シャーレのオフィスにハナコと二人きり、何も起きないはずがなく……

 ※このお話はハナコのキャラストやエデン条約編3章までのネタを含んでいます。見ていない方は見ておくとより楽しめる……かも?
  知ってる方はハナコの喋りとかに違和感を覚えるかもしれませんが、許してください。なんでもはしません。

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証明不可能な恋

 ジェリコの古則(こそく)──

 五、「楽園に辿り着きし者の真実を、証明することはできるのか」

 

 

 楽園の存在証明(楽園のパラドックス)。誰も彼もが疑心暗鬼で、地獄のようなエデン条約の最中、先生はこの問いに一つの解答を示した。

 

「楽園があると信じる」

 

 たったそれだけ。だけど、それは今まで誰も出さなかったものだった。出せなかったものだった。信じるしかないなんて、どうしようもないから。それじゃあ救われないから。

 けど、あの事件を遡れば、その答えは真実だと思える。掛け違えたボタンがズレて、直せなくて、そのまますれ違って……惨状はできあがってしまった。

 

 過ぎ去った現実だけれど、エデン条約の騒動は良い意味でも悪い意味でも私たちに影響を与えた。

 

 私は、浦和(うらわ)ハナコ。

 トリニティ総合学園に通う二年生。所属は補習授業部。顧問であるシャーレの先生に「証明不可能な恋」をしている。

 

 ◇

 

 週に一度あるかないか、そんな不規則なシャーレの当番の日。私はいつも通り、先生が待つシャーレのオフィスに向かい、仕事を手伝った。時折雑談を交えながら、書類の整理やチェックをする作業も慣れたもので、元々要領が悪くない分スムーズに進む。

 

 力み過ぎないよう適度に休憩を挟み、溜まった仕事が終わる頃には時計の針は五時を回っていた。優しい夕焼けが室内を照らす黄昏の頃、二人だけの空間で他愛もない話に花を咲かせる。お茶を入れ、お茶菓子をつまみ、微笑み合う。

 刺激的なことはないけれど、じんわりと胸に広がる温かい感覚は何度味わっても飽きがこない。それくらい、今を愛おしく感じる。

 

 多分、私以外の娘ともこんな風に接して、笑っているんだろうな、と思うと少し寂しくて、でもそれが先生なんだろうなと納得してしまう。

 先生、シャーレの先生。外から来たギヴォトスでは数少ない大人。私たちが知らないことを知っていて、私たちが知ってることを知らない人。

 

 飄々としてるわけでもないのに、まるでカゲロウのようで。目の前にいるはずなのに、手を伸ばしても届かないような、泡沫の夢。

 何も変わらずこのままが続くのも悪くないけれど、心のどこかで未だに刺激を求めていて、イケナイ部分に踏み込んでしまいたくなる。

 タブーとは、破るためにあるのだから。

 

 

「先生は、ドラマや小説の中でよくある、『教師と生徒の恋愛』について、どう思いますか?」

 

「現役の教師である私に、それを聞くの?」

 

「大丈夫です♡ ここで聞いたことは、誰にも言ったりしませんから。ね?」

 

「うーん……まぁ、それならいいかな。一応言っておくけど、あくまで私の意見だよ。世間一般の常識とかじゃなくて」

 

「はい、構いません♡」

 

 私が二つ返事でそう言うと、先生は少し悩みながらも、自分の意見を口にしていく。先を生きる、と書いて先生。導く人であり、正す人。だから、出てくるセリフはどこまでも正しくて、耳当たりの良いもの。

 

「私はあれを、錯覚なんじゃないかなって、思ってる」

 

「錯覚、ですか」

 

「うん。ほら、小さい頃、近所のお兄さんやお姉さんを好きになるあれと似てて、結婚の約束とかしちゃうんだけど、成長するとそういう感情は薄れていっちゃう」

 

「良く聞くお話ですね」

 

「女の子は特に、精神的に早熟だったりするから、大人の先生が見せる余裕とか、包容力とかそういうのに憧れを持って、それを恋だって勘違いしたまま進んじゃうんじゃないかなって。……ごめん、ロマンチックな話じゃなくなっちゃったね」

 

「いえいえ、私が聞きたかっただけですから。ありがとうございます、先生♡」

 

 錯覚、勘違い。わからない、私の想いももしかしたらそうなのかもしれない。初めて、ありのままと自分を受け止めてくれて、はしゃぎ過ぎたりやり過ぎたら叱ってくれる大人──それが先生だった。

 わかっているつもりだったけど、面と向かって言われると、苦しいものがある。

 

 特別な一人なんかじゃない。多くの生徒、その内の一人。向けあってる想いも違くて、先生は私を好いてくれているけど、私の好きとは違う。

 それでも、この恋は無駄じゃない。この恋が幻だと証明はできない。誰にも──私自身にも。

 

 時計の針は戻らない、純粋に時を刻み続ける。壊れるまで、未来に進む。当たって砕ける自信なんてない。関係を壊す一言は、簡単には口から出せない。出せないからこそ、先に待つ景色は最高に刺激的に見えるだろう、なんて理由もない確信が背中を押した。

 

「確かに、先生の言う通りなのかもしれませんね。私に芽生えたこの想いも、きっと幻想なのかもしれません」

 

「……ハナコ?」

 

「ですけど、先生も知っているでしょう? 恋は止まれないんです♡」

 

「っ!」

 

 一歩、近付いた。

 これが、始まり。

 もう、誰にも止められない。止まりたくない。例え、抜け駆けになってしまっても。

 

「いつ好きになったのか? なんで好きになったのか? 何故たった一人の行動に、ここまで思考も感情も掻き乱されるのか? 幻想だと断定できないように、恋がそこにある証明も難しい。まさに証明不可能な問題。懐かしいですね、先生♡」

 

「信じるんだね、ハナコは」

 

「はい♡ 私は信じます。私の好きを信じます。それが、耐え難い苦痛を伴う結果になろうとも。私は、先生を好きでいたいんです。……先生は、どうですか? 私をどう思っていますか?」

 

 詰め寄る。

 有耶無耶にしないために。逃げられないように。先生がそんな人ではないとわかっていても、もしもなんて可能性は残していたくない。だから先生、教えてください。あなたの答えを。

 

「私も──だよ」

 

 言われたかった言葉が聞こえた直後、世界が鮮やかに色付いていく。そっと触れられた唇の感触は脳を焦がすように熱くて、危ない味がした。

 初めては、時に多くの生徒が集まり、交流するシャーレのオフィス。ドキドキと鼓動が早鐘を打ち、イケナイことをしてる感覚が病みつきになっていく。

 

 ✕✕月○○日(□曜日)

 私は不可能を証明した。

 




 後日談になりますわ〜
 
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