サラサラヘアーのユグノア復興計画   作:まむかい

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サラサラの9:クレイモランの賢王

「……おっ、あれは────お~い、おぼっちゃんがた! そろそろ見えてきたでがすよ!」

 

 雇ったガレオン船のメインマストから望遠鏡を片手に監視していたあらくれ船員の大声に船室から出る。

 冷たい寒風が肌を突き刺し、澄んだ空気が取り込まれていくのを感じた。

 

 甲板に上がればまさに雪国、豪雪のベールに包まれた神聖なシケスビア雪原とゼーランダ山を擁する極北のクレイモラン地方、その玄関口。

 白雪が照り返す陽光で輝く荘厳なステンドグラス張りの城壁門が、厳かに来客を出迎えていた。

 

「さて、王は元気かのう?」

 

 自身の腰を後ろ手にさすりながら、ロウが俺の隣にやってくる。

 ほどなくして、支度の済んだ様子のマルティナも合流し、その精緻で芸術的な城門の作りに息を呑んでいた。

 

 こうして俺たちは数日に渡る長い船旅の、ひとまずの終着点……クレイモランに無事到着したのだった。

 

 

 寄港のための諸所の手続きを終え、クレイモランへの入国を許可される。

 

 内海から持ち込まれた服飾品を売ることについての是非についても概ね好意的なようで、女兵士さんからの耳寄りな情報として、「厚手のものよりも、実はおしゃれな薄着の方が売れると思います」とのことだった。

 

 どうやら厚手で暖かい製品というのは土地柄の都合上大量に作られているためにいまさら参入する意味は薄く、それに対して寒さの対処に慣れた国民たちの特に若い世代の間では、軽いおでかけ用の薄手で着太りしない製品の需要が高まっているのだとか。

 

 これは良いことを聞いたので、さっそくロウやマルティナにも共有しておく。

 

「クレイモランのピチピチギャルの間で薄着のあぶない服装が流行っているとな……!?」

 

 その時ロウに電流走る。そうは言ってねーのよお爺ちゃん。

 たぶん放置しても問題ないので、あえてツッコまないでおいた。

 

 その後、俺たちのほかに寄港していた船の検問も終わったことで国内の冷気対策も兼ねて閉じていた城門がズズズ、と開く。

 

 入り口は観光客や商人がぞろぞろと入ることでにわかに騒がしくなり、あらくれたちに船の警備を任せた俺たちも、人の波に合わせてクレイモランに入国するのだった。

 

「……なんて綺麗」

 

 普段の武闘着から着替え、麗人といった風情のロングドレスの上からストールを掛けた服装のマルティナが白い吐息とともに感嘆を漏らす。

 

 質実剛健で都会的なデルカダールとも、にぎやかな港町ダーハルーネとも、騎士と芸術の街ソルティコとも違う。

 

 美しく編まれたおとぎ話のタペストリーをそのまま地上に描き上げたように幻想的なその姿は、しばらく見惚れるのも無理はなかった。

 

 だが、見惚れて立ち止まってばかりではいられない。サクッと()すべきことを()していこう。

 

 この国でやるべきToDoリストの最上段にあるもの、それはクレイモラン王への謁見だ。

 ちなみに、今回の謁見はロウとマルティナに加え、俺も加わる事となった。

 

 隠れ里でもあるイシの村で育ったために現存する三大国の預かり知らない未登録児であった俺は、ユグノア先代王アーウィンの息子であることを公にすれば魔王ウルノーガが王に取り憑き率いているデルカダールが声高に喧伝する『悪魔の子』論によってどの国や町であっても投獄の可能性があった。

 

 だが、ドゥルダ郷の師範代として一応の公的な身分を得た俺は、王に会う際には王族としての身分を明かさずとも、どこの馬の骨とは言われない亡国の王の護衛を担う少年僧兵として紹介できるようになったというわけだ。

 

 まぁ、左手の勇者の証を掲げてひけらかしたり、上空にどデカい紋章が浮かび上がる上位デイン系呪文さえ撃たなければだが。

 

 どちらもそりゃあシラフじゃやらないけど、人前で手袋を脱いでしまわないようにだけは注意しておかなければと気を引き締める。

 

 だが……それでも露見のリスクは減らすに越したことはないはずだと一般人として一般論を胸に持つ俺にはそう思える。

 

 だが、王族として生まれ、王族と旅人というまったく違う二つの身分から様々な貴人や市民に接し根気よく耳を傾けたことで酸いも甘いも噛み分けたロウには、とある一つの澄ました狙いがあった。

 

 それが、ロウが信頼する王の一人にして『悪魔の子』論の懐疑者でもあるクレイモラン王にだけ伝わる、勇者にまつわる公然の秘密としてクレイモラン王の目の前に俺が姿を現すことだった。

 

 この行動は一種の賭けであり、クレイモラン王を味方につけられるか三人とも追われる身となるかの危険な類の賭けではあったのだが……ロウいわく、通る公算は非常に高いと推測できた。

 

 なにしろクレイモラン王はかつての五大国の中で最も聡明とされた人物であること。さらに地理条件の関係上、デルカダール王の草の根分けてもといわんばかりの鬼気迫った振る舞いを北海を隔てたクレイモランから冷静に俯瞰していたこと。

 

 ユグノア王妃エレノアが人質に取ったとされるマルティナ、そのエレノアの父にしてすでに死亡したと思われたロウの生存。

 

 そして、ロウが自身の孫たる勇者と人質の筈のマルティナを伴っていま現れた理由。

 

「かの王なら必ずや辿り着くじゃろう。……断片をかき集めてなお血眼を注ぐ、わしすらも到達できなかった真相に」

 

 入国から翌日には荘厳なクレイモラン城での謁見は叶い。

 それらを総合的に見たクレイモラン王は、ふ、と歪に嵌め込まれたピースを取り替えることができたような知性ある笑みを見せ、謁見に来た行商人として身分と名前を明かした俺たち三人と一言を交わすまでもなく、

 

「────10年前のあの日、謀ったのはデルカダールじゃな」

 

 魔王ウルノーガの掻き散らした無数の点を線に束ね、たった一手のみでビタリと真相を言い当てたのだった。

 

「王っ!」

 

 自らの国王の爆弾発言に、近衛兵が思わず口を挟む。

 

「今から起こるすべて、誰にも知らせるでないぞ。もちろんお前もすぐに忘れよ」

 

「……はっ!」

 

 近衛兵は取り乱した様子を王命により一瞬で整え、元の立ち姿に戻った。

 

「と、なれば────ご老人、内密に話がしたい。そう……お前のなんとか、という事業についてな」

 

「はっ、D.R.Dでございます。感謝いたしますぞ、王よ」

 

 クレイモラン王とロウが目配せし、お茶目なウインクを交わす。

 そして、ことが一段落するまで静かに跪いていた俺とマルティナにも声が掛かった。

 

「お前たちには、そうじゃのう……わしの一人娘の相手をしてやってくれるかの。お互いに歳も近い者同士、話せることもあるじゃろうからな」

 

「「────はっ」」

 

 顔を上げて見ることのできたクレイモラン王の表情は、明るかった。

 

 こうして、俺たちはクレイモランの王への謁見を済ませ、彼を『悪魔の子』の真相を理解する人物として味方につける大博打を見事乗りこなしたのだった。

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