『さあ、オープン・コスモス賞、芝一八〇〇m! 最終直線! ここで三番手から一気に抜け出してきたシャーガー! シャーガー先頭! シャーガーが先頭であります! 二番手との距離は一馬身、ニ馬身と広がっている! もはや勝負は決した! シャーガーが一着でゴールイン! シャーガーです! シャーガー、鞍上戸島崇博が一着であります!』
『GⅢ札幌二歳ステークス! 最終直線に入りました! 二番手につけていたシャーガーが先頭を走るカツトップエースを抜き去って先頭に躍り出ました! カツトップエースが追い縋る! シャーガー、シャーガーが先頭であります! 残り二〇〇m! 先頭は変わらずシャーガー、後続を寄せつけません! ニ馬身から三馬身ほど突き放す! 二番手カツトップエースは苦しい! シャーガーが押し切りました! シャーガーが一着であります! ニ着はカツトップエース! ここは王道の先行競馬で押し切りました、シャーガー! これは嬉しい重賞初制覇!』
『さあさあ先頭はやはり抜け出してきました、シャーガー! 鞍上の戸島崇博が追ってシャーガーが先頭です! 二番手との差はまだ四馬身近くあります! これは独走態勢だ! あと二〇〇mだが先頭はシャーガーのまま! 決まった決まった! またもや鮮やかに先行抜け出しを決めて勝ちました、シャーガー! 今年のGⅡ東スポ杯二歳ステークスは、無敗馬のシャーガーが手にしました!』
正直に明かせば、目が飛び出るかと錯覚するほど驚いている。
新馬戦を勝ってから、オープン競走、重賞を含め四戦四勝。文句なしの競走成績なのだが。
その四戦のうち、コスモス賞から東スポ杯二歳ステークスまでの三勝は二、三番手につける積極策で勝ち星を挙げている。
もしかしたら、この馬は前目につけると実力を発揮できるタイプなのだろうか、などと考察してみたりもしたのだが、どうにも作戦に引っかかるところがある。
なんというか、あれはシャーガーの本来の走り方ではないような気がするのだ。
最初はもう少し控える競馬をするというのが私の想像だったが、いざ走らせてみると前目につける積極策を多用している。……勝てているからいいのだが。
……と、私のちょうど隣に置かれてある電話が震えだす。
「はい……ええ……はい…………えっ!?」
思わずぎょっと目を見開く。電話は為山調教師からのものであった。
どうやら、シャーガーをGⅠに出走させるという内容の連絡ようだった。
昂ぶる気持ちが抑えきれず、返事をする際に声が裏返ったりなどしてしまったが、遂にである。
だが、それ以上にとんでもない爆弾を叩きつけられた気分に陥るのは、次に為山調教師が告げた言葉だった。
『中山芝二〇〇〇mのGⅠホープフルステークスに出走予定です。シャーガーの
十二月末の中山競馬場は、大盛況だった。
競馬場内を人々が交差する様は、人という海から発生した波のようだ。
そのような波をひょいひょいと掻い潜りつつ、私は馬主席に着く。……少し無理をしたのか、足腰が震えているが。
今週の中山競馬場で開催されるレースは、冬の大一番であるグランプリ有馬記念と──二歳GⅠのひとつ、ホープフルステークス。
芝二〇〇〇m・右回りというクラシックの一冠目、皐月賞と同条件で行われる。
中距離以上を適性距離とする馬の陣営は、本番の皐月賞を見据えてここに出走してきている。
シャーガー陣営の私たちもその一角だ。
だがやるからには勝つ。それに──
シャーガーの真の実力、真の競馬をこの目に焼きつけられるとなると、なおさら、楽しみになってくるものだ。
『先日の雨により重馬場での開催となりました、二歳GⅠホープフルステークス。今年も数多くの有力な若駒が揃いました。勝って皐月賞への一歩を踏み出す馬は、果たして! いざ、ホープフルステークス!
スタートしました! おっと一番人気三番シャーガー、戸島嵩博、今回は好スタートでしたが下げました。シャーガーは後方から四番手、シャーガーは後方から四番手の位置。場内、どよめいております』
ゲートから出た瞬間に、全身に伝わる風を切る感覚。
シャーガーは好スタート──だが敢えて下げるほうが、この馬は強い。
観客席から聞こえてくる罵声、悲鳴、どよめきが俺の全身に重くのしかかる。
──それがどうした?
ならばこれから、最終直線で黙らせてやるとしよう。
『逃げ馬がペースを握りまして、一〇〇〇mを通過。これはスローペースか! スローペースとなりました! 一番人気シャーガー、未だ後方三番手! 重馬場でこれは厳しい展開となったか!?』
縦長に開いた馬群を見渡す。内にも前にも外にも後ろにも馬がいて、シャーガーは完全に包囲されているような状況だった。
それもそうだ、一番人気馬が今までとはまったく違う作戦で来たうえ、不穏にも脚を溜めているのだから。恐らくだが、大半の騎手は動揺しているだろう。
故にまずは囲む。常に緊張を与え続け、脚を溜め殺させる。
並大抵の馬ならこれで沈む。
最終コーナーを回る瞬間、外の馬がほんの少しだけヨレる。
すかさず、シャーガーの馬体に鞭を一発だけ強く打つ。ここからが決めどころだ。
シャーガーはラストスパートを理解している。手綱を緩めたり、押したり、鞭を打ったりすると加速する馬だ。しかも聞くところによると、欧州血統の馬だそうだ。それなのに、それなのに──
『最終直線です! なんと大外に突き出てシャーガーがやってきた! シャーガーが飛んできた! シャーガーが、シャーガーがあっという間に先頭に立ち、差を広げています! これは信じられない! 夢か、幻か!?』
なんという切れ味だろうか。鋭さなら、あのタニノムーティエやヒカルイマイに匹敵か、それ以上かもしれない。
ふと後方を振り返ってみる。するとどういうことか、もう七馬身以上は引き離していた。
まだ四〇〇mはあるのに、後続がどんどんどんどん小さくなっていく。
それでも、それでも構わず俺はシャーガーの手綱をしごき続ける。
ゴール板をくぐり抜けたときに湧いた感情の熱に耐えられず、俺は思わず──
「──しゃあっ!」
柄でもないガッツポーズを決めてしまった。
「おめでとうございます、戸島嵩博騎手。早速ですが、後続との差は驚くことに十五馬身。この勝ちっぷりは気持ちいいですか?」
「はい、とてもよかったです」
「大外の芝は相当に荒れていたようなんですが、それでもうの伸びっぷりは凄まじかったですが? そこのところは?」
「荒れていたんですか? あれ。……ははは。なんて冗談です。もちろん、馬場が湿っていて荒れていたことも知ってますよ。承知のうえで、勝負にいきました」
「これからもシャーガーに騎乗する予定でしょうか? また、クラシックへの意気込みもあったらお願いします」
「はい、為山先生から依頼されましたら、乗る予定です。……クラシックへの意気込み、か。バッサバッサ切り捨ててやるよ、ですかね」
「今回、積極的に先行しませんでしたが、そこはどうしてでしょうか?」
「ああ、あれですか。今日のシャーガーが本当の姿なんです。あの差し脚こそ、あの馬の最大の持ち味です。それまで先行していたのは、驚かせてやるためです」
「ありがとうございました。以上、ホープフルステークス勝ち馬シャーガー騎乗の戸島嵩博騎手の勝利インタビューでした」
二〇〇〇m〜二四〇〇mだと恐ろしく強いシャーガーくん。