その日は雲が多く、しかし雨は降らなさそうな天気だった。
アルトリウスとの特訓は、アルトリウスに急用が入ってしまったため中止。予定の空いてしまったベルベットは、村を散策する。木々に囲まれた村は、家が多く立ち並び、その分人も多い。
客引きのためか、ベルベットに声をかける店の人に軽く返答しながら村を歩いていると、前方の広場に子供たちが集まっている。いや、いるのは子供たちだけではなさそうだ。なぜなら、子供たちの歓声とともに胡散臭い魔女の声も聞こえる。
「さーさー、よってらっしゃい!みてらっしゃい!本日最大のマジックは、この村の近くにしか住んでない大変珍しいノルミンの大脱出なりー!この(本当に)何の変哲もないただの箱に、両手両足が縛られ、さるぐつわをかまされた哀れなノルミンをいれまーす!そしてこのよく切れるナイフを四方八方から刺します!ナイフを抜いた後からなんと無傷のノルミンが出てくることでしょう!これぞ大脱出なり!」
「「「わー!!!」」」
子供たちの前で笑顔を振りまく魔女、マギルゥは哀れなノルミン、ビエンフーの耳もとにささやく。
「わかっておるな。箱に入れたらすぐ縄を解いて死ぬ気で避けろよの。もし傷ついたら目の前の子供たちがどんな顔をするのかのー」
「ん―ん―(ビエーン!!)」
「何やってんだか」
すこし離れたところで大脱出なるものを見るベルベットはつぶやく。
そうしている間にマジック?はどんどん進んでいく。最初はゆっくりナイフを刺していたマギルゥだがどんどんその速度を上げていく。その顔には愉悦が浮かんでいた。
ナイフを刺し終え、箱が開けられると、生き絶え絶えな、無傷のビエンフーが出てきた。
どうやら、刺されずに済んだらしい。
「「「わーー!!」」」
裏で何があったか知らない子供たちは大喜びだ。全員が拍手を送る。
「どーもどーも。これにて本日のマギルゥ奇術団は終了つかまつるー」
回転しながら鳩と花びらをマギルゥは発生させる。子供たちは大喜びだが、鳩に嫌な思い出のあるベルベットは苦虫をかんだ表情をする。
子供たちもはけ、片付けをビエンフーにさせるマギルゥにベルベットは声をかける。
「相変わらずね、マギルゥ」
「おおー!われらがベルベットではないか!なんじゃ、いたのなら声をかければよかったのにのー」
「声をかけたら巻き込むでしょ。嫌よ」
「もちろんだのー!ポッポ」
過去の情景を思い出したベルベットはマギルゥの頭を思いっきり殴る。
「っいったー!!なにをするーベルベット!!かわいい儂の頭にたんこぶができるじゃろうが!!」
「大丈夫よ。本気で殴ったから」
「なるほど!本気なら大丈夫…なわけあるかー!しかも本気かい!」
「それより何してたの」
「トホホー、簡単に流されてしもうたわい」
「武装色の覇気で守っていたでしょ。で、なにしてたの」
全身を使って感情を表現するマギルゥにベルベットはあきれた声で問いかける。
「そうじゃった!聞けいベルベット!こやつは見聞色の覇気の特訓をさぼりよったんじゃ!」
すぐさま元気になるマギルゥは、これも一種の愛情表現なのだろう。ビエンフーのほほを指さす。最後の戦いの後も、マギルゥは奇想天外な旅を続けていたらしい。それに業魔になるまでビエンフーは付き合ったそうだ。
「その罰じゃよー。さて次は何をしようかのー」
「ビエーン。次は頑張りまフから」
「そうかそうか、なら」
「おー!!」
「儂とお師匠さんとの2対1で特訓じゃわ!」
「ソー、バード!!」
「ほどほどにね」
あまり関わるとまた、悪ふざけに巻き込まれる。
声をかけ歩き出すベルベットに、マギルゥは宣言する。
「次の旅路も必ずついていくからのー!いやと言ってもついていくからのー!こんな退屈な村で一生を過ごす気はないわい。魔女マギルゥとしても、吟遊詩人メーヴィンとしても!おぬしの旅は楽しいからのー!賭けるまでもないわい!」
宣言するマギルゥにベルベットは
「そういえばあたしは生きて帰れなかったわね。100億万ガルド払ってくれる」
「ここでその辛辣なセリフ!!知っておるか!!この世界の賞金首は最高で50億ほど!そんな怪物を2人分も相手せないかんのかい!それ以前にガルドなんてこの世界にはないんじゃが!」
「なら、ついてくるしかないわね」
「っ!もちろんじゃわい!!」