青虎   作:羽毛さん

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甘/微鬱


植物

 冷たい水が、乾いた喉を潤す感覚が気持ちいい。訓練が終わった白虎は、与えられた補水液を飲みながら広間のベンチに座り込み、青竜が趣味で育て置かれている花々を眺めていた。

 

 花は丁寧な手入れでいっそ憎たらしい程に美しく咲き誇り、季節を考えられた配置で、どれも丁度満開の時期を迎えている。

 

 育てている張本人はまだ戻って来ていない。時間が合えばここで二人ぼーっとする事もあったが、今日は無理そうだ。

 

 最近あまり眠れないので、休めそうなうちに休んでしまおうと白虎は興味の無い花を眺めるのもそこそこにベンチに横になった。

 

 

 

 青竜と白虎は、所謂恋人関係である。

 

 愛だの恋だのそういうお綺麗なものでは無いのは白虎が十分にわかっている。言ってしまえば、白虎が幻覚から逃れる為に懇願し、体から始まったどす黒い依存関係だ。

 

 それでもセフレではなく恋人という関係に落ち着いたのは、青竜はどうだか知らないが、少なからず好意があるからであった。いや、あいつは確かに死ぬほど鬱陶しいし、口喧しいし、何思ってるのかわからないし、心底うざい。白虎自身も何故好意を抱いたのかわからないくらいうざいと思っていたが、不意に頬を撫でられれば頬が熱くなるし、パソコンの前に座ったまま仮眠をとる姿を見ていると勝手に落ち着いてしまうから、きっと、恐らくそうなのだ。

 

 ただ、先程も言ったが、それは決して綺麗なものじゃない。

 

 青竜はただでさえ感情の起伏が少ない上に、ポーカーフェイスの上手い男だ。青竜の気持ちがそこにあるのか、白虎にはさっぱりわからない。

 

 白虎は、芯は強いが意外と繊細なところがある。だから、今の関係に一抹の不安を感じていても見逃して欲しいと思う。

 

 青竜が好きな草花と白虎は、余りに対極的な位置にある。白虎は静かになんて出来ないし、黙ってそこにあるだけなんて真っ平御免だし、見目も色鮮やかに美しくあるわけが無い。

 

 いっその事植物状態にでもなってしまえば、少しは青竜の好みになるかもしれない――なんて、有り得ないことを考えかけて、やめた。動けなくなるなんて御免だし、白虎には生きていくことの責任もある。別に青竜の好みに寄りたい訳ではない。それに、何より草花と比べて不安になるなんて余りに滑稽な、醜い劣等感ではないか。

 

 どうでもいい事だ。今、この関係で居るのだからもう十分なのだと、白虎は無理やり瞳を閉じた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

 白虎は自分以外が起こす衣擦れの音を背に感じて目が覚めた。自分でないとすれば、それは昨夜寝床を共にした青竜以外に存在しないだろう。薄く目を開けてもまだ日が登りきっていないくらいには暗いし、任務がある訳でもない。白虎には青竜が何処に行くのか検討がついていた。植物の世話だ。植物に対しては異様なくらい面倒見がいいこの男は、いつもこうして早朝から出かけてゆく。

 

 白虎はそんな青竜を引き留めたこともないし、今日だって引き留めるつもりはない。だから、同じ寝床で、朝共に目覚めることもない。気付かず眠っている振りをしていたら、いつもの様に体が勝手に眠るはずだ。

 

 ちくり、小さな針で刺されたような痛みを無視して目を瞑る。低い体温が音を立てないように離れて行く。行った。止めない。早く眠ろう。

 

「…、白虎」

 

 青竜の聞きなれない、困ったような声が聞こえる。なんだよ。俺は今寝てるんだよ。邪魔するな。

 

 無視して、寝たフリを続けようとしたが、くん、と尻尾が軽く引かれる感覚に思わず目を開いて、青竜の方を振り返った。

 

 立ち上がろうとしている青竜の腕には、自分の尻尾が絡み付いていた。

 

 白虎は自分の中でさ、と血の気の引く音がしたのを感じた。悪い、今退ける。そう言おうとして口を開いて、出てきたのは全く別の言葉だった。

 

「今日は、いく、なよ」

 

 紛れもない懇願だった。それは酷く屈辱的で、白虎の中を激しく掻き乱す。何を言ってるんだ、俺は。バカか。大体、そんなんでこいつが趣味である植物の世話を、今まで一回だって欠かすことなかったのに、やめるわけないだろ。がち、乾燥した口の中で歯が鳴る。早く訂正して眠ろう。悪夢だと思って忘れよう。

 

「、……なんでも、な」

 

「わかった」

 

 ……は?こいつは今何か言ったか?

 

 思いもよらぬ一言に、白虎の思考回路は完全に停止した。固まった白虎を他所に、寝床から抜け出そうとしていた青竜は再び寝床に潜り込む。

 

 あれよという間に完全に横になった青竜は、片手で軽く白虎の虎耳の下を撫ぜた。

 

「起こしたか」

 

「あぁ、いや、別に……」

 

「何か悪夢でも?」

 

「見てない…」

 

 まるで寝付けない子供をあやしているようだ。でも、白虎はどこか、少し、ほんの少し、喜び、安心感と、満足感を得ていた。相変わらず青竜の考えていることはわからない。

 

 けれど、その日、青竜と共に朝を迎えたその日から、白虎の寝付きは前より良くなった。

 

 

 

 

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