朱雀は、今時古くも紙で纏められた資料を手に青竜の部屋へ向かっていた。本来なら通信で連絡するのだが、最近は金闕にちょっかいを出して来る組織も多く、通信を傍受されると困る内容なので渋々出向くことになったのだ。
この朴念仁は、弄っても反応を返してくれないので面白くない。用事だけ済ませて手短に帰ろうと、ノックだけして、認証コードを通し扉を開けて……朱雀はここに来たことを後悔した。
「あ?朱雀かよ。何の用だ」
開口一番、朱雀を出迎えたのは部屋の主の青竜ではなく……白虎だった。それも、青竜の膝に対面で座って、肩から覗き込んでくる形で。
この時点で朱雀はもう自室へ戻りたかった。朱雀としては目の前でいちゃつくカップルを消し炭にしてやりたいくらいだが、立場上ぐっと堪える必要がある。
いっその事、この状況がマシだと考えよう。例えば、対面座位でもしてる時じゃなくて良かった。最悪。考えるんじゃなかった。
青竜は白虎に対応を一任しているのか、朱雀の事は振り返らずにキーボードを叩き続けている。
「……いえ、青竜さんに要件よ。別に貴方も聞いててもいいけど」
そう言えばやっと青竜が朱雀の方を振り向く。
「なんだ」
「今朝届いたこの資料だけど……」
青竜の前に資料を広げ説明し出すと、今まで朱雀に気をやっていた白虎が退屈そうに、青竜に体重を預け尻尾で宙を叩き始めた。
白虎はこれでもプライベートと仕事の面で区切りはしっかりしている(邪魔すると怒られるから、だが)。いや、邪魔こそしていないが実質凄く邪魔だ。その状態で視界に入らないで欲しい。
「……どうした」
そんな事を思っていると、途中で不自然に説明が止まった朱雀に対して怪訝そうに青竜が声をかけてくる。正直なところ、どうした、じゃない。仕事中は特に犬猿の仲と言っても違いない仲なはずなのに、当たり前にこの状況を受け入れるな。
「いいえ?そう、貴方の意見が聞きたいのだけど」
にっこり、今までの様々な潜入捜査で培った得意の笑みを浮かべると、青竜が全くと言って良いほど無反応で自身の見解を述べてくる。
前に青竜をからかった時は面白くない男だと思ったが、今回はいっその事この極端なまでの朴念仁ぶりがありがたい。これで本気でいちゃつかれながら話されてたら、いけない、想像しただけで離火が灯りそう。
そうこうしてる間に放っておかれている白虎も暇なのか、ぐりぐりと肩に頭を押し付け、尻尾の勢いも強くなってきた。尻尾で風を切る鈍い音をさせるのはやめて欲しい。尻尾までトレーニングしてるの?何に使うの?ナニ?自分で思っておいてなんだけれど、もう私はダメかもしれない。
「他には」
説明が終わった青竜が資料を纏め、新たな資料を数枚追加して朱雀へ渡す。
「充分。ありがとう」
仕事は終わり。朱雀は最低限の用だけ済ませて、二人を揶揄うこともなくこの地獄から脱出することに決めた。
挨拶もそこそこに、朱雀はそそくさと青竜の部屋を後にする。やっと出られた。今度からアポイントを取ってからにしよう。そう思いつつも部屋から数歩踏み出したその時、
「白虎、拗ねるな」
「拗ねてねー」
「そうか」
「……ん、」
なんて声が聞こえ……なかったことにして、朱雀は仕事の続きをするため部屋へ戻った。