そろそろ夕暮れに差し掛かる時間帯。
ベルベットは街にあるテラスで二人の青年と話していた。
「そう、笑い方を笑われた、ねえ」
「うう、その通りだ…です」
「敬語が難しいなら普通に話せばいいわよ」
「打たれていたら、危なかった。本当に感謝する」
「もっと堂々とするか、それか笑い方を直しなさい。いつまでも喧嘩ばっかしていたら、いつか破綻するわよ」
「「面目ございません」」
出会いが野蛮だっただけに、素直に頭を下げる二人に意外性を感じる。
「今度からは気をつけなさい」
そう席を立とうとするベルベットをキッドは止める。
「まだ、何のお礼もできてねえ。この街で見かけないところからよそ者なんだろ?この街を案内させてくれ」
懇願するキッド。表情は仮面で見えないが期待のまなざしを送るキラー。そんな二人の視線に微笑ましさを感じ、ベルベットは少し考えるが了承する。
「今日だけね。明日には帰るから」
「ああ、任せてくれ!!」
喜ぶ二人は、ベルベットに名を聞いてくる。
「そういえばお姉さんの名前はなんていうんだ?」
「自己紹介がまだだったわね、あたしの名前は「ドルヤナイカじゃよー」
元気よくテーブルの下から飛び出してきたのはマギルゥ。一体いつの間に入り込んだのやら。
驚いたキッドとキラーは椅子から倒れる。
マギルゥはそのすきにベルベットに耳打ちする。
「どうみても堅気じゃない青年どもに本名名乗るでないわ。危機感が足りんぞ」
「別にいいでしょ。それよりもなによ、ドルヤナイカって」
「どうでもいいやないか、どーやないか、ドルヤナイカじゃ!」
「訳が分からないわ」
そんなやり取りをしているとキッドたちは、椅子に座りなおす。
「えー、こちらの女性は?ドルヤナイカさん」
「(名前訂正できる雰囲気じゃないわね)一緒にこの街にきたマギよ」
「そーじゃ、儂はマギじゃ。ドルヤナイカよ、先に宿に戻っておるから楽しんでくるがよい」
「ちょ」
嵐のように去っていったマギルゥ。その様子をぽかんと見つめる三人。
「大変そうだな、ドルヤナイカさん」
「ああ」
「まったくその通りよ」
その後、ベルベットは二人の案内で街を案内された。二人の案内は時々裏話がこぼれそうになるが、精いっぱい持て成そうとする気持ちが伝わってくる。
夕食時に勧められたカレーうどんがはねて、爆笑されたベルベットは、恥ずかしさから、二人に拳骨をするハプニングもあったが、おおむね楽しむことができた。
「楽しかったわ、二人とも、また会えたら会いましょ」
「「おう」」
元気に返事する二人を背に宿に向かうのだった。
宿でマギルゥにからかわれて覇気の纏った拳で制裁することもあったが、ベルベットたちは眠りにつく。
深夜、控えめに扉をノックする音が聞こえる。その気配は事前に察知していた二人は警戒するが、聞こえてきた声に悪意がなかったこともあり、とりあえず警戒を緩める。
「起きてくれドルヤナイカさん、マギさん。キッドだ」
ベルベットが扉を開けるとそこには息を切らしたキッドの姿があった。
「なに、夜這い?」
「夜這いかの、坊?」
そう揶揄う二人に、キッドは顔を真っ赤にするがすぐに冷静になる。
「冗談言っている暇ないんだよ!ドルヤナイカさん、あんたの連れは何したんだよ!ここら一体を仕切るリオンファミリーの連中が血眼になって探しているぞ!」
ベルベットはマギルゥに視線を送るが、マギルゥは頭の後ろに手を組み吹けもしない口笛を吹くのだった。
支度を整えた二人はキッドの先導により街の脱出を図るのだった。
道中、キラーも合流するが四人は人気のない方へ誘導されていくのだった。
「まずいぞキラー!このままだと」
「ああ、俺たちが暴れて注意を引くしか」
「残念だが坊たちの考えは少し遅かったの」
「来るわよ!」
ベルベットはキッドを、マギルゥはキラーを抱えて横に跳ぶ。すると先ほどまでいた場所に大岩が飛んできた。
岩の飛んできた方向を見ると大男を先頭に何人もの黒服が歩いてくる。
「本当に何したのよ」
「違うんじゃよ!乱闘の後、財布を抜き取って、応援に来た奴らからも抜き取っただけなんじゃ!そう、これは勝者の特権なんじゃー!」
「あとでお仕置きね」
そんな会話をしていると大男が話しかけてくる。
「よう、よくもやってくれたな、嬢ちゃんたち。こういう商売は威厳が大事なんだよな。お前らをさらし首にすることで威厳を取り戻させてもらうからな!」
「やったのはこいつよ。あたしは関係ないわ」
「なんじゃとー!とほほ仲間に裏切られてしもうたわい」
「二人セットに決まっているだろ。ついでに、いつも暴れる悪ガキ二人も一緒に始末してやるよ」
「キッド」
「ああ、ドルヤナイカさん、俺たちがおとりになるから、二人は脱出を」
覚悟を決めた二人は前に出ようとするが、それをベルベットたちは止める。
「あんた達は荷物をお願い、こんなやつら、二人で十分だから」
「そうじゃのー。儂はわちゃわちゃしとる方と遊ぶかの」
「ならあたしは大男ね」
当たり前のように前に出る二人、しかしその雰囲気はすでに戦闘態勢に入っていた。
雰囲気に充てられ言葉が出ないキッドとキラー。敵の雑兵も反応できていなかった。
ただ大男はマフィアを率いている経験からか、指示を出す。
「ぼさっとするな!!さっさと潰せ!」
「「「はい」」」
大男が声をかけるが、先んじたのはベルベットだ。飛び出したベルベットは大男を蹴り飛ばし、大男を追って暗闇に消えた。
残った雑兵どもは各々武器を構える。武器が銃ではなく剣やカットラスなのは首をさらす宣言の実行のためか。
雑兵は自身の武器を振り上げ、連続で切りかかってくる。マギルゥは鼻歌を歌いながら斬撃をことごとく躱す。四方八方からの攻撃を意にもかえさない。
傍から見るキッドとキラーには踊っているようにすら見えるほどだ。
「くそ、何だこいつ、なんでこんなに当たらないんだ!」
「後ろに目でもあるのかよ!」
「ひるむな!運がいいだけだ!いずれは…」
「当たらんよ、おぬしらの攻撃なんぞ、永遠にの」
躱すマギルゥは雑兵たちの集まる中心地までたどり着く。
「おぬしらに儂の美技を何度も見せるのはもったいないのー!この一発を冥途の土産にするがよい!トルネードファイヤ!!」
マギルゥの足元から火炎の竜巻が発生する。その炎は雑兵を燃やす。炎が消えれば立っているのはマギルゥのみ。
「ブイ」
呆然とするキッドとキラーにピースをするマギルゥ。宣言通りの一撃であった。
一方、大男を蹴り飛ばしたベルベットはその先で対峙していた。
「くそが!よくも蹴り飛ばしてくれな!」
「躱せない方が悪いでしょ」
「少々力に自信がある程度で余裕だな。だがこれを見ても余裕でいられるかな?」
大男の全身が毛でおおわれていく。顔には鬣が生まれ、口からは大きな牙が生えてきた。
「悪魔の実、ゾオン系か」
「その通りだ。世にも珍しい悪魔の実“ネコネコの実モデルライオン”てめえを八つ裂きにして次はあの女だ!」
ライオンの獣人形態となった大男は壁を走りながら移動する。
「見切れまい。このスピード!そしてライオンのパワー!てめえなんぞ一撃だー!!」
そう叫びながら飛んできた大男にベルベットは、業魔手と化した左腕でカウンターを合わせる。
「コンジュームクロウ!!」
大男は大技を受け、吹き飛ぶ。そのまま石造りの壁に激突し陥没させ、地面に倒れる。派手なやられ方なのに、かろうじて意識があるのはゾオン系の恩恵ゆえか。
「っが…バカな、その左腕は!」
「能力持ちが自分だけと思っていた時点であなたの負けだったのよ」
「く…そ…が」
倒れる大男に一瞥することなく、ベルベットは元来た道に戻っていく。
ベルベットとマギルゥが街を出る頃には日が開け始めていた。
見送りする二人、キッドとキラーは何もできなかったことを後悔していた。
そんな二人に声をかける。
「気にしなくてもいいわよ、どうせこいつが全部悪いんだから」
「そうじゃ!儂が悪いんだからのー」
しかし、キッドたちの顔は晴れない。
「まったく、ならいつかあたしを助けてくれればいいわ。それでチャラよ」
「「っ!!はい」」
「え!儂は!儂のことは助けてくれんのかー!」
「いいから行くわよ」
「えー」
マギルゥの首元をつかみ、引きずりながら帰路につくベルベット。マギルゥはブーブー文句を垂れながら、引きずられていく。
ベルベットは振り返ると、
「そういえば、ドルヤナイカってこいつが勝手につけた偽名なのよ。本名はベルベット・クラウ覚えときなさい」
「「ありがとうございます」」
帰りの山道にてにやにやしたマギルゥは問いただす。
「おーおー、どういう心境かのー?浮気かえ?」
「意味の分からないこと言わないの。別に、あの場面でおとりになろうとした心意気を買っただけよ」
「まっ、どうでもいいがのー」
「そういえば、お仕置きがまだだったわね、マギルゥ?」
「え、や、止めるのじゃー!!」
マギルゥの叫び声が山に響き渡るのだった。