ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記 作:チームメイト
体育祭本番。
須藤の力になってやりたいって書いたが、気持ちは本当だ。ただ、行動は伴っていない。
なんせこちとら運動も勉強もできない山内くんだ。
いきなり活躍するわけにもいかず、最下位だけにはならないように、のらりくらりと参加するだけよ。
中学時代サッカー部でインハイに出て、両国国技館で不動の15番、ピボットとして活躍してた実力をみせられなくて残念だぜ。
最初はそれで適当に下位を取ってクラスの皆にすまんすまんって謝っとけばよかったんだが、途中からはリーダーの須藤の制裁が開始するっていう地獄っぷりよ。
須藤も制裁する相手は、三バカ+綾小路だけに絞っているので、俺達がやられているのを見て他のクラスメイトのやる気に繋がるなら、甘んじて受け入れてやるけどさ。
すまんすまんって軽く謝ってるみたいだけど、割と謝罪自体は本気だぜ。
迷惑をかけてるって自覚はあるからな。
俺がそんな感じで蹴られながら体育祭を過ごす一方、綾小路はちゃっかり組み合わせに恵まれましたって顔して上位取ったりして回避してやがった。お前のそういうところが擬態が甘いんだよ。
擬態するならしっかり擬態しやがれ。都合よく解除するなっつーの。
須藤のケツキックを何発も食らっちまって、そろそろケツが痛くて座れなくなりそうなんだが、ホワイトルームから労災が下りないだろうか。
こんな感じで高円寺が自己申告の体調不良で不参加っつーアクシデントがあったものの、前半戦は須藤の頑張りもあって、そこそこ戦えていたはずだ。
雲行きが怪しくなったのは、Cクラスと揉め始めてからだ。
そもそも前半戦からやたらCクラスに有利な組み合わせが多かった。
こんなんDクラスの情報が漏れているとみて間違いないじゃん。
あんま考えたくねーけど、犯人は櫛田ちゃんだろうな。
情報を漏らしておきながら、笑顔で頑張ってーとか応援してるのが怖えよ。
競技で多少不利になる程度ならいいけど、Cクラスからの悪意のあるアクシデントで堀北が離脱。気を吐きまくっていた須藤もメンタル面の弱さをつかれて離脱。
男女のそれぞれのエースが抜けてしまってたら、Dクラスは戦いようがねえよ。
「…………」
須藤の離脱を補うように、平田が何とか頑張っているが、このままなら最下位に沈むことが確実だ。
どうする。
せっかく親友が評価されるようなチャンスだったのに、これだとむしろ悪化しかねないぞ。
俺が本気を出せば、ここからでも最下位は避けられるんじゃないか。
ホワイトルーム生であることを隠したいのは俺の事情だ。クラスや須藤は関係ねえ。
それなのに散々迷惑をかけてきておいて、ここでも動かなくていいのか。
運動が多少できることがばれたからって、ホワイトルームと関連付けられるかは分からないはずじゃん。
親友のピンチを助けないで何が親友よ。
須藤の参加予定だった競技を代わりに出て、勝つ。俺にならできる。
難しいことではないはずじゃん。
「今更だよなぁ……」
須藤の代理を平田に申し出る。
そんな簡単なことすらできやしない。
運動ができるだけなら=ホワイトルームとはならないだろう。
ただよ、運動ができることを隠していだけで、実は運動できた、というのは怪しすぎるぜ。
あーあ、なんで何にもできない山内くんなんかキャラ付けしちまったんだか。
後悔は先に立たずってまさにこのことだよな。
◇◇◇
「健、大丈夫なのか?」
「すまん皆。俺がキレちまったせいで迷惑かけた。悪かった」
いよいよ最後の競技、1200メートルリレーがはじまろうってときに、須藤が復帰してきた。
須藤が正面から謝るという初めての事態に、クラス中が戸惑っている。
どうやら綾小路が堀北を動かしたっぽいな。
メンタルが荒れまくった須藤を動かせるとしたら、須藤が惚れてる堀北ぐらいだし、その堀北を動かせるのは綾小路ぐらいだろうから、綾小路にしかできない芸当だ。
「今更無理かもしれないけど、最後のリレー俺に走らせてくれねーか。絶対に勝ってくっから」
クラスに迷惑をかけまくった親友の願い。
クラスの調整役の平田が真っ先に受け入れて、その願いは叶うこととなった。
ここまで本気の親友を見るのは初めてだ。今の須藤なら誰にも負けないかもしれねーな。
ただ、競技がリレーだというのがネックになる。
いくら須藤が速くても、リレーだと総合力の勝負で1人で勝てる競技じゃない。
今までの競技結果を見る限り、Dクラスがリレーで優勝するのは、難しいだろうな。
「…………」
親友がここまで動いても、見捨てるのか俺は。
俺ならどうにかできる可能性があるのに。
他クラスに勝てる奴が須藤1人から2人になれば、リレーでも勝てる可能性は出てくるはずだ。
「……無理じゃん」
勝つかどうかの前に、リレーに参加することが無理だった。
競技の参加メンバーは既に決まっている。須藤が参加予定だった競技で、抜けた穴へと代理立候補はできても、既に決まっているメンバーを押しのけて、運動のできない山内が出場するなんて、できるわけがない。
結局、俺は観察者。見ているだけしかできないわけだ。
せめて親友を心の限り応援してやろう。
「待ってくれ。足を捻ってしまった。リレーから棄権させてくれないか?」
悩みを振り切って見送ろうとしたところで、まさかの離脱者が出た。
正規メンバーだった三宅が足を痛めていたらしい。
これで枠ができた。
まるで俺に参加しろと言わんばかりに、舞台が整ってしまった。
「……ま、仕方ねえな」
いいぜ、やってやるっつーの。
運命の神様っつーやつがいるんだったら、その運命に乗ってやるよ。
ええい、もういい。ホワイトルームだって、ばれるならばれちまいやがれ。
ここで須藤の思いに応えなかったら、男じゃねえな。
待たせて悪かったな、親友。俺が助けてやるぜ。
「じゃあオレが走ってもいいか?」
ん? 今俺が口にしようとした台詞を誰かが口にした?
この声って、綾小路じゃねえか。
え、何でお前が参加するの?
どう考えても俺が参加する流れだっただろ。俺の心の動き見てなかったのか?
ふざけんなよ、綾小路。俺の見せ場だっただろうが。
ダメだ。先に手を挙げた人が出た以上、山内の出番はねえな。
こうなったら綾小路に託すかねえ。
お前、参加するなら絶対勝てよ、半端は許さねえからな。
◇◇◇
綾小路が本気を見せたものの、須藤と綾小路以外のメンバーの差が響いて勝利とまではいかなかった。
体育祭自体も、所属していた紅組は勝ったが、Dクラス自体は学年最下位に沈むというオチだった。クラスを引っ張る男女のエースを欠いた以上はこんなもんだろう。
クラスを引っ張るどころか足を引っ張っただけの俺は、何の文句も言えやしないな。
救いなのは、須藤の最後の行動がある程度評価されたらしく、須藤の評価があまり落ちなかったことぐらいだ。上がりもしなかったけど、それはまあ、しゃーない。
体育祭では負けたとはいえ、須藤が変わったんだとしたら、これが綾小路の描いた計算だったのかもな。
今回の試験を捨てて未来を取ったってわけだ。
どこまで掌の上かは分からないが、綾小路ならこれぐらい考えてそうだから怖えよ。
なお、体育祭の綾小路清隆。
個人種目は上位に入ったりとそこそこ活躍。
借り物競争では失敗。
男女の二人三脚は参加予定じゃなかったのに、いつの間にか参加して櫛田ちゃんといちゃいちゃしてやがった。
最後にリレーで本気を出して度肝を抜いた。
何の取引があったのか生徒会長とスタートを合わせて、どこの短距離走の選手だって勢いで駆け抜けた。
ゴール前でトラブルがあって生徒会長には負けてしまったが、邪魔が入らなければどうなっていたかという足の速さだった。
たぶん、綾小路なら勝ってただろうな。
やっぱこいつって頭だけじゃなくて身体能力も化け物なんだよな。
しばらく見る機会がなかったが、その能力は全く鈍っていないらしい。
しっかし、なぜ全力を出したんだ。意味分からん。
このタイミングで見せつける必要性は無いと思うわけだが。
他のクラスから警戒されるだけ損だぞ損。本気を出すにしてもタイミングを考えやがれ。
俺が本気を出さなくて良かった。綾小路に負けるならいいけど、生徒会長にも勝てなかったよな。恥かくだけだったぜ。
綾小路のあまりの速さに佐藤なんか目をハートマークにして追っていたぞ。
綾小路ハーレムにまた1人加わったのかもしれない。
あ、最後になんか綾小路がAクラスに呼ばれてたけど、Aクラスの警戒が強かったので詳細は不明。
Aクラスは葛城派と坂柳派に分かれているが、呼び出したのは坂柳派のはずだ。坂柳派が接触して何がしたいんだか。
本日の報告(表)
体育祭で他の生徒を圧倒する足の速さを発揮。運動能力が鈍っていないことが確認できた。運動で勝つのは無理だと判断する。
本日の報告(裏)
化け物はやっぱやべーよ。だが、それを見て目をハートにする佐藤も結構やべえよ。単純過ぎね?
ここから先の展開を練り直しますので、連日更新は止まります。
次回更新は6月6日月曜日17時を予定しております。