……え? 馬名が十文字以上? それでもウイポ世界だから日本馬です……。
偉大なる王者編①
持ち馬がたった今、GⅠを勝ってくれた。
GⅠ朝日杯フューチュリティステークス(芝1600m)。二歳王者決定戦として知られる、二歳馬専用のGⅠのひとつだ。
そんなGⅠを、僕の所有馬が勝った。だが、彼はそれだけでは終わらないだろう。
この朝日杯は事前人気では事実上の二強とされていた。
一頭はハーディービジョン。GⅡ京王杯二歳ステークス(芝1400m)を勝ち、この朝日杯に駒を進めてきた実力馬だ。
もう一頭こそ、僕の所有馬――欧州の二歳GⅠ、英国のデューハーストステークス(芝1400m)、仏国のクリテリウム国際(芝1600m)を連勝中のエルグランセニョール。欧州では敵なし、しかし日本ではどうかということで一番人気でこそあったものの、ハーディービジョンとはあくまで比翼をなす存在だった。
だが結果から明かせば、最終コーナーを回ると同時に先頭に立ったハーディービジョンを強襲、あっという間に躱すとそのまま突き放し、七馬身差で完勝した。
誰もが文句のつけどころのない完勝。鞍上を務めてくれている
彼にとって初めての日本のGⅠタイトル。それに手が届いたことがよっぽど嬉しかったのだろう。
エルグランセニョールはこれで無敗のままGⅠ三連勝。この勢いのまま、GⅡ弥生賞(芝2000m)を経て、再び世界へ飛び、GⅠ英2000ギニー(芝1600m)、GⅠ英ダービー(芝2400m)、GⅠ愛ダービー(芝2400m)、GⅠキングジョージⅥ&クイーンエリザベスステークス(芝2400m)、GⅠ愛チャンピオンステークス(芝2000m)、GⅠ凱旋門賞(芝2400m)に出走したいところだ。
恐らくだが、エルグランセニョールなら欧州三冠に手が届き得る。ミルリーフ以来の欧州三冠馬になれるほどの器だ。きっと、勝つだろう。
年が明け、1984年。
日欧最優秀二歳牡馬という前代未聞のダブル表彰を受けて、国内外からも注目が集まるなか、弥生賞に出走したのち、再び欧州に渡ることを表明。競馬の本場よ、見ていろ。今にもそちらのダービーを掻っ攫ってやる。
GⅡ弥生賞には無敗馬シンボリルドルフ、同じく無敗馬ビゼンニシキが出走予定。ビゼンニシキのほうは鞍上関連で少し揉めたようだが、最終的にその鞍上がシンボリルドルフを選択したため、緊急的に乗り替わったらしい。
あの『名手』と謳われる岡田秀雄騎手がシンボリルドルフを選択したということは、間違いなく実力馬だ。それも余程といっていいほどの。
下手な競馬をすると喰われるかもしれない……それに小西騎手はまだまだ若手。GⅠ勝利などの実績はこちらに分があるが、あの岡田秀雄相手では相当な差がある。
そうなってくると、あとは馬の地力のみ。
それに関してはだいぶ自信がある。小西騎手も覚悟を決めて臨むようだ。
さあ、いざ尋常に勝負といこうではないか。
エルグランセニョールは、僕が今まで乗ってきた馬の中でも、群を抜く手応えがあった。
美浦の
欧州の二歳GⅠをふたつ、朝日杯を勝てたのも全てこの馬のおかげだ。エルグランセニョールには感謝の念しか湧いてこない。
今から出走する弥生賞では、トップジョッキーである『名手』岡田秀雄さんが相手だ。
それも、岡田さん自身が「最高の馬」と称する馬に乗って。
このレースで一度でも騎乗ミスなどしてしまえば、一気に足元を掬われ、負けてしまう。
そんな気配さえ、岡田さんが騎乗しているシンボリルドルフからは感じられる。
「……エル、どうしようか?」
不安げな声音で、思わず騎乗しているエルグランセニョールに問いかけてしまう。
けれど、エルグランセニョールは「ヒン」と鳴く。
「大丈夫さ、勝てる勝てる」とエルグランセニョールが元気づけてくれているようにも聞こえた。
僕はポンと強くエルグランセニョールの首元を叩く。
「ありがとう、エル。いこう」
そうして、僕らは係員に引かれ、7番のゲートに収まる。
シンボリルドルフは1番、ビゼンニシキは16番。この弥生賞は総勢16頭。
いざ――勝負ッ!
シンボリルドルフがポンと飛び出るが、先頭には立たずそのまま3番手の位置をキープ。
一方のビゼンニシキは13番手。差し切り態勢だ。
僕とエルグランセニョールはシンボリルドルフが見える位置――外目につけて六番手。
最終コーナーでシンボリルドルフを躱し、先頭に立って猛追を凌ぐ。もはやそうするしか頭になかった。
600mを通過した辺り。ビゼンニシキがややポジションを押し上げるようにして11番手に上がってくる。それ以外は特に展開に変化は見られない。
1000mを走っているときに、スローペースとなっていることにふと気がつく。
一瞬、5番手か4番手につけ直そうかとも思ったが、ここは敢えて抑えることに。
だがスローペースになってくれたおかげで、外を回るエルグランセニョールにはだいぶ余力がある。
これなら――!
最終コーナーを差しかかったところで、手綱を緩める。
刹那、ビュンと風を切る音がした。
左のほうで岡田さんが目を見開き、手綱を押し始めるが、ここはなんとしてでも勝たせてもらう。
最終直線。僕は必死に手綱をしごき、鞭を振るう。
風切り音が聞こえてから、何も聞こえない、なんの色彩もない極限の世界へと至っているようだった。
後ろから迫りくるシンボリルドルフの威圧感も今では感じられない。
絶対の意地を、見せつけてやろう。
ふと傍らを一瞥すると、そこにはゴール板が設置されていた。
そして後方を振り返ると、1馬身ほど後ろに憤怒、無念が入り混じったような、なんとも言い難い表情を浮かべる岡田さんとシンボリルドルフがいた。
ああ――ああ――!
勝った……! 勝ったんだ……!
【GⅡ弥生賞 芝2000m 着順
1着 エルグランセニョール(小西直行)
2着 シンボリルドルフ(岡田秀雄) 1馬身
3着 ビゼンニシキ 5馬身】
ノーザンダンサーの最高傑作VSパーソロンの最高傑作、ファイッ!