問題児たちとチートが異世界で会うそうですよ?   作:しろい凛キチ

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蛇神との戦闘

黒ウサギたちとコミュニティへ向けて歩き初めて数分後、ふと十六夜が俺にだけ聞こえる声で囁きかけてきた。

 

『なぁ神凪、ちょっと世界の果てまで行ってみないか?』

 

突拍子もない申し出だったが、いかんせん俺も暇なのでその提案に乗ることにした。

 

『面白そうだし、いいよ♪

なんなら世界の果てまで競争する?』

 

『ヤハハハ、面白そうだな。乗った』

 

『それじゃ合図は任せるよ』

 

『OK。それじゃ行くぜ、よーいドン!』

 

十六夜は自分のタイミングで合図を出すと一目散に駆けていった。

 

『さて、俺も行くかな…』

 

十六夜が出てから少したったあと、俺も空を駆けるようにして追走を始めた。

 

* * *

 

十六夜と紅覇が競争を始めて数分後………

 

『ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!』

 

ダボダボのローブに跳ねた髪の毛が特徴的な少年───ジンと呼ばれた少年ははっと顔を上げる。外門前の街道から黒ウサギと女性二人が歩いてきた。

 

『お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?』

 

『はいな、こちらの御四人様が───』

 

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

 

『………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から"俺問題児!"ってオーラを放っている殿方と、凄く優しそうな殿方が』

 

『ああ、十六夜君と神凪君のこと?あの二人なら"ちょっと世界の果てを見てくるぜ!"と言って駆け出していったわ。あっちの方に』

 

あっちの方に。と指をさすのは上空4000mから見えた断崖絶壁。街道の真ん中で呆然となった黒ウサギは、ウサ耳を逆立てて二人に問いただす。

 

『な、なんで止めてくれなかったんですか!』

 

『"止めてくれるなよ"と言われたもの』

 

『ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか?!』

 

『"黒ウサギには言うなよ"と言われたから』

 

『嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!』

 

『『うん』』

 

ガクリ、と前のめりに倒れる。新たな人材に胸を踊らせていた数時間前の自分が妬ましい。まさかこんな問題児ばかり掴まされるなんて嫌がらせにも程がある。

 

そんな黒ウサギとは対照的に、ジンは蒼白になって叫んだ。

 

『た、大変です!"世界の果て"にはギフトゲームのために野放しにされている幻獣がi …『幻獣?』』

 

『は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に"世界の果て"付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!』

 

『あら、それは残念。もう彼らはゲームオーバー?』

 

『ゲーム参加前にゲームオーバー?………斬新?』

 

『冗談を言っている場合じゃありません!』

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人は叱られても肩を竦めるだけである。

 

黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

 

『はぁ………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、御二人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?』

 

『分かった。黒ウサギはどうする?』

 

『問題児様方を捕まえに参ります。事のついでに───"箱庭の貴族(はこにわのきぞく)"と謳われるこの黒ウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります』

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

外門めがけて空中高く飛び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張り付くと、

 

『一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!』

 

黒ウサギは、淡い緋色の髪を戦慄かせ踏みしめた門柱に亀裂を入れる。全力で跳躍した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に三人の視界から消え去っていった。

 

* * *

 

黒ウサギが十六夜たちの元へ飛び去った後……

十六夜と紅覇はトリトニスの大滝に来ていた。

 

『なんだ、神凪はまだ来てねぇのか』

 

十六夜は競争を吹っかけておきながら、自分が勝つことに迷いがないようだった。

 

そんな時、

 

『俺ならもうここにいるけど?』

 

そう言って俺は木の上から飛び出した。

いきなり俺の声がして十六夜は驚いているようだった。

 

『ヤハハハ、お前どうやって俺より早く来たんだ?』

 

『簡単なことだよ。この世界に来た時に使った重力制御の能力あったでしょ?それを使って自分の周りを擬似無重力にして一足飛びで来たんだ』

 

『お前ほんとどうなってるんだ?』

 

十六夜が半ば呆れたような声で訪ねてくる。

 

そんなやりとりをしてると…

 

『小僧、貴様らは我のギフトへの挑戦者か』

 

不意にそんな声が聞こえたので声の方に振り向くと、身の丈三○尺強はある巨軀の大蛇がいた。

 

『とかなんとか言ってるけど、どうする?』

 

『ハッ、しょうがねぇから乗ってやるよ』

 

『ならば試練を選ぶがよい』

 

『なら、俺を試せるのかどうか試させてもらおうじゃねぇか』

 

あーあ、十六夜あんなこと言っちゃってるけど大丈夫かな………

ま、いざとなったら俺がいるし大丈夫か

 

『図に乗るな小僧、貴様のような人間なぞ一瞬で倒してくれる』

 

『後悔するんじゃねぇぞ、駄蛇!』

 

そういって十六夜と大蛇は戦い始めた。

 

* * *

 

『この辺のはず………』

 

『あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色』

 

『それは月のウサギの特徴だよ、十六夜』

 

『そ、それはともかく!十六夜さんが無事でよかったデス。水神のゲームに挑んだと聞いて肝を冷やしましたよ』

 

『水神?───ああ、アレのことか?』

 

え?と黒ウサギは硬直する。十六夜が指したのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長いモノだ。黒ウサギが理解する前にその巨軀が鎌首を起こし、

 

『まだ………まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!』

 

『蛇神………!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?』

 

ケラケラと笑う十六夜は事の顛末を話す。

 

『なんか偉そうに「試練を選べ」とかなんとか上から目線で素敵なこと言ってくれたからよ。俺を試せるのかどうか試させてもらったのさ。結果はまぁ、残念な奴だったが』

 

『貴様………付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

蛇神の甲高い咆哮が響き、牙と瞳を光らせる。巻き上がる風が水柱を上げて立ち昇る。

黒ウサギが周囲を見れば、戦いの傷跡とみてとれる捩じ切れた木々が散乱していた。あの水流に巻き込まれたが最後、人間の胴体など容赦なく千切れ飛ぶのは間違いない。

 

『十六夜さん、下がっt…『待って黒ウサギ』神凪さん、なんで止めるんですか』

 

俺は今にも飛び出しそうな黒ウサギを手で制した。

 

『これは十六夜が売って、あの水神が買った喧嘩だよ?割って入るのは無粋ってものだよ』

 

『そんなこと言ってる場合ではありません!』

 

『それにほら、十六夜なら大丈夫だよ黒ウサギ』

 

そう言って俺が十六夜を見るように促すと、

 

『しゃらくせぇ!!』

 

突如発生した、嵐を超える暴力の渦。

十六夜は竜巻く激流の中、ただ腕の一振りで嵐をなぎ払ったのだ。

 

『ま、中々だったぜオマエ』

 

大地を踏み砕くような爆音。胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨軀は空中高く打ち上げられて川に落下した。

 

* * *

 

不意に十六夜の軽薄な声と表情が消えたと思ったら、こんなことを言ってきた。

 

『オマエ、何か決定的な事をずっと隠してるよな?』

 

『………なんのことです?箱庭の話ならお答えすると約束しましたし、ゲームのことも』

 

『違うな。俺が聞いてるのはオマエ達の事───いや、核心的な聞き方するぜ。黒ウサギ達はどうして俺たちを呼び出す必要があったんだ?』

 

表情には出さなかったが、黒ウサギの同様は激しかった。

 

『良かったら話を聞かせてもらえないかな?』

 

『………話せば、協力していただけますか?』

 

『ああ。面白ければな』

 

『俺も協力するよ』

 

黒ウサギはようやく己の目が曇っていたことに気がつく。黒ウサギの話を聞くだけだった二人の少女と違い、この二人の目は"箱庭の世界"を見定めることに真剣だったのだと。

 

『………分かりました。それではこの黒ウサギもお腹を括って、精々オモシロオカシク、我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか』

 

コホン、と咳払いする黒ウサギ。内心ではほとんど自棄っぱちだったんだろうね……

 

『まず私達のコミュニティには名乗るべき"名"がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、"ノーネーム"という蔑称で称されます』

『次に私達にはコミュニティの誇りである"旗印"もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています』

 

『ふぅん?それで?』

 

『"名"と"旗印"に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません。もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるだけのギフトを持っているのは一二二人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!』

 

『もう崖っぷちだな!』

 

『ホントですねー♪』

 

黒ウサギ、自分で言っといて落ち込んでるけど大丈夫かな?

 

『で、どうしてそうなったの?』

 

『それは、彼らの親は元々私達のコミュニティの仲間でした。ですが、彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災───"魔王"によって』

 

"魔王"───その単語を聞いた途端、適当に聞いていた十六夜が初めて声を上げる。

 

『ま………マオウ!?』

 

うわぁ、なんか十六夜の目がショーウィンドウに飾られる新しい玩具を見た子供の目みたいになってるよ

 

『魔王!なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねぇか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴がいるのか!?』

 

『え、ええまあ。けど十六夜さんの思い描いている魔王とは差異があるかと………』

 

『そうなのか?けど魔王なんて名乗るんだから強大で凶悪で、全力で叩き潰しても咎められることの無いような素敵に不敵にゲスい奴なんだろ?』

 

『ま、まあ………倒したら多方面から感謝される可能性はございます。倒せば条件次第で隷属させることも可能ですし』

 

へぇ?と十六夜はそこで初めて関心を持ったような相槌を打つ。

 

『魔王は"主催者権限(ホストマスター)"という箱庭における特権階級を持つ修羅神仏で、彼らにギフトゲームを挑まれたが最後、誰も断ることはできません。私達は"主催者権限"持つ魔王のゲームに強制参加させられ、コミュニティは………コミュニティとして活動していく為に必要な全てを奪われてしまいました』

 

『けど名前も旗印も無いというのは不便な話だな。何より縄張りを主張できないのは手痛いだろ。新しく作ったら駄目なのか?』

 

『そ、それは………』

 

黒ウサギは言い淀んで両腕を胸に当てる。十六夜の指摘は正しい。名も旗印も無いコミュニティは誇りを掲げることもできず、名に信頼を集めることもできない。この箱庭の世界において名と旗印が無いということは、周囲に組織として認められていないということ。

だからこそ黒ウサギ達は、異世界からの同士の召喚という最終手段に望みを掛けていたのだ。

 

『か、可能です。ですが改名はすなわちコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも………仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから………!』

 

『茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し………何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんや神凪さん達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか………!?』

 

深く頭を下げる黒ウサギ。切実そうな黒ウサギの態度に俺は腹を決めた。

 

十六夜はというと、組んだ足を気だるそうに組み直し、たっぷり三分間黙り込んだ後、

 

『いいな、それ』

 

『─────………は?』

 

『HA?じゃねぇよ。協力するって言ってんだ。もっと喜べ黒ウサギ』

 

不機嫌そうに言う十六夜。呆然として立ち尽くす黒ウサギは二度三度と聞き直す。

 

『え………あ、あれれ?今の流れってそんな流れでございました?』

 

『そんな流れだったぜ。それとも俺がいらねぇのか?失礼なこと言うと本気で余所行くぞ』

 

『だ、駄目です駄目です、絶対に駄目です!十六夜さんはわたし達に必要です』

 

『素直でよろしい。で、神凪はどうする?』

 

黒ウサギは懇願するような目でこちらを見てくる。

 

『うん、俺も黒ウサギ達のコミュニティに入るつもりだよ。だってこんなにも切実そうに頼まれてるんだもん、断れる訳が無いよ』

 

『あ、ありがとうございますー♪』

 

* * *

 

それから少しして…

 

『どうでもいい質問だけど、そんなコレ欲しかったならどうしてオマエがこのヘビに挑まなかったんだ?俺が見たところ、オマエの方がよっぽど強いように見えるが』

 

コレと指差すのはさっきの水神から賜った水樹の苗である。お、と少し驚いたような反応を見せた後、一転して冷めた目をする黒ウサギ。

 

『ああ………その事でございますか。それは黒ウサギ達が"箱庭の貴族"と呼ばれるコトに由来します。ウサギ達は"主催者権限"と同じく""と呼ばれる特権を所持できるのです。"審判権限"を持つものがゲームの審判を務めた場合、両者は絶対にギフトゲームのルールを破ることができなくなり………いえ、正しくはその場で違反者の敗北が決定します』

 

『へぇ?それはいい話だな。つまりウサギと共謀すればギフトゲームで無敗になれる』

 

『だから違います。ルール違反=敗北なのです。ウサギの目と耳は箱庭の中枢と繋がっております。つまりウサギ達の意思とは無関係に敗北が決定して、チップを取り立てる事が出来るのですよ。それでも無理に判定を揺るがすと………』

 

『揺るがすと?』

 

『爆死します』

 

『爆死するのか』

 

『それはもう盛大に。"審判権限"の所持はその代償として幾つかの"縛り"が御座います。

一つ、ギフトゲームの審判を務めた日より数えて十五日間はゲームに参加できない。

二つ、"主催者"側から認可を取らねば参加できない。

三つ、箱庭の外で行われているゲームには参加できない。

───とまぁ、他にもありますけど、蛇神様のゲームに挑めなかった大きな理由はこの三つですね。それに黒ウサギの審判稼業はコミュニティで唯一の稼ぎでしたから、必然的にコミュニティのゲームに参加する機会も少なかったのデスよ』

 

『なるほどね。実力があってもゲームじゃ使えないカードじゃ仕方ないか』

 

* * *

 

『トリトニスの大滝、だったな。ココを上流に遡ればアトランティスでもあるのか?』

 

『さて、どうでしょう。箱庭の世界は恒星と同じ表面積という広大さに加え、黒ウサギは箱庭の外の事はあまり存じ上げません。しかし………箱庭の上層にコミュニティの本拠を移せば、閲覧できる資料の中にそういうものもあるかもですよ?』

 

『ハッ。知りたければそこまで協力しろってことか?』

 

『いえいえ。ロマンを追求するのであれば、という黒ウサギの勧めでございますヨ?』

 

『ま、こんなデタラメで面白い世界に呼び出してくれたんだ。その分の働きはしてやる。けど他の二人の説得には協力しないからな。騙すも誑かすも構わないが、後腐れないように頼むぜ。同じチームでやっていくなら尚更な』

 

『………はい』

 

黒ウサギは心の中で深く反省する。

そう、彼らは同じコミュニティで戦っていく仲間なのだ。相手が問題児だからといって利用するような真似をしては得られる信用も得られなくなる。コミュニティが大事だったあまり、その意識が黒ウサギの中で低くなってしまっていた。

新たな同士である彼らには失礼極まりない話である。

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