中学生達がヤンデレになるまでの過程の話   作:佐藤サイトウ

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三日目

「おーーー……。いや予測はしてたけどさ、まさかこんな早い時間にいるとは予想外じゃん。朝練に来る私より早いって、それもう不良なのか優等生なのかわかんないぜ?」

「ふはははは。まだまだ鍛錬が足りぬな。そんなんじゃ次期部長は務まらないよ~」

「うっせ」

微かに微笑みながら、僕の頭を小突く。

結構痛い。

どっこいせー、と僕の隣に座る。

「朝練いかなくていいの?」

「今何時だと思ってるんだよ、君は。学校なんてまだ開いてないよ」

ふむ。

「じゃあなんで来たのさ。こんな時間に」

少しの間をおいて、体操服姿の彼女は答える。

「君に会いたくて」

「…………冗談?」

「ほんとかもよ?」

どっちなんだよ。

あまり男子中学生の心をもてあそばないでもらいたい。

この時期の男子なんて、ちょっと異性から優しくされたりするだけでこの子俺の事好きなんじゃね」ってなるぐらい馬鹿なんだよ。

そしてそんな思考をする自分に自己嫌悪するまでがワンセットだ。

「だから、この時期の男子は繊細なガラス細工だと思いなさい。思わせぶりな言動とかするだけですーぐ誰かに好かれるぜ?」

「うっそだー」

「ほんとです!好かれてからじゃ遅いんだよ!?」

「良い事じゃん」

「人に好かれてろくなことは起きないぜ!断言する!恋愛なんてクソだし愛や恋なんてゴミカスだ!所詮特異的な偶然が重なった末の誤認に過ぎないんだよ恋愛感情なんて!」

そこそこな声量での僕の剣幕を見た彼女は、少し笑いながら。

「失恋でもしたのかよ」

「うっせえうっせえうっせえ」

 

「もうこんな時間じゃんか」

時刻は既に7時を回っていた。

「ったく、いろいろ相談したいことあったのにさー。君の情緒が急に不安定になったせいでなんも話せなかったじゃん」

「ごめんなさい」

結局彼女は、僕が恋愛を貶すべく喚き散らしているのを宥めるだけで、朝の時間が終わってしまった。

というか、なんか話したいことがあるなら先に言ってほしかった。

そしたら、もうちょっと自制したのに。

したかな。

するかもしれないな。

そういう可能性も考えられないことはないだろう。

「なあにグダグダ言ってるの。それじゃ私もう行かなきゃだから」

そう不機嫌そうに言って、彼女は去っていった。

去り際の声色に怒気が混じっていた。

「…………ご機嫌取りようのお菓子でも買ってくるかなぁ」

 

 

「ちゃーっす。お、今日は珍しく起きてるじゃん」

僕の顔を覗き込むようにして、惷課がそこにいた。

失敬な、いつも寝てる暇人みたく言うでない

「ごめんごめん、おこんないでよ。あ、きょう弁当一緒していい?」

「ベントウイッショシテイイ?」

「何故片言で言い直す。一緒にお弁当食べて良い?ってこと」

ああ、なるほど。

まったく、言葉を簡略化するのは勝手だけれど、最低限相手に伝わる言葉を話してほしいね。

「いや普通ニュアンスで分かるだろ。言葉の響き的な」

「その普通は惷課の頭の中の普通でしょ?僕の中じゃ普通じゃないの~」

ぽんぽん、と僕の隣を叩く。

その仕草を見て少し表情が綻んだ惷課は、そっと僕の隣に座る。

「いやあ、友達いなくなっちったせいで飯食う相手が完璧にいなくなっちってさ~」

「それは災難な」

「人ごと見たく言うな~」

「実際人ごとだしね。同情しようか?」

「なんか腹立つのから結構」

「それは残念だ」

 

 

「っぱ友達ってさ、学校生活で生き抜く上で必要不可欠だよな」

「例えば?」

僕はそうは思わないけれど、という言葉をぐっと喉に押し込む。

流石に、それ言っちゃたら空気読めなさすぎだし。

「例えば………。例えば……?」

「なんでわかんないだよ。自分で言い出したんでしょうが」

顎に手を当て、惷課は考える。

そしてまた少しして。

「二人一組でペア組みなさい、ってやつで死にたくなる」

「先生と組めばいい」

「嫌です」

我儘だな。

例え友達全員から嫌われていても、教師ならば必ず組んでくれるのに。

 

 

「ねえ、雄家」

「おん?」

「もし私が今、君に襲い掛かったらどうする?」

「え」

襲い掛かるって………。

ふむ、自分で言うのもなんだが、僕は男にしては大分非力な方だ。

多分同年代で腕相撲大会を開いたら、まず間違いなくワーストスリーにランクインできるだけの実力はあると自負している。

そして、そんな僕とは対照的に彼女はかなり力が強い。

男勝り、というやつだ。

仮に今、そんな彼女に襲い掛かられたら、一切太刀打ちできずにあっけなく殺される気がする。

「んー命乞いするかな。力勝負じゃ勝ち目ないし、抵抗することは諦めて、どうか命だけはお助けくださいって財布とか取り出すかな」

「ダサさを極限まで極めてんなー。感心しちゃった」

はあ、とため息を零し、彼女は立ち上がる。

そしてそのまま、何も言わずに校舎へと歩いて行った。

「……あれ、怒らせちゃったかな?」

何かやっちまったかなと先ほどまでの会話を鑑みるが、とても怒らせるようなことを言った記憶はない。

「……お菓子一個追加だな」

一日で二人も人を怒らせるとか、まったく罪な男だよ僕も。

 

美姫が来た。

「なるほど。それは雄家が悪いです」

「えええ」

「私も怒るので、明日までにお菓子を買ってきてください」

「えええええ」

あらくれものだった。

 




うまい棒を買って怒られるまでがワンセット。
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