呪いは多くの生命を蝕み、滅ぼした。
だが、同時に呪いは、生命に新たな可能性を与えた。
後に魔なる獣、魔獣と呼ばれるそれらは、人類に変わる地上の覇者となっていた。
呪いがもたらしたものは、果たして邪なのか?
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空から純白の大地に降り立つ影が三つ、山羊の骸骨のような頭のついたパラグライダーで空を切る。
「降下完了っと……。灯花、今日の制限時間はどのくらい?」
「ざっと計算して、今日は二時間ぐらいかにゃー?とはいえ、お姉様にとって初めての狩りな訳だし、そこまで飛ばさなくていいからね?」
「はいはい、程々にやりますよっと」
「お姉様、出掛ける前に渡したR-Boxの使い方は大丈夫?」
「うん、さっきもマコトとまもるさんがしっかり教えてくれたから大丈夫」
「まぁな、なんかわからなかったら俺たちに聞いてくれ」
「だったら安心かにゃ。それじゃあ作戦開始ー!」
こうしていろははマコト達と共に、地上へと降り立った。
今回の目的は、ずばり「食料調達」である。
前回の空賊の襲撃において、フェントホープの貯蔵庫がだいぶ荒らされてしまった。
そのため、食料の備蓄が急激に少なくなってしまった。
無論、この不毛な呪いの大地で食糧難に陥ってしまったのならば、旅を続けていくことはとても困難になってしまう。
食料調達の手段は、大昔から変わらない。
獣を狩り、肉を得る、それだけだ。
だが、ここは魔境の大地。
ただでさえ呪いにより命を蝕まれる可能性があり、さらには凶暴化した生物により命を落とすことはこの世界では珍しくない。
故に、決して油断してはならない。
そんな危険地帯の中へ足を踏み入れていこうとしている一行だったが……
「どうだマコト?なんかいそうか?」
「ううん……今日はなんもいない。こういうときに限って……」
R-Box、ウワサの力を閉じ込め、色々と便利に使うことの出来るシステム。
その内の陸上走行機能、マチビト馬を駆ること30分、いろは達は肝心の獲物の痕跡すら見つけられないままでいた。
「ねぇ、マコト。ちょっと休憩しない?」
「そうだね。ずっと走りっぱなしだと疲れちゃうし、そろそろ休もうか」
「……ちょうど近くに川もあるみたいだし、そこで少し休むか」
一行は川のほとりに一旦腰を落ち着け、休憩兼今後の打ち合わせを行っていた。
「んー、いくらなんでも獲物がいなさすぎる……」
「そうなの?私はてっきりいつもこんな感じかと思ってた」
「マコトの言う通り、こいつはちと異常だな。普段だったら、10分ぐらいマチビト馬を走らせてりゃあ、小さい獲物くらいは見つけられるんだけどなぁ」
「そうだなぁ……灯花ちゃんに連絡してみたら?もしかしたら地上を調べてくれるかも」
「いろは、それはいい考えかも」
「司令官に頼んでみるのも、一利あるな」
「じゃあ早速連絡してみようかな……。もしもし灯花ちゃん?」
『あ、お姉様!どうしたの?』
「実は、狩りの最中に獲物が全く見つからないんだよね。だから、地上に獲物がいないかって事を調べてもらいたくって」
『えっ!?……そんなことあるの?待ってて、ちょっと見てみる……、何かわかったらまた連絡するね!』
そう灯花が告げるとプツリと通信は切れた。
「さすがは司令官、頼りになるぜ」
「そうだね。これでしばらくすれば、何かしらの成果が上がってくると思うよ」
それからしばらくして、再び灯花から通信が入った。
『みんな、お待たせ。分析した結果、西の方角に大きな熱源反応があるみたい』
「大きな熱源反応?」
『うん、そこだけに熱源反応が集中している感じ。きっと何かがいることは間違いないよ』
「なるほど、確かに気にはなるな。よし、その方向に行ってみるぞ!」
「なんだか嫌な予感がする……」
「というと、どういうことだマコト?」
「だって、そこだけに熱源反応があるってことがおかしいんだ。本来だったら疎らに生息しているはずの獣が、一切見当たらないのに、ここだけにいるってことは、何らかしらの理由があるってことだし……」
「確かに、用心するのは必要そうだな……」
その時だった、一行が休憩していた川の中から、水飛沫の上がる音が聞こえた。
そこには、3メートル大の鯰のような魚が、水面から跳び跳ねていた。
「おい見ろ!」
「まずはアイツからだな!いろは、マコト、逃がすなよ!?」
「了解!」
全員がマギアを展開する。
マコトは三叉の長槍、まもるは無骨な大剣、そしていろはは光の弓矢を手にし、一切に構える。
「わかってると思うがあの魚は普通の生き物じゃあねぇ!魔法生物だからな、何をやってきても不思議じゃない!お前ら、気を付けろよ!」
魔法生物。
白の日によって産み出された呪いに適応し、人類の想定の範疇を超えた生物達。
大抵、今の地上にいるのは、この魔法生物であり、いろは達の狙っていた獲物は、まさに彼らなのだ。
「せいやぁっ!」
マコトが槍を魚影に向かって投擲する。
「グギャアァッ!!」
マコトの投げた槍は見事に命中し、魚の胴体に深々と突き刺さった。
「よし!」
「ナイスだよ、マコト!」
だが、魚は致命傷を負いながらも、未だに生存しており、こちらへ向かって突進してきた。
「……お前ら、今すぐ川から離れるぞ!」
「え?何言ってるの?」
「なんか、わかんねぇか?さっきから少し地面が揺れてるの……」
「……逃げた方が、よさそうだね。」
「よし、それじゃあ……」
「「「撤退~~!!!」」」
マコトの読み通り、今までいろは達が立っていたその場所は、巨大な大口がばくりと周りの地面ごと平らげていた。
口が閉じきった後、口の主が体を起こし、いろは達を睨み付ける。
頭に提灯鮟鱇のような突起を付け、その先には先程マコトが突いた鯰のような魚がついており、外観は巨大なカエル、既存の生物で一番近い見た目を表すならば、カエルアンコウだろうか。
その、カエルアンコウを何倍も大きくし、禍々しくしたような生き物は、まだいろは達を諦めてはいなかった。
「あいつ……鯰みたいだったのは囮だったみたいだね」
「俺たちみたいに、あの鯰目当てで川に近寄ってきた連中をばくり、か。なかなか考えやがるな、あの……カエルか?」
「……アンコウじゃない?」
「今はどっちでもいいですから!」
いろは達は、即座にその場を離れ、近くの岩場に身を潜めていた。
しかし、カエルアンコウもそう簡単に諦めるような相手ではなかった。
手当たり次第に岩を破壊し、いろは達との距離はどんどん近づいていった。
「マズい……このままだと見つかるのも時間の問題かも」
「くそっ!何か打開策はないのか!?」
その時、何かを思い付いたように、マコトが呟いた。
「そうだ、僕にいい案があるよ。」
「本当かマコト!」
「うん、でもこれは……いろは次第だけどね」
「私?」
「そう、この作戦はいろはがキーになるから。」
「詳しく教えて」
「うん、僕のマギアの力、能力模倣を使えば、いろはと同じく強力な遠距離攻撃が出来る。だから、一気にアイツの目を狙うんだ。そして後はまもる兄がアイツの土手っ腹に切れ込みを入れれば……」
「万事解決って訳だな!」
「そういうこと、出来そう?」
「うん、大丈夫だと思うよ」
「よし、それじゃあ作戦開始!」
マコトはいろはのマギアの力を模倣し、準備完了。
「いち、にで行くよ……。いち、に!」
ばっ、と岩影から姿を表したいろはとマコト。
狙うは獣の両目玉。
「喰らえ!」
マコトが投げ放った槍は狙い通りに命中。
そしていろはは矢を放つ。
放たれた光輝く弓矢は一直線に飛んでいき、その威力は凄まじかった。
まるでレーザービームのように伸びた弓矢は、カエルアンコウの右目を貫き、カエルアンコウは驚き故かひっくり返った。
「よし!よくやってくれた!後は俺が、決めるだけだ!」
まもるも勢いよく岩影から飛び出し、大剣を獣に食らわせるべく、急接近する。
「ガァァァァァァ!!!!」
突然だった、獣のものではない大きな咆哮によって、全員の動きがピタリと止んだ。
次の瞬間、ファンタジーの世界から現れたかのような、巨大なワイバーン型のドラゴンが、獣を連れ去り、西へと飛んでいった。
「なんなんだ一体……!」
まもるがぼそりと言った。
「わからないけど……とりあえず助かったんじゃない?それにしてもあのドラゴン、どこから来たのかな?」
「さぁな……とにかく、俺たちの飯はアイツに奪われちまったってことだ」
「あーあ!せっかくいい案思い付いたと思ったのに……」
「まぁ気にするな、マコト。後少しだったじゃないか」
「……もしかすると、獣がいなくなったのは、あの竜が原因なんじゃないんですか?」
「というと?」
「あの竜が西に向かったってことは、たぶん竜の巣があると思うんです。きっと、他の獣達は、あの竜に食べられたくなくて、別のところへ逃げちゃったんじゃないかなって……」
「なるほどなぁ、合点はいくな」
「それでも、僕たちはこの付近に滞在して長い。狩りに出るのは久し振りとはいえ、あんな竜、見たことないよ?」
「……どうやらこの狩り、思ったよりしんどくなりそうだな」
いろは達は、先程の獣を連れ去った竜を倒すべく、マチビト馬を西へと駆った。
一時間ぐらい走らせただろうか、巨大な岩山の上に骨で編まれた鳥の巣のようなものが置かれていた。
「あったね、竜の巣」
「竜は……今はいないみたいだ」
巣の中には2m大の白くて巨大な球体が何個か置かれていた。
「あれって……」
「卵……じゃないかな?」
「とりあえず降りよう」
いろは達3人は、マチビト馬から降りると、竜の巣の前に立った。
「……入るしかないよね」
「……だよね」
「とりあえず、竜が戻ってくる前にどうにか対策を練ろう。あんなデカブツ相手にしなきゃいけないんだ、それ相応の準備は必要だ」
「うん、でも具体的に何したらいいかわかんないよ」
「そうですね……まずは竜の巣の中で使えそうなものがないか探してみましょう」
「そうだね」
「そうだな」
3人で協力して、竜の巣を探索していると、ふいにマコトが言った。
「ねぇ、これ!僕たちがさっき狩ろうとしてたヤツ!」
「あっ、本当だ」
そこには、いろは達がさっきまで戦っていた獣がいた。
しかも、それ以外にも数多くの獣の死骸が積まれていた。
「こっちには牙もあるぞ」
「じゃあ、これで武器とか作れるんじゃないですか!?」
いろはが嬉々として言うと、まもるは頭を掻きながら考える。
「うーん……どうなんだろうなぁ……こいつら全員、あの竜に食われちまった訳だろ?それなのに、あの竜に有効打を与えられるのかって言うと、正直微妙だよなって」
「そうですよね……」
「でも、何もしないでいるよりはマシだと思うよ」
「そうだな、じゃあ早速作ってみるか!」
こうして、まもるは竜退治に向けて、新しい武器の作成に取り掛かった。
「よし、こんなもんか」
まもるが作ったのは、先端に大きな牙の生えた槍だった。
その見た目は、まるで巨大な獣の口の中に入ってしまったかのように錯覚させるようなものだった。
先端はとても鋭く尖っており、その威力は凄まじかった。
いろはが全力で放つ矢の五倍ほどの威力はあるだろうとまもるは言うが、問題点がひとつ。
「これ、少しでかく作りすぎたかな……」
「確かに、これを振り回すってなると、なかなかやりづらそうだね……」
「じゃあ、罠とかにしてみたらどうでしょう?」
いろはが大量に転がっている骨を組み合わせて、小さな機構を作る。
「ここに、重さが加わると……こんな風にここにある棒が突き出るようになるんです。あの竜を誘き寄せることさえ出来れば、この槍も使えます」
「おっ!考えたないろはちゃん!」
「すごい!なんかカッコいい!昔見た筋肉モリモリマッチョマンの映画みたいだ!」
「よし、ならまずはこれを使ってあいつを串刺しにする!そしたら皆で総攻撃と行こう!」
「わかった!」
「はい!任せてください!」
ガァァァァァァ……
先程聞いた咆哮が、少し遠くから聞こえてきた。
「ちょうど、お出ましみたいだね」
バサバサと巨大な翼をはためかせ、竜が巣に降り立つ。
「行くぞぉ!!」
「おう!待ってましたぁ!!!」
「行きましょう!」
3人は、竜のもとへと飛び込んだ。
「やっぱりデカイな……」
「まずは作戦通り、あの罠へ誘導するぞ!」
「はい!わかりました!」
3人は散開し、それぞれの立ち位置につく。
そして、竜に向かって叫んだ。
「こっちだ!!かかってこい!!!」
まもるが叫ぶと、それに呼応するように竜はこちらへ向かってきた。
「グオォォォッ!」
竜は大きく息を吸い込むと、口から火球を吐き出した。
「なんのぉ……これしきぃ!」
まもるは竜に相対し、大剣を高く掲げ、魔力を集中させる。
「俺達に喧嘩売ったこと、地獄で後悔するんだな!」
刃に黄金ともとれる焔が宿り、めらめらとまもるの周囲が震える。
「ユニヴァース、ストラァァァァッシュ!!」
魔力が込められた渾身の一撃により、火球は竜の方向へと跳ね返り、爆ぜた。
轟音と煙が立ち込め、一瞬まもるは安堵したが、そんな攻撃などなかったかのように、竜は猛進してくる。
(まぁ、そりゃあこうなるか……)
額から汗を一筋伸ばし、まもるは竜から逃げ出した。
(でも、こうなりゃ好都合だな。アイツの狙いは今俺に向いている、このまま罠の方へ誘導する!)
迫り来る猛攻を掻い潜り、竜を罠へと誘う。
「……さてと、あともう少しか」
そんな時だった。
「……いっ!?」
足元には段差、後ろに気を取られていたまもるは、タイミング悪く躓いてしまう。
竜の勢いは変わらず、少しでも減速すれば屠られることは明らかだった。
「ちくしょう……タイミングが悪いのは兄妹揃ってか……!」
しかし、前方から放たれた光がまもるを通り抜け、竜の頭に何発か命中する。
突然の攻撃に、竜は思わず怯む。
光の方向を見ると、弓を構えたいろはがそこにはいた。
「サンキューいろはちゃん!お陰で助かった!」
「はい!あとはまもるさん、お願いします!」
「グオオオッ!」
竜は咆哮を上げ、まもるに向かって猛進する、が、その時には既に。
「……いらっしゃいませってな。頭に血が上りすぎたようだな」
竜の重みを感知し、牙の巨槍が竜へと突き刺さる。
声にもならないような唸りを上げ、竜は倒れ込む。
周囲には鉄の匂いが充満し、その一撃が決定的であることを裏付けていた。
「よしっ!作戦成功だな!」
「念のため追撃に備えてたけど、その様子なら大丈夫そうだね」
「お疲れ様です、まもるさん」
「いやぁー死ぬかと思った!……久々に魔力もあんなに使っちまったしな」
「とりあえず、倒した竜はとっとと解体しちゃおう。もう残り時間も少ないことだしね」
「あぁ、そうだな。あと一踏ん張りっと」
竜の体を、ナイフ片手に解体していく。
筋に沿って刃を通すと、生臭い鉄の香りが辺りに充満し、思わず顔をしかめてしまう。
「……ううっ、やっぱりこの血の匂いって、慣れないなぁ」
「慣れるもんじゃないぞ。これが命を頂くってことさ。この苦しさを感じなくなっちまったときは、きっと俺たちが、外道に落ちた時なんだろうよ」
「そっか。ところで……いろははよくそんな平気な顔で解体出来るよね。しかも初めてなのに手際もいいし」
「うん、元々料理をやっていたことがあったみたいだから、こういうのには慣れてるみたい」
「慣れてる、か……。いろはちゃん、俺とマコト、少し休憩しててもいいか?」
「え、いいですよ」
「悪いな、ちょっと休む」
「え?僕そんなに疲れてないよ?」
「いいから……」
少し離れた岩影にて。
「どうしたんだよまも兄。何か気になることでもあるの?」
「いや、ちょっとな。いろはちゃんのことだ」
「え?まさかそっちの意味で気になってるの?」
「アホか!……そうじゃなくってよ、強がってるんじゃないかってさ」
「強がってる?」
「考えてもみろ、今のいろはちゃんは記憶喪失、天涯孤独と同じようなもんだ。そんな状況で、空賊とか今回みたいな命懸けの狩りとか、まだ精神的には中学生ないろはちゃんにはキツいと思うんだ。なのに、あそこまで色々と平然にこなせるのは、やっぱり無理してるとしか……」
「無理、かー。僕はそんな感じはしなかったんだけど」
「それは俺達に気を遣わせないために……」
「ううん、なんとなくだけど違うような気がするんだ。なんというか……うまく言い表せないんだけど……」
「何かが、記憶じゃない何かが、すっぽりと抜け落ちているっていうか……」
妙な蟠りが残ったまま、解体作業及びフェントホープへの搬入は終わった。
「みんなお疲れ様ー!特にお姉様、初めての狩りなのにこんなに沢山の収穫があるなんて、わたくしビックリしちゃったよ!」
「随分とベタ褒めだね、灯花」
「あったりまえでしょー?マコトとかは出来てとーぜんだと思ってたけどー?」
「煽られてるのか褒められてるのかよくわかんないな……」
「解釈はまかせるよー。人の解釈なんて人それぞれにあるんだしさー」
「さてと、飯にすっか!……ところで今日の飯当番誰だ?」
「えーと……確か主任じゃなかった?」
「主任かー……」
「ぼくの食事がそんなに不服かい?」
「げえっ、主任……。こんな時に限って」
「君がぼくのことをどう思っているかなんてどうでもいいけど、今度からはぼくの食事当番をパスすることを提案するよ、灯花司令」
「却下。ただでさえこの船はリソースが少ないんだから、少しでも負担を減らせるようにしないといけないからね」
「それは残念。ぼくの作った食事で士気が落ちる構成員がいるというのも、問題だろうけどね。あ、そうそう。君と会うのは初めてだったね、環いろは。ぼくは宮尾時雨。この船で技術主任を勤めている。まぁ基本ぼくは何か用事がない限りはここまで来ないから、基本ほっといてくれればいいよ」
「あ、はい……よろしくお願いします」
目の前にいる中性的な魔法少女は、どことなく卑屈そうな雰囲気を漂わせながら、ボサボサになった長髪を掻き分けていた。
「それで、時雨が来るってことは何かあるの?」
「うん。先程倒した竜の炎を吐く器官を調べたくてね。この技術を応用すれば、より強力なマギアや防衛兵器が作れると思ってね」
「はいはい。たぶんあると思うから適当に拾っていってね」
「そうさせてもらうよ。それと、久々にお風呂に入りたいのと、お腹が空いた」
「……何日ぶりぐらい?」
「ざっと……4日ぶりぐらいかな?」
「に゛ゃー!どうりで匂うと思った!とっととお風呂入ってきて!」
「いいけど、お腹を空かせた彼はどうするの?まぁ彼は不服とのことだけど」
「不服とは一言も言ってはないけどな……」
「あの、よければ私が料理をしましょうか?」
「あ、それはグッドアイディアだね!お姉様の御飯を食べるの、わたくしは初めてだからにゃー、楽しみだにゃー……」
「確か、いろはは料理の経験とかもあるって話してたからね」
「うん、あくまで経験があったらしいってだけだけど、なんか出来そうな気がする」
「よしっ!いろはちゃん頼んだ!」
「心なしか嬉しそうだね、君は」
「まぁまぁその辺にしといてよ、主任」
なんとかマコトが時雨を宥めた後、時雨は風呂場へと向かった。
その間、いろははキッチンにて見慣れない竜の肉相手に格闘していた。
そんなこんなで数十分後。
「お待たせしました!」
両手に大皿を抱えたいろはが、クルー達の待つ広間のテーブルへと歩みを進める。
竜の肉は調理され、挽き肉にされた後捏ねて焼かれ、いい香りの漂うハンバーグになっていた。
「えっ、すごく美味しそう!」
「ありゃ下手すればかえでさん超えてるぞ……かえでさん超えとかすごいぞ……」
「そうだね、すごいよいろはちゃん……。それはそれとして十咎さんは明日から訓練もっと厳しくするね」
「この世界でこんな食事が食べれるなんて奇跡みたいなものだね」
「おいしそー!いいなー、ういはこんなお姉様の料理をたくさん食べれたかもしれないなんて!」
「……うい?」
「あっ、その話は後でするね。話すと長くなっちゃうから……。とにかく皆、食べよう食べよう!」
食事の号令の後、皆一様にハンバーグに手をつけ始めた。
最初は勢いがよかったものの、徐々に勢いが弱まっていき……
「あー、うん。とっても美味しそうな香りはするし、美味しいと言えば美味しいんだけども……」
「「「なんか、ちょっと味薄くない?」」」
それが満場一致の意見だった。
「えっ、そうかな?そんなに味を薄く……」
ふと脳裏に光景が浮かぶ。
いつもの皆との晩御飯。
今日の当番は私で、メニューはハンバーグ。
皆私の料理を美味しそうに食べてくれるんだけど、一人だけ不満げな顔をしていた。
「なぁーいろは!やっぱりお前の料理味薄くて食い応えねぇよ!」
その後の言葉は、霞がかったように聞こえて、何て言っているのかわからなかった。
ただ。
この何気ない日常は。
私の料理を食べてくれていた人達は。
「フェリシア……ちゃん……」
その時、私は片目から何か温かいものが伝うのがわかった。
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「あぁ、今日はいい夜だな」
月に照らされ、大地は妖しく輝き出す。
そして、次第に露になる、巨大な竜の亡骸。
その屍の上に鎮座する、魔法少女……いや、その姿は。
竜の血肉を貪り、せっかくの美貌が台無しになるような数々の生傷と死臭を撒き散らすその姿は。
魔法少女と言うよりは、獣に近かった。
「肉が、美味ぇや」
MAGEAR Re:Code #3
ロクでもない世界は、オレにとっては天獄だ。
Re:予感っていうのは、こういう夜に訪れるもんなんだな