四宮天羽の喜劇観賞 作:緋色
ある日の午後。
平常運転となるはずだった生徒会室に来客が来ていた。
「コーヒーです」
「有難く頂戴する」
「天羽兄さんも忙しいでしょうし、藤原さんのコーヒーを味わったらお戻りくださいね」
「あれ?俺ちゃん邪魔者扱いされてる?」
四宮天羽
四宮かぐやの甥でありながら、かぐやに兄と呼ばせている四宮家の御曹司。
かぐやとの関係は微妙だと聞いていたが雰囲気は悪くない。ここで良い印象を積み上げればかぐやとの交際の妨害にはならないはずだ。身内から悪印象を持たれる事は付き合う上で大きな障害になりかねない。
白銀は今後の事も踏まえ、適度な距離を保ちつつ多少の好感度を稼ぐ作戦に出た。
「まあまあ。折角だしゆっくりしていってくれ。四宮も問題ないだろ?」
「そうですが……」
「いつも四宮って呼んでるのか?ややこしくなるから俺ちゃんは気軽に天羽様でいいぞ?」
「様付けは気軽じゃないですよ天羽兄さん。私もこの場はかぐやでいいですよ会長」
名前呼び。
距離感や親密度に関わる重要なイベント。降って湧いた好機に白銀の頭はフル回転していた。
ここは四宮の言う通りかぐやと呼び捨てが一番無難――だが、今は天羽兄さんがいる!!
呼び捨ては印象が悪いか?ここはかぐやさん?―下手に出ているか?ならかぐやちゃん?これはなんか恥ずかしい。かぐや君?あえて四宮が訂正を求めそうな君呼びを行い、訂正させれば自然に呼び捨てに移行できるのではないか?
「――か「思うんだけど下の名前を気軽に呼ぶの。感じ悪くないか?」
「どうしてです?」
出鼻をくじかれた。
「会長何か言いかけました?」
「いやなんでもない」
「お互いに名前呼びなら気にならないけど、片方だけ名前呼びって関係としておかしくないかって事。例えば俺ちゃんが千佳ちゃんって脈絡もなく呼んだらいやでしょ?」
確かにそれはある。ここは藤原書記の反応を見て参考に
「気にしませんよー。私も天羽お兄さんって呼びます」
「なんでお兄さん?いや別にいいけど」
「かぐやさんのお兄さんだから天羽お兄さんです」
「あ、そういう感じ?」
駄目だ。藤原書記は性格が違い過ぎてサンプルにならねえ。
「ところでこれはなんです?」
「あぁ、さっき校長が生徒から没収したんだと。教育上よくない本だから処分しとけってさ。まったく……自分でやれって話だ」
「教育上よくない本?」
ペラッ
「ひゃああああああっ!!」
「その雑誌別にR指定されてるわけでもないのに大げさな。いや表紙からしてR指定内容かこれ?」
「乱れ……いや淫れてます!この国は淫れてます!」
「よくわからんけど落ち着け」
「ひゃうわあ!?」
「え?なんで距離取られたの俺……?」
若干、落ち込んでいる天羽兄さんを知ってか知らずか四宮は雑誌の内容を読み上げる。
「どれどれ……『初体験はいつだったアンケート。高校生までにが34%』……ですか」
「嘘です!皆そんなにしてるはずがありません!天羽お兄さんじゃないんですから!」
「千佳ちゃんはさっきから俺ちゃんの事なんだと思ってるの?俺ちゃんは男女平等主義だからシバクのも躊躇わないよ?」
「……ごめんなさい」
「なぜ目を逸らす?」
「こういうのはこういう本を読んでる人がアンケートに答えてるから高いだけですよね」
「あぁ、サンプルセレクションバイアスってやつだ。実際そんなに多くない筈だぞ」
「まあ、校内で付き合ったりなんだの人数を考えると20%いかないんじゃないか?事実はわからんけども」
「そうですか?私は適切な割合だと思います。むしろ少ないんじゃ?」
!?
「あの……まさかと思うのですがかぐやさんは……経験あるんですか?」
「はいだいぶ前に」
「えええええええええ!!」
バキィッ
「すまん。弁償する」
カップの持つところを破壊した天羽兄さんはテキパキと処分する。
「いや気にしなくていい」
「俺が悪いからなきちんと弁償する。会長が学園去る前に心残りを作っておきたくないからな」
「そうか」
……?
「会長職についてる奴が急な転校とかした場合会長職はどうなるんだっけ?」
「――その場合副会長が期間中繰り上げだったはずだ」
疑われてる!間違いなくかぐやの相手だと疑われてる!?
なぜ?四宮の人間関係か!学友との関係はお嬢様風で藤原書記ぐらいとしか深い付き合いがないのは割と察しが付くが生徒会は別!特に四宮を副会長に指名した俺と四宮は天羽兄さんからしたらよくわからない!だが、ここで四宮の発言を踏まえると消去法で俺の可能性が高い!
白銀は他の生徒会役員の男を可能性から排除していた。
「庶民会長は英語できるんだっけか。大体の場所では英語通じるから問題ないだろう」
なにが!?
国外追放!?
明らかにゴミか何かを見るような目で見られている!
「高校生にもなれば普通経験済みなのでは?天羽兄さんも経験あるでしょうし」
「そのキラーパスやめてくれない?むしろ俺ちゃんどう見られてるの?」
四宮のお陰で矛先がずれたがどうする!?下手に深堀して四宮の初体験とか聞きたくない!だが聞き出さなければ四宮家に冤罪で国外追放されかねない。
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………四宮は経験あるのか」
「すっげえ葛藤が見えるな」
「そうですね甥とビデオに撮られながら初体験をしました」
――バッ
「黙秘権を要求する」
「え?天羽お兄さん確かかぐやさんの甥でしたよね……?まさか……?かぐやさんと……?」
天羽兄さん は ニヤニヤ している。
…………嘘だろ!?
「四宮……冗談だよな?」
「天羽兄さんとしたことはありませんが、場合によってはあったかもしれませんね」
「あってたまるか。というかかぐやからそこまで好感度あったことに驚きなんだが(笑)」
「普通では?会長も妹がいるんですからガンガンしてると思いますし」
「しねえよ!バカじゃねえの!?何言ってんだ四宮!?」
「家族ですもの変な事じゃないですよ?」
「それは家族の意味が違うんだよなー(笑)」
「どういうことです?藤原さんだって
「してんの!?」
「してませんよ!?巻き込まないでください!!」
四宮家の教育方針は異常だと思っていたがここまで頭おかしいとは……
そんなのを常識だと思っているとか世間知らずってレベルじゃ……
いや待て、それにしては天羽兄さんの態度がおかしい。まるで何かスレ違いがあるのをわかっているかのような……
ん?世間知らず……?
「……四宮。一応聞くが初体験がなんだかわかっているか?」
「馬鹿にしないで下さい。初体験とは――
――キスの事でしょう?」
四宮かぐや
財閥の令嬢として幼少期より性的な情報は周囲から強固にガードされ続けて16年。
超がつくほどの『箱入り娘』なのである!
「――ブフォッ!」
「なぜ笑うんです。天羽兄さん」
「なんでだと思う(笑)?」
当然、男女の教育内容の違い(例えば男は定期的に抜かないとガンになりやすいなど)や特に天羽―かぐやの間で話される内容でもない為、勘違いは解かれることはなかった。
つまりかぐやは初体験の意味など知らない。
「四宮……」
「会長。ここは私から……」
「だ、だって!そういう事は結婚してからって法律で!天羽兄さんも知ってたなら教えてください!?」
「いやそれ教えようとするの大問題じゃ?」
「そうかもしれませんけど!?」
あー、心臓止まるかと思ったぁぁ!!
――名前呼びの件は有耶無耶になった。
天羽「甥の辺りで気付いていました」