男でも、自由に生きて何が悪い! 作:フルーツポンチ侍
「フッ…!」
「おっ…と」
このちゃんから放たれた拳に手を添わせ軌道を逸らす。
魔都に来ておよそ1週間が経った。
寮の掃除をして隊員たちの身の回りの世話をしながら空いた時間にこのちゃんに稽古をつける日々を送っている。
「攻撃の組み立てが遅いぞ」
「はい!」
蹴りが拳が次々に飛んでくる。
昔に比べると格段に腕を上げてる。さすがにババアの秘蔵の弟子と言ったところか。格闘センスは同年代どころか熟練の格闘家をも凌ぐほどだ。
まあ、"とある人物"と比べると見劣りはするがこの年でこの強さならかなりのものだろう。それに比べる対象が悪すぎる。"彼女"に関しては特別だからな。
この技術に更に桃の能力がプラスされるとなると……勝てるやつなんてそうはいないんじゃないか?
「よっ、と……ほら避けたぞ。次の攻撃はすぐにだ」
「はい…!」
フェイントも織り交ぜて……なるほど、これは嫌らしい攻め方をするな。昔の俺からのアドバイスをものにしてきてるみたいでちょっと嬉しい。
「たァッ!」
「っ!」
飛んできた拳。
それを横から手首を掴み、少し捻る。
「へ……?」
すると宙に投げ出されるこのちゃんの体。
やべ、考え事してて気抜いてたら慌ててガチめに投げてしまった。
すぐさまこのちゃんの体を受け止める。
「わ…!」
「ととと……あぶねあぶね。すまん、ちょい強く投げた」
「あ、大丈夫です」
そんな言葉をかけながら地面に下ろす。パッと見た感じ怪我が無さそうで安心した。手首は……うん、アザもない。
そんな時、
「今日もやってるね」
「……ババアか」
こちらに歩いてくるババア。
このちゃんを一瞥しながら頷いていた。
「木乃実の動きが格段に良くなってる。性格はあれだが流石はアタシの孫だよ」
「一言多いんだよ、テメェは」
このババアはむかしから素直に人を褒めることも出来んのか。
「それにしても、体は訛ってないようだね」
「そりゃな」
「りく兄いつも言ってましたもんね。"武術家ならば常に戦えるように体を準備しておくことが大事だ"って」
「おや?なんだい、アンタ、アタシの言った言葉ちゃんと覚えてたのかい」
「……ウッザ」
「はぁーこれだ。素直じゃないねぇ」
優しい目で見るこのちゃんと手を肩まで上げてやれやれと頭を振るババア。……ちょっとイラッとした。
「で?なんか用?」
「ん?ああ、そうだった。今から組長会議なんだよ。アンタ車出しな」
「……は?」
「免許はあるだろ?十番組まで頼むよ」
おいおい小間使いじゃねんだぞって。
「一応アタシの孫といっても男を管理人として雇うわけだからね。それの報告もしておきたいのさ」
「……あー、なるへそ」
まあ、筋は通るか。
それにその間は俺は寮の仕事をサボれる。合法的にね!
ふむ、素晴らしい。
「おけ、分かった。車ってどこよ」
「今から案内するから。木乃実は留守番だよ。何かあったら頼むよ」
「あ、はい!任せてください!」
「んじゃ行ってくるな、このちゃん」
「行ってらっしゃい!りく兄!」
うーん、爽やかな見送り。今日はいいことがありそうだな。
▼
「……でっか」
車を走らせること1時間も経たないくらい。ババアの道案内で魔都を爆走してきた俺は目の前に聳え立つ十番組の寮を目にし、呟いた。
「金かけすぎだろ」
「まあ、魔防隊の本拠地だからね。多少は豪勢に造って威厳を示すってところもあるんだろうさ」
「……その金を俺ら一般市民にも回せや、使えねー国め」
「滅多なこと言うもんじゃないよ。さて、入口にでも停めな」
ババアの指示の元に駐車する。
車を降り、伸びをひとつ。腰あたりからパキッと音がした。
「身だしなみ整えときな」
「うぇー、いつも通りでいいだろ」
「……まあ、アンタの格好だと身だしなみもクソもないか。元々がクソだからね」
「お?喧嘩売られてる?」
半袖半ズボン、上からパーカーにサンダルという普段着。うん、問題ないね。
「それじゃあ中に入るよ」
「うぃーす」
そうして中へと入る。
玄関も廊下もいちいち広すぎる。ほぼ迷路のアトラクションのような、そんな気さえもするぞ。
「……おいおい、日本庭園とかもあんのかよ」
廊下を歩いていると窓の外に見えた景色。
魔都という乾いた土地、くすんだ空に似合わない緑豊かな庭園。木も植えられちょっとした池さえもある。
「今の総組長は国のトップとの繋がりも強いからね。多少の融通は効くんだよ」
「……
「そんな予算は無いよ」
「は!何言ってんだ。手作業だよ」
「……バカだねぇ」
あそこの土地を崩して整地して……草木は現世の方から仕入れるか。俺のポケットマネーでもそこそこのものは出来るな。
「ちょっと俺見てきたい」
「……もう会議は始まるよ」
「だーいじょうぶ、パッと見たら追いかける」
「……はぁ、仕方の無い子だね、すぐに来るんだよ」
やれやれだ、なんてことを呟きながらババアは廊下を進んで行った。
さて、俺は俺で窓から飛び降り庭園へ。
いくらか写真を取って参考にしよう。そう思い俺はポケットからスマホを取りだした。
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