問題児たちとチートが異世界で会うそうですよ? 作:しろい凛キチ
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影胤が依頼への参戦を告げた翌日、俺と蓮太郎と延珠ちゃんでおもちゃ屋に来ていた。それも大手の家電量販店のワンフロアまるまるを貸し切っての大規模なものだ。
『ところで延珠ちゃん、ここには何が目当てできたの?』
『これだ』
延珠ちゃんが指さした先には、ポップな書き文字で"天誅ガールズコーナー"と書かれていた。
漸く延珠ちゃんと別行動してると、延珠ちゃんはブレスレットを持ってきた。彫刻模様の上からクロームシルバーのメッキがかかったアルミか何かのブレスレットだろう。
『これはなんなの?』
『天誅ガールズが
そう言うと延珠ちゃんはレジに走って会計を済ませてきた。
『ほら、蓮太郎と紅覇も腕に嵌めろ』
『ゲ、俺もかよ』
『蓮太郎、そう言わずに嵌めようよ』
『紅覇の言う通りだぞ。これで三人お揃いだな!』
デパートを出てから俺達は三人で手を繋いで歩きながらくだらない話をした。
ふと街頭テレビのパネルに聖天子が映ってるのを見て、足を止めた。どうやらニュース番組の録画映像のようだ。内容は、"呪われた子供たち"の基本的人権の尊重について再度法案を出す予定だ、と言ったものだった。
『これは?』
『ん?これか…これは今話題になってる"ガストレア新法"についてだな』
『ふーん……』
『一昔前まで"呪われた子供たち"は、人知れず川で産んで目も開かない状態のまま水につけて殺すのが一般的だったし、なまじ再生能力なんてものがあるせいで、親からの過激な虐待の対象になりやすかったんだ』
赤い眼を見るとショック症状を起こす戦争後遺症───ガストレアショックを起こす親は、自分の子供の目もまともに見れないという。
また、遺伝型がガストレアウィルスにより汚染されたせいで親子鑑定をしても血のつながりを立証出来ないため、そこから飛躍して法的に人間か否かまでもを問う声もある。
大戦経験世代"奪われた世代"のほぼすべてが潜在的な呪われた子供たち差別主義者であるとも言える状況下で、彼女たちの味方は少ないという。
『───そいつを捕まえろぉぉ!』
突然悲鳴のような蛮声が響き渡るのと、人垣が割れて一人の少女が飛び出すのとはほとんど同時だった。彼女は食料品を満載したスーパーマーケットのカゴを持っている。カゴのロゴは以前俺達も利用したことがある大手のものだ。
少女は立ちふさがるような位置にいた俺達を見て、はっとして立ち止まる。
服装は革ベルトのデニムスカートに趣味の良い白のチュニック。ただし、煤けた顔と同様に最後に洗ったのはいつなのかもしれない汚れと染み、修繕の跡が所々見て取れた。おそらく今彼女が抱えている食料品と同じく盗品なのだろう。
蓮太郎達の言う"外周区"に住んでいる子供なのだろう。しかも彼女の瞳は深いワインレッドだった。延珠ちゃんと同じ呪われた子供たちのようだ。
長い睨み合いを終わらせたのは背後から伸びてきた無数の手だった。大の大人たちがその背に手を掛け荒々しく押し潰すと、こちらにまで骨が軋む陰惨な音がはっきりと聞こえてくる。
『放せぇ!』
アスファルトを舐めさせられた彼女は端正な顔をゆがめ、野生の虎のように歯を剥いて暴れる。しかし、観衆は誰一人彼女に同情を寄せない。
『泥棒め、貴様等は東京エリアのゴミだ』
『よしよくやった!ざまぁみろガストレアめ』
『喚くなうぜぇんだよ、この人殺しが』
『貴様ら"赤目"が俺の親戚を皆殺しにしなければ』
『くたばれ、"赤鬼"!』
俺は手近にいた一人の肩を叩いた。
『ねぇ、あの娘はいったいどうして………』
『どうしたもこうしたもねぇよッ、このガキが盗みをやらかして、声をかけた警備員を、力を使って半殺しにしたんだ!』
俺が少し考え事をしていると、
『貴様等一体何をやっている!』
鶏ガラみたいに痩せたメガネの男とガタイの良い角刈りの男の警官が来た。
正直、俺がホッとしてると無理やり少女を立たせ、あろうことかロクに周りの人間から状況も聞かずに彼女の手に手錠を嵌めた。
唖然としている俺たちを尻目に、眼鏡の男は代表の一人に敬礼して謝意を述べると、パトカーに彼女を押し込んで走り去ってしまった。
俺はそのことに憤りを覚え、蓮太郎にまくし立てる。
『蓮太郎、グズグズしてないで追いかけるよ。延珠ちゃんには申し訳ないけど、これ持って先帰っててもらえるかな?後でなにか買ってあげるから』
俺は延珠ちゃんに材料の袋を渡すと蓮太郎を担ぎ上げ激走する。
* * *
走り初めて数分、俺達はようやくパトカーが止まってるとこにたどり着いた。
俺はパトカーの中を覗いたが、案の定、少女も警官も乗っていなかった。
『こりゃひでぇ荒れようだな』
『蓮太郎、静かにして。今あいつらの位置突き止める』
すると、思いがけず近くから銃声が聞こえてきた。
俺はまた蓮太郎を担ぎ、音を完全に消して警官の背後の柱へと回った。警官に気づかれないよう注意して覗くと鉄柵を背に先程の少女が立たされてた。
ただ、さっきと違うことがあるとすれば少女の腹、胸、手足を問わず銃痕が残っていたことだ。
『や、やめろぉぉぉぉぉ!!』
『バカ、待っ』
俺は蓮太郎の制止を振り切り、警官に向かって走る。
そして警官が気づいた時にはもう俺は既のところまで迫り、刀にてをかけてた。
『神凪流抜刀術、一式 "
───
これは俺が考えた抜刀術の一つで、居合いの型。
一瞬で相手との間合いを詰め、抜刀と同時に峰で相手を叩く技だ。
『おいおい、どうすんだよコレ』
『ごめん、ついいてもたってもいられなくて』
『まぁ済んじまったことはしょうがない。それより、これはひでぇな』
改めて少女を見ると全身に銃痕が残り、見るも無残な姿だった。
到堪れなくなり俺が少女を抱き抱えると、少女は突然大きくむせ込み血を吐いた。
『蓮太郎、この子まだ生きてる!ここから一番近い病院は!!』
俺は半ばまくし立てるように蓮太郎に確認を取り、その場所へ向かった。
* * *
少女は病院に着くなりERの医師たちに運ばれ手術室に消えていった。
手術が行われてる間、俺達は廊下の椅子で別の医師に色々聞かれることになった。不快に思ったのは少女が身寄りのない外周区の子供だと聞いたときの医師の表情だ。
蓮太郎に聞くと、保険証どころか戸籍すらあるか定かでない外周区の孤児たちを手術する場合、手術費用が取れず、病院側が手術代金を負担する場合が往々にしてあるらしい。
今回のケースも俺が巨額の資金を提供していなければ、土壇場で『執刀医がいない』という見え透いた嘘を食わされることになったかもしれないという。
少女の容態も安定し、蓮太郎の家に帰る途中、
『お疲れのようだね、里見くん』
突然声をかけられ、蓮太郎は拳銃を抜き、俺はいつでも刀を抜ける状態で身構える。
しかし相手もこちらの鼻先に拳銃を突き立てる。
突きつけられたのはベレッタのカスタム銃だろう、上部にガスポートがついた
『ヒヒ、こんばんは里見くん。と、そちらは神凪くんだったかな』
影胤はすっと銃を下ろす。驚くことに彼は色違いのカスタムベレッタをもう一挺持っていた。
『こっちの黒いのは
『………それで、俺達に何の用かな?』
俺と蓮太郎は構えを解かず問いかける。
『実は話をしに来たのさ。そっちも武器を下ろしてくれないかね?』
『断る』
『やれやれ───小比奈、邪魔な右腕を切り落とせ』
『はいパパ』
『!?蓮太郎、下がって!!』
俺がとっさに指示を出し後ろへ跳躍すると、風切り音と共に俺達がいた場所に凄まじい速度の斬撃が走る。
『ね、動かないで、首、落ちちゃう』
『蓮太郎、キミは影胤を頼む。俺は小比奈ちゃんの相手をする』
『了解!』
もう一度襲いかかってきた小比奈の斬撃を鞘で受け止め、蓮太郎に影胤を任せる。
『斬れなかった?』
『へぇ、結構いい太刀筋してるね。でもこれなら!』
俺はもう一つの刀の柄の先端で鳩尾あたりを殴った。
が、さすがはイニシエーター。こんな攻撃などいとも簡単に避けられる。
『パパ気を付けて。あっちの奴………強いよ』
『ほう、小比奈にここまで言わせるとは、やはり神凪くん、君はすばらしい』
『そっちの男。名前、教えて!』
『……俺は神凪紅覇。IP序列二五位』
すると小比奈は下を向いたままぶつぶつと薄気味悪く呟いた。
『………紅覇、紅覇、紅覇。───覚えた。私はモデル・マンティス、蛭子小比奈。接近戦では、私は無敵』
小比奈は一転、悲痛な表情で影胤の服の裾を引っ張る。
『あの男斬っていい?首だけにするから、斬っていい?』
『何度も言っているだろう愚かな娘よ。ダメだ』
『うぅ、パパ、嫌いッ!』
影胤はやれやれと言わんばかりにシルクハットの位置を直すと、俺達に向き直った。
俺は警戒しながらも構えを解き、影胤に質問する。
『それで、要件はなんなの?』
影胤は仮面の奥でクツクツと笑うと拳銃をホルスターにしまい、月をバックに鷹揚に手を広げた。
『単刀直入に言おう。里見くんに神凪くん、私の仲間にならないか』
『『ッ?!』』
俺と蓮太郎はそろって息を呑む。
『実は最初見たときから、なぜだか君達のことが好きになってしまってね。殺すには惜しいと思っていた。こちらにつくなら私は君達を殺さない』
『……仮にも俺は民警だ』
『だからなんだね?私も元民警だ。残念ながら東京エリアには大絶滅の嵐が吹き荒れる。現在私には強力な
『………それで俺たちになんの利益があるって言うんだい?』
『君達はこの理不尽な世界を変えたいと思ったかとはないか?東京エリアの在り方は間違っている。そう思ったことは、一度もないかね?』
俺達が黙っていると影胤はなおも言い寄ってくる。
『聞けば君はイニシエーターである延珠ちゃんを、人間のフリをして学校に通わせてるそうだね。なぜそんなことをする?彼女たちは既存のホモ・サピエンスを超えた次世代の人間の形だ。───大絶滅を経たあと生き残るのは我々力あるものだけだ。私につけ、里見蓮太郎。そして神凪紅覇』
『『断わる(いやだね)』』
『くだらん!あくまで依頼を遂行しようとするのか。君がいくら奴等に奉仕したところで、奴等は君達を、何度でも裏切る』
俺と連太郎は影胤を睨む。影胤も俺達を睨む。
それからしばらくして、興が冷めたのか影胤は、
『フン、水入りだ里見くんに神凪くん。こういうやり口は趣味ではないが………明日学校に行ってみるといい。君達もいい加減現実を見るんだ』
そう捨て台詞を呟くと、大きく後ろに跳んで闇に溶けていった。
連太郎は影胤が消えた方を睨みながら俺に問う。
『なぁ、アイツとアイツのイニシエーター、お前はどう見る?』
『影胤の方はまだわからないけど、あのイニシエーターの子は強いね』
『勝てるか?』
『まだわからない』
『………そうか』
去り際の吐き捨てるような影胤の言葉が、重く、消しがたいものとして残っていた。