俺は学園の中を実姉であり中央トレセン学園の職員である駿川たづなに案内されている。
そんな姉がほとほと感心したように俺に話しかけてくる。
「しかし、よく中央トレセンに合格できましたね。裏口?」
「それ超難関の中央トレセンに実弟が合格した言葉じゃなくね?」
「だって貴方、確かに地方トレセンでの実績は充分ですけどバカじゃないですか」
確かに俺は若い頃から高知トレセン学園でウマ娘のトレーナーとしてやってきたので実績はある。だが、実績や実力だけでは中央トレセンに合格できない。学力や人柄などもURAにみられ、それに合格しないといけないと聞いている。
俺にそんな罵倒を飛ばしながらもニヤニヤと姉は笑ってみてくる。
「あの娘がいるからですか?」
姉の揶揄いに憮然としながら懐からタバコを取り出す。
それが即座に姉に取り上げられて右拳が俺の頬に叩き込まれた。
3mほど吹っ飛ばされながら即座に起き上がる。
「何しやがる!?」
「学園内は禁煙です」
「だったら言葉で言えやぁ!」
俺の叫びなどどこ吹く風で没収したタバコを蛇口で濡らしてゴミ箱にシュート。残念ながらあのタバコはもう駄目だろう。
俺も殴られた頬を擦りながら立ち上がる。
「まぁ、あいつが中央に行くときに約束したからな。俺も中央のトレーナーになるって」
「それで翌年に合格してたらきまってたんですけどね。何年かかりましたっけ? 5年?」
「バカにするな! 4年だ!」
「ニアピンじゃないですか」
たかが一年、されど一年である。
「あの娘のトゥインクルシリーズの走りはみていたんですか?」
「当たり前だ。あいつを見出し、レースの基礎を教えたのは俺だぞ」
「でも肝心なところはおじさん任せ」
「仕方ねぇだろ! 中央トレセントレーナーの資格持ってなかったんだから!」
だが、中央トレーナーの編入試験対策の傍らにあいつのレースは全部みていた。俺が見出し、中央トレセンに認められたあいつの走りは見る人全ての人を魅力した。
「で? あいつがいるのは……まぁ、ここになるよな」
「今日もいると思いますよ」
そんな俺が姉に案内されてきたのは巨大なウマ娘用の食堂。その入り口で俺は姉と別れ、入り口を開ける。
お昼時のせいか食事中のウマ娘が多数いる。俺は店内を見渡してあいつの姿を探す。
そしてすぐに見つけた。
長い葦毛に山盛りの食事。人に比べて圧倒的に食べる量の多いウマ娘でもその食事の量は圧巻だ。高知の時も放っておくとすぐに体重が増えるので食事制限させるのが大変だった。
俺は昔を思い出して苦笑しながら無精髭を撫でる。
そしてそのウマ娘の背後に立って声をかける。
「高知トレセンで俺が言ったこと覚えているか?」
俺の言葉に驚いたように振り向く葦毛のウマ娘。
アイドルウマ娘として圧倒的人気を誇るオグリキャップであった。
「お前さん、すぐに「ハヤカワ!! ハヤカワじゃないか!! どうしたんだ!! 遊びに来たのか!! ちょっと待っていてくれ!! すぐに食べ終わるから!!」ああああ!!! 落ち着けオグリ!!」
尻尾をぶんぶんと振りながら俺に詰め寄るオグリ。その顔は満面の笑顔だ。
とりあえず落ち着かせて座らせてから、俺はコーヒーをとってきて席につく。
その時に机に山になっていた食事は綺麗になくなっていた。
俺は無精髭を撫でながらオグリをみる。オグリは少しバツが悪そうに視線を逸らした。そのお腹はたくさん食べたせいでぷっくら膨れている。
俺は呆れたようにため息を吐いた。
「ろっぺいさんはいいって言ってるのか?」
ろっぺいさんとは中央トレセンでオグリのトレーナーを務める六平(むさか)トレーナーのことだ。俺と姉の伯父であり、ベテラントレーナーでもある。
そのろっぺいさんがいいって言っているんだったら、俺から挟む口はない。
だが、オグリはさらに視線を逸らした。
俺は笑顔でオグリの頬を引っ張る。
「オグリ?」
「ハヤキャワ!! いひゃいいひゃい!!」
「痛くしてるからな」
はたからみたらアラフォーのおっさんが女子学生に手を出しているという完全に事案だが、俺がトレーナーバッジをつけていることであら不思議、トレーナーがウマ娘に説教しているというていになる。
俺は呆れたようにため息をつきながら無精髭を撫でる。
「まぁ、ちゃんとレースの時には体重落とせよ」
「うん、そこは大丈夫だ」
俺の言葉ににこにことしながらオグリは頷く。その表情に俺は訝し気な表情でオグリをみる。
「どうした?」
「? なにがだろう?」
「いや、やけに嬉しそうだ」
その言葉にオグリは少し首を傾げたが、すぐに得心がいった表情で頷く。
「なんだか高知の時を思い出して嬉しくなった。あの時はハヤカワがいて、みんながいて楽しかった」
「……こっちで友達いないのか?」
「いや、タマたちがいる。みんないい友達でライバルだ」
タマというのはオグリと激闘を繰り広げたタマモクロスだろう。他にもサクラチヨノオーやメジロアルダン、ヤエノムテキ、スーパークリークとオグリは仲が良いと聞いている。
「それで、今回はハヤカワはいつまでいられるんだ? 一緒に行きたいところとかたくさんあるんだ!!」
尻尾をぶんぶんと振りながらオグリは言ってくる。その変わらないオグリの姿に苦笑しながら、俺は服につけているバッジをみせる。
「ほれ、オグリ。これが何かわかるか?」
「? いや、わからない」
オグリの即答に俺は机に突っ伏した。それに焦ったのはオグリである。
「す、すまない。何かすごいものなのだろうか。だったらこれからタマに聞いて……」
「あ~、わざわざ聞きにいく必要ないって」
立ち上がってスタートダッシュ決めようとしたオグリを再び座らせて俺は口を開く。
「お前との約束を果たしたよ」
「え?」
相変わらず察しの悪いオグリに苦笑して無精髭を撫でながら説明を続ける。
「中央トレセンのトレーナーになった」
俺の言葉は劇的だった。まずオグリの表情が驚愕に染まり、すぐに歓喜の表情になった。
「ほんとうか!! やったな、ハヤカワ!!」
「ああ、まさかこの年になって中央トレセンに来れるとは思ってなかったよ」
「うん、本当にすごいよ」
嫌味やお世辞でなく純粋に俺のことを褒めるオグリに俺のほうが照れる。
「でも悪いな。お前のトゥインクルシリーズには間に合わなかった」
俺の言葉にオグリは微笑みながら首を振る。
「かまわない。それにハヤカワはずっと私を見守ってくれていた。そうだろう?」
敵わない。
そう思いながら俺は照れ隠しにコーヒーを飲む。確かに俺はオグリのレースのチェックは当然として、普段のことについても伯父から情報をもらっていた。
俺が惚れ、そして憧れたオグリキャップの走り。彼女は俺の期待以上の走りをみせてくれた。だからこそ、彼女が中央トレセン出発当日に言った「ハヤカワも中央にきてほしい」という彼女のわがままを叶えるために、俺は努力した。
まぁ、それでも4年かかったが。
するとオグリは嬉しそうに立ち上がりながら俺の手を引っ張ってくる。
「そうだ!! 中央にきてから私はもっと走るの早くなったんだ!! ハヤカワにも直接見て欲しい!!」
「……ああ、そうだな。是非みせてくれ」
俺もコーヒーを一気に煽ると立ち上がる。そしてオグリに引っ張られていく。
嬉しそうに俺を引っ張るオグリをみながら俺はオグリに話しかける。
「オグリ」
「? なんだろうか?」
「これからよろしくな」
「!! ああ!!」
駿川トレーナー
元高知トレセン学園のトレーナーで中央トレセン学園の新人トレーナー(アラフォー)。オグリキャップの走りに脳を焼かれた被害者第一号
オグリキャップ
見た人の脳を焼くことに定評のあるアイドルウマ娘。ハヤカワにとても懐いているがそこに恋愛感情はない。どちらかと言うと父親に懐くみたいな感じ
駿川たずな
駿川トレーナーの実姉。ウマ娘という噂もあるが真実は闇の中である。
そんな感じでオグリキャップ編でした。オグリキャップが恋愛している姿が想像つかない結果、このような話になりました。
実馬も大好きなオグリキャップ。当然のようにウマ娘でも大好きです。あの純朴そうな田舎娘な感じの私服がたまらない。
駿川の原型はオグリキャップ主人公の漫画であるシンデレラグレイの北原トレーナー。でもそのまま使うのは原作と乖離があった時にまずいのでトキノミノ……もといたずなさんの弟にして起用。そのために年齢高め(アラフォー)