中学生達がヤンデレになるまでの過程の話   作:佐藤サイトウ

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四日目 深夜

「——————………んー………」

何故だろう。いつもの目覚めであるはずなのに、体が重い。

意識が虚ろだ。

低血糖からくる朦朧さじゃないけれど、しかしこれが何故引き起こされるのか、僕にはわからない。

「ふぁ~。んー結構寝たな」

朦朧としている頭にあくびを一つ。

微睡から解放された僕の脳みそは、正常に脈打ち始める。

「……おはよ。雄家」

「………………」

思い出した。

呑気にあくびしてる場合じゃねえ。

「ええ、ああ。うん、おはよう、惷課」

僕の声に、にこりと笑って返す。その微笑みに、普段の彼女に見られるような清廉さは感じられない。

僕を映す虚ろな瞳の、そのにこやかな笑顔とあまりにも不釣り合さに思わず身がすくむ。

「なんていうか、まあ。うーん。何から聞けばいいのかな。監禁された場合って」

鎖で地につながれた手枷をジャラジャラと鳴らす。

「これどうやって用意したの?」

おおよそ玩具には到底見えないこの手枷を、ただの女子中学生である彼女がどうやって入手したのか。

「うちね、母さんがお医者さんなんだ」

おいしゃさん。

なるほど、確かに、医者が手錠を持っていない事はないだろう。

いやあ、腑に落ちた。納得した。合点がいった。胸にストンと落ちた。

 

なわけねーだろガチの手錠を持ってる医者なんて聞いたことないぞ。

親が医者だから、で説明が通ると思うな。

僕はその辺厳しいぞ。

「で、お父さんがマッドサイエンティストなんだ」

「まっどさいえんてぃすと」

「うん。マッドサイエンティスト」

「……………」

「……………」

「………もしかして、僕を動けなくしたのって」

「うむ、お父さんが持ってたクロロホルムを焚いたのだ」

「あのスタンガンって」

「それもお父さんの私物だ」

「この監禁するにはとても都合のいい空間は」

「お父さんの研究室の一室だ」

「なるほど」

………便利だな、マッドサイエンティスト。

今度から設定に行き詰まったらとりあえず誰かをマッドサイエンティストにしよう。

 

「私さ、雄家の事が好きなんだよ」

「ほーう」

「反応うっす!?乙女の告白に、そんな味気ない一言で返すなよ」

「いや、まあ校舎裏とかに呼び出されて告白されたら多分ドキドキするけどさ。両手繋がれて、どこかもわかんない密室で言われてもただ怖いだけなんだよね」

確かに、心臓は脈打つけどさ。これ絶対恋のときめきじゃないじゃん。

「で、どうなんだよ」

「どうって?」

「ちょ……、女子が異性に好きって言う行為は告白以外のなにものでもないだろうが。……イエスかノーかってことだよ。私と、その、付き合えるかどうかって」

急に乙女になるじゃん。

 

「それは、できないね」

「………私に魅力が無いからか?私が可愛くないからか?私の性格が嫌いなのか?」

「君の事は決して嫌いじゃないし、魅力的だとも思う」

沈黙。

「ただ、それはできない。僕は、そんなことはできない」

 

「あそ。ま、だろうなとは思ってたよ」

表情を一転させる。

「えええ、急に素に戻るじゃん。割と心痛めたのに、僕」

「いやいや、振ったお前より振られた私の方が心痛んでるに決まってるだろ」

ごめんなさい。

「お前に振られるのは想定道理だ。だから、こうして監禁したわけだしな」

「おおっと急に不吉なことを言うね拷問とかやめてくれよそんなことをしても悲しみしか生まれないし決して愛情なんかはうまれないぜお願いだから痛い事はしないでくださいごめんなさいほんと赦してくださいマジでお金でもなんでも渡すから友達だろ僕ら」

「きりっとした顔のままでクソダセえこと言わないでくれ。大丈夫、痛い事なんてしない。なんならその手錠だって明日の朝にはちゃんと解いて、この部屋からだしてやるよ」

おろ。思いのほか良心的だ。

ってきり「私の事を好きになれないなら死んで」とか「私と付き合うまで一本ずつ針を体に刺す」、的なこと言われるもんだと思っていたのだけれど。

「ぎゅー……」

身体を掴まれた。

抱擁された。

不意に。

「今晩だけ、雄家で楽しませてくれ。振ったバツとしてな」

「え、あ、え……」

しまった、急に女子に抱擁なんてされるもんだからうまく声がでないぞう。

「なんだなんだ、さっきまでずっと冷静だったのに。ハグ一つでその鉄仮面どっか行っちまったな」

「ねえ君ってそんな語気あらかったっけ!?Sっ気出さないでもらえます?」

「なんで?あー、もしかしてMだったりする?」

「そんな馬鹿なお前馬鹿お前バカバカお前」

「語彙力どうした」

ふーっと耳に息を吹きかけられる。

ぞくぞくっとして、鳥肌が立った。

「やめてくれー」

「やだけど」

「なんで」

「好きだから」

ぬぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ。

「ま、ってな感じで今夜は俺がお前を好き放題するから、よろしくな」

「ねえ、一人称どうしたの。君女の子でしょ」

「こっちが本性なんだよ。誰にも言ってない秘密だけど、お前にだけは教えるわ。好きだから」

「えええ。他言したら殺される感じ?」

「いや、その点は大丈夫。今日の記憶は消しとくから」

「は?」

「親がマッドサイエンティストだからさ。記憶消す薬ぐらい、冷蔵庫漁ればすぐ出てくるんだよ」

そんなもん冷蔵庫にしまうな。

冷やすな。

 

 

 

「何度も言うけど。俺はお前が好きだ。だから、ずっとお前と一緒にいたい。あのトンネルの中で、バカみたいな話をしていたい。でも、今日の記憶がお前に残っちゃいままで通りの関係ってわけじゃいかねーだろ?」

虚ろな目は。

「だから、記憶を消させてもらう。跡形もなくな。まあ、いじらしい女子の行動だと思って大目に見てくれよ」

確かに僕を見ていた。

「そんでさ。私お前に好かれるよう色々頑張るから」

何かを堪えるようにして彼女は。

「だから、ごめん」

僕に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――なんで、僕みたいなやつを好きになるのだろうか。

――――――――――――――彼女には、僕なんかじゃもったいない

――――――――――――――けれど、彼女が選んだのは僕で

――――――――――――――それを拒否したのは紛れもなく僕だ

これは僕の落ち度で

覚えておかなければいけない大罪で

生涯にわたって贖罪するべき悪行なのだ

だから、可能なら記憶にとどめておきたい

消さずに、魂に刻み付けておきたい

生涯を通して、己を憎める新しい道理を、胸の内に秘めておきたい

 

―――――――――けれど、そんな願いは、僕の奪われた唇から彼女に届くことはない

 

何も、泣かなくてもいいよ

僕は怒ってなんかいないさ



















空白の数バグってたので再掲でござる
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