強火二宮担の妹   作:瑠威

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第3話

 

「ちょっと話が違うじゃないですか影浦先輩!」

「あ゙あん!? 話がチゲーのはこっちのセリフだろーが!!」

 

 

 ランク戦のブースにて。日頃寄り付かないこの場所で私は影浦先輩と言い争いをしていた。止める者はいない。何故なら、A級二位の普段は理佐の横を陣取っている私と、顔面凶器の影浦先輩が喧嘩していたら、普通の人間は怖い思うだろう。寄り付きたくないと思う。その気持ちは分からなくもない。遠巻きに「うわ、あの人達なんか喧嘩してるぜ…」「近寄らんどこ…」と言われるのがオチである。

 

 

「影浦先輩がランク戦してくれたら相談乗ってくれるって言ったんじゃないですか!!」

「ああそうだよ!! でもな! 誰もスナイパー用トリガーで来いとは言ってねーんだわ!!!」

「うぐっ…」

 

 

 そう数分前、私は影浦先輩とランク戦を行っていた。もはや当たり前になりつつある相談を影浦先輩に持ち込むと、影浦先輩は交換条件にランク戦を提示してきた。普段は殆どランク戦はやらないのだが、そろそろポイントを溜めてこいと理佐に脅されていたこともあって私は頷いた。そしていざ、ランク戦が始まろうとしていたその時──私は気づいてしまったのだ。

 

 トリガー構成が違う。

 

 普段はゴリゴリのシューターである私はたまたま、本当にたまたま昨日、バカな先輩とスナイパーごっこをやっていた。アホらしと言いながらも付き合ってくれる理佐を背に、バカ先輩から時折コツを聞きながらひたすらに撃つという何それ楽しいの?という遊びだ。案外楽しかったし、スナイパーの才能があったらしい私はバカ先輩に本気でスナイパーに転向しないかと打診された。まあ、私が断る前に理佐が「どこかのバカは撃てるって確信するまで撃たないのに、マキまでそれにさせる気? バカ?」と一刀両断にしていたのでその話は自然消滅した。清々しいっぷりの一刀両断である。

 

 しかし、昨日のバカ先輩の一言のせいで若干理佐の雰囲気がピリつき、トリガー構成を直して貰えなかった。まあ、別に後でいいかと放置したらこれだ。ちょっとだけ頭が痛くなった。

 

 今更やめましょうとも言えず始まってしまったランク戦十本勝負。一戦目は私が勝った。完全なる不意打ちスナイプである。影浦先輩の眉間を狙ったスナイプは案外簡単に当たり、そのまま影浦先輩はベイルアウト。驚いて目を丸々とさせていたのが印象的だった。

 

 二戦目、ふざけやがって!とブチ切れモードに入った影浦先輩はお得意のマンティスで近くにある家を粉々にして行った。そのせいで、スナイパー用トリガーしか持ち合わせていない私は簡単に首チョンパされ、引き金を引くことなくベイルアウトすることになる。これが三戦目、四戦目、と続き最後の十戦目。私はその場のステージで一番の高台に向かった。しかし、その高台と影浦先輩の場所位置の相性がすこぶる悪く、影浦先輩は数ミリ程度にしか射線に入っていない。それに影浦先輩自身も気づいて居たらしく、バカ先輩ならともかく初心者である私がその場所に向かうはずがないとタカをくくっていたらしい。そんな予想を裏切った私のスナイプは揚々と影浦先輩のトリオン機関を撃ち抜いた。これまた影浦先輩は驚いてベイルアウトしていた。

 

 そんなこんなで勝ち星を二つあげた私は、若干誇らしげだったのだが。影浦先輩が求めていたのはシューターの私であって、スナイパーの私ではないのだ。だから怒っている…いや、多分違う。きっと、初心者に毛が生えた程度の私に二度も撃ち抜かれた自分自身に怒っているのだ。なんとも分かりにくい先輩である。

 

 

「つーか、スナイパー用トリガーでやんならちゃんとスナイパーしろよ!! イーグレット片手に突撃してくんなや!!」

「いやあ、面白かったですね。驚いた顔で顔面殴られてる影浦先輩は!」

「その直後にテメーは首ちょんぎられてたけどな!」

「…本当、大人気ないんだから。影浦先輩は」

「さり気なく俺に責任転嫁してんじゃねー!!」

 

 

 ガルルと吠える影浦先輩は本当に弄りがいがある。何だかんだ言って私のことまで考えてくれる先輩は面倒見がいいのだ。兄さんには劣るけど。

 

 

「で、スナイパーに転向すんのか」

「しませんよ。たまたまです。本当に、たまたま」

「…どーだか」

 

 

 ギロッと私を睨めつける影浦先輩。しかし、その視線には若干の心配が含まれている。本当に、年下には甘い先輩だ。そこまで心配しなくてもいいのに。私はやる時はやる女だ。そう、やる時、はね…。

 

 

「…で、相談って何だ。またどーでもいいこと聞いてくんじゃねーだろうな」

 

 

 影浦先輩のどうでもいいことに分類されているそれは多分、前回質問した「兄さんの部屋に薄い本がないんですけど大丈夫ですよね!?」だと思う。全くもってどうでも良くないのだが、ここで噛み付くと私の相談に乗ってくれなくなってしまう可能性があるので、私は何も言わない。私は影浦先輩よりも大人なのだ!

 

 

「おい、テメー今何考えてる」

「さあ、なんのことでしょう?」

「………」

 

 

 サイドエフェクトで何かを感じ取ったらしい影浦先輩はもはやデフォルトとなりつつある鋭い眼光でこちらに視線を寄越す。全くもって怖くはない。慣れの域である。

 

 ギャーギャーと騒ぎすぎたせいで悪目立ちしてしまっている私達は、ひとまず場所を変えようとロビーへ向かった。道中、自販機に寄り影浦先輩が緑茶を買ってくれる。私はジンジャーエールがいいと言ったのにそれを無視しての緑茶だ。喧嘩なら買うぞコラ。

 

 

「で、相談ってのは」

 

 

 ドカりと椅子に腰を下ろした影浦先輩に私は深刻な顔で告げる。

 

 

「先輩、どうしましょう。私、遠征期間中──泊まり込みでお筝の教室に通うことになりました」

「…お前、バカなんか」

「私をバカだと形容するのは影浦先輩ただ一人です」

「友達居ねーもんな」

「居ますって!! 私を友達居ないキャラにするのやめてください!!」

 

 

 アホらしとコーヒーをすする影浦先輩。対して私はあの時のことを思い出してアワアワと焦っている。そもそもさ何よ、お筝って。弾いたこともねーよ!! なんかもうちょっと違う言い訳があっただろーに。…ああ、過去の私なんてバカなんだろう。

 

 

「何で筝なんだよ…」

「いや、兄さんにしばらく家に居ないってことを伝えた時に「じゃあどこにいるんだ」って聞かれまして…。遠征に行くとは答えられないから思わずお好み焼きかげうらって言いそうになったというか、なんというか…」

「はあ!?」

「もちろん!咄嗟に止めましたとも!!「おこ」で止めました! そしたら兄さんが復唱するように「おこ…?」と言ってきたので「…学校でお筝の良さに触れ、それを極めたくなったのでお筝教室に泊まり込みで修行してきます」と……」

「…お前、バカだろ」

「言わないで下さいっ!!」

 

 

 再びアホらしと影浦先輩は呟いてコーヒーを啜った。そしてこう言うのだ。

 

 

「そろそろ観念したらどーだ。そっちの方がラクだろ」

 

 

 沈黙がその場を制し、数秒後私はゆっくりと首を横に振った。影浦先輩が面倒くさそうに顔を歪めた。

 

 

「…確実に怒られますもん。嫌です」

「はあ? そんなことかよ」

「兄さんってただでさえ圧強いのに、怒ってる時は更なる圧をかけて来るんですから!!」

「あ、(おまえ)でも圧とか感じてたのか…」

 

 

 

 ちなみに兄さんを怒らせて一番怖かったのは、兄さんをハブろうとしていた男共を紐無しバンジーの刑にしようとしたことである。兄さんは他人の感情に疎いところがあるから、ハブられても多分気づかない。屁でもないと思うけれど、私は凄く嫌だったし腹がたったので殺ってやろうと思ったのだが、寸前でバレてしまった。あの時はハチャメチャに怖かった…。せめて紐はつけろとこっぴどく怒られたので、ハブろうとしていた男共は普通の橋バンジーを経験させてやった。少々紐が長すぎたらしく時折川の中に顔を突っ込んでいたけれど死んではいない。「二度としません」友達涙ながらの謝罪も動画として保存してあるし大丈夫だろう。(良い子は真似しないでね)

 

 

「隠せる所まで私は隠して行きますよ」

 

 

 ふと、時計を見れば理佐に集合を掛けられた時間の十分前だった。そろそろ向かわなくては、と影浦先輩にお礼を伝え、私はその場を後にする。

 

 

「カゲ」

「あん? …鋼か」

 

 

 眞貴が座っていた影浦の向い側に腰がけるのは鈴鳴第一所属の村上鋼だった。村上は少々深刻そうな顔つきで影浦に問いかける。

 

 

「さっきのランク戦を見ていて思ったんだが…彼女、マキさんはサイドエフェクトがあるのか…?」

「それ、本人には聞くなよ。多分聞いちゃいけねーやつだ」

 

 

 眞貴と影浦のランク戦十本勝負の十本目。あれは常人を逸脱したスナイプだった。多分、スナイパーランキング1位である当真やスナイパーの名手として名を轟かせている東でも一発で決めることは難しいだろう。それぐらいに、あの高台から影浦の位置は最悪だったのだ。四つ分のビルの隙間を縫って撃たなくてはいけないスナイプは、一ミリでもズラしたら影浦には届かない。それぐらい緻密で繊細なスナイプだった。だからこそ、影浦も油断していたのに。

 

 

「サイドエフェクトはその名の通り『副作用』。俺たちにとっていいもんじゃねーんだよ」

「ああ、分かっている」

「…言いふらすなよ」

「ははは。カゲは妹分思いだな。優しいやつだ」

「変なもん刺してくんじゃねー!!!」

 

 

 自分が居ないところでこんな噂をされているとは眞貴は露ほども思ってないだろう。

 

 

 

 

 

 

 * 

 

 二宮隊の隊室にて。

 

 

「今の六頴館には筝の授業があるのか?」

 

 

 「俺が通っていた時は無かった」と呟く二宮。二宮の突然な質問に隊員の面々は少々驚いていたが、それからいち早く抜け出した犬飼が答える。

 

 

「え? ああ、確か…選択授業で二年次にあったよね。おれはオペラの方を取ったからあまり知らないなー」

 

 

 「確かおれ達の代から始まったんですよ」と犬飼が答える。正直、筝もオペラも興味のなかった犬飼にとって、眠かった授業としか印象にない。

 

 

「あ、私はお筝を取りました」

「俺も…」

「え、オペラおれだけ? なんかそれは寂しーなー。…ていうか、二宮さん急にそんなこと聞いてどうしたんですか?」

 

 

 二宮はパラパラと何かの本を読み込んでいた。隊室に二番乗りした犬飼が来た時からずっと二宮は何かを読み込んでいた。何を読み込んでいるのか問おうと思ったが、結構集中していたので問うことをやめたのだが。

 

 二宮は本に視線を寄越したまま当たり前だと言うように断言した。

 

 

「いや、俺も筝の勉強を始めようと思ってな」

「「「二宮さんが!?」」」

 

 

 二宮と筝、似合わねー。そう心中で声を揃えた三人だが勿論口には出さない。「が、頑張ってください…」と言うのが精一杯だった。




 
 二宮眞貴
 強化二宮担の重度のブラコン。兄のために葬って来た男女は数知れず。自称友達100人。あくまで自称。アドリブに弱い。架空のお筝の教室に通うことになった。バカで天然。サイドエフェクトの恩恵でスナイパーの才能があるらしいがそれを活躍させたのは2回だけ。それ以外は全て猪突猛進スタイル。イーグレット片手に殴り込みをした。何回か影浦の顔面を殴った。

ちなみにこの時のトリガーセットは…
・メイントリガー
イーグレット
アイビス
シールド
スパイダー

・サブトリガー
バッグワーム
FREE TRIGGER
シールド
FREE TRIGGER

 影浦雅人
 困った時は一家に一台影浦雅人。相談には乗ってくれるが適切な回答が返ってくるとは限らない。相談相手にあまりオススメできないタイプ。何度か眞貴にイーグレットで顔面を殴られたが、なんだかんだ眞貴を気に入っている模様。北添にあてられてある意味菩薩へと進化した。眞貴のサイドエフェクトについて突くつもりは無い。

 村上鋼
 鉄壁の守り神。来馬辰也と言う菩薩の血を分け与えられた良心。男前。強化荒船担。眞貴を真木理佐の妹だと勘違いしているため「マキ」呼び。決して名前で呼んでいるとは思っていない。
たまたまブースで影浦と眞貴の試合を見ていてサイドエフェクトの存在に気づいた。こいつも優しい男前なので眞貴のサイドエフェクトについて突くつもりは無い。

 二宮匡貴
 自覚なしのシスコン。末期。妹から寄せられる膨大な愛を黙って受け止めている男。天然。筝の勉強を始めた。眞貴のサイドエフェクトについて知って…いる、のか…? 不明。

 犬飼澄晴
 色々と愉快。楽しんでいる節あり。

 辻新之助
 兄というラスボスが現れた。絶対絶命。尚、学校で思いを寄せている「二宮さん」と眞貴が同一人物だとは気づいていない。

 氷見亜季
 普通に二宮の心配をしている。優しい。

 当真勇
 定期的に眞貴とスナイパーごっこをしている。動かない的の撃ち合いから実践形式まで、多様に遊ぶ。本気で眞貴をスナイパーに転向させたいと思っているが真木理佐が怖いので一生無理。眞貴のサイドエフェクトについて一切知らない。

 真木理佐
 冬島隊の女帝。冬島隊で彼女に勝てる者は居ない。実質冬島隊の権限は全て彼女が握っている。眞貴はシューター一択。彼女に点をガンガン取らせて行く方針。眞貴のサイドエフェクトは多分知ってる。

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