問題児たちとチートが異世界で会うそうですよ? 作:しろい凛キチ
二巻が終わったらちょっとした番外編を書こうと思っているのでお楽しみに♪
"サウザンドアイズ"の支店に戻ってきた俺たちの内、耀・黒ウサギ・白ちゃんはお風呂へ、俺・ジン君・十六夜・女性店員は来賓室で歓談に勤しんでいた。
『ふむ、つまりこの店は入口が複数あって、それが中で一つに繋がっていると。しかもそれが各層ごとにあるってことでいいのかな?』
『そう言う事です』
『なるほどね』
俺が女性店員の話に納得していると、
『あら、そんなところで歓談中?』
どうやら飛鳥達が風呂から出てきたようだ。
十六夜はというと椅子からそっくり返って、湯上りの女性陣を眺めていた。
『………おお?コレはなかなかいい眺めだ。黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の春日部やレティシアの髪から滴る水が鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちる様は視線を自然と慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあr …』
スパァーン!!
そんな音が似合うように、耳まで紅潮させた飛鳥と黒ウサギが物を投げてきた。というかなんで俺まで…
* * *
その後レティシアと女性店員は来賓室を離れ、俺と十六夜、飛鳥、耀、黒ウサギ、ジン君、白ちゃん、それと飛鳥が連れてきたとんがり帽子の精霊がこの場に残った。
『それでは皆のものよ。今から第一回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を』
『始めません』
『始めます』
『始めよう』
『始めません!ていうか、神凪さんまで?!』
ごめんね黒ウサギ。お約束というものだよ。
『まぁ、衣装については置いといてだな。実は明日から始まる決勝の審判を黒ウサギに依頼したいのだ』
『あやや、それはまた唐突でございますね。何か理由でも?』
『多分さっきの騒動のせいじゃない?』
『うむ、先の騒動で"月の兎"が来ていると公になってしまっての。明日からのギフトゲームで見られるのではないかと期待が高まっているらしい。"箱庭の貴族"が来臨したとの噂が広がってしまえば、出さぬわけにはいくまい。黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。別途の金銭も用意しよう』
なるほど、納得する一同。
『分かりました。明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります』
『ところで白ちゃん、明日戦う相手ってどんなコミュニティなの?』
『む、主殿には悪いが、それは教えられん。"主催者"がそれを語るのはフェアではなかろ?教えてやれるのはコミュニティの名前までだ』
そう言い白ちゃんがパチン、と指を鳴らす。すると昼間のゲームと同じ羊皮紙が現れ、同じ文字が浮かび上がった。
───"ウィル・オ・ウィスプ"に"ラッテンフェンガー"か。どちらも聞いたことない名だ。
『"ラッテンフェンガー"ですって?!』
そんなことを思っていると、飛鳥が驚いたような声をあげた。
『へぇ………"ラッテンフェンガー"?成程、"
『ハ、"ハーメルンの笛吹き"ですか?!』
『まて、どういうことだ小僧。詳しく話を聞かせろ』
二人の驚愕に俺と十六夜は驚いた。白ちゃんに落ち着くようにジェスチャーで伝えると、幾分声のトーンを下げ、質問を具体化する。
『あぁ、すまんの。最近召喚されたおんしらは知らんのだな。───"ハーメルンの笛吹き"とは、とある魔王の傘下のコミュニティだったものの名だ』
───"ハーメルンの笛吹き"。それは"
そして一篇から召喚される悪魔は複数。特に目を見張るべきは、その魔書の一つ一つに異なった背景の世界が内包されているという。魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと強制力を持つという。
『けどその魔王はとあるコミュニティのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはずなのです。………しかし十六夜さんは"ラッテンフェンガー"が"ハーメルンの笛吹き"だと言いました。童話の類は黒ウサギも詳しくありませんし、万が一に備えご教授して欲しいのです』
『なるほど、状況は把握した。そういうことなら、ここは我らが御チビ様にご説明願おうか』
『は、はい』
ジン君はコホン、と咳払いをしたあとダボダボのローブを整え、ゆっくりと語り始めた。
『"ラッテンフェンガー"とはドイツという国の言葉で、意味はネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある"ハーメルンの笛吹き"を指す隠語です。大体のグリム童話には、創作の舞台に歴史的考察が内包されているものが複数存在します。"ハーメルンの笛吹き"もその一つ。ハーメルンとは、舞台になった都市の名前のことです』
グリム童話の"ハーメルンの笛吹き"の原型となった碑文にはこうあった。
───一二八四年 ヨハネとパウロの日 六月二六日
あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三○人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した───
この碑文はハーメルンの街で起きた実史であり、後にグリム童話の一篇として"ハーメルンの笛吹き"の名で綴られる物語の原型である。
『ふむ、ではその隠語が何故にネズミ捕りの男なのだ?』
『グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです』
そのジン君の言葉を聞いたとき、飛鳥の顔は一瞬だけ驚いていたように見えた。何かあったのかな…
『ふーむ、"
『YES。参加者が"
『え?白ちゃん何それ。初耳だよ?』
『おお、そうだったな。魔王が現れると聞いて最低限の対策を立てておいたのだ。私の"主催者権限"を用いて祭典の参加ルールに条件を付け加えることでな』
そう言って白ちゃんは俺たちに光り輝く羊皮紙を見せてくれた。
「§火龍誕生祭§
・参加に際する諸事項欄
一、一般参加は舞台区画内・自由区画内でコミュニティ間のギフトゲームの開催を禁ず。
二、"
三、祭典区画内での参加者の"主催者権限"の使用を禁ず。
四、祭典区域にある舞台区画・自由区画に参加者以外の侵入を禁ず。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
"サウザンドアイズ" 印
"サラマンドラ" 印」
『"参加者以外はゲーム内には入れない"、"参加者は主催者権限を使用できない"か。確かにこのルールなら魔王が襲ってきても"主催者権限"を使うのは不可能だね』
『けど驚きました。ジン坊っちゃん、どこで"ハーメルンの笛吹き"を知ったのです?』
『べ、別に。十六夜さんに地下の書庫の案内をしている時にちょっとだけ目に入って………』
『何にせよ、情報としては有益なものだったぞ。しかしゲームを勝ち抜かれてしまったのはやや問題ありだの。サンドラの顔に泥を塗らぬよう監視を付けておくが───万一の際は、おんしらの出番だ。頼むぞ』
そんなこんなで俺らは宛てがわれた部屋で明日に備えるのだった。
* * *
造物主達の決闘、決勝戦。
俺と耀は観客席からは見えない舞台袖にいた。
『ここからは今までと違って大変だと思うけど、頑張ろうね耀』
『うん』
そんなことを話していると舞台から黒ウサギの声が聞こえてきた。
『それでは入場していただきましょう!第一ゲームのプレイヤー・"ノーネーム"の春日部耀と、"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャ=イグニファトゥスです!』
俺たちが舞台に出ようとした瞬間───耀の眼前を高速で駆ける火の玉が横切った。
『YAッFUFUUUUUuuuuuu!!』
『わっ』
『大丈夫かい、耀』
耀は堪らず仰け反り尻餅をついたが、俺はすかさず助けに入った。
強襲した人物───"ウィル・オ・ウィスプ"のアーシャは、ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを揺らしながら、高飛車な声で嘲った。
『あっはは!見て見て見たぁ、ジャック?"ノーネーム"の女が無様に尻餅ついてる!ふふふ。さぁ、素敵にオモシロオカシク笑ってやろうぜ!』
その声に、ドッと観客先からも笑いが起きる。俺は苛立ちに殺気を乗せ、言い放った。
『それは宣戦布告ととっていいのかな?そうやって笑ってられるのも今のうちだよ』
その殺気にアーシャやジャックと呼ばれた幽鬼だけでなく、観客席まで震え上がっていた。いち早く気を取り直した黒ウサギが進行を続ける。
『そ、それでは第一ゲームの開幕前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります。ギャラリーの皆さまはどうかご静聴の程を』
『うむ。ではゲームの舞台についてだが………まずは手元の招待状を見て欲しい。そこにナンバーが書いておらんかの?』
白ちゃんのその言葉を聞き、観客は一斉に招待状を取り出した。それを確認した白ちゃんは説明を続ける。
『ではそこに書かれているナンバーが、我々のホストの出身外門───"サウザンドアイズ"の三三四五番となっている者はおるかの?おるのであれば招待状を掲げ、コミュニティの名を叫んでおくれ』
『こ、ここにあります!"アンダーウッド"のコミュニティが三三四五番の招待状を持っています!』
その声を聞き、白ちゃんは一瞬でその声の主の元までたどり着いていた。
『ふふ。おめでとう、"アンダーウッド"の樹霊の童よ。後に記念品でも届けさせてもらおうかの。よろしければおんしの旗印を拝見してもよろしいかな?』
樹霊の少年は腕輪を外すと白ちゃんに見せていた。そして、白ちゃんがそれを少年に返し、次の瞬間にはバルコニーに戻っていた。
『今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆のもの、お手を拝借』
皆が白ちゃんに習って柏手を一つ。その所作一つで───世界の全てが一変した。
* * *
『ここは……樹の中かな?』
『そうみたい。木の根に囲まれてるし、土の匂いがする』
そのやり取りにアーシャが加わり少し話していると、突如空間に亀裂が入り、中から"
そして黒ウサギは"契約書類"の内容を淡々と読み上げる。
「ギフトゲーム名 "アンダーウッドの迷路"
・勝利条件
一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。
二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。
三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)。
・敗北条件
一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。
二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。」
『───"
黒ウサギの宣誓が終わったあと両者とも相手の出方を伺っていたが、キリがないと思ったのかアーシャが声を発した。
『睨み合っても進まねぇし。先手は譲るぜ』
………?
俺と耀は少しの間訳が分らないというように首をかしげたが、その答えはアーシャ自身が出してくれた。
『ま、さっきの一件があるしね。後でいちゃもん付けられるのも面倒だし?』
それを聞き、耀は少し考える素振りをした後、
『貴方は………"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダー?』
『え?あ、そう見える?なら嬉しいんだけどなぁ♪けど残念なことにアーシャ様はr…『そう。分かった』』
耀は聞きたいことの答えが分かったのか、話の途中だったが通路を疾走していく。
暫しの間隙の後、状況を理解したアーシャは全身を戦慄かせ、怒りのままに叫び声をあげた。
『オ………オゥェゥウウケェェェェイ!とことん馬鹿にしてくれるってわけかよ!そっちがその気なら加減なんざしねぇ!行くぞジャック!樹の根の迷路で人間狩りだ!』
そう言いアーシャは耀に向けて攻撃するが、俺はその攻撃を弾く。
『悪いけど、ここは通さないよ』
───
前者の伝承は、無人の場所で突如、青白い炎が生まれる現象。鬼火と云われるもの。
後者の伝承は、彷徨う死者の魂が形骸化された逸話。いわゆる幽鬼と云われるもの。
しかしこの二つには共通の逸話がある。
その一つが、「二度の生を受けた大罪人の魂に、名もなき悪魔が篝火を与えた」というもの。伝承では、生前のジャックは二度の生を大罪人として過ごし、永遠に生と死の境界を彷徨うこととなった。それを哀れに思った悪魔が与えた炎こそ、ジャックのランタンから放つ篝火。
───"
『ふん、言ってくれる。私はコイツの相手をするから早くアイツを追いかけてジャックいや、
『分かりました』
その瞬間眼前にいたはずのジャックが消え、耀の悲鳴が聞こえてきた。
『見誤った!あのジャックは本当はお前が作ったんじゃなく、
『今更気付いても無駄だよ。今頃、ジャックさんがアイツを足止めしてるはず。そして、アンタは私に潰される』
『くっ、"
俺はすぐさま空間転移し、耀の元へ駆け寄る。
『大丈夫かい?耀』
『うん、けど油断した。まさかホントに実在するなんて』
『まだ行けそう?』
『え?う、うん』
それを聞くと俺は、"
『コイツは俺が足止めする。だから耀は出口を目指して!』
耀がそれに答え、出口があると思われる方向に疾走していく。
耀がこの場からさった後、俺たちはまたも対峙したまま動かなかった。
『戦う前にいくつかいいかな?』
『なんですか?』
俺は先程気づいた素朴な疑問を聞いてみることにした。
『なぜ、わざわざ意図的に科学現象として炎を発信してるの?』
『そんなことを?それはですねぇ。
なるほど、燐やメタンガスなどは、土葬された死体から発生することが多い。それに、"ウィル・オ・ウィスプ"の炎が発生する場所には、死体が遺棄されてる事が良くあるのはこのためか。
『それじゃもう一つ、なんでさっきは燐を使ったの?』
『此れまた簡単。アーシャは本来、地災で亡くなり、そのまま地縛霊となって彷徨っていたところをウィラが引き取り、今では立派な大地の精霊として力を付け始めているからです。天然ガスを放出していたのは地精の一端』
『じゃあやっぱり、見知らぬ霊を引き取ったのは"ウィル・オ・ウィスプ"に纒わる伝承が関係してるんだね?』
『ええ。我ら蒼き炎の導を描きし旗印は、無為に命を散らした魂を導く篝火なのです。そして救済の志は、神々に限られた領分ではないのです。
いざ来たれ!聖人ペテロに烙印を押されし不死の怪物───このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう』
そう宣言した次の瞬間、会場の舞台はガラス細工のように砕け散り、円状の舞台に戻ってきた。
『勝者、春日部耀!!』
黒ウサギの宣言を聞き、状況を理解する俺達。
『ヤホホ、どうやら今回は貴方達の勝ちのようですね』
ジャックとそんな会話をしてると、耀の前にアーシャが立ちしそうな視線で、
『おい、オマエ名前はなんて言うの?出身外門は?』
『………。最初の紹介にあった通りだけど』
突き放すように言う耀に対し、それでもなおアーシャは食らいついた。
『あーそうかい。だったら私の名前だけでも覚えとけ、この"名無し"め!私は六七八九○○外門出身アーシャ=イグニファトゥス!次に会うようなことがあったら、今度こそ私が勝つからな!覚えとけよ!』
はい?と小首を傾げる耀。それに対してジャックが補足を付け加える。
『あの子、同世代の女の子に負けたことが無い子でしたから。きっと負けて悔しかったのでしょう』
そんなことを話していると、空中から雨のようにばら撒かれる黒い封書。
『黒く輝く"
俺はその一枚を取り、笛を吹く道化師の印が入った封蠟を開封すると、"契約書類"にはこう書かれていた。
「ギフトゲーム名 "The PIDE PIPER of HAMELIN"
・プレイヤー一覧
*現時点で三九九九九九九外門・四○○○○○○外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ。
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
*太陽の運行者・星霊 白夜叉。
・ホストマスター側 勝利条件
*全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターを打倒。
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
"グリムグリモワール・ハーメルン" 印」
数多の黒い封書が舞い落ちる中、静まり返る舞台会場。観客席の中で一人、膨張した空気が弾けるように叫び声を上げた。
『魔王が………魔王が現れたぞオオオォォォォ───!!!』