【即興短編】東郷さんと海でいい感じ(?)になる話 作:ゆっくろ❀
今日こそ、言うぞ……。
緊張で高鳴る心臓の鼓動を抑えるように、胸に手を当てる。
少しでも落ち着かないと、東郷になんて思われるかわかったもんじゃない。
下手に気取るなよ、俺。
カッコつけず、堂々と、自然体で、いつも通り部室の扉を開けるのだ。
――ガラガラと音を立てて、扉を開く。
中に入ると花の香りが漂ってきて、緊張も相まって少しクラクラする。
「あら、おはようございます先輩。今日は早いんですね」
そこには部員の一人、東郷美森が居た。
他の勇者部メンバーは見当たらない。
つまり、二人っきりだ。
「お、おう……! おはよう東郷! 風に仕事があるから早めに来いって言われてさ!」
「風先輩に? まだ部室には来ていないけれど……」
嘘である。
というのも、現在東郷と二人っきりの状況が成立しているのは風に手配してもらったのだ。
承諾してくれた時のにやけ顔がチラつくが、今はそれよりも、だ。
「へ、へぇー。頼んでおいてまだ来てないなんて、うちの部長はマイペースだなー」
少し声がうわずってしまったが……バレては、ない……はず。
「ふふ、そうですね。ですが先輩だっていつも遅刻してくるじゃないですか」
東郷は口に手を当て、小さく微笑んでみせた。
以前まで車椅子生活を送っていた後輩だ。
気にしない方がおかしいだろう。
突然治ったと聞いた時は驚いたが、今は身長が結構高かったことの方が気になる。抜かされないようにしなければ……。
「もしかして、登校中に何か面倒事に巻き込まれているんじゃないですか? なんて――」
「えっ!? スゲェな東郷、そうなんだよ! 今日は大丈夫だったけど、この前なんて婆さんが目の前で買い物袋をひっくり返すもんだから、転がるリンゴを拾うのに苦労したんだよ……」
「……! そう、なんですね。…………先輩、次から一緒に登校しましょう。何か巻き込まれたら、私もお手伝いします。有無は言わせませんからね♪」
「え? お、おぉ! 助かる!」
一瞬、東郷の表情が曇った気がするが……気のせいか? でもやったぞ、一緒に登校出来る! 神樹様サンクス!
――っと、そうじゃない。俺が言いたいのは……。
「あ、そ……それでよ、東郷。その……海って、好きか?」
「はい?」
「あーいや! あっ、婆さん! 婆さんがさ! 助けた礼にって割引券くれてさ! 東郷が良かったらなんだけど、一緒にどうかなーって……」
「私と……」
「そ、そう……東郷と、俺で……」
「ふ、二人で……ですか? 他のみんなは……?」
「……に、二枚しかなくてな。それに、みんなにも聞いたんだけど都合つかないみたいで!」
まずい、この様子じゃ厳しいか……? すまん風、ミスったかもしれん……海へは樹と一緒に行って――――。
「大丈夫……です」
「あっ、そっか……大丈夫ですか…………ん? それってどっちの意味の大丈夫です??」
「そ、その……足も治って、みんなに、友奈ちゃんに迷惑をかけることもなくなったのですが……泳ぐのにはまだ不安があって……先輩さえ良ければ練習に付き合って欲しいんです! あっ、友奈ちゃん達には内緒ですよ?!」
…………はっっっっ!!! 一瞬気が遠くなっていた。
やったぞ! 第一関門クリアだ!
「お、おう! 任せとけ! みんなに内緒で特訓だ!」
「……はい! ありがとうございます!」
少し雰囲気が違うような気もするが……二人っきりで海へ行くことに変わりはない。
それに、東郷が困っているなら助けるのも勇者部として、そして先輩として当然のことだ。
「じゃあ、日程はここで……持ち物は……」
「あっ、特訓なら学校指定の競泳水着でいいんでしょうか?」
「あぁ、確か……に……って、いや!! スク水もいいがそれだと逆に目立つ! もし結城達と鉢合わせでもしたら特訓だとバレるぞ!」
「な、なるほど! 私としたことが盲点でした!」
「木を隠すなら森の中だぞ、東郷!」
「了解です、先輩!」
ふぅ……とりあえず、これでヨシだ。
――――海水浴、当日。
やべぇ……緊張どころじゃねぇぞ……これは、殺されるっ。
可愛さの暴力、いや……もはや美しいとさえ思えるっ。
「あ、あの……先輩? 私、どこかおかしいでしょうか……?」
やめろ東郷、前かがみになって顔を覗き込むな……!
まずいぞこれは、東郷の水着姿は強烈すぎるッ!
尊死……させられる……ッ!
落ち着け俺……クールになるんだ。
後輩にカッコ悪いとこ見せたくないなら、マジになれ……。
「すぅぅ……。おかしくない、スゲェ似合ってるぞ」
「そ、そうですか! それなら良かったです!」
「よ、よし……じゃあとりあえず……泳ぐか!」
「はい! ご教授のほど、よろしくお願いします!」
――それから、俺は東郷に泳ぎ方を教えた。
最初は東郷の水着姿に戸惑ったが、真剣に泳ぎ方を学ぼうとする東郷を見ているとこっちも真剣になって、気付けば何時間も海に入っていた。
何事にも真剣で、追求するその姿勢に……俺は惚れていた。
「先輩。お昼どうしますか?」
「あっ、やっべ考えてなかった……」
「ふふっ、きっとそうだと思ってお弁当を作ってきたのですが……いかがですか? おやつにぼた餅もあります」
「マジで!? よっしゃ! あ……こ、こほん。有難く頂戴致します」
「はい。沢山ありますから、焦らずゆっくり食べてくださいね?」
「おう! ……はむっ。ん〜まいっ! やっぱ東郷の飯は最高だな!」
「そ、そうですか? それにしても先輩って、褒め方が上手というか……泳ぎ方を教えてくださる時も凄く褒めてくれますよね」
「あぁ、俺、良いものには良いと絶対にハッキリ言う主義なんだ。人間、いつそういう言葉が言えなくなるかわからないからな。だから褒めれる時に褒めるんだ。それに東郷が覚えが早いからさ、こっちも嬉しくなるんだよ」
いつ目の前の人が居なくなるかわからない。
いつ自分自身が居なくなってしまうかわからない。
そういう気持ちが俺にあるから自然と出てくる言葉だが、勇者部に入ってから余計に褒めまくっている気がする。
風、樹、夏凜、園子、友奈、東郷……入部して間もない俺を、自然体で迎え入れてくれた彼女達。
そんな優しい彼女達が、時折、忽然と姿を消すことがあったからだろうか、不安で、心配で、少しでも彼女達の笑顔を見て安心したいがために、ついその言葉を言っている気がする。
特に東郷は一人で居る時、何か思い悩んでいるようだから、余計に心配なのだ。
「……先輩は、居なくならないでくださいね」
「へっ?」
「ずっと、褒めてください。私を含め、勇者部のみんなを笑顔にしてください。突然居なくなったりしたら……私は……」
「東郷…………悪い、不安にさせちゃったな! 大丈夫、俺はその辺のトラックに轢かれて異世界転生しちゃうほどヤワじゃねぇ! 東郷達に鍛えられたからな! 根性!」
「……ふふっ、やっぱり……少し似てますね」
「に、似てる……?」
「はい。昔……先輩に似た子が居たんです。強くて、優しくて、褒める時は頭を撫でてくれて……傍に居ると、とても安心するんです。その子は……もう会えないところに行ってしまったので、だからその子に似てる先輩も、突然居なくなってしまうんじゃないかって、思う時があるんです」
そう……だったのか……。
そういえば、園子もたまにそんなようなことを言っていたか。
きっと、仲のいい三人組だったんだろうな。
「その子も、望んで居なくなったわけじゃないんだろうな……きっと、もっと東郷と一緒に居たいって思ってたはずだ」
「えぇ、そうですね……私達はずっと友達、ズッ友です」
「ず、ズッ友?」
「ふふ、そのっちが教えてくれたんですよ」
「やっぱ乃木か、確かにあいつなら言いそうなことだなぁ……」
俺もズッ友に……いや、願うなら友達以上恋人未満だけど……。
これは、「好き」なんて言う雰囲気じゃないかなぁ……。
――なんて、そんなことを思った時だった。
突然、頬に小さく柔らかい、暖かい何かが当たる。
驚いて頬に手を触れながらその方向を見ると、東郷が頬を赤らめながらこちらを見ていた。
「こ、これは今日のお礼ですよ? それと、これからもよろしくお願いしますという意味を込めて……ハッ、でもそれだとなんだか余計恥ずかしいことになるような?!」
「……くふっ、なっははは! ありがとう東郷。ビックリしたけど、嬉しいよ。こちらこそ、これからもよろしくな!」
「あっ、は、はい! よろしくお願いします、先輩!」
……ぶっちゃけ心臓が飛び出しそうになったが、よく堪えた俺。
この気持ちを伝えるのはまだ先になりそうだが……とりあえず、一歩前進……か? うん、そうしておこう。
今は、東郷の笑顔が見れたことを喜ぼう――。
お読みいただき、ありがとうございました!
満開祭り4のビジュ見てたら唐突に『存在しない記憶』が降ってきたので勢い任せに書いてみました()
ゆーしゃは行けないけど、行ける人は存分に楽しんできてくれ! 楽しまないと勇者パンチだぞ!(むしろご褒美まである……?)
それでは最後に、皆さんご唱和ください!
「――――ゆゆゆはいいぞ!!!」