フィーたちが記憶を取り戻してから早や三か月。その間にアイフリード海賊団との顔合わせも終え、平和な時間を過ごしていた。
「準備はいい二人とも」
「もちろんだよ。モード マオテラス!」
「うん。モード カノヌシ」
その日はラフィーとフィーの模擬戦を行っていた。場所は村はずれの広い広場で、ここなら多少暴れても問題ない。ベルベットの合図とともに、お互いに能力を発動する。フィーは大きな白銀のドラゴンとなり、ラフィーは真っ白な服装になり、紙葉を束ねた剣を構える。
「お互いにやりすぎないように。始め!」
合図とともにフィーはその巨体を生かして尻尾で薙ぎ払う。大きさとはそのまま力である。ラフィーはそれを飛ぶことで回避し、そのまま宙を飛びながら距離を詰める。
「図体が大きいだけじゃ僕には当たらないよ。僕のほうが速いんだから」
「言われなくても!」
フィーは動かした尻尾をそのまま地面に叩きつける。土煙が上がることで、目隠しすると同時に距離を取りそのまま空に上がる。美しいドラゴンが空に舞い上がる姿は幻想的である。
「白銀ノ息吹!」
フィーの口から白銀の炎が放たれる。前世では業魔を人に戻す力であったが、この世界では純粋な高温の炎である。
「甘いよ!リーフサイクロン」
白銀の炎を前にラフィーは自身に風を纏って受け流す。そのまま素早く懐に飛び込んだラフィーはフィーの巨体を切りつける。
「っ!もう、硬いなあ」
しかし、ドラゴンの体は強靭で浅い傷しかつけられない。そのまま二人は空中でぶつかり合う。その様子を、たとえ殺し合いではないと知っていても、ヤキモキしながら見守るベルベットであった。
数分間空中で戦っていると一緒になって墜落し、激しい音と土煙を上げる。煙が晴れると能力の解けた二人が互いに紙葉を構えている。まだまだ能力を十全には使いこなせず、次は術で最後は肉弾戦まで発展するのがこの二人の模擬戦である。肉弾戦まで行くのはやり過ぎだとベルベットは思うが、男性陣から最後までやらせてやれと言われてからは見届けるようにしている。
ただ、今日はそこまでいかないようだ。紙葉を構える二人の足元から大きなツタが何本も生えて二人を拘束する。
「モアナも遊ぶ!」
「「モアナ(さん)!!」」
突然の来訪にすでに体力の削られた二人は対処できずツタに巻き付かれ吊るされる。
体に精神が引っ張られるのか、こうやってモアナが唐突に乱入してくることがある。まだ覇気の習得していない二人はいつも対処できず吊るされる。そして今日の模擬戦もなあなあで終了した。
「「モアナ(さん)!」」
「二人だけで楽しそうなんだもん」
フィーたちの抗議も詫びれず受け流すモアナ。同じ境遇の同年代がこの三人しかおらず、自分だけ女性と言うこともあり戦闘訓練で遠慮されることの多いモアナは内心不満に思っている。
抗議を続ける二人を無視してベルベットに声をかける。
「おはよう!ベルベット」
「おはよう、モアナ」
元気に挨拶する姿は年相応であるが、前世で子を持った母親であったことを聞いているベルベットとしては違和感を覚えてしまう。
「せっかくの模擬戦なんだから、乱入せずに見ていてあげたら?」
「いつものけ者にするのに?それに男の意地ならともかく、子供の癇癪なんだからいいじゃん」
やんわり諫めるベルベットにそう返すモアナ。残念ながらフィーたちの喧嘩に何時もあたふたしてしまうベルベットとしては謎の敗北感を感じてしまう。
このまま会話を続けるのはまずいと話を変える。
「そういえばどうしたの?こんなとこまで来て」
「あ!!そうそう。沖からアイフリード海賊団の船がこっちに来ていたからみんなを呼びに来たんだ!」
「?おかしいわね。前回来た時からまだほとんど経っていないはずなのに。フィーもラフィーも行くわよ」
連絡なく現れるのはいつものことであるがあまりに間隔が狭すぎる。緊急事態かと考え急いで船着き場に向かうのであった。
船着き場につくとすでにアルトリウスとメルキオルはアイフリードと話し合っていた。ただいつもと違いかなり剣呑な雰囲気だ。
「どうかしたの。義兄さん」
「ベルベットか」
「お!災禍の顕主様じゃねえか。ちょっと厄介なことになってな」
「ちょっとどころではないわい。事前に知れたことはよかったがの」
「みんなが来てから話そう。それまで待っていてくれ」
「わかったわ」
素直に返事をするが、ベルベットの前世で培った勘がガンガンと警報を鳴らすのであった。
主要なメンバーがそろうとアイフリードが発言する。
「これは俺の船に置いてある傍聴用のでんでん虫でな。これが先日ある通話を拾いやがった。なんでも世界貴族様がこのサウスブルーに来るらしい」
世界貴族、別名天竜人。世界政府を創設し、聖地マリージョアに移り住んだ20人の王たちの末裔の一族。しかし、長年のうちに伝承・根拠が歪んで権力が暴走し、人を人とも思わないような教育により、世界中の全ての地域において傍若無人の限りを尽くす極悪非道を当たり前のように行う外道。
そんな一族の襲来にベルベットはあきれる。
「めんどくさいけど別に放っておいてもいいんじゃない?」
「ベルベット。あいつらは理由なしにはマリージョアから出てこない」
「アイゼンの言う通りだ。俺たちが傍聴した会話にその目的も言っていやがった。なんでも的当てゲームだそうだ」
「?」
「この島に大砲をぶち込んで遊ぶんだそうだ」
「はあ!?」
「この島が非加盟国であることもあるし、近くの町は犯罪の温床だ。そういう理由からこの島が候補に挙がったらしい」
理由なき暴力にベルベットは憤る。
「そんな理不尽が認められるの!理由のない殺戮なんて」
「認められるんじゃよ、ベルベット。虫唾が走るからわしは海軍を退役したんじゃ」
「厄介なことに大将や中将も護衛の任務についているらしい。まともに戦ったら勝ったとしてもお尋ね者だ。でだ。俺の船でこの村の住民くらいは逃がすことができる。さて、どうする」
アイフリードは冷静に聞いてくるが、ベルベットの心内はすでに決まっている。
「戦闘能力の無い村人は逃がしてあげて。あたしは戦うけど。理由なき殺しなんて認めない」
「ひゅー。さすがだぜ、ベルベット。俺も刀の錆にしてやるか」
「しょせんは自分の舵も切れない奴らだ」
「これはお尋ね者コースじゃの。そのまま海にでも出るかえ」
「私も出ます。こんな理不尽許せません」
「僕も行くよ。人を何だと思っているんだ」
「姉さん。僕も行きます。」
「モアナもー」
「僕も行かせてもらいます。自分の理にかけて。姉上は待っていてください」
「ダメです。海軍になる夢を捨てることになるのでしょう。私も付き合います」
「新作の刀の試し切りにはちょうどいい」
「はっ!!バカやろうばっかだな。いいぜ、これが終わったら全員俺の船に乗せてやる!野郎ども準備開始だ」
「「「おう!」」」
海軍襲来まで時間もあまりないため、急ピッチで作戦会議となった。
「初めに街を襲うらしい。つまりこの村から非戦闘員を逃がすのに十分な時間は稼げるってもんだ」
「その代わり町の人を避難させることは難しそうね」
「儂が先行して花火でも上げてくるかの、道化らしく」
「僕も行くよ。ドラゴンが来たら町のみんなは逃げるでしょ」
「けが人が多くなりそうですね」
「ま!死ぬよりかましだろ」
「船を動かす人員は確保しての総力戦だな」
「船の護衛はどうする」
「義兄さんに頼みましょう」
「ベルベット!私は!」
「せっかく姉さんと幸せになれたんだから、人生を棒に振らない。大丈夫よ、あたしたちなら」
「アルトリウス様が守ってくださるのなら安全ですしね」
「ならオスカーも」
「姉さん、僕はいいんだ。こんな理は否定したいから参戦させてもらうよ」
「参加するなら容赦しないわよ」
「お手柔らかに頼むよ、災禍の顕主」
「言うじゃない、一等退魔士」
「海軍が来たら、街を破壊する罪悪感に付け込んで全力を出させずに叩く。船をある程度壊せば退却しやすくなるだろう」
「無難だな」
その後も話し合いは続き、各々の役割を決めていく。
前世の垣根を超えて、全員が一丸となり作戦会議は続くのであった。