代理公開の依頼を快諾してくださり、また私とKFX界隈の縁を取り結んでくださったよっとまん氏に。
バグフィクスやバランス調整をはじめとする種々の助言を下さった通りすがり氏(HN)に。
そしてKFXに関わった全ての人たちと、いまこの文章を読んでいるあなたに、尽きせぬ感謝を。
四角い部屋であった。
卑金属製の鈍い色をした机と丸椅子が一つある以外は何もない殺風景な密室の中には、男が二人いた。両者とも一見して軍属とわかる彩度の低い軍服に身を包んでいたが、一方は深緑のジャケットに無帽、またもう一方は渋色のトレンチコートに同色のベレー帽という意匠の違いから所属が別であることが伺い知れる。
だがそれ以上に顕著な差異は、深緑の男が簡素な椅子に座りこんで悔しげにうなだれているのに対し、渋色の男が傲然と直立したまま見下ろしていることであった。なお、念のため記しておくが彼らはナックラーではない。
安物のモルタルで塗り固められた壁にただ一つ空いた嵌め殺しのガラス窓からは熱帯雨林に沈みゆく西日が射し込み、バルベルデの美しくも血臭を纏う日没が不吉な暗示めいた宵闇で天を塗り替えようとしていた。
Knuckle Fighter-X
The Fear's pre-story
"Fear of the Dark (Live At Civil War In Val Verde)"
「そろそろ、話してくれてもよくないかね」
反政府組織『バルベルデ解放戦線』のバーノンが、捕虜となった正規軍の士官とおぼしき男を相手に威圧的な言葉をかけた。虜囚の表情には憔悴の色が濃く、バーノンの声音にもまた、僅かに苛立ちがあった。
「このまま漫然と尋問を続けても、互いに時間と精神的健全さを空費するだけだろう。君が素直に今後の作戦計画について私に教えてくれれば、我々は値千金の情報を得、君は貴重な生命を長らえてそのうえ原隊に帰還することさえも可能だ」
その響きに最後通牒(アルティメイタム)を突きつけるような剣呑さを感じ取ったのか、捕虜スノーサウンドが僅かに顔を上げ、静かに首を振った。
「生命を長らえるとはいったいどういう――いや、なんであれ無駄だ。俺は仲間を売るような真似はせん。特に、この国を侵略しようとする資本主義者どもの手先にはな」
今度はバーノンが苦々しげに顔を歪める番であった。スノーサウンドの言ったとおり、バルベルデ解放戦線が実際には軍産複合体を後ろ楯にした傭兵部隊であり、最終的には傀儡政権を擁立して政治的・経済的に支配する構造を作り上げることを目的としていることは半ば公然の秘密ではあったが、面と向かって言われるのはさすがに堪えた、というよりは腹に据えかねたようで、互いに渋面を作ったまましばしの沈黙があった。
「……ならば、……やむを得まい」
口を開いたのはバーノンである。先ほどまでの高圧的な口調とはうって変わって、苦虫を噛み潰したごとき表情のままに苦しげな声であった。
その調子だけを聞くならかえって彼の方が敗者であると錯覚しかねない異様なバーノンの様子に、スノーサウンドは総毛立つ悪寒を覚えた。小部屋の壁に掛けられたプッシュホンを操作するバーノンの後姿に、何かしら決定的な決断が下されようとしている気配を感じとったのだろうか。濃さを増す夕闇が、虜囚の辿る恐るべき運命を無言のうちに暗示しているようであった。
「……入ってこい」
押し殺したバーノンの声が薄暗くなった小部屋に反響する。その最後の残響が不穏な空気の中に消えていった数秒後、建て付けの悪い扉を乱暴に殴打する音が響き渡った。小さな四角い部屋を埋め尽くす騒音に、スノーサウンドのみならずバーノンまでもが驚愕の表情を貼り付けたまま動かない。その間にも打撃音はますます高まっていき、唐突に収まった直後――それまでに倍する轟音とともに扉が吹き飛んだ。
熱帯の過酷な環境に建造物の経年劣化が早まっていたとしても、とても信じられない出来事であった。うち放しのコンクリートと石綿の粉塵がもうもうと立ちこめる中に立つ何者かの影が、日没の最後の光を受けて邪悪な神性のごとくに浮かび上がっていた。
「鍵を開ける時間ぐらい待てなかったのか……フィアー」
苦々しげに吐き捨てるバーノンの声に応えるように部屋の中へと踏み込んできたのは、おおよそこの場に相応しいとは思えない享楽的な服装の男だった。濃い灰色のノースリーブに紫のタンクトップを小粋に羽織り、ピンク色のパンタロンを緩く穿いたその出で立ちは、例えば先進国の歓楽街などにいたならば伊達男崩れの遊び人か何かそれらしいものとして見過ごされていただろうが、この南米の紛争地域、しかも軍事部隊の駐屯所という場にあっては致命的なまでにミスマッチであった。
「演出ってやつだよ、わかってくださいよっと……」
プラスチック製のサングラスとベースボールキャップを身につけた顔には嗜虐的な笑みが浮いて、そこにいるのが人ではなくにやにや笑いの悪魔なのではないかと錯覚させかねない威圧感を放っている。
このフィアーという男は何かおかしい、とスノーサウンドは直感的に感じた。身なりや立ち居振る舞いといった表面的なものの奥、そのような結果をもたらすに至った最初の要因がどこかずれている。仮にも戦争の場にいるというのにまったく緊張感を感じさせないのがそもそもおかしいのだ。まるで昔見た映画のアリスに出てくる何とかいう猫のようだと、そうぼんやりと思う自分の思考もずれていると頭の隅で感じている。
「で? こいつからなんか情報を引きずり出せばいいわけ?」
「そうだ。お前を呼んだ時点でわかっているとは思うが……手段は任せる。貴様の拷問吏としての実力に期待するとしようじゃないか」
不穏な単語が耳に入ってスノーサウンドは思考の迷宮からようやく脱出したが、現実は迷宮よりもなお悪い牢獄だった。バーノンの顔にまで勝利を確信した尊大な笑いが浮かんで、隠し砦の二悪人に捕縛されている彼は、まるでバットマンの悪役に捕まっているような按配だ――しかも彼はブルース・ウェインでもなければ、もちろんクラーク・ケントでもないのだ。
「まア安心しなって。捕虜を手荒に扱ってはいけない、括弧書きで『戒め』、括弧を閉じる、みたいな条例か何かあるじゃん?」
嫌悪感を催す冷笑的な声でフィアーが言うのは、ジュネーブ条約こと赤十字条約の第四条にある『捕虜の待遇に関する条約』のことであろう。赤十字国際委員会による要約では『捕虜や抑留者の命と尊厳,そして個人的権利と信念を尊重し,いかなる暴力や報復からも保護しなければならない。また,彼らは家族と通信し,救済を受ける権利をもっていること。』と表現されている部分である。
捕虜に対する拷問を禁じた、と大雑把に言われることも多いこの条約に従うならば、先ほどバーノンがフィアーを『拷問吏』と呼んだことは不適当であるはずだが――
「もっとも、スイスかどっかの山奥でお偉いさんらが勝手に決めたことが、このバルベルデのジャングルで通じるわけがないのは当たり前だよなあ!?」
それを最後まで聞くか聞かないかのうちにスノーサウンドの脳が揺れた。数日にわたる尋問で疲弊しきっていた体が無様にうち放しの床へ倒れこみ、眩暈と頭が割れそうな痛みが襲ってきてようやく、彼は自分がこのフィアーという男にしたたかに殴打されたのだと思い至った。まったく無軌道に回転するピントの合わない視界に、銀色の金属棒を持った悪鬼の野卑な笑い顔だけがいやに鮮明に映る。
「そうそう、聞いておかなきゃなあ、――頭蓋穿孔とホモセックスどっちが嫌いだ? まあどっちもやるんだけどさ」
ブラックジャックを思わせるサイズの銀の棍棒にサングラスと帽子という出で立ちも相まって、フィルム・ノワールに出てくる悪徳警官でも見ているようだと頭の片隅で思うが、現実にはそんな生易しいものではなく、この男こそは暴力と悪意の忌まわしい合金であった。
故郷に残してきた妻と娘の姿が脳裏に浮かぶのは不吉な前兆だと軍では冗談混じりに語られていたが、それはまさしく正鵠を射ていたのだとここに至って彼は確信した。なぜなら自分の命運は今まさに尽きようとしており、眼前には愛する家族の幻影と彼をむさぼり食らう悪魔の実像が重なり合っているからだ。
三十分後、スノーサウンドは全ての機密情報と引き換えに自由の身となったが、正規軍が憔悴しきった彼を発見したときには半ば正気を失っており、一ヵ月後に発作的な自殺を遂げた。
そして、戦争というものを嘲弄しきった服装とそれに相反する華やかな武勲、そしてその裏で囁かれる暗い噂によってバルベルデにその名を轟かせた謎の男『ザ・フィアー』は、ある時を境にぱったりと姿を消した。彼の消息については戦死説、契約満了説、潜伏説などさまざまな憶測が飛び交ったが、真実は謎のままである。
ただ、最近になってナックルズ大陸にて頭角を現してきたナックラーたちの中に、彼と同じ『The Fear』を名乗るものがいるという。それがバルベルデの夜の悪夢と呼ばれたフィアーと同一人物かどうかは定かではないが、もしそうであるならば、かの地は遠からず戦乱の巷になるだろうということだけは識者たちの意見の一致を見ている。
もしKFXに興味があるという方がおられましたら、下記を参考にしてください。
KFA本体の導入については、
http://oggg.dip.jp/
の
http://oggg.dip.jp/index.php?c=6-30
より、EXE版をDLするのがもっとも楽でしょう。(Windowsの場合)
http://oggg.dip.jp/index.php?c=5-14
の5~7あたりも参考になるかもしれません。
The Fearのキャラデータは
http://www2u.biglobe.ne.jp/~oemix/index.htm
より、
KFX→Character Downloads→代理UP
のページにあります。