大地は荒廃した。
荒れたのは大地だけでなく、人々の心もまた荒れ果てた。
略奪と暴力だけが、この世界を支配していた。
力を求め、多くの血が流れた。
一方で、戦いにしか生を見出せない者たちには、これ以上とない世界が、ここにはあった。
故に、人々は闘争の渦から逃れることができなかった。
それは、魔法少女とて例外ではなかった。
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とある空賊の大船団が、一つの船に向かっていた。
目的は、数日前に殺された頭領の復讐。
ある船の窓辺に、一人の魔法少女が佇んでいた。
片目部分が欠けたゴーグルが、月明かりに照らされる。
「狂れ牛(いかれうし)、そろそろだ、準備しろ」
「っるせぇな。オレにいちいち口出しするな」
「高い報酬払っているのはこっちだ。払った以上、それ相応の働きはしてもらう」
「あいよ。……まぁ、相手も八咫烏だしな。油断もできねぇのは、わかってるっての」
「くれぐれも頼むぞ。お前の言う通り、相手は八咫烏だ。俺たちの頭領を、見るも無残にズタズタにしやがったんだ……アイツも同じくズタズタにしてやらねぇと、気が済まねぇんだ……!」
「変な奴だな。今どき、忠義だのなんだので、戦うやつもいるんだな」
「バカにすんじゃねぇ!クソ、魔法少女ごときが、ごちゃごちゃ言いやがって」
「……舐めてんじゃねぇぞ。ドタマ砕かれたくねぇならな。」
「クソ女が……狂れ牛ってのは、やっぱり伊達じゃねぇな」
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啓司のガレオン船に、せっせとと「あるもの」が搬入される一方で、
「……というわけで、例のものの搬入は間に合いそうだね」
「ま、なんとかはなりそうだ。んで、お前らの頭は、条件飲んでくれたか?」
「……見ての通り、ご立腹だよ」
「にゃー!得体のしれないおじさん入れるなんてはんたいはんたいー!」
「うっせぇなガキが……。なー、コイツが本当にお前らの頭なのか?」
「人を見た目だけで判断するのはよくないと思いまーす!」
「……それでも、この船の設備、やべぇな。小さめの船だってのに、センサー類が異常に充実している。何より、この、えーっと、ウワサとかいう化け物使える……」
「R-Boxでしょ?コレ、ぼくと灯花司令の合同作品なんだ。現在アーカイブとして残っているウワサの能力を灯花司令の能力で具現化させることができる、しかも其れを小型携行できるっていう優れモノだよ。これには苦労したよ、携行するってだけならまだしも、ウワサをどう制御するか……」
「時雨すとーっぷ。今はわたくしがお話しているんだよ?」
「……それにしても驚いた。あの八咫烏とこんなところで会えるなんてね」
「八咫烏?」
「名前のしれた傭兵だよ。二対の武器を巧みに扱い、戦場ではまるで3本の足で立っているように見える姿から、そう言われているんだとか」
「おっ、お前俺のことを知っているのか。俺も有名になったもんだな」
「八咫烏?とかよくわかんない。とにかく、この作戦が終わったときに改めて判断する。この人の処遇はその時に決める。それでいい?刑部啓司?」
「それでいいよ。条件としては、十分さ」
「おーい、啓司のおっさん、確か揚力室にコレを置いておけばいいんだよな?」
「そうだ、一番効き目があるだろうからな」
「あの、本当にいいんですか……?私の案、貴方の船を滅茶苦茶にしちゃうのに……」
「いいんだよ、どっちにしろ持て余していたもんだ。むしろお前は、あの灯花ってガキを宥めといてくれ。アイツの言うことも、一理あるからな。伊達に、生き残ってきてねぇよ」
そうして、作戦に必要なものはすべて揚力室に置ききった。
「後は、タイミングだな。そっちも気をつけろよ、下手すると火の粉がそっちにまで飛んじまうからな」
「了解。みんなも一応、戦闘準備はしておいて」
「おうよ!」
「はい!」
「兵隊グマも一応配備しておいた。準備は万全だよ」
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しばらくして、空賊の大船団が、ガレオン船に急接近する。
「八咫烏の野郎も、これだけの頭数がいりゃあ、たまったもんじゃねぇだろうな!」
「奴にヒィヒィ言わせてやらぁ!」
息巻く空賊達の中に、一人だけ冷め切った目をした者がいた。
「見えたぞ、あのボロ船だ!」
「乗り込め、殺せ!」
数百、下手をすれば千に近い空賊達が、徒党を組んでぞろぞろとガレオン船に乗り込んでいく。
「どこだ、あの野郎は!」
いない。
「クソあの野郎、どこに隠れてやがる」
どこまで行っても蛻の空。
「ここか!?ここにもいねぇ!」
どこまで見ても。
「ここも駄目だ!」
どこを探しても。
「クソったれがぁ!」
いない。
どこにもいない。
いつの間にか、空賊の大船団のほとんどが、ガレオン船に乗り込んでいる状態になった。
「……さてと、そろそろかな。お前ら、そろそろ行くぞ」
「了解。いろはちゃん、狙撃の準備をお願い」
「うん、わかった」
いろはがマギアを展開すると同時に、どこからか現れた啓司が甲板に降り立つ。
「よぉ、お前ら!お探しの雁首はここだぞ!」
「いやがったな八咫烏!切り殺して吊るし上げてやるよ!」
「そいつはどうも。ところでお前ら」
「バーベキューは好きか?」
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「えっ、竜の炎袋?」
「はい。空賊達をこの船に誘い込んで、いっぱい誘い込んだら爆薬と炎袋の炎で焼き尽くす……っていうのはどうでしょう?」
「確かに、それならいけるかもしれないね。火薬への点火も、いろはちゃんの弓なら狙撃できそうだし。でも……」
「……はっは!こいつはおもしれぇ!乗った」
「ホントにいいのかよ、おっさん……」
「あぁ、船はなくなるが、死ぬよりは何倍もマシだ。でも一つ、この作戦をやるのには条件がある」
「おっさん、条件ってのはなんだ?」
「アテが見つかるまで、お前らの船に乗せてほしい」
「まぁ、当然と言えば当然の条件だよね……」
「問題は、これを灯花司令が素直に受け取るかどうか、だなぁ……」
「何分、俺も傭兵として長くやってる。用心棒にはなれると思うぜ?」
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ガレオン船の船底、飛空艇の揚力を司る揚力室から爆風が上がり、船の中にいた空賊達が吹っ飛んでいく。
ガレオン船も、揚力を失ったことにより、墜落を始める。
「くそっ、やけになったか八咫烏!」
「でもこれでお前も終わりだ!」
「誰がお前らと心中するかよ。……でも、最後くらいは相手になってやるよ」
啓司が左手でナイフを抜き、右手で銃を抜く。
「キリカ、織莉子、少し力借りるぜ」
「……しょうがないなぁ」
「わかりました」
同時に、手にしたナイフが歪に形を変え……まるで鉤爪のような、斧のような形状に伸びていく。
また同時に、拳銃も輝きだす。
「さぁ、ショータイムだ」
八咫烏が、戦場に舞い降りた。
「かかれ野郎ども!」
大勢の空賊達が一斉に啓司へと押し寄せる。
武器を振りかぶり、肉を刻もうとする。
しかし、刻もうとした武器を握りしめていた腕は、気付かないうちに切り落とされ、次の瞬間には銃弾が後頭部から撃ち込まれる。
「は、速い……!」
「生憎、突っ立ってたらお前らに切り刻まれるだけだからな」
速さに唖然としていた空賊は、首をはねられ、何が起こったかわからないまま終焉を迎えた。
「さて、次は……って言っても聞いていないか」
戦々恐々。自暴自棄。
最早行き場も生き場も失った空賊達にできる最後のことは、一縷の望みをかけて、啓司に吶喊することだけであった。
「こういう奴らに引導を渡してやるのも、俺の役目ってことか……」
一人、また一人。
啓司の左手の鉤爪で抉られ。
銃をもったものは右手の銃弾で脳を焼き切られる。
どれだけ遠くに離れようと、どれだけ逃げようとしても。
「悪いな、ここは行き止まりだ」
八咫烏が、そこに立っている。
肉を啄み、骨を屠り、三本の足で。
数の上では圧倒的に有利であったはずの空賊達は、次第に追い詰められていくのであった。
結果として、甲板に出てきた残党は、一人として生きている者はいなかった。
「……っと、完全に戦意喪失したか、皆殺しにしたかってところか。そろそろ俺も退散するとしようか。えーっと……」
啓司は拳銃とナイフを収め、懐からR-Boxを取り出す。
少し起動に四苦八苦したものの、お目当てのウワサが飛び出てくる。
フクロウのようなウワサは、啓司を掴むとフェントホープの方面へと飛び立ち始めるのであった。
「……つーわけで、お待たせ。ある程度残党狩りもしたし、もう大丈夫だと思うぜ?」
「……いや、てか、おっさん強っ!?」
「ふゆぅ……下手したら私達が、あぁなってたってことなのかな……」
「あの時のお前らには敵意がなかったからな。殺す理由もねぇって話だ、安心しな」
「ふーん、やるじゃん啓司」
「つっても、今回はこのいろはの策のお陰だな。流石に人数がある程度減っていないと、しんどかったな。ありがとよ」
「いや、別にそんな……」
各々が勝利の余韻に浸る中だった。
高速でフェントホープの甲板に向けて、突っ込んでくる影があった。
「……マジかよ、よりにもよってまさかお前が残っていたのか」
「そのまさかだ。久しぶりだな八咫烏」
片目の割れたゴーグル、そして巨大なハンマー。
そして何より。
「フェリシアちゃん、なの……?」
いろはのその一言が、突然の乱入者が何者なのか、それを的確に表していた。
「フェリシアちゃん……!私、環いろはっていうの!あなた、私のこと、何か知っている!?」
記憶の中に残っていた人物が、目の前にいる。
過去の自分を知るのに、これ以上ない機会であろう。
だが、フェリシアからの答えは、強力な横薙ぎであった。
「……オレは、お前なんか知らねぇ」
「ごっ……!」
いろはの肋骨にひびが入り、大きく吹き飛ばされる。
「てめぇなんかがいろはを語るな。マガイモノ」
「お前っ!いろはちゃんに何しやがる!」
「……うるせぇな、黙ってやがれ!」
まもるがフェリシアに切りかかるものの、真正面からその攻撃を受け止め、蹴りをわき腹と顎に入れる。
しかし、致命傷には至らなかった。
かえでが瞬時に魔法少女に変身し、打撃を受ける寸前で蔦の防壁を作っていたからだ。
それでも、衝撃がカバーしきれず、まもるは小さい呻き声を上げた後、武器を手放しその場に崩れ落ちる。
「十咎さん!」
「かえでか。相も変わらずうじうじしてんなぁ。オレ、お前のそういうとこホント嫌いだったんだよな」
かえでは杖を操り無数の蔦をフェリシアの足に絡ませる。
絡んだ蔦はきつく締め付け、フェリシアの足からは血が滲む。
「……うぜぇことしやがる」
「こうでもしないと、貴方には勝てなさそうだからね……!」
そしてその好機をみすみす逃す啓司ではなかった。
すぐさまナイフを抜き、フェリシアの首を跳ねんと真後ろへ超高速で接近する。
「八咫烏……いつぞやの借りは、ここで返させてもらうぞ」
しかしフェリシアは、自らの足を力ずくでねじ切る。
骨の砕け、折れ肉が千切れる、表現しがたい不快な音を出しながら、啓司の方へと向き合う。
そのまま、どかんと横薙ぎ。
啓司は咄嗟に防御態勢に移り、受け身を取ることでダメージを最小限にまで減らした。
「もともとオレの仕事はお前を殺すことだ。依頼人はお前に殺されたかも知んねぇけど、それはそれとして俺はお前を殺したいからな」
「狂れ牛……相も変わらずの狂れ(いかれ)ぶりだな」
「これ以上貴方の好き勝手にはさせない!」
再び杖を振るうかえで。
先程よりも大きい蔓を生み出し、フェリシアにたたきつけようとする。
それに合わせ、啓司も再度攻撃に移る。
目に見えない程のスピードでのナイフでの攻撃と、その合間の絶妙なタイミングで放たれる弾丸。
フェリシアはハンマーを振り回し独楽の原理で蔦を弾き飛ばし、啓司の攻撃もその都度いなしていく。
徐々にフェリシアのペースは乱れつつあったが、それでも決定打とまではいかなかった。
「はっ、なかなかいい連携だけどよ、そんなんじゃオレは殺せねぇな。なぁ八咫烏、かえで、本気、見せてみろよ?」
「……意地悪だね、フェリシアちゃん。本気なんて出したらこの船を駄目にしちゃうじゃん」
「意地悪上等、伊達に傭兵やってないっての。なぁ、八咫烏」
「クソアマが……」
「さて、どうするよ。素直にお前が殺されてくれるなら、オレはこの船から降りるけどな。なぁかえで。お前らだって不本意だろう?オレにこの船壊されちまうのはさぁ?」
「くっ……」
「……みんなどいて!」
そこに唐突に現れたのは灯花であった。
何やら腕にライフル状の何か、新兵器らしきものを構えていた。
「……里美灯花、あのクソガキ、まだしぶとく生きてやがったのか」
そうフェリシアが言い切る前に、灯花の新兵器が火を噴いた。
文字通り、炎を纏った弾丸は啓司とかえで、二人の攻撃をしのいでいたフェリシアにとっては致命的な不意打ちとなり、フェントホープの甲板外へと吹っ飛ばされたのであった。
「……何とか、退けたか」
「みんな大丈夫!?かえで、すぐにみんなの手当てを!マコトもぼさっとしてないで手伝って!」
「ぼさっとって、もうやっているっての!まも兄、ほらしっかりして!……命には別条はなさそう、よかった……」
「お姉様……!大変、骨にひびが!かえで、至急治癒魔法をわたくしと一緒に!」
「……ごめん、さっきの戦闘で魔力使いすぎた……。灯花ちゃん一人で頑張ってもらえるかな、本当にごめん……」
「仕方ない、治癒魔法は得意じゃないけど、ぼくも手を貸そう。ここで彼女を失うのは、手痛い損失だからね」
「フェリシアちゃん、生きてるかな……」
「飛空艇から落ちたぐらいじゃ、あの狂れ牛は死なねぇよ。むしろ死んでくれてた方が、こっちからすりゃありがてぇけどよ……」
「フェリシ……ア……ちゃん……ど、して……」
「お姉様、無理しないで!」
フェリシアの突然の襲撃により、大混乱に陥ったフェントホープ。
されどかくして、作戦は終了した。
MAGEAR Re:Code #5
フェントホープを守るには、もっと強くならないと。
Re:私達のゆく道には、あまりにも多くのものが立ちふさがっていた。