ドレアム様の暇潰し!!異世界に我は征く!   作:プロトタイプ・ゼロ

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ノーネームの本拠地か……魔王の実力も大した事ないな

 

 

 

 白夜叉とのギフトゲームを終えて『ノーネーム』の本拠地だという場所に向かっていた我ら。噴水広場を越えて三十分歩くと随分とボロついた門が顔を見せる。

 

「この入口が我々ノーネームのコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かねばならないのでご容赦ください。この付近はまだ戦いの名残がありますので…………」

 

「戦いの名残?噂の魔王っていう素敵ネーミングな奴との戦いか?」

 

「……はい」

 

「丁度いいわ。箱庭最低最悪の天災が残した傷痕、私達に見せてもらおうかしら?」

 

 申し訳なさそうな顔をする黒ウサギに、どこか挑戦的な笑みを浮かべる十六夜と飛鳥の二人。

 

 我もこの世界の魔王がどれほどの実力があるのか興味がある。こういうのは直接見なくては分からないものだからな。

 

 黒ウサギが門を開ければ乾ききった風が数量の砂と共に吹き上がる。それを見た我が咄嗟の判断で低級風魔法バキを発動させ中和する。

 

「なっ…………!?」

 

 現れた本拠地を見て先程まで挑戦的な顔をしていた二人が言葉を失う。一番感情に乏しいまで耀までもが開いた口が塞がらなくなっている。

 

 まぁ、そうなってしまうのも仕方なき事だ。

 

 なにせ、

 

 辺り一面が廃墟化(・・・・・・・・)しているのだからな。我は元の世界で人間達の街や国が魔物によって廃墟と化するのを何度も見ている。だからそこまで感情が揺さぶられる事もなったが、今まで平和な世界を過ごしてきた三人は違う。

 

 十六夜が近くにあった残骸から木材を掴み取り少しだけ力を入れる。ただそれだけで木材はまるで砂のように崩れ去った。

 

「…………おい、黒ウサギ。魔王とのギフトゲームがあったのは―――今から何百年も前の話だ?」

 

「僅か三年前の話でございます」

 

「はっ! そりゃ面白いなおい。いやマジでな。この風化しきった廃墟がたった三年前だと?」

 

 震えた声で十六夜が言う。流石にこの光景は心にくるものがあるのだな。

 

「…………断言してやる。どんな力がぶつかろうが、こんな風に壊れ方をするのは絶対にありえねぇよ。この木造なんて膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えねぇ崩れ方だ」

 

 それを聞いた飛鳥が複雑な表情で呟くように言う。

 

「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がそのふっと消えたようじゃない」

 

「………………生き物の気配が全くしない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないのはおかしい」

 

 悲しそうな瞳を浮かべる耀はギュッと三毛猫を抱きしめる。

 

 ふむ。なるほど。この程度(・・・・)か、この世界の魔王の実力は。これから順調に十六夜達が力を高めていけばそのうち勝てるな。もし勝てなくても我がいれば勝利は完全だ。

 

 だがつまらぬゲームをするつもりはない。この三人にはいつか我を超えるほどの実力を持ってもらわなければ困るからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後黙り込んでしまった三人と我は黒ウサギの案内の元本拠地に辿り着く。するとそこには二十を超える子供達とそれを束ねるジン・ラッセルが我らの到着を待っていた。

 

 子供達は我らの存在に希望と尊敬の輝きを込めて眺めていた。これには我も苦笑いを浮かべてしまうな。これまでの人生……いや魔生では絶望と恐怖を込めた視線ばかり向けられてきたからな。ここまで輝かしい目を見るのは初めてかもしれない。

 

「右から順に逆廻十六夜さん。久遠飛鳥さん。春日部耀さん。そして此方にいらっしゃるのは異世界の魔神ドレアム様です。皆も知っている通り、コミュニティを支えるのは力のあるギフトプレイヤー達です。ギフトゲームに参加できない者達はギフトプレイヤーの私生活を支え、励まし、時に彼等のために身を粉にして尽くさねばなりません」

 

 おい黒ウサギよ。なんだその紹介の仕方は? なぜ我だけ別の紹介方をされなければならぬ?

 

「あら、別にそんなのは必要ないわよ?もっとフランクに接してしてくれても」

 

「それではダメなのであろう。恐らく我らがギフトゲームに参加して、買った戦利品で生活が成り立つってことが大事なのだ。わかりやすく言うのであれば、我らは戦争で戦いから勝ち帰ってきた者。その戦利品を貰い生活をしている子供たちには将来の為にも厳しくする必要がある。だから黒ウサギが許さないのだろう?」

 

「YES! 甘やかせば、将来この子達の為になりません」

 

 そこで黒ウサギは一拍置く。

 

「此処にいるのは子供達の年長組です。ゲームには出られないものの、見ての通り獣のギフトを持っている子もおりますから、何か用事を言い付ける時はこの子達を使ってくださいな。みんなも、それでいいですね?」

 

「「「「よろしくお願いします!」」」」

 

耳鳴りするぐらいの高い声で二十人前後の子供達が叫ぶ。

 

「ハハ、元気がいいじゃねぇか」

 

「そ、そうね」

 

(…………これから、私やっていけるかなぁ)

 

 十六夜は元気そうに高笑いをし、飛鳥は苦笑いを浮かべて返事をする。

 

 耀は少し心配そうな顔をしていた。

 

 見た感じ無口な燿は子供が苦手そうな印象を受けるからな。今後の生活が大丈夫かどうか心配なのだろう。

 

「さて、自己紹介も終わりましたし! それでは水樹を植えましょう! 黒ウサギが台座に根を張らせるので、十六夜さんのギフトカードから出してくれますか?」

 

「あいよ」

 

 水路は骨格だけだが残ってはいた。しかし、ひび割れしていたところ等もあったがそこも頑張って掃除してくれていたようだ。

 

 子供達も健気ながら生活の為に頑張っているのだな。これは我も頑張らなけれはな。まぁ、我を楽しませるほどの実力とギフトゲームには出会うことはないだろうが。少なくとも今のところは、な。

 

 耀が隣で水路を見る。

 

「大きな貯水池だね。ちょっとした湖ぐらいあるよ」

 

『そやな。門を通ってからあっちこっちに水路があったけど、もしあれに全部水が通ったら壮観やろなあ。けど使ってたのは随分前の事なんちゃうか? どうなんやウサ耳の姉ちゃん』

 

 黒ウサギはクルリと振り返る。

 

「はいな、最後に使ったのは三年前ですよ三毛猫さん。元々は龍の瞳を水珠に加工したギフトが貯水池の台座に設置してあったのですが、それも魔王に取り上げられてしまいました」

 

 龍の瞳というところで十六夜の目が輝く。

 

「龍の瞳? 何それカッコいい超欲しい。何処に行けば手に入る?」

 

「さて、何処でしょう。知っていても十六夜さんには教えません」

 

 黒ウサギがはぐらかしたところでジンが口を挟む

 

「水路も時々は整備していたのですけど、あくまで最低限です。それにこの水樹じゃまだこの貯水池と水路を全て埋めるのは不可能でしょう。ですから居住区の水路は遮断して本拠の屋敷と別館に直通している水路だけを開きます。此方は皆で川の水を汲んできたときに時々使っていたので問題ありません」

 

「あら、数キロも向こうの川から水を運ぶ方法があるの?」

 

「はい。みんなと一緒にバケツを両手に持って運びました」

 

「半分くらいはコケてなくなっちゃうんだけどねー」

 

「「「ねー?」」」

 

 ふむ。元気があって大変よろしいことだ。

 

「黒ウサのねーちゃんが箱庭の外で水汲んでいいなら、貯水池をいっぱいにしてくれるのになあ」

 

「………………そう、大変なのね」

 

「それでは苗の紐をといて根を張ります! 十六夜さんは屋敷への水門を開けてください!」

 

「あぁ、わかったぜ」

 

 黒ウサギがそう言って苗の紐を解くまるで波乗りの如くに水が溢れ出てくる。

 

「ちょ、少しマテやゴラァ!! 流石にこれ以上は濡れたくねけぞオイ!」

 

 慌てて石垣まで跳躍した十六夜。そして残念な事に間に合わずに全身ずぶ濡れになってしまったようだ。

 

「うわお! この子は想像以上に元気です♪」

 

 嬉しそうな声で叫ぶ黒ウサギ。後で十六夜に何されても我は助けぬからな?助けを求めるなよ?

 

 水樹から流れた水は勢いよく水路を埋めていった。見る見るうちに水路は溜まり場となった。

 

 隣から感嘆の声が響く。

 

「凄いですよ! これなら生活以外にも水が使えるかかもしれませんね……………!」

 

「なんだ、農作業でもするのか?」

 

「農作業に近いです。例えば水仙卵花などの水面に自生する花のギフトを繁殖させれば、ギフトゲームに参加せずともコミュニティの収入になります。これならみんなにも出来るし…………」

 

「ふぅん? で、水仙卵花ってなんだ御チビ」

 

 十六夜が嘲笑と尊敬の混ぜた言い方で呼ぶことにジンは驚く。十六夜も悪い奴だ。意味を知っていながら敢えて聞くのだからな。

 

 ジンをリーダーとして認めぬのは十六夜の勝手だが、個人的な気持ちを押し付けてならぬぞ?

 

「す、水仙卵花は別名アクアフランと呼ばれ浄水効能のある亜麻色の花の事です薬湯に使われることもあり、観賞用にも取引されています。確か噴水広場にもあったはずです」

 

 それからしばらく経って黒ウサギが我らの住む場所まで案内する。元々が最強の座を持つだけはあり、名を失っていても本拠地は大きかった。

 

「遠目から見てもかなり大きいけど…………近ずくと一層大きいね。何処に泊まればいい?」

 

「コミュニティの伝統では、ギフトゲームに参加できる者には順列を与え、上位から最上階に住むことになっております………………けど、今は好きなところを使っていただいて結構でございますよ。移動も不便でしょうし」

 

 飛鳥が屋敷のすぐ近くにある別館を指さす。

 

「そう。そこにある別館は使っていいの?」

 

「あれは子供達の館ですね。いくつか空き部屋がありますから泊まろうには泊まれますが……………」

 

「遠慮するわ」

 

 即行で断りを入れた。

 

「それより今はお風呂に入りたいわ」

 

「私も」

 

 女は風呂好きだと言う話は聞いていたが本当の事だったのか。

 

「分かりました! 少々お待ちを」

 

 黒ウサギはそう言うと大浴場へと向かった。しかし、大浴場を見た黒ウサギは唖然とする。長い間使っていなかった大浴場は汚れに汚れまくっていた。

 

「一刻程お待ちください! すぐに綺麗に致しますから!」

 

 黒ウサギが大浴場の掃除に取り掛かっている間、談話室と呼ばれる部屋で我らは思い思いに寛いでいる。

 

『お嬢………………ワシも風呂に入らなアカンか?』

 

「駄目だよ。ちゃんと三毛猫もお風呂に入らないと」

 

「……………ふぅん? 話には聞いてはいたけど、オマエは本当に猫の言葉が分かるんだな」

 

「うん」

 

『オイワレ、お嬢をオマエ呼ばわりとはどういうことや! 調子に乗るとオマエの寝床を毛玉だらけにするぞコラ!』

 

 なんだその子供のイタズラ程度のしょぼい仕返しは。

 

「駄目だよ、そんなこと言うの」

 

 飛鳥が聞きにくそうに耀に問う。

 

「出すぎたことを聞くけど…………………春日部さんに友達ができなかったのはもしかして」

 

「友達は沢山いたよ。ただ人間じゃなかっただけ」

 

 拒否の意思がこもった声で耀は言った。過去に嫌なことでもあったのだろう。

 

 その空気を壊すように黒ウサギが登場する。お前はいちいち空気を壊さなければいけない病気にでもかかっているのか?だが今回はナイスだ。

 

「ゆ、湯殿の用意ができました!女性様方からどうぞ!」

 

『や、やっぱりイヤやー!』

 

 そう三毛猫は叫ぶと耀の腕の中から脱獄のち逃走を開始する。

 

「こら、三毛猫」

 

 だが耀は三毛猫よりも早く行動し両手で逃げられないように抱きしめる。そして大人しくなった三毛猫を連れて風呂に入りに行った。

 

 流石は動物の恩恵を貰い受けているだけはあるな。

 

 そして十六夜。お前は笑いすぎだ。

 

 

 

 

 

 はるか古代より、満月は魔族にとって魔力を配給してくれるロストアイテムだと言われている。我は月の魔力を貰わずとも自分で魔力を回復させることができるのでそういうのは別にどうでもいい。

 

 少女達が風呂を満喫している間、我は屋根の上に座り込み月を見上げていた。かつて破壊と殺戮の神と呼ばれ恐れられてきた我でさえも、この世界の月は美しいと感じる。

 

 我の世界にあった月は邪悪な魔力に染まり使い物にならなくなっていたからな。見上げるのも億劫だったが、この世界に来て月の美しさに目を奪われるようになるとは思わなかったな。

 

「……ん?」

 

 ドゴーーンと音とともに砂埃が舞い上がっている。下を見れば十六夜が獣人族達と何やら話している。十六夜の隣にはジンがおり、なぜか肩に担がれているのを見るにどうやらあの獣人族達はガルドの部下なのだろう。

 

「やれやれ……どのような時代になろうとも、あのエセ紳士のような奴らは居るということか……」

 

 獣人族達との話し合いは十六夜に任せておけばよいだろう。我の出番ではない。

 

 この世界のどこかにいるこの世界の真の魔王がいるはずだ。我がここに来たのも其奴を倒すためだろう。

 

 まぁ、なにはともあれ、我は我のやるべきことをやるだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は進んで翌日。我らはギフトゲームのために″フォレス・ガロ″の居住区に向かっていた。

 

 コミュニティ″六本傷″の前に来たとき、前に注文を聞きに来た三毛猫いわく鍵尻尾のねーちゃんが声をかけてきた。

 

「あー!昨日のお客さんじゃないですか!もしや今から決闘ですか!?」

 

『お、鍵尻尾のねーちゃんか!そやそや今からお嬢達の討ち入りやで!』

 

 耀の初めての参加のためか興奮した三毛猫が大事にするかのように調子に乗るので睨んで黙らせる。

 

 鍵尻尾の猫娘はこちらに来ると一礼をして話し始める。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この二一○五三八○外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

 両手を振り回しながら応援される。応援されるのは初めての経験だな。なんだか心地よい暖かさが心の中に広がっていく。

 

 飛鳥は苦笑いしながら強く頷き返す。

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「おぉ!なんて心強い!!」

 

 満面の笑みで返す猫娘。しかし、急に声を潜めて呟く。

 

「実は皆さんにお話があります。″フォレス・ガロ″の連中、領地の舞台区画ではなく、居住区画でゲームを行うらしいんですよ」

 

「居住区画で、ですか?」

 

 飛鳥は小首を傾げる。

 

「黒ウサギ。舞台区画とはなにかしら?」

 

「ギフトゲームを行う為の専用区画でございますよ」

 

「しかも!傘下に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してですよ!」

 

「…………………それは確かにおかしな話ね」

 

「油断さえしなければ我らが殺られることなんてなかろう」

 

「はい! 何のゲームか知りませんが、とにかく気を付けてくださいね!」

 

 そして、我らは″フォレス・ガロ″の居住区画へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、

 

「ふふ、かの魔王様がどのように動くのか、高みの見物させてもらうわ……」

 

 水晶に映るドレアムの姿を見た少女は高級なソファに腰掛け、恋する乙女のような表情を浮かべる。

 

「貴方なら私の想いに応えてくれるわよね? ふふふ、今からでも貴方に会いたいわ」

 

 少女は見た目よりも魅力的な妖艶な身体をくねっとさせる。それだけで部屋の警備をしている少年少女の頬が赤く染まり、少年は前かがみになり、少女は気絶しそうになる。

 

「ふふ、私の魅力に当てられたのね。でもごめんなさい。私の初めてはあの方に捧げるって決めてるの」

 

 その言葉に少年少女は残念そうに顔を俯かせる。

 

「ふふ、早く貴方に会いに行きたいわ。それまではノーネームで我慢してね。私の魔王様?」

 

 


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