お久しぶりです。
魔法少女達は、当然滅びに抗った。
力を得て驕り高ぶる人間に制裁を下す者。
人間を管理し歩みを止めようとする者。
共に手を取り合い未来を掴もうとした者。
そして、滅びなどお構い無しに自身の信念を貫く者。
様々な願いが、思いがあった。
だが最早、それを覚えている者は限られてしまった。
また、思いを、願いを持っていたのは、魔法少女だけではなかった。
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「……て、訳でよ、そいつが話しかけたんだってよ、その女の人に。そしたら……」
「そ、そしたら……?」
「その女がこう言うんだよ、もう貴方はこの神社からでられないのよおーっ!」
「うひゃぁああっ!?」
「はっは!ビビりすぎだってのマコト!こんなのどこかで聞いたほら話だしよ!」
「それでも、怖いものは怖いんだっての……!」
いろはにとって初めての狩りから数日経った、とある日の夜更け。
マコトとまもる、そしていろはは怪談話に興じていた。
行く宛もない旅に、少しでも彩を、とまもるが企画したのであった。
「どうよ、いろはちゃん。さっきの話、怖かったか?」
「あ、え、えーっと……」
かく言ういろはは、どう反応すればいいのかわからず、困惑していた。
「それじゃ次はマコトの番だな」
「うーん……そんなに怖い話って知らないんだけどなぁ……なら、あの話でもしようかな……」
ねぇ、幽霊船って知ってる?
うんそう。昔の海賊が出てきた映画とかに出てくる、あの幽霊船。
色んな所がボロボロで、中には幽霊とか骸骨がいるっていう、あの。
それがね、この辺りに出たらしいんだよ。
「……それで?」
突然、フェントホープ艦内に警報が鳴り響く。
「え、ちょっとなんだよ!今からだってのに!」
「空賊……でしょうか?」
「どうだろ……とにかく中央会議室に行こう」
中央会議室。
寝巻のまま不機嫌なご様子の灯花と、臨戦態勢のかえでが、いろは一行を待っていた。
「も゛ーっ!なんなのこんな夜遅くに!夜更かしは美容の天敵なんだよ!夜更かしするせいでホルモンバランスが崩れて、特に……」
「はいはい、難しい話はそこまで。で、何があったのさ?」
「……フェントホープのレーダーに、巨大な飛行反応があったの。それも、この船の進路上にね」
「巨大な飛行反応……魔獣かはたまた、巨大な空賊の船ってところか?」
「わかんにゃーい……。今時雨にも協力してもらってちょうさちゅー。でも妙なのがさ、熱源の反応がほぼ感じられないってことなんだよねー」
「熱源が、ない?」
「お姉様やマコトにもわかるよーに説明してあげると、生きている生物の反応がほとんど感じられないってこと。だから魔獣の線も薄いし、空賊の船っていうのも、ちょっと違いそうなんだよねー」
「……まさかな」
「ん?まもるどーしたの?」
「い、いや……なんでもない……」
まもるの様子が少し不自然なことは、中央会議室に集まっている全員が感じていた。
自然と、まもるに視線が集まる。
「まも兄、ひょっとしてさっきの話気にしてたり……?」
「ば、バッキャロー!んなわけねぇだろ!誰が幽霊船とか信じるかって……」
「あーあー、こちら管制室。距離が近づいてきたから、前方の巨大物体、モニター出すよ」
時雨からの艦内放送が入り、中央会議室のモニターに、管制室から届いた映像が映りだす。
そこに映っていたのは、巨大なガレオン船であった。
ボロボロのマストに、朽ちたデッキ。
そして、人気を感じさせないそれは……。
「マジかよ……」
「えっ……噂は本当だったの……?」
「幽霊船だ……」
「ゆ、幽霊船?」
「ゆーれい?そんなのいるわけないじゃーん」
「残念だけど、これが事実だよ。にしても、悪趣味だな……」
幽霊船。
マコトの話していた怪談話が現実になった、ということに、まもるは驚きを隠せなかった。
まもるだけではなく、いかにもな幽霊船に、皆言葉を失っていた。
「……なぁ、このまま進路を変えればいいんじゃねぇのか?」
「うーん、でもさっきも言ったと思うけど、熱源反応は微弱ではあるけどあるんだよねー。もしかしたら生存者って線もあるかもしれないし、それにあれだけ大きな船なら、物資もそこそこありそうじゃない?」
「……えーと、つまり?」
「行くしかない、ってことでしょ灯花」
「そのとーり!」
「……やっぱりこうなっちまうのか」
「もう、弱音を吐かないの!というわけで、今からあの船の調査を行うよ。調査班は……そうだなぁ、いろはちゃんと私、それから十咎さんが妥当かな」
「な、なぁかえでさん、俺やっぱり行かないとダメか……?多分俺の役割って、その……なんかあったときの盾役というか……だと思うんだけどよ、マコトじゃダメか?」
「狭い船の通路では、特に正面からの衝突が多くなるよね?なら、正面きっての戦闘はマコト君より十咎さんの方が得意でしょ?だからだよ。いろはちゃんは遠距離からの支援担当で、私は現地司令官ってところかな。……文句ある?」
しばらくまもるは渋い顔をしていたが、ようやく観念したのか、ぼそっと返事を返すのであった。
ーかくして、幽霊船の甲板にいろは、かえで、まもるは降り立ち、探索が開始された。
しかし、有用と思われる物資もほとんどないため、時間は過ぎていくだけだった。
薄暗い船室を探索している最中、沈黙に耐えかねたまもるが口を開く。
「うぅ……やっぱり不気味だなここ……本当に骸骨とか幽霊とか出てくるんじゃねぇのか……?」
「今更魔獣とかいっぱい見ているのに、骸骨とか幽霊を怖がらないの!ほら、しゃきっとする!」
「は、はい……!」
「お二人共、仲が良いんですね」
「あー、仲が良いってか、ずっと背中を共にして戦ってきたんだ。ある程度信頼してるっつーかなんつーかだな」
「ちょっとかっこいい言い方をすると、戦友っていうやつなのかな?」
「戦友、か。私も皆さんと早くそういう関係を築けるようになりたいですね」
「そんなにかしこまらなくていいよいろはちゃん。もういろはちゃんもフェントホープの一員なんだし、仲間なんだから」
「そう、ですか……?」
「そうだよ。いろはちゃんが目覚めてくれたおかげで、今までよりもフェントホープに活気が出てきたし」
「……あの、かえでちゃん。記憶を失う前の私にも、仲間がいたの?」
「うん、いたよ。私達もいろはちゃんの仲間だったけど、一番いろはちゃんにとって大切だった仲間は、きっとみかづき荘の4人だと思うな」
「みかづき荘の4人?」
「うん。しっかり者でみんなのまとめ役だったやちよさん、いつも明るくてムードメーカーだった鶴乃ちゃん、元気いっぱい猪突猛進なフェリシアちゃん、控えめだけど優しいさなちゃんの4人」
「フェリシアちゃん……その名前は、聞いた覚えがある」
「この前いろはちゃんがハンバーグ作ってくれた時に、確か呟いていたもんな。その、フェリシアってやつのことは、思い出せたのか?」
「いえ……まだ。顔もまだ、朧気にしか……」
「でも、少しずつだけど記憶が戻ってきているなら、これから先も記憶が戻る可能性があるよ!がんばれいろはちゃん!……って、記憶を取り戻すのを頑張るっていうのもおかしいかな」
一行にほんの少し笑顔が灯る。
その後は少し緊張がほぐれた中で探索が行われた。
依然として、成果となるようなものは一切なかった。
むしろ、船室を見て回って一行が気づいたことは「ごみの一つもありもしない」ということであった。
「ここが最後みたいですね……」
「船長室、出てくるならやっぱこういうところになるのかぁ……」
「念のため、十咎さんを先頭に突入。安全が確保されたことを確認した上で、私といろはちゃんが突入する、そういう流れで行こう」
「はいはい……後ろのカバーはお願いしますよ、かえでさん」
そうまもるが告げると、勢いよく扉を蹴破り、船長室に突入する。
他の船室と同様荒れてはいたものの、床には空の缶詰が散乱しているところを見るに、ここでは人が生活していたことが察せられた。
船長用と思われる座椅子とデスクには、厚手のコートを着た死体が突っ伏していた。
「……なんだ、普通の死体か」
「思うに、ここで備蓄を食べて暮らしていたけど、食料が尽きて飢え死にしちゃった……ってところかな」
「なんだか、可哀そうですね……」
「しょうがねぇよ。食う飯ですら確保するのが難しいんだ。俺らは魔獣を狩れるだけの戦力もあるけどよ、それすらない奴はこうして餓えるのを待つしかない……そんな世界になっちまったんだよ、ここは」
「その、せめてお墓ぐらいは作ってあげませんか……?」
「いろはちゃんらしいね。うん、それぐらいならやってあげられるね」
「だな。さて、コイツを担いでっと……」
まもるが死体を担ごうとした瞬間だった。
まもるの伸ばした手を、厳密には手首を死体はがっしりと掴み、そのまま組み伏せ地面に床に叩きつけられ、まもるの口から空気が漏れ出た。
あまりにも一瞬の出来事に、まもる本人だけでなくいろはとかえでも反応できなかった。
「がっ……!?な、何が……」
「……ノックもしないとは、何の用件だお前ら」
まもるの首には、赤黒い刀身をしたダガーナイフが突き立てられていた。
いろははすかさず弓を構えるものの、かえではそれを手でけん制する。
「……私達はこの船にいる生存者を探しに来た。決して貴方を害そうという気はない。だから、その人を離してもらえる?」
かえでの冷静な声が聞こえる。
いろはは勿論、まもるですら聞いたことのない声色と口調であった。
かえでの言葉に納得したのか、あまりにもあっさり拘束は解除された。
死体と思われていた影がスッと立ち上がる。男のものであった。
白い髪はバンダナでまとめあげられ、少し褐色の入った肌には古傷とほうれい線が入っていた。
そして、霞んだ赤紫色の瞳は、なおも鋭く視線を放つのであった。
「げほっ……な、なんだこいつ……全く動きが見えなかった」
「いいだろう。お前の言っていることには嘘はなさそうだ。……それよりよ、お前ら生存者を探しに来たって言ったよな?」
「そう。それが何か?」
「……飯、もってねぇか?」
鋭い視線は、その一言を皮切りにあっさり消えてしまった。
「はぁ……久々に満腹ってものを感じたわ……やー悪いな金髪の兄ちゃん。さっきは手荒な真似しちまってよ」
「そ、そりゃどうも……てかおっさん一体何者だよ」
「ん?俺か?俺は刑部啓司。フリーで傭兵をやっている者だ」
「傭兵……?」
「そこのピンク髪の嬢ちゃんはわかんなそうだな。要は金とか貰って暴れまくる仕事だと思ってもらえればいい」
「フェリシアちゃんと……同じ……」
「それで、この船は何なの?」
「あーこの船?ある時の依頼で貰ったもんだよ。当時使ってた船がボロかったから乗り換えたんだけどよ、見ての通りだだっ広くってよ、持て余しちまって……。オマケに最近仕事の依頼が入ってこないもんだからよ、食うにも難儀して……スマン、本当に助かった!」
「は、はぁ……助かったのなら、何より……」
かえでもようやくいつもの口調に戻り、緊張感は完全に緩和された。
「ふぃー……。……ん?表に出たいだと?駄目だ駄目だ、今は来客対応中ってやつだ、引っ込んでな」
「あの、誰と話しているんです?」
「あ、あー……なんでもねぇんだ。腹話術の練習だと思ってもらって」
「腹話術?」
「だからくどいっての!……え、同じ魔法少女同士話がしたいって?いやそれでもダメだ。だってよ、お前が出てくると話が拗れることがほとんどじゃねぇか!却下、却下!」
「あのー……そんなに話したいなら、話してもらってもいいんじゃないんですか?」
「いーや、お前らはコイツの厄介さをわかってねぇ。……あ、おい、ちょ、おまっ!?」
挙動不審な中年男は、デスクに先程まもるに突き立てたものと同じナイフを、勢いよく突き立てた。
そのまま、食料品の中に入っていたいちごジャムをまるで飲み物かのように平らげてしまった。
「ふぅ……久しぶりに甘いものを食べたなぁ。感謝するよ」
口元にいちごジャムをくっつけている刑部啓司の瞳は、何故か琥珀色に輝いていた。
口調だけではない。出で立ち、仕草が一瞬で変わったことは、誰の目から見ても明らかであった。
「あ、あの、啓司のおっさん、どうしたんだ急に?」
「啓司?あー、そういえばそうだったね。私は呉キリカ。このナイフの元になった魔法少女だよ」
「え!?マギアの元になった魔法少女の意志が持ち主に作用するなんて話、聞いたことがないよ……」
「でもこうして現に、私はこの男の脳髄、神経、舌と口を使って君達と会話している。聞いたことがなかったとしても、早めに信じることを勧めるよ」
「あの、どうしてキリカさんはその、啓司さんの元に?」
「そんなの知らないよ。気が付いたらこのおっさんの手に握られていた、ってだけさ。聞いた話によると、ずっと私と……織莉子を使い続けていたら、いつの間にか私達の声が聞こえるようになってきて……そう、そうだよ!」
唐突に啓司(キリカ)は左腰元のホルスターから一丁の拳銃を取り出す。
「あぁ、織莉子!世界はなんて君に対して残酷なんだ!まさか織莉子がこんな姿にさせられてしまうなんて……。君の透き通るような肌も、天女の羽衣ですら霞むような髪も、何にもなくなってしまうなんて!何より、織莉子と直接お喋りができない!ていうかなんでいちいちこのおっさんの体を経由しないといけないんだ!私と織莉子の楽園は、黄金郷は、どこに行ってしまったんだー!!」
「え、偉く熱弁していらっしゃるようで……」
「織莉子をこうしたヤツのつま先から5cm間隔で刻んでやりたいところだけど、もうどうせ死んでるだろうし、あぁ、このやるせない怒りはどこにぶつければいいんだ!……あっ、ちょうどいいや。八つ当たりできそうなものがすぐそこにあった」
「いやいや待て待て!俺たちここで戦う必要ないだろ!」
「それじゃきざ……えっ、うーん。織莉子がそう言うなら。それじゃあ、織莉子に変わるね。織莉子に暴言を吐いたら刻むから、そのつもりで」
啓司(キリカ)はナイフを右腰元のナイフポーチに収めると、かくんと急に脱力したような姿を見せた後に、再び起き上がる。
そこには、先ほどのどこか幼さと危うさを感じる雰囲気ではなく、どことなく上品な佇まいをした啓司が立っていた。
そして今度は、深みのある緑色に瞳が輝いていた。
「ごきげんよう、皆様」
「ご、ごきげんよう……」
あまりの豹変ぶりに、思わずあっけにとられてしまう一同。
「あ、あの……織莉子さん、で合ってる?」
「えぇ。キリカから聞いているのであれば、話は早いわ。私は美国織莉子。この銃の元になった魔法少女よ」
「よろしく、織莉子……」
「どう呼んでもらっても構わないわ。……さて、このままでは啓司さんが可哀そうね。そろそろ戻るとしましょうか」
かくん、とまた啓司が項垂れる。
「……はぁ、はぁ。ようやく戻れた。」
「なんつーかよ、アンタも苦労してるんだな……」
そんな時、かえでの連絡用端末に通知が入る。
「あ、時雨ちゃんから連絡だ。……えっ!?とんでもない数の船がこっちに向かっているの!?それも、全方位から!?」
「おい、マジかよ!こんな時に限ってよ……!しかも、なんでこんなボロ船に?」
「ボロ船とは失礼な奴だな……。あと、うーん……多分俺のせいだな」
「ど、どういう意味?」
「この前、ある空賊の頭を殺す依頼を受けてな……。多分アイツら、その空賊の残党だろうなぁ」
「ど、どうしましょう……これだけの規模、私達でも」
「だねぇ。万事休すって、こういうことを言うのかなぁ……とにかく、このままやられるわけにはいかないよね。策を考えないと」
「……策っつってもなぁ。どーしたもんか。この船には碌なもんが積まれてねぇし、使えるものは限られているしなぁ」
「……悪かったなぁ、なんもなくて」
「少なくとも、敵をひとまとめにできれば、勝機はありそうですけどね……」
「ふーん。お前確か、いろはとか言ったよな。いい発想じゃねぇか、その案いただき」
「……それはいいけど、そのあとどうするの?」
「あとは何とか一網打尽できれば、だなぁ。」
「……何とかできる、かもしれない」
「おいおい、ついてけねぇから空中会話しないでくれよ!……それで、なんか案を思いついたのか、いろはちゃん」
「……えっと」
「確かに、それならいけるかもしれないね。でも……」
「……はっは!こいつはおもしれぇ!乗った」
「ホントにいいのかよ、おっさん……」
「でも一つ、この作戦をやるのには条件がある」
MAGEAR Re:Code #4
さてと、ひと暴れするとするか。
Re:久々に、心が躍った瞬間だった。そして、大きな流れ、というものに久しぶりに触れたんだな。