に気付いた村人が村中の人間を呼んだことでロウ・マルティナともども大いに歓迎を受け、駆け寄ってきたエマをいつも通りに受け止める。
「イレブン、帰ってきてたのね! また半年も帰ってこないんだから……待ってたんだよ?」
「俺を待っててくれたの? ありがとう、俺もやっとエマに会えると思って急いで良かったよ」
「!ま、まぁ……分かってくれてるなら、いいかな」
抱きついた姿勢のまま、俺の胸に顔を寄せたエマがふにゃりと顔を綻ばせ、こちらを見上げる。
その仕草は干したての毛布にくるまる子猫のようだった。
ふふふ、童貞ではあるがそこはドゥルダの皆伝修験者、成熟した大人の対応でエマの好意を素直に受け止めることが……できてる?
ロウじいさんや、これ大丈夫なヤツ?エマに引かれたりして……ない?
OKサインだ、やったぜ。貧弱コミュニケーション能力がデフォルトの童貞なりによい対応ができてるらしかった。
それにしても、実際ここまでストレートに好かれていると嬉しいものだ。
マルティナも微笑ましい物を見るような温かい目でこちらを見ており、ロウも「恋は心を豊かにしてくれるぞ、イレブンよ」と、いつも通りに恋はいいぞbotと化していた。
村を挙げた歓迎会&免許皆伝おめでとう会の最中、妊娠中だった奥さんが突然産気づき、翌日に赤ん坊を見せてくれることもあった。
目を瞑っていてもわかる垂れ目が印象的な男の子で、名前を聞くとどうやら「マノロ」というらしかった。
そして、歓迎会から翌日は久しぶりの実家でペルラと話し込むロウとマルティナの声をBGMに眠ってゆっくりと骨を休め、次の日。
修行の途中で他界したテオの墓標に、修行を終えて、強くなってここイシの村に帰ってこれたことを、手を組みながら祈るように伝えた。
テオは最後まで元気に過ごしていて、ある日突然、釣りをしている最中に眠るように息を引き取ったそうだ。
ペルラいわく、穏やかな死に顔で、最後まで俺が強い勇者に成長していくのを楽しみにしていたという。
期待に応えられているかはわからないが、期待に応えるようこれからも行動し続けたいと思っていることだけは、嘘じゃないと言い切れる。
強くなったよと墓標に告げて、俺はロウ・マルティナとその場を後にした。
それから俺たちはイシの村に数日滞在したあと、三人で旅に出ることを決定した。
表向きは見聞を広めるため、本当の目的は原作パーティメンバーの一人の悲劇的なフラグを早めに折っておくためだった。
その仲間の名前はカミュ。
バイキングの下働きから世間を騒がせる盗賊になった彼は、この時期に失う妹がいる。
妹の名前はマヤ。
触れたものを黄金に変える首飾りによって人生を狂わされ、最終的に魔王軍の配下である六軍王のひとり、鉄鬼軍王キラゴルドとして主人公たちに立ちはだかる少女だ。
原作よりもハッピーな世界を。
俺がそう目論んでいるのはいつも口を酸っぱくして言っている通りなのだが、そんな俺がやるべきタスクとして最も大きなものはもちろん『過ぎ去りし時を求める前に命の大樹消失を防いで大樹の葉とリンクしているロトゼタシア生命の大量死を回避しながら魔王ウルノーガと邪神ニズゼルファを討伐すること』なのは皆さんご存知*1なのだが、そういった世界全体に関わる一大事とは別に『ストーリー中に描写されていた悲劇を覆す』というささやかな願いが俺にはあったりする。
『せっかく勇者なんだから流れる涙の数減らしてこーぜ』
という緩めのスローガンを掲げ、世界を巡るという名目のおかげですっかり快適な馬車旅行世界名所ツアーの予定を組んでいたロウとマルティナに、海路から北国クレイモラン→バイキングのアジトというかなり際どい道程を取るようお願いしたのだった。
ドラクエ二次ならトルネコ(動詞。お金を稼ぐこと)は基本、ルビスの贈り物を活用した医療品と衣料品のHANBAI回です。
こんくらいしないと討伐→ゴールド回収だけではユグノア復興タイミングが完結レベルまで遠のいてタイトル詐欺になっちゃうのでね……。
販売品に関しては、マジのトルネコみたいに武器商人になるとデルカダールの戦力が露骨に上がってしまうのでこの辺りが落とし所かなと思っています。
そして、物語はイシの村→ドゥルダの往復修行編となったプロローグを終え、外海を渡るサラサラの船旅編に続きます。
どうぞお楽しみに。