青虎   作:羽毛さん

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甘(青竜登場無し)


日常

 明るく賑やかな、非都で一番大きなショッピングモール。四不象は、あらゆる物が揃えられるであろうこの場所へ買い物に来ていた。

 目的は、司夜に奨められたインパチェンスという花を探す為だ。

 なんでも、花言葉が四不象にぴったりらしく、包んであげたかったが丁度彼女が世話をしている庭にはないとのことのようで、ならば季節も良いし2人で育ててみよう、ということになったのだ。

 残念なことに司夜が活動できる時間帯にこのモールは空いていないので、司夜から貰った資料を元に四不象は一人でモールの中の園芸店を探す。

 初めて来たモールのパンフレットを穴が開くほど見つめ、あちこち巡り歩いてやっと辿り着いた園芸店を見て、ほっと息をつこうとして――四不象の体は固まった。

 園芸店の前で暇そうに露店の唐揚げを幾つも同じ串に刺し、一気に喰らっている存在が目に入ったからだ。服装こそラフなパーカーであるが、あの黒と白の丸い耳、虎模様の入った尻尾、何よりあの人を射殺しそうな切れ目の悪い目付き……間違いない、あの時四不象を金闕へ連れ戻そうとした金闕からの刺客だ。

 これはまずい。よりによってこんな所で出くわす事になるとは。バレないうちに、そう思い四不象は踵を返して離れようとして…いつの間にか自らの背後に立っていた白虎に、小さく悲鳴を上げた。

「おい、なんだ人の顔を見るなり。失礼だろ?」

 白虎は、本心では全くそう思っていなさそうな、玩具でも見つけたように笑って、またひとつ串に喰らいつく。

「、金闕、また……!」

 こんな所では暴れられない。周りに迷惑はかけられない。まさか白昼堂々仕掛けてくるなんて、白虎と向かい合ったまま、じり、と距離をとろうとする四不象を見て、白虎は愉快そうに笑った。

「ははは、おいおい、そのダダ漏れの殺気を引っ込めろよ。変に勘の良い奴に気付かれたらどうする?別にお前が目的で来たんじゃない。それとも、ここで殺り合うのがご希望か?あぁ、俺は大・歓・迎だけど?」

「……私じゃない?なら……」

 白虎の舌はつらつらとよく回ったが、四不象は言葉の一片を聞き逃さなかった。ならばこんな奴らが何をしにこんな所に。まさか、他のターゲット……

「あ?デートだよ」

「…………でーと」

 その口から発せられたあまりに予想外過ぎる言葉に、四不象の思考回路は完全にフリーズした。

 でーと……デート?たった三文字を理解するのにじっくり数秒をかけて、いやそれでも聞き間違いか勘違いかという思慮を拭えないまま白虎を見ると、唐揚げの最後の一個を喰らっていて、ん、と尻尾の先で園芸店の店前を示される。

 店前には人をより多く寄せるため名の知れた美しい花々が幾つか展示販売されており、白虎の指した方には、後ろ姿でよく見えないが、背の高い竜の尾を持つ男性がじっと草花を精査していた。

 デート、男同士で、デート。何かの隠語かもしれない。相手が複数人であった事を知った四不象はより身を固くするが、白虎はそれを知ってか知らずかよく回る口で喋り続ける。

「今日の訓練も終わって、やっと休みを合わせられたからそれらしい事をしようって事で態々来たのに、あのバカもう一時間もああしてやがる。この唐揚げだってもう五個目だし食い飽きた。そうだ、どうせバカはまだ暫くあのままだろうし、お前ちょっと付き合えよ」

 名案とばかりに四不象の持っているパンフレットの覗き込んだ白虎に対して、四不象は冷や汗が止まらなかった。付き合えって、路地裏にでも連れていく気か。

 四不象がどう逃げ出すか考えあぐねているうちに目的地が決まったらしく、ここだな、と呟いたかと思うと白虎はいとも簡単に四不象に背を向け歩き出した。

 今なら逃げられるかも、と思いはしたが、先程の白虎の機動力と、自分が目的では無いという発言から、もしかしたら誰かが犠牲になるかもしれない。今彼から目を離す訳にはいかないんじゃないか。そう考えた四不象は、今は大人しく着いて行って見ることにした。

 

 白虎の後について辿り着いたのは、何の変哲もないドラッグストアだった。白虎は入るや否やレジ近くにあるパンコーナーから二、三個無造作に選び出したかと思うと、四不象に「お前も好きなやつ選んどけよ」とだけ言い残して奥の方へ入っていってしまった。

 言われた通りにパンコーナーに目を向け、四不象は目を輝かせた。なんて柔らかそうで美味しそうなパン達なんだろう。何にしよう、このジャム入りのものが一番美味しそう、これにしよう……そう思ってパンを取って、四不象はこの奇っ怪な状況に不思議な気持ちになった。

 敵対している金闕の刺客とのどかに買い物をしている。これは帰ってみんなに報告したら大目玉をくらいそう、なんて思っていたら、目当ての物を見つけたのであろう白虎が帰ってきていた。

「決まったか?なんだ、一個でいいのか」

 そう言って、四不象の手からパンを取り上げると、自分が選んだパンと一緒に持っていた籠の中に入れたから、そこにあった箱が嫌でも目に入った。……うすうす、と書かれたそれは所謂、スキンの箱だった。よく見れば籠の中にはパン以外にも潤滑油が入っている。

 ……やっと、彼の言ったデートが現実味を帯びてきたが、やはり四不象は微妙な気持ちになった。

 そのままレジへ入って行った白虎は、店員のおばさんにお熱いのね、なんて茶化されていて、それを何ともない余所行きの顔で(これまたそんな顔が出来るなんて驚きだが)流していた。

 何となく白虎が四不象をここに連れてきた理由がわかった気がした。

 要するに、相手に強い印象を持たせないために、一般的なカップルという隠れ蓑に使われたわけだ。…四不象の見目を考えると逆に目立ちそうな気もするが、四不象のような実験台を他にも見てきたであろう彼らにとっては差程問題ではないのかもしれない。

 その内に会計が終わり袋を持って出てきた白虎に連れ添って店を出ると、白虎はがさがさと袋を漁って、ほら、と四不象にジャムパンをレジ横で取ったのであろう缶コーヒー付きで投げ渡した。

 買って貰った礼儀として目の前で食べるべきなのだろうか。四不象が逡巡しているうちに、微かな電子音が聞こえ、白虎がヘッドセットに手を伸ばす。

「あぁ……あぁ、やっと決まったのか?……ラン、わかってる。遠くには行ってない。直ぐに戻るからそこで待ってろ」

 通信が終わったのか、白虎は四不象を振り返ると、興味無さそうにゆったり尻尾を揺らした。

「俺は戻る。お前はどうする?」

「え、あ、あぁ……私は……いえ、帰るわ」

 まだ目的のものは買えていないが、すんなり解放されそうなのにそのチャンスを逃す訳にはいかないだろう。

「わかった」

 それだけ短く返して、別れの挨拶もなしに白虎は背を向け歩いていってしまった。四不象はその後ろ姿が見えなくなるまで眺め、見えなくなった瞬間に、気を張っていたからか、どっ、と疲れが押し寄せてベンチに座り込んでしまった。

はぁ、やっと溜息をつくことができる。まるで嵐のような出来事だった。緊張が解けたらなんだかお腹が空いてきて、先程買ってもらったパンの包みを開ける。

 ジャムの甘いいい匂いがする。一口齧りとって咀嚼し、今日の出来事を追憶する。そうか、デート、か。

 金闕など人の道を外れた悪魔の集まりかと思っていたが、人並みにそういう事もするのだ。寧ろ、彼らにも…そういう、人並みの幸せが、あるのだろうか。

 報告したらなんて言われるだろう。みんなには有り得ないと言われるだろうか。夢でも見たんじゃないか、と言われるだろうか。四不象だって、実際に体験してなければ夢だと思うだろう。

 それにしても、美味しい。これを選んだ自分は間違いじゃなかったと思いながら、あっという間に平らげて缶コーヒーを開ける。

 ……うん、やっぱり今日の事は、この美味しいパンとコーヒーに免じて忘れてしまおう。報告した方が有益であることは間違いないが、デートだと言った今日の彼を見て、なんとなく、それを報告する気にはならなかった。

 今日の所は帰ろう。司夜には見つけられなかったと言って、また日を改めて来よう。四不象はそう決めて、白虎が歩いて行った方向には一切目もくれずに歩き出した。

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