沈んだら 帰って来れた 我が故郷 作:∩(´∀`∩) ワッショーイ
海って、本当はこんなに暗かったんだ……
沈みゆく体と、離れて行く水面を見ながらそんなことを考えていた。
それでも恐怖よりもまず諦観に似た感情が私の胸を支配していた。沈んじゃった以上、もう皆とは会えないなという思いと共に、本当のことを話せなかったことを悔いたがやはりもう遅い……
五航戦の片割れにして"おのれ七面鳥許すまじ”とも呼ばれる私、翔鶴型航空母艦二番艦”瑞鶴"は轟沈し、海の藻屑になったのだから……
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”私"は元々"俺”だった。艦隊これくしょんというゲームを毎日欠かさずプレイし、育て上げた艦娘達を愛でながら毎日の癒しを求めるごく一般的な提督だった。
ブラック企業に務めてしまったが為に少ないどころかほぼ無いに等しい休みしかなく壊れ続ける体、上司からのパワハラにより傷つく精神の両方を艦これという癒しでなんとか繋いでい日常を過ごしていたが、ある日転機が訪れた。
……いや、あれを転機って言っていいのかちょっと疑問なとこはあるけど、まぁ転機って言っとこう……
その日、俺は死んだ。呆気ないなんてもんじゃないくらいに軽く死んだ。まぁ前世の脳がその時と記憶をシャットアウトかなんかしたのか死因は分からないけど。
そして死んだと自覚した次の瞬間には俺は私となって海の上に浮かんでいた。
初めこそ思わず「は?」と口にするほど困惑していたが、自分の体が瑞鶴になっていることを知り、気を落ち着かせようと装備等の確認をしていた時に聞こえて来た砲撃音にあの時の私は一瞬で切り替えていた。
そして抜錨して向かった先にはヲ級三隻にチ級二隻、そして今沈められたロ級一隻と六隻に囲まれながらも砲雷撃戦を繰り広げる艦娘達がいた。
……今思えばあれが初対面なんだし、もう少しよく見えるようにしとけば良かったのかなーなんてね……
まぁでもあの時は色々といっぱいいっぱいだったししょうがないと思うし、協力してくれたからとはいえ初めての戦闘であれだけ沈められたらいい方だったのかもね。あの時皆がいなかったら間違いなくその日の内に海におかえり♪してたし……(ブルッ)
と、とにかくその後は無事に鎮守府に案内されてカレーを食べた。うん、海軍の食事は美味いと定評だったが本当だったことをその時知った。
そんなこんなで腹ごしらえを済ませてから提督とドロップ艦という体で話し合ったりした。そういえば遭遇した時も鎮守府を案内されている時も空母見ないなーと思っていたらまさかの私が初空母でめちゃくちゃ驚いたりもした。
その後はひたすら練度を上げていた気がする━━━━━というかあんまり覚えてなかったりする。
あの時は初空母だった上に空母いないと厳しいやん!的な任務も多かったもので結構色んなとこに向かわされて社畜してたしね……今思い返すとあれはしんどかった……ま、休んでいいって言われてるのに大丈夫って言ったのは私なんだけど。
けど覚えてる限りのあの後はとても賑やかになった。翔鶴姉も来たし、大和型の二人を一気に建造したりで溜め込んでた資材がガンガン減ったことで、なし崩しに駆逐艦達が遠征に向かう回数が倍くらいに増えて提督さんが間宮やデートを強請られる姿もよく見るようになったがそれはそれだ。
……今改めて思うと、大変なこともあったけど、やっぱり楽しかったの一言に尽きる。
まぁ、沈んだ以上もう皆と帰ることはおろか会うことも出来ないんだけどね。
とまぁ色々と過去の回想をしながら現実逃避していた私だが、やっぱり現実に目を向けないと始まらないのよね……と切り替えることにした。
さて改めまして現在地、どこかの砂浜。どこの砂浜かはわからない。というか私さっき沈んだ筈なのに陸地、うんわからん……
それに轟沈したから服に艤装はボロボロ━━━の筈が何故か元通りでよくわかんないし、一体どうなってるの……?
訳が分からずもう一度現実逃避しようかと悩んだその時に気づいた。
それにしてもこの砂浜……私の記憶では見たことないけど、俺の記憶でなら似たようなとこ知ってるのよね……
可能性は低いと思うけど、もしこの砂浜が記憶にあるのと同じなら……もしかしたら……
私はそう思いほんの少しの希望を抱いてその場から歩き出した。
夜の街並みはやはり俺の記憶にある通りで、歩けば歩くほどもしかしたら……という思いが強くなって行き、気づけば私は走っていた。
やっぱり、ここも一緒……なら…!という思いが止まず走り続け、私はようやく目的地に辿り着いた。
見た目は何の変哲もない一軒家だが、この家を見た瞬間から涙が止まらなくなり、私は何度も目元を拭っていた。
「うっ、くぅ……ぅぅ!」
なぜならここは、前世で俺が家族と一緒に住んでいた実家そのものだったから。
「帰って、これた……!」
溢れ続ける涙で視界が霞む中、私は矢を一本取り出し放り投げた。そして手元を離れた矢は小さな光と共に零式艦上戦闘機━━━━━通称ゼロ戦の形に変化し飛び立った。
艦載機を通じて見た家の中には、最後に見た時よりも少し老けた様子の懐かしき両親がいた。
両親を見た瞬間、家の中に入り両親を抱きしめたい気持ちでいっぱいになったが、今の私は瑞鶴であり俺では無く、仮にでもそんなことをすれば警察を呼ばれるのは手に取るようにわかる。
だから私は涙を呑みながら艦載機を戻し、小さな声で言った。
「ごめん、ね。親不孝な息子でごめん…また何時か、会えたらその時は、幸せにするから……」
そして、もう一度目元を拭ってからはぁとため息を吐いた私は、その場を後にしようとした。
が、その瞬間背後から何か物を落とすような音と共に懐かしい声が聞こえた。
「まさか、兄貴…なのか……?」
思わずその声に振り向くと、そこには立派に成長した弟の姿があった。
では、また次の話でお会いしましょう!
*名無しのミリオタにわか様、誤字報告ありがとうございました!