キヴォトスの家はすぐ壊れる   作:金髪先生

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後悔はしてない。(ドン引き性癖開帳)


第2話

 やっぱり向かう決心がつかなかった。

「俺の家で教え子がシャワーを浴びていらっしゃるのですがどうすればいいですかね。アロナさんや」

「行き着くところまでヤっちゃいましょう」

 早速、俺は端末(シッテムの箱)の初期化(物理)をしようすると全力の謝罪の声が聞こえてきた。

 あまりの事態にすっかり忘れていたが、端末(シッテムの箱)の中にはポンコツOS(アロナ)が住み着いている。

 女性経験が皆無な俺は、藁にもすがる思いでアロナに相談したのだが、どうやら間違いだったみたいだ。

「ちなみにお相手は誰なんですか?」

「……………………シ、シロコ」

「(ド下手くそな口笛の音)」

「じゃあなアロナ。短い間だったが世話になったな」

「真面目に考えますからそれだけは許してください。おねがいします」

 俺が工具箱からトンカチを取り出すと、画面の向こうのアロナは美しい土下座を披露した。それは見事な美しい黄金比だった。

「コホン。では真面目に考えましょう。まず、どうしてこの状況になったんですか?」

「実はだな……」

 カクカクシカジカと説明すると随分と生暖かい目を向けられた。なんだその眼差しは。やめろ。

「別になんでもないですよ〜? 別に〜?」

「もう何でもいいから助けてくれ。正直理性が持たん。俺が先生から犯罪者にジョブチェンジする前に、なんとかこの状況を乗り越えたい」

「はぁ……仕方ありませんね。先生が捕まるのは勘弁ですから」

「助かる。で、何か良い案はあるか?」

 

◇◇◇

 

 我が家の浴室のドアは磨りガラスだ。そして脱衣所に入るとすぐ目の前に浴室のドアがある。つまり入った瞬間シロコのシルエットが目に飛び込んでくるのだ。多分そうなってしまえば、自分を保つことは難しい。俺は聖人君子ではないのだ。我ながらド最低な事を言っているな。

 そこで俺は目隠しをして、アロナに脱衣所までのルートをナビゲートしてもらう作戦を立てた。脱衣所に突入。着替えを置いて

洗濯機を回す。そして脱衣所を出る。完璧だ。素晴らしい。

 端末(シッテムの箱)にワイヤレスイヤホン接続してカメラを起動する。

「先生! こちら異常なし(オールグリーン)! いつでも行けます」

「よし。準備はいいな?」

 俺は気合をいれてハチマキ(目隠し)を巻く。

「行くぞ!」

 教師生活を賭けた作戦が今始まる――。

 

◇◇◇

 

 (そろそろ上がろうかな……)

 長らくシャワーを浴びていたせいかもしれない。少しのぼせてきた……。

 先生に用意してもらったタオルで体を拭き浴室から出ようとすると、ドアの奥から声が聞こえてきた。

「シロコ、まだ浴室にいるか? 着替えを持ってきたんだけど、開けても……いいかい?」

「うん。まだシャワーを浴びてるよ。着替えありがとう」

「……おう。入るぞ」

 ガチャリとドアが音をたてて開く。その瞬間、私は浴室のドアが磨りガラスなのに気がついた。

「あ、その、まっ」

「大丈夫だ。俺は何も見ていないし、見るつもりも無い」

 先生はお辞儀の姿勢をしながら入ってきた。

「あ、その……磨りガラス越しだとはいえ、その、なんだ。色々マズいだろ??」

「ん…………そうだね。気遣わせてごめん」

「ごめんね俺もそこまで気が回ってなかった……。と、とりあえず洗濯機の上に着替え置いておくから! あと洗濯機も回しておくね! じゃあ……俺は出るから」

 そう言うと、先生は同じ姿勢で脱衣所から出ていった。

「…気まずいな」

 私のわがままのような行動に付き合わせてしまった事に対する罪悪感と、先生の少し慌てたような様子に何故か嬉しさが込み上げてくる。

「…………何を期待してるんだろう、私」

 やっぱりのぼせてきてるみたい。早く上がろう。

 

◇◇◇

 

「よくやったアロナ。オペレーション成功だ!」

 リビングに戻ってきた俺達は作戦成功を喜び合っていた。

「どうですか! 私のサポートは。実にインテリジェンスで素晴らしかったですよね?」

 フフン。と笑うアロナ。こやつめハハハ。

「やっぱりラッキースケベを盛り込もうかと思ってやめた、アロナの理性も褒めてください!」

「ハハハ、もしやったらお前と一緒に自爆するからな」

「はははアロナジョークですよ! 先生!」

 面白いジョークだハハハ。

 さて着替えの用意も持っていったし、洗濯機も回した。後はシロコが戻ってきてから出前を頼んで、寝床を用意すればいいか。

 寝床もシロコには寝室で寝てもらって、俺はリビングで雑魚寝すればいいや。この勝負、俺の勝ちだ!

 

◇◇◇

 

 脱衣所に上がった私は、先生が用意してくれた着替えを手に取った。

(なんで神秘なんだろう? よく分からない)

 先生が好むデザインはよく分からなかったが、こうしてわざわざ着替えを持ってきてくれた。先生には感謝しかない。先生のシャツは大きめだ。私が着る分には(少しブカブカだけど)問題はない。

(早く着替えよう……あまり遅いと心配だろうし……)

 そして下着を履こうとして全身の血の気が引いた。

「――――ない?」

 すぐに思い当たった。自分の家のつもりで、つい洗濯機に入れてしまった……。

 洗濯機の中をを覗くと、ガタゴトという音をたてながら、絶賛濯ぎの真っ最中だった。脱水するまで多分時間がかかる。

「……………………」

 

◇◇◇

 

 これから先の目処が立ったことで精神的余裕が出来た俺は、優雅に珈琲楽しんでいた。うーん、実にテイスティ!

「先生。は、入るよ……」

「ごめんねシロコ。シャツ、そんな柄しかなくて。今、お急ぎモードで洗濯機回してるから、もう少し我慢してくれ」

「あ、そ、その。ううん。気に入ってる、から気にしないで」

「? それは良かった……?」

 神秘Tシャツめっちゃ似合うじゃん。いや神秘Tシャツが凄いわけではなく、シロコが凄いのだ。

 下のクソダサジャージもサイクリングが趣味のシロコにはやたらスポーティで格好良く見える。100点!!

 しかし、少し顔が赤い。やっぱりちょっと恥ずかしいよな……。そりゃそうだ。男が着た服だし、あまり気持ちのいい物ではないだろう。

「そうだ、シロコ。夕飯は何がいい?」

 話題を変えるべく、俺は夕飯についてシロコに尋ねる。がどうにもシロコは上の空だ。

「…………っ」

「シロコ?」

「あ、えっと……何の話、だっけ?」

「夕飯の話。出前頼もうかなって。少しのぼせてる?」

「あ、ううん! そういうのじゃ……ない。夕飯は、その、先生が食べたい物でいいかな」

 なんか様子おかしくないか? やっぱり風呂場でのアレが気まずいか……。

「じゃあラーメンにしようか! 俺もちょうど温かいものが食べたいなぁっていう気分だから」

「ん……分かった」

 そうと決まればネットワークから出前を注文する。

「あー、そういえばシロコは蕎麦食べれる? 苦手だったり?」

「苦手……? 苦手な食べ物は基本ないよ。先生がご馳走してくれるなら、何でも」

「そ、そうか」

 …………。

「その、なんだ……さっきは本当に申し訳無い」

「……もしかして洗濯機の事?」

「洗濯機?」

 なんのことだろうか? もう既に衣服は入っていたし、俺が直接触ったわけじゃないのでセーフ。今の衣服も洗濯機も進歩して、適当に衣服を入れるだけで勝手にコースを選んで選択してくれる。衣服も技術の進歩で色移りとかその他諸々気にすることはなくなった。一人暮らしの俺にとってこれほど革新的な技術はない。開発者には頭が上がらないな。

「! …………言い間違えた。着替え持ってきた時の事なら、気にしてないよ。先生も気遣ってくれてありがとう」

 あ、そっちね。

「あ、いやいやいやいや全然? ほら。俺、先生だしぃ?ね?」

『何が先生だしぃ?ですか』

「ゴホッ! ゴホンウォッホン!」

「だ、大丈夫……?」

「気にするな、アr、すこし咽ただけだ」

「そ、そう」

(アロナの奴め……)

「ちょっと水取ってくるね。シロコも何か飲む?」

「あ、じゃあ、スポーツドリンクってある?」

「いつぞや差し入れしたときと同じのあるよ。少し待ってて」

「あ、ありがとう先生」

 俺は立ち上がると水を汲みにキッチンに向かう。

 そして端末(シッテムの箱)を睨みつける。

「アロナ」

「……雨、降るのかな」

 コイツ……。

「……にしてもシロコさん何か様子が変じゃありませんでしたか?」

「変? 少しのぼせただけじゃない? いや、熱中症? まずいな。早くスポーツドリンク持っていかないと」

「(熱中症ではなければいいんですけど……)」

 

◇◇◇

 

「ふぅ……」

 なんとかバレずにすんだ。

 危うく、私から洗濯機の中の事を自白しそうになったときは焦った。

(やっぱりソワソワする……)

 だいぶ慣れたといっても、やはり異常事態なのは変わりない。

(こんなにもくすぐったいなんて思わなかった……)

 先生にバレないように、何とかして洗濯機の中から【目標】を回収しなきゃ。

 

「大丈夫。銀行を襲うより簡単」

 

 私の作戦が人知れず始まる。




正体を現した変態ティーチャー

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