「な、なんだいこれは……」
「?、林檎っすよ?」
「じゃなくて!この量だよ!」
久しぶりに定時で帰った僕を出迎えたのは、大量の段ボール、に山盛りになった林檎の山……じゃなくてエベレストだった。
「いやぁお休みに晴れて良かったっすね!」
「そうだね。僕等のやる事はこの大量の林檎の皮むきだけどね」
「ハハハ……」
何でも学校で、林檎農家である友達の今年の売れ行きが悪く、腐らせるのも勿体ないからいくつか引き取ってくれないかという申し出を快諾したばかりにこのような事態になったらしく、今では卓上に林檎パイ、焼き林檎、酢豚、林檎ジャム、と片っ端から作られた林檎料理が並びに並びまくっていた。わぁ、これは暫くビタミンCに困らないね。こんなに必要ないけれども。お陰様で折角の休みなのに林檎三昧だ。これが恋人と作る料理であることが唯一の救いだな、と思いつつ二桁目になった林檎の皮をむく。隣では小風が林檎をそのまま齧っていた。
「ん、……あ、生でも美味しいですよ林檎!あーん」
そう言って自分の食べかけの林檎を差し出してくる。まったく、何があっても憎めないのはこういうところだ。彼の齧りかけの部分に齧りつく。
「うん、甘酸っぱくて、美味しい。間接キスだね」
「か、間接キッ………」
ぼん!彼が耳まで赤くなる。キス以上の事だってしてるのに、いつまで経っても初な反応は僕を飽きさせない。彼は振り切るように背を向けて、林檎の皮むきを再開した。あぁ、そんなに焦ったら……。
「い゛ッ!やっ……っちゃったっす……」
「あぁ、切ったのかい。見せてごらん」
言わんこっちゃない。彼の指の先にはぷっくりと赤い玉ができていた。水で流して消毒液をかけると、何も言わなかったが尻尾の毛がぶわりと広がったのがわかった。痛かったのだろうな。爪の先にキスを落として、指に絆創膏を貼ってやる。痛みに立っていた尻尾がへなへなと下がっていくのが少し面白い。
「うう……アニキのせいですよ!」
「はは、ごめん。責任取るよ。切ってるから、先に食べてたら?」
「そうします!」
ぱぁ、と顔が明るくなる。なるほど、早く食べたかったのか。鼻歌を歌いそうな機嫌でパイを切る彼を見てると自分の頬が少し緩むのがわかる。自分も大概彼に弱いものだ。
「美味しい!アニキこれ美味しいですよ!あー……」
一口に切られた林檎パイをあーん、とまた差し出そうとして、さっきの出来事を思い出したのか固まる。うろうろと視線を彷徨わせた後、えい、と無理やり口に押し込んで来た。
「美味しいよ」
そう答えるとぱぁ、と表情が明るくなる。後尻尾もぶんぶんしてる。口には出さないけど「そうでしょう!」とでも言いたげだ。正直に言って愛らしい。お気に入りの帽子越しに頭を撫でてやるとはっ、っとなってもくもくとパイを食べ始めた。その様子を見て林檎の皮むきに戻って、ふと思う。甘くて、じゅわっと果汁が出て、ちょっと酸っぱさもアクセントになって美味しい林檎。まるで小風みたいだな、と。
「ねぇ」
「な、なんですか?」
「林檎って、小風に似てないかい?」
「え?」
何を言っているのかさっぱり、という顔だ。まあそれもそうだろう。何か動物に似ていると言われれば反応もできるだろうが、果物に似てるなんて言われても反応に困る事は目に見えてた。一口林檎を齧って、ぽかんとする顔に口づける。
「え、…んっ!?んーっ!……っ、ぅ……」
「ん、は……」
舌を絡めると甘酸っぱいその味がした。美味しい。うん、合ってる。まるで小風そのものを食べているような感覚。彼の舌に噛み砕いた林檎を乗せて舌の裏を舐めると、きゅう、と舌が引っ込んでいったのを合図に口を離す。
「ん、ん……あまずっぱい、……っす」
「美味しいよね。いくらでも食べられそう」
一つ、舌なめずり。また耳まで赤くなった小風の頬にキスを落として、箱の中の林檎を手に持つ。
「……た、たべられる……」
そんな小声を背に、鼻歌を歌いながら皮むきに戻った。