サラサラの8:願いの萌芽
イシの村の命の大樹の根と感応することで勇者の使命を聞いた。その使命に関わる少年がバイキングのアジトにいるとわかった。
原作知識をこねくり回して考えたもっともらしい言説により、俺とロウとマルティナはダーハールーネであらくれの船員が率いる船を一隻雇い、クレイモランに向かった。
外海に向ける際、水門を開いてもらう際に領主のジエーゴに目通りをすることになったのだが、死んだはずの王族三人とかいう怪しすぎる本当の身の上の隠れ蓑になったのが、内海で勢力を伸ばすドゥルダの商品を外海に売りに行く旅商人という立場だった。
嘘は言っておらず、船を改めてもらっても置いてあるのは物騒でもないふしぎな鍛治製の薬品と衣料品だけで、特に目立ったものは出て来ない。
せいぜいが確認したソルティコ兵たちに警備を増員したほうが良いんじゃないのかと忠言された程度だった。
まぁ実を言えば俺を含めた三人はたった一人だけであってもどんな護衛もほとんど必要としない程度に腕に覚えがあるのだが、その辺りはややこしくなるので黙っておく。
沈黙は金とはよく言ったもんだね。
ちなみにこの世界に直接つよさ、いわゆるステータスを確認できる術は少ないが、実は教会でお祈りすればゲームよろしくお告げを直接聞くことができる。
本当ならお告げは次のレベルまでに必要な経験を聞くことができるだけなのだが、俺についてはこの世界の住人のように神に祈っているわけではなく、今も俺の行く末を見守っているらしいルビスに直接聞いているため、そのタイミングで俺たちを俯瞰したようなゲーム内における「つよさ」「戦歴」に対応した情報をくれるというわけなのだ。
あと、行く先で凶暴化している魔物の情報もくれたりする。
俺がこの世界に呼ばれた理由でもある、予想を超えた影響力で蠢動するニズゼルファのお陰でちらほらと邪モンスター*1が現れているらしく、それらの討伐も俺の仕事の一つとなっている。
それらを神父に進捗として話し、イシの村で拵えた冒険の書にしたためていく。
何を聞いても神に誓って秘密を漏らさない神父達の存在は、身分を隠す俺たちにもありがたいものだった。
ちなみに俺たち三人のレベルはすでに35~37程度。
旅をしていた二人とのレベル差は必要経験値の差から修行で緩やかに埋まり、収束した形だった。
教会での用事を終えて水門を開ける手続きをロウがしている最中、出かけていいと言われたのでソルティコのカジノに直行しようとした俺をマルティナが止める。
ドラクエフリークとしてリアル化したゲーム内ミニゲームを体験したいだけなのだが、子どものうちは行ってはダメだと叱られた。
そんなー。
仕方がないので旅の途中に音楽でもと、余裕を持って渡されている路銀からフルートを一つ購入。
そして船旅には付き物かつテオに教えてもらったものを活かそうということで、釣り竿と釣具も買うことにした。
世にはこのフルートと釣り竿の機能を合体させた勇者の笛である天空のフルートなんてものがあるが、俺がその力を引き出す時にかっこ悪い音色を出したり釣り竿の扱いをしくじったりしたら、呪いのモチーフ*2が辺りに響き、その日からはずかしい呪い*3にかかってしまうこと請け合いだ。
今から練習しておくに越したことはないというのが、購入の決め手だった。
その後は軽く食事を摂るため、マルティナと一緒にレストランへ行く。
海のよく見える二階テラス席に案内され、軽食としてハンバーガーとフライドポテトを食べることになった。
こんなジャンクフードがこの世界にあるんだと驚きはあるが、シリーズナンバリングのドラクエ10では職人システムによって同じようなものを作れるので、スキルなどもドラクエ10の色を継承したものが多いこの11時空なら不思議でもないかと得心し、いまや懐かしきファストフードたちにパクついた。
レタスやトマトの爽やかな水気、牛肉を使ったパティの味、ごまを散らし焼いたバンズの香ばしさ。
間には爽やかな味のソーダを挟んで、ペーパーを敷いた編みカゴに盛られたアツアツのフライドポテトの一本を手に取り、サクリサクリと味わった。
多少行儀は悪く見えるかもしれないが、ファストフードの前ではむしろこれが礼儀、これこそがマナーなのだ。
10年ぶりのジャンクな食事だし、どうか大目に見て欲しい。
地球で言えばマルタ共和国のような地中海性の美しい景観を背景に食事をするのはとても気分がいい。
前世では海外旅行なんてろくにしたことがなかったから、新鮮で飽きない旅は確実に人生の糧になっていると感じる。
本来はインドア派だった俺もゲームが存在しない世界で幼少期からテオとキャンプをしていれば、アウトドアの楽しみに理解を得るのは必然だった。
「イレブン、口元にソースが付いてるわ」
「? ん……ありがとう、マルティナ」
「うふふ。やっぱりイレブンも普通の子どもみたいな所があったのね」
俺の口元についたソースをナプキンで拭いたあと、ナイフとフォークを器用に使って上品にハンバーガーを食べるマルティナ。
両手で抱えたハンバーガーを頬張り、景観に思いを馳せる俺の方を見ながら、彼女は柔和な笑みを見せていた。
普通の子供みたいな……と言うと俺の普段の様子がおかしいようにも聞こえるが、大人の精神を子供の精神と併せ持つ様子はじゅうぶん奇異に見える自覚はあるし、なにより微笑むマルティナは綺麗で、その姿を心のフォトモードで撮影しておくのに忙しいので反論はしなかった。
食事の傍ら、これまでの旅の所見についての話に花を咲かせていると、兵士団を率いて警らをしている強面で口ひげをたくわえた男がレストラン一階入口付近からこちらを、より正確に言えばマルティナを見て、ひげ先をさすりながら首を傾げていた。
マルティナはその男を確認すると、近くにいる俺以外は不自然さを覚えないくらいに座っていたテーブルのパラソル軸を対角線上に置き、視線から顔を外した。
なんとなくやりたい事を察した俺も話を切ることなく自然に繋げる。
少しの間視線を送っていたその兵士はむやみに怪しむ必要もないと判断したのか、そのまま兵士団と警ら作業に戻っていった。
「ふう、少しヒヤヒヤしたわ」
「あの人は?」
「その昔、ユグノア王家の近衛を務めていた方よ。父がロウ様と謁見した際についてきた私も良くしてもらっていたから、うっすらと思い出しそうになっていたみたい。……あまり顔は変わっていないけどおヒゲは無かったはずだから、あれから生やすようになったのかしら」
マルティナは懐かしそうにそう言い、遠く目を細めて笑った。
先ほどの兵士は原作に登場した人物ではないが、ユグノアの滅亡後、生き残ってたくましく生活を続けている人物のひとりを見れたことに俺も少し感動する。
つまるところ、現実化したこの世界の裏側にはこういった人物も多くいるのだろうと世界の解像度が高まったような、閉じていた目が開いたような感覚がして。
この時俺は初めて、ユグノアの復興について深く考えるきっかけを得た。
先程の兵士は新たな生活を手にしていたが、きっと、例えばロウのように故郷を偲び、その復権を願っている者も多くいるのだろう。
在りし日のユグノアを知らない俺には故郷を完全再現してやれるわけじゃないが……、俺はなんとか彼らに故郷をもう一度用意してあげられないかという思いの萌芽がめばえ、他のやるべきこと(世界を救う)の準備に並行して、ゆっくりとユグノア復興についての模索を始めようと考え始めるに至るのだった。