ろうそくの灯がともるリビングで、アルトリウスはゆっくりとこの世界について説明し始めた。
「まず、この世界は前の世界とは異なる異世界だ。この世界には業魔も聖隷も対魔士もいない、全く異なる法則が働いている。人の肉体の強靭さは、前の世界よりも圧倒的に強い。地理は、大きな大陸(レッドライン)が星の真ん中を分断するように縦断しており、それ以外は、そのほとんどが海に覆われている。さらに、レッドラインとは垂直方向にグランドラインと呼ばれる航路が存在している。この二つのラインに分断された4つの海をノースブルー、サウスブルー、イーストブルー、ウェストブルーに分けられる。この村はサウスブルーにあるセイテン村だ」
「い…異世界、でもあたしの喰魔としての力は存在している。いくら何でも異世界は」
そうしてベルベットは、自身の見た目は人間の左手を業魔手に変えて見せる。
しかし、アルトリウスは首を横に振る。
「それは、この村の特性だ。前の世界で一定以上の力を持った者は、この村などで人間として転生する。聖隷も業魔も関係なく。10歳になると前世の記憶を思い出し、前世のチカラを使うことができるようになる。この世界の法則に則ってだが」
「この世界の法則?」
「この世界には悪魔の実と呼ばれるものがある。食べると不思議な力を得られるが、その代わりに海に嫌われ、海で泳げなくなる者だ。悪魔の実はいくつか種類があるが、転生者はこの悪魔の実の能力者になる。例外もあるみたいだが」
「はあ?」
ベルベットは右手で前髪をかき上げ唸る。
アルトリウスはベルベットの様子に苦笑いを浮かべる。
「いろいろつぎ込みすぎたかな?今日はもう遅い。続きは明日にしよう」
そう言って席を立つアルトリウスに、ベルベットは質問を投げかける。
「異世界とかまだよくわからないわ。でも一つだけ教えて。この世界に生まれてこれて幸せ?アーサー義兄さん」
「もう一度セリカに会えたんだ。これ以上の幸せはない」
満面の笑みを浮かべたアルトリウスは、ベルベットの問いに答えた。
「異世界か」
ベッドに寝転がったベルベットは、窓からそとを見つめる。
(この世界ならまたラフィとフィーと仲良く暮らせる。アーサー義兄さんは海が多いって言ってたっけ。この世界ならラフィに世界を見せてあげられる。またみんなで旅をするのもいいかもしれない)
よく晴れた翌日、アルトリウスはベルベットを村はずれの広い丘に連れて行った。
「昨日はよく眠れたかい、ベルベット?」
「別に」
「はは、不愛想だな。まあお前にとっては、ついこの前まで戦っていた相手だからな、気持ちの整理はなかなかつかないか」
仲良く丘で話す二人は年の離れた兄弟のように見える。
「この世界は広い。せっかくの第二の人生、やりたいことを見つけてみるのもいいかもしれない」
「やりたいこのなら一つあるわ。今度こそラフィに世界を見せてあげたい」
「貴様が野に放たれるか、世界はどうなることやら」
唐突に後ろからしわれた声が会話に混ざる。その声をベルベットよく知っていた。勢いよく振り向くと構えをとる。
「メルキオル!!」
「メルキオル、あまり驚かさないでください。ベルベット、この世界を説明するために今回は俺が呼んだんだ。警戒するなとは言わないから、話は聞いてくれ」
アルトリウスの説得が効いたのかベルベットは一応話を聞く。
「この世界はそのほとんどが海であることは説明したと思う。そのため、ほとんどの国は交易を行っている。それを狙う海賊もたくさん存在している。海賊から市民を守るのが海軍と呼ばれる組織だ。メルキオルはそこで大将まで上り詰めたんだ。村から出たことない俺が説明するよりいいだろう」
「海軍…聖寮みたいな組織かしら」
「一緒にするではない。海軍は世界のためではなく、自分たちのために正義を掲げておる。嫌気がさしてやめてやった」
そう憤るメルキオルを、意外そうな目でベルベットは見つめる。ベルベットにとって、メルキオルは自分を犠牲にしても正義のために身をささげる人物だと思っていたからであった。
「なんだその目は、はあ…上まで上がるといろいろ分かるのだ。」
それから、ベルベットはメルキオルからこの世界の情勢を聞くのであった。その中で天竜人の存在がメルキオルにとっては忌々しいものであることが感じ取れた。世界に身をささげたものとして、大儀なく世界を振り回す天竜人を許せないのだろう。
一通り説明を受けたベルベットにアルトリウスは提案をする。
「このような世界だ。ベルベットの望みを叶えるには力がいる。もう一度俺から修行を受ける気はないか?お前が知らないこの世界の技術も教えられる。ライフィセットたちの記憶が戻るまであと8年ある。無為に過ごす必要もないだろう」
「望むところよ!!」
アルトリウスの提案をベルベットは了承する。それから、二人は定期的に修行するのであった。
続きは後日