二重人格系TS娘が征く、ダンジョン×学園都市モノ 作:ずっと病んでる。
ワタシ、
中学生の頃は、俗に言う優等生だった。テストの点だって悪くない。校内順位は上から10番以内には入れていた。スポーツだって大抵は卒なく熟せる。だから、勘違いしていた。ワタシは、やれば出来る子なんだと思っていた。何でもやってみれば出来るのだと。
『学園都市アヴァロニア』に入学した時は自信に満ち溢れていた。此処で稼ぎまくってやるんだって意気込んでいた。
『学園都市アヴァロニア』に入学する理由は人それぞれであるが、ワタシは金銭目的だった。お金が必要だったのだ。家族がマトモな生活が送れるように、と。ワタシが稼いでやるんだと本気で考えていた。
ワタシの家は決して裕福じゃない。三姉妹の長女として産まれたワタシ。父は病気で亡くなったから、三姉妹を母が女の手一つで養っている。それがワタシの家族だった。
まだ小さい双子の妹達では役不足で、基本的にワタシが家事を、母が遅くまで働きに出るというのが日常。それでも、妹達も小さな事は手伝ってくれる事もあったし、別に苦ではないと思っていた。仕方ないと諦めていたのかもしれない。
ワタシが財布を預けられていたから、知っている。ウチの経済状況では妹達二人を一気に高校進学させてあげられる程のお金が無いということ。ワタシが高校進学するのでも精一杯だったのだ。
勿論、推薦制度を利用したり、奨学金制度に支えてもらうという手もある。それでも全然足りない。ワタシが就職するくらいでないと、下の子達は苦労するだけだった。
そんな時、回って来たパンフレットが『学園都市アヴァロニア』への入学案内だった。この学校のシステムは渡りに船と言ってもいい。
全寮制。学費要らず。学園都市内には独自のシステムがあり、金銭に困る事もない。商業区や研究区では生活のサポートも受けられる。"成績"次第では進学先や就職先にも困らない。世界各国からの支援もある。注目が集まれば、それだけで今後は生きて行ける。
そして何よりも、ダンジョン。此処で魔石を集められれば、勉学に励みながらも稼ぎも出せる。危険な場所である事は周知の事実となっていたが、それでもこれ以上の場所はないと思った。此処でなら家族が生活に困らなくなるくらいに稼いでやれるんだ、と。そうて決まれば、
最後まで母は『学園都市アヴァロニア』への入学を反対していた。
こんな危険な場所に行く必要は無い、お金の事は心配する必要は無いのだと止めてくれた。
でも愚か者だったワタシは、家族のことを考えて危険を冒しに行くのだというのにどうして止めるのだと。大体、ワタシが学園都市に行かないとダメな理由は両親にあるのではないか、なんて馬鹿を言って母と喧嘩を繰り返した。
入学が決まった夜、母の小さなすすり泣く声が聞こえて来た。こんな生活の中でも泣くような事は無かった母が見せた、唯一の泣き声を鮮明に覚えている。
それでも、親不孝だったとしても成果を上げて"卒業"さえしてくれば母だって『良くやった。自慢の娘だ』って褒めてくれる筈だって思っていたのだ。愚かにも、ね。
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ダメだった、なにもかも。
ワタシって思っていたより全然強くない。モンスターなんか倒せるわけが無い。
初めてダンジョンに潜った時、恐怖で身が震えた。目尻は熱くなり、歯がガチガチと音を立てる。蔓延する死の空気に耐えられなかった。日常では一切触れることのないソレに打ち震えるしか無かった。
初めてはコレで終わり。
次にダンジョンに潜ったのは、武器を買い込み充分に準備をした時だった。初めて出会したモンスターは、小さい狼のようなモノ。これなら倒せると思って剣を振るったが上手くはいかない。
腹部に突っ込んで来たオオカミに吹っ飛ばされて、身悶える。そのままの勢いで追撃して来たオオカミに、ただただ恐怖して必死に逃げ回って地上に戻った。やっと戻れた時には満身創痍。お腹に出来た青タンが痛くて痛くて、泣きたくなる。何にも出来ない自分が情けなくなって涙する。
2回目はコレで終わり。
次は、あのオオカミではない奴にしようと意気込んで、また馬鹿みたいにダンジョンに向かった。でも、ゴブリンが他の生徒を襲っている現場を見た所で脱兎の如く逃げるしか出来なかった。
あの生徒がどうなったのかは知らない。ワタシが加勢したところで勝てるわけでもなかった。地上に戻って生活委員に報告するくらいが精一杯だったのだ。去り際、あの子とは目が合った気もしたが恨まないで欲しい。ワタシだって生きるのですら辛いのが現状だったのだ。
この頃になったら嫌でも理解らされた。
ワタシは劣等生。落ちこぼれ。ダンジョンに夢見ていただけの無能、だったのだ。
この学園都市での"成績"とは強さ。モンスターの討伐数とか、ダンジョン踏破階数とか、そういうモノだった。お勉強が出来るだけじゃ、この学園都市では一銭にもならなかった。
ワタシの様な落ちこぼれにも、学生の支援やダンジョンに潜る人のサポートという役に周れば日銭くらいは貰える。時給600円程度。
それでも戦えないなら破格の給料。生きて行く分には困らない。『学生食堂』を利用すれば食費も高くはならない。節約して貯めていけば、何れは多少贅沢も出来るような時給。それが600円。
だがしかし、自分の日銭を稼ぐだけで満足する事は出来ない。
一人で生きて行くなら、その道を選んでいたかも知れない。楽な方へ、楽な方へと。なんとしてもダンジョンから逃げる道を選んでいたと思う。
怖くて仕方ないダンジョン。それでもワタシに逃げる道は無かった。離れた家族三人を養っていけるだけの額を稼げるのはダンジョンしかなかった。…………ダンジョン以外には無かったのだ。
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まずはパーティーを組んでみることにした。自分と同じような行き先もない、実力もない落ちこぼれで構成されたパーティー。
皆、強くはなかった。それでもパーティーメンバー全員がダンジョンから逃げるような事は無い。彼らもワタシのように事情が有るのだと悟るのに時間は掛からなかった。
リーダーの
以上四名が、ワタシ達の落ちこぼれパーティーのメンバー。
最初は全然ダメダメだった。四人で一体のモンスターを倒すのでやっと。それでも、ソロの時よりは充実感がある。
負けて、負けて、負けて。勝って、負けて。時に落ち込み、時に泣く。時に喧嘩して、時に笑う。落ちこぼれだけで構成されたパーティーだったけれど、確かに成長しているのが分かった。これから、この四人でなら何処までも戦って行ける。………そう、思っていた。
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角内『ごめんなさい!風邪引いちゃったみたいです。今日のダンジョンは行けそうにないです』
「……だってさ。どうするよ、リーダー?」
「今日は、三人で四層までにしておこうか。……流石に角内さんが居ないと連携も変わって来るもんな」
欠員が出たことにより、今日の冒険は初心者ラインの四層まで。そう決めたワタシ達は、今日も今日とてダンジョンに繰り出す。
本当は、もっと早く、より強いモンスターを倒して稼ぎたいのだが、急いては事を仕損じる。何事も一歩ずつ確実に進んで行けばいい。———事実、ワタシ達は強くなっている。
「———ふッ!!……こんなもんか。うん、俺達強くなってるよ」
里中くんが切り裂いたことで、マーチハウンドが魔石と化した。ワタシが命からがら逃げ出したモンスターを倒すことに成功したのだ。
上路くんが猛攻を耐え受け、ワタシが槍で貫き傷口を増やす。弱ったところに里中くんの剣で一刀両断。
本来であれば、角内さんが後方から弓を放つことで、脚を封じたりも出来るのだが残念ながら、今日彼女はいない。
それでも、培った連携は三人でも発揮出来たようだ。ホッと胸を撫でる。けれど、今回はアーチャーの角内さんだったから良かったが、タンクの上路くんが居なければダンジョンに潜らない方がいいだろう。彼の存在は無くてはならない。
「もう少し奥の方へ行こうか。五層に降りなければ変わりはしないだろう」
この時、誰かが過ちに気づくべきだったのだ。もしくは、三人なのだから早めに切り上げるべきだった。
———ワタシ達に、あんな悲劇が待ち受けていようとは誰も想像もしていなかったのだ。
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「…………随分開けた場所に出たな。セーフティーゾーンか?」
「……此処で休んで行くか?」
「…………それより、何か変じゃない?まるでモンスターが居ない。こんなことって………?」
此処にはモンスターが全く居なかった。と言うよりも、此の場所を避けているような印象すら受ける。……妙、だと思う。ダンジョンの経験値は低いが、明らかにおかしい。
「…………気味が悪いな。そろそろ離れて……
———お前達、得物を構えろッ!!」
普段は声を荒げるようなことは絶対しない上路くんが大きな声で呼び掛ける。ワタシ達は焦って、武器を手に持つ。
薄暗く、視界のハッキリとしない周囲を見回す。原因が居る筈だ。………何処に。
上路くんが睨む方向を見た瞬間に理解した。声を荒げた原因が、其処には居たのだ。
霧のように霞む空気の中でも、開けた場所だったから刹那で分かる。"鬼"、だ。
まさしく鬼。日本の妖怪とされるソレがいる。小さな頃の絵本で見たような、のほほんとしたモノではない。眼光は鋭く、その目線だけで人間を射止めることが出来るかもしれない。
———此処は、鬼の根城だったんだ。
呆けている場合ではない。逃げなければ、コイツには敵わないのだと本能が告げている。
「………コイツは不味いかもな。——お前達だけでも逃げろ。殿は、俺が務める。……逃げる時間くらいなら稼いでみせるさ」
「——なに言ってんだよ、上路!?」
ハハッと格好付けて笑う上路くんの言葉を、里中くんが否定する。ダメだ。彼を見捨ててはダメだ。ワタシ達二人だけ生かされて、どうなると言うのだ。
「ダメだよ!!三人で逃げ切ろうよ!!」
「——馬鹿言ってる暇じゃないだろうッ!?」
こんな上路くんは初めて見た。彼は今この瞬間、誰よりも覚悟を決めていたのだ。
まだ三人で生きる道がある、だなんて馬鹿な事を考えているワタシの手を、里中くんが引っ張って走り出す。リーダーである彼が、上路くんを見捨てると決断したのだ。苦渋の決断を下したのだ。ワタシは意識をハッキリとさせて、自分の足で走り出した。
後方から、ドッゴンと鈍い大音が聞こえて来たので、思わず振り向いてしまう。上路くんが大盾ごと5、6m程殴り飛ばされていた。盾で防げたからか、死んではいない。
良かったと安堵するが、油断していた。
——鬼は此方に向かって来ていたのだ。より弱そうなワタシを狙って、もう背後まで迫って来ていた。
我ながら、馬鹿をやったと思う。出会した時点で、既に詰んでいたのかもしれない。
———蹂躙が開始する。
鬼は、女であるワタシの細い腕と胴体を掴んで、両方向に強い力を加える。——千切ろうとしている。ワタシの腕を。
「——ッ!!痛いッ痛いッ痛いッ!!あ"ぁ"ああああぁぁああああ"あ"!!」
筋繊維が、ブチブチと千切れていく。二の腕を境に腕と胴が離されていく感覚がする。まさしく絶叫。痛みに耐えられなくて、一瞬意識が飛びそうになる。
里中くんは、鬼の体に剣を突き刺さしてはいるものの、その猛々しい筋肉ではびくともしていない。
「止せッ!!やめろッ!!やめてくれよぉ!」
彼の必死の叫びも虚しく、鬼は左腕、右脚、左脚と順番に順番に同じ行為を繰り返して行く。あくまで、引き離すつもりではないらしい。辛うじて繋がっている四股がぶらりと揺れている。
右腕の時点で、もうワタシは抵抗の意志すら無かった。終わったのだ。全て。
「——うぉおおおおおおおおおおおお!!」
どうにか立ち上がり、此方までやって来ていた上路くんが、鬼に向かって体当たりをする。それでも、その巨体はビクともしない。何度も何度も何度も当たってみせるが、蹌踉けることすらないようだ。
いずれ、周囲の虫が鬱陶しくなったとでも言いたげな態度を放つ鬼は、玩具であるワタシを地面に投げ捨てて、彼等を見やった。
もう四股は動かない。マリオネットみたいになっていて、芋虫のように這うしかない。それでももう、逃げる気力すらない。
———あぁ、一度だけでも母に電話して謝っておけば良かったな。
「——那賀川は、やらせんッ!!俺がキサマを止めてみせるッ!!」
「絶対に護り通してやるッ!!」
二人は、ワタシを護るように鬼とワタシとの間に入る。そんな事をしないで欲しい。どうかワタシなんか見捨てて逃げて欲しい。
………そういう旨の言葉を発したいのに悲鳴を上げすぎて喉が枯れてしまっている。カスカスとした音が途切れ途切れで出てくるくらいだった。
最初に里中くんの胸をその剛腕で一突きにして、屠った。次に上路くんの頭部を、両の手を組んでハンマーのようにして——ダブルスレッジハンマーというプロレスの技らしい——拉げる。
彼等は最後までワタシを護るようにしてくれた。死体となった今でも、鬼を阻むようにして倒れ込んでいる。
そうして、ワタシ達のパーティーは壊滅したのだった。
興味を失った鬼は、死に損ないのワタシなどに目もくれず遠ざかって行く。
———あぁ、このままならワタシも二人の元へと行けそうだ…………。
本当に馬鹿な人生だった。誰も幸せに出来ず、そればかりか他人を不幸にしてばかりだった。ワタシが馬鹿だったから里中くんも、上路くんも死んでしまった。……ワタシのことはいいから、どうか"勇気"ある彼等に救いを。
……ワタシが死んだら保険金とか出るのだろうか。最期に考えるのは、やっぱり家族のことだった。………どうか、ワタシの保険金で暮らしが楽になりますように。
光が差したような気がする。眩しい程の聖光が照らしてくれたような気がする。……ワタシなんかでも天国からの迎えが来たというのだろうか。いや、それはないか。
『大丈夫ですよ、私達が来ましたから。貴女のことは、絶対に生きて帰します』
そんな言葉が聞こえて、ワタシ、
勇気ちゃんの曇らせたまんねぇ^〜
予想以上に長くなりそうだったので、2話に分けることにしました。本編楽しみに待っていてくれてる人が居るなら、嬉しいな……。
引き続き、大きな設定被りありましたら報告お願いします。即刻削除いたしますので。