すべての始まりは救済だった。
彼女たちは目指した、魔女のいない世界を。
彼女たちは目指した、希望のある未来を。
それが、今となっては過ちとなると知らずに。
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空賊の襲撃より数時間が経ち、損傷したフェントホープの修復も終わり、ほとぼりがようやく冷めてきた頃。
失った記憶のこと、妙に残った灯花の表情。
それらがいろはの思考を雁字搦めにして離さない。
何より今のいろはには情報が少なすぎた。
「考えていても、どうしようもないよね」
いろはは行動を起こすべく、寝転がっていた上体を起こした。
目に映るのはアンティークのひとつもない殺風景な部屋であったが、今のいろはにはこの部屋の殺風景さが、自らと重なるようで少し安堵する。
これからこの部屋に物が増える度に、自らの記憶も甦ると信じて。
いろはが自分の部屋から出ると、待ち受けていたかのように灯花が抱きついてきた。
「にゃー!お姉様待ってたんだからね!」
「ごめんね灯花ちゃん、ちょっと考え事してて」
「……そっかー。まぁお姉様にはそういう時間も必要だよね。さてと、改めてフェントホープの中を案内するね!お姉様、こっちこっちー!」
「あ、ちょっと待って!灯花ちゃん!」
駆けていく灯花を追いかけているいろは。
さながらそれは本物の姉妹のように微笑ましく、現に灯花もこの時ばかりは、心の底からの笑顔をいろはに見せていた。
窓には零れんばかりの星達が、日も落ちた暗闇を優しく着飾っていた。
「とゆーわけで!お姉様、彼らがフェントホープのな仲間達だよ!」
フェントホープ、その船員達のほとんどが、この中央会議室へと集まっていた。
ほとんど、と言っても数人しかいないのだが。
「って!時雨はまた来ないのかにゃー!」
そう、ほとんど。
「まぁしょうがないよ灯花。主任が来ないことはいつもの事じゃん」
「で、でもー……せっかくお姉様がフェントホープの一員になった訳なんだよ?」
「まぁいいじゃねぇか!今日はいろはちゃんが来た……って言って良いのかわかんねぇけども、お祝いじゃねえか」
そう言いながら灯花の頭をわしゃわしゃと撫でる男。
ガタイがよく、短めに切り揃えられた金髪から活発そうな印象……もとい活発なヤツだった。
「に゛ゃー……まもる頭をわしゃわしゃしないで。乙女のキューティクルが痛んじゃうでしょ?」
「お前の背ってちょうど撫でやすいしな!」
「理由になってにゃーい……」
「おっと、俺は十咎まもる。よろしくな、いろはちゃん」
「よろしくお願いします、まもるさん」
「おう!よろしく!」
彼はその屈強な手でいろはと握手する。
若干の痛みを感じる程の握手と、やけに馴れ馴れしい態度から、いろはは苦笑いをしながらお茶を濁すことにした。
「十咎さん!いろはちゃんが引いちゃってるでしょ!」
「んー……あぁ悪い悪いかえでさん!」
「悪いってセリフはいろはちゃんに言ってあげて」
「は、はい……」
まもるを嗜めたのは赤い髪色の、少し気弱そうな印象を受ける女性からだった。
しかし、先程のまもるに対する態度と、彼女の掻い潜ってきた修羅場を垣間見ることの出来るよれたベレー帽から、芯が強く歴戦の兵士であるということがよくわかった。
彼女の名は秋野かえで。
魔法少女であり、フェントホープ戦闘部門の教官を勤めている女性であった。
「ごめんねいろはちゃん、十咎さんには悪気はないの。彼ってその……結構暑苦しいタイプだからさ」
「うげっ……出たよかえでさんの毒舌」
「十咎さん、明日の訓練倍ね?」
「ひえっ!お、お助け!」
「冗談……に出来るのは今のうちだよ?」
「すいませんでしたぁぁぁ!」
まもるはかえでの前に伝説のスライディング土下座で意を示した。
「いつも思うけど、そこまでやらなくてもいいのに……」
「とりあえず明日の訓練倍だけは勘弁してくださいいいっ!」
「はぁ……わかったわかった。」
「さてと……久しぶり!……って言ってもわかんないよね。私は秋野かえで。ここで戦う人達を鍛える教官をやってるんだ。」
「久しぶりってことは、私の事を知っているんですか?」
「うん、記憶を失くす前のいろはちゃんとは、友達だったんだ」
「そうだったんですか!?」
記憶を失くす前の友人、自分の記憶を取り戻すチャンスと言わんばかりに、いろはは自身の事を問い詰める。
「私ってどんな人だったんですか!」
「えーっと、それはね……」
「私にはかえでさん以外に友達がいたんですか!」
「あ、あのー……」
「私はどうして記憶を失ったんですか!」
「ふ、ふゆぅ……そんなに一気に言われても答えきれないよ」
「す、すいません……つい」
「無理もないけどね。突然、自分の記憶が失くなっちゃった!なんて言われたら、私もきっとおんなじ風になってると思うし……」
「でも、そうだね。いろはちゃんは記憶を失くす前と変わってないよ。いろはちゃんはいろはちゃんだった」
「私は、それだけで嬉しい……」
堪えられなかった心がかえでの涙となって頬を優しく伝う。
「いろはちゃんが無事でよかった」
気づけば、かえではいろはの事を抱き寄せていた。
「私ね、すっごく不安だった。失うものもいっぱいあった。けれど、いろはちゃんが無事だったことが、私にとって何よりの救いなの……」
涙を流し感傷に浸るかえでに対し、いろははただ、よくわからない現実に困惑しつつも、かえでのことを慰めるように頭に手を置くのであった。
「……って、いつまでもこうしていてもしょうがないね。他にもいろはちゃんには知ってもらいたいことがある」
「知ってもらいたいこと?」
「そう、お姉様が目覚める迄に、この世界に何が起きたのか、そして、魔法少女のことを」
「少し長い話になるけど、大丈夫?」
「うん、今は少しでも多く情報が知りたい。教えて灯花ちゃん、かえでちゃん」
「……それじゃあ、始めるよ」
お姉様、まずは魔法少女について改めて説明するね。
魔法少女って言うのは、選ばれた第二次成長期の少女が、キュゥべぇと契約してなれる存在。
契約によって、何でもひとつ願いを叶えてもらうことが出来るの。
ただし、代償として魔法少女の敵、魔女と呼ばれる存在と戦い続ける宿命を背負うことになる。
そして、話はこれだけで終わらない。
魔法少女が力尽き、このソウルジェムという魂そのものを物質化した石が淀み、濁りきってしまうと、その魔法少女は魔女と化す……。
わたくしは、そんな魔法少女の宿命に抗うべく、とある組織を興したの。
その名は「マギウスの翼」
マギウスの翼の最終目標は、わたくし達が独自で開発したソウルジェムの自動浄化システム……要はソウルジェムが濁りきっても魔女にならない仕組みを作ったの。
結果的に言って、マギウスの翼の計画は成功した。
この惑星上であれば、魔法少女は魔女となることはない。
でも、わたくし達は失敗した。
成功しすぎちゃったんだ、わたくし達の計画は。
……人間達に、魔法少女のことと、自動浄化システムのことがバレてしまったの。
それだけじゃない、人間達は魔法少女システムの分析と研究によって、魔法少女の力の源となる、魔力を現代兵器へと取り込む事に成功したの。
それがマギア(MAGEAR)。
マギアを手にした人間達の勢いは凄かった。
人間達の魔女狩りは、一方的な虐殺だった。
一方で、マギアの材料となるわたくし達魔法少女は、あらゆる尊厳を剥奪された上で、人間達に追い回された。
地獄だったよ、何人もの悲鳴と助けを聞いてきたし、何度も見殺しにした……そうじゃないと生き残れなかった。
愚かなことに人間達は、魔女を狩り尽くした後は人間同士でマギアを使った戦争までする始末……
そして、あの日。
白の日がやってきてしまった。
わたくし達の作った自動浄化システムには、システムの核となる特別な存在がいた。
それが、「エンブリオ・イヴ」
あろうことか人間達は、エンブリオ・イヴを殺そうとしたの。
わたくし達は必死に抗った。
でも……イヴは……。
イヴが地に堕ちた時、イヴが抱え込んでいたありとあらゆる呪いが解き放たれ、この惑星の地上は呪いによって汚染された。
人も、魔法少女も、地上では数時間しか活動できない。
それを過ぎれば、イヴの呪いで死を迎えることになる……
だから、わたくし達もそうだけど、飛空艇で旅をしているの。
もしかしたらあるかもしれない、安息の地を求めてね……
「これが、この世界に起きたこと」
絶句。
いろはは暫く言葉を出すことすらままならなかった。
「突然、こんなこと言われても、よくわかんないよね……。でも、ゆっくりでいいから、今の話をしっかりと覚えておいて」
「それと、いつまでも過去の話をしていてもしょうがにゃいから、これからの話をするね。現状、わたくし達の目標は幾つかある。ひとつは、さっきも言ったみたいにわたくし達が安全に暮らせるところを探すこと」
「もうひとつは、癒しの力を持つ魔法少女を探して、私達の船に招き入れること」
「癒しの……力?」
「それについては、俺とマコトから説明させてくれ」
「たぶん、これを見てもらった方が早いね」
マコトとまもるの二人は玉石を翳す。
いろはの持っているものと同じく、マギアであった。
マコトの物は透き通る青色、まもるの物は温かく光を放つ黄色をしていた。
「これは、俺達の大切な家族だったものだ」
「今はソウルジェムだけになってるけど、癒しの魔法少女の力を使って、僕達の家族を取り戻す、それがもうひとつの目標」
「このマギアの元になったのは、ももこちゃんとレナちゃん……覚えてないと思うけど、私といろはちゃんの友達だった魔法少女なの」
「私の、友達……」
「……さてと、お姉様には大方事情を話したことだし、明日はちょっとお姉様達にお願いしたいことがあるの」
「お願い?」
「うん、狩りに行って欲しいの」
MAGEAR Re:Code #2
僕たちの進む道
Re:何が待ち受けようと、この時の僕たちは進むしかなかった