ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記 作:チームメイト
運命の3学期に入った。
バスに乗せられて合宿地へ向かう。
座席が五十音順で、綾小路の隣に池が振り当てられたのがありがたい。
池と話していれば自然と綾小路の動向をチェックできるからな。
こうやってワイワイ話しながら移動するのは、旅行気分で楽しい。
楽しい反面、残りの時間を数えたくなってしまう。
次に学園を離れるときは、退学になったときかもしれない。
こんなことを考えずに過ごしていたかったんだけどな。
残りの時間を惜しむようにおしゃべりに興じた。
山内と池とでは最前列と最後方で離れていることなんかお構いなしだ。
他の生徒には結構迷惑だろうな。若干クラスからヘイトを溜めている気がするが、池は気づいているだろうか。
ここで気づくようなら三バカとは言われてないか。
今回だけは勘弁して欲しい。
いや、クラスからのヘイトはもう気にする必要は無いのかもしれない。
俺がDクラスから消えるカウントダウンは、始まっているんだから。
ちなみに、綾小路は一切口を開くことはなかった。
綾小路グループのメンバーの性格によるものっぽい。
俺の隣に座る幸村は、大声でしゃべる俺に対して嫌そうな顔をするだけで黙っている。
三宅は話しかけられたら応えているようだが、ほとんど無口だ。
佐倉は綾小路の方を意識しているのがバレバレだが、人見知りの性格が声をかけらずにいるようだ。頑張れ。
唯一、長谷部だけが佐倉に話しかけたり三宅に話しかけたりしているが、目立たない範囲に抑えており、遠い綾小路や幸村まで話しかけるようなことはしていなかった。
せっかくグループができたのに孤立するのかよ。もうちょい頑張ろうぜ。
──命令によって明確な敵となっちまったから、頑張れは、ちとまずいか。
バスで移動して何をやるのかっていえば、合宿場でクラスをごっちゃにしてグループ分けして、他学年とも組んで合宿に挑み、最終日に試験を受けることになった。
グループごとに競い合う形だ。
普段はクラス間での争いなのに、他のクラスとも組むってどうなんだ。
試験内容自体は大したことが無いので、こんなもんって言われたらこんなもんでいいのかもだけどな。
問題はそのグループ分けよ。
観察者としては綾小路と同じグループになった方が都合がいいが、こういうときに要領の悪い綾小路は余りものだろう。問題はそれに綾小路グループのメンツが付き合うのかどうかだ。
綾小路本人は、他のメンバーが誰であろうが気にしないだろうが、幸村は三バカのことをバカだと思っているので嫌がるに違いない。揉めるのが見えてて、そのグループに参加するのは避けた方が良いだろうな。
綾小路の参加しそうな余りものグループを避けることは決定だ。
残りからどのグループに入るのか。
本音を言えば、池や須藤達と一緒のグループに入って楽しみたいという気持ちが強い。
が、それを許さない事情があった。
綾小路を退学させる。
土台無理だと思うが、取り組まないわけにはいかない。
俺1人では絶対に無理なので、綾小路に勝てる見込みのある生徒を探す必要がある。
可能性があると思っていた龍園でも無理だった以上、探すならAクラスか。
都合よくAクラスが中心のグループができ、他クラスから1人だけ足を引っ張ってもいい生徒を募集してたので、飛びつくことにした。
適当に過ごしながらAクラスの視察ができれば、いうことがない。
俺の他に池とかが手を挙げたため、立候補者によるジャンケンだったが、過去の傾向から手を読むことは安易だ。
池はこういうときグーを出しがちなんだよな。それであいこになってももう1回手を続けるので、とりあえず連続でパーを出しておけば勝率は上がる。
案の定、2回目のパーによって見事に勝利することが出来た。
このときのために、普段はわざとチョキを多めに出して池に譲ってきた甲斐があったってもんよ。
グー出せば勝てると思った? 残念だったな。
すまんな池。お前ならこういう合宿は得意分野だろうし、みんなで頑張れ。
綾小路は予想通りに幸村とかと余りものグループに回っていた。
化け物の行動をしっかり予想するとは、俺の観察力もなかなかのものかもしれない。
つーわけで、Aクラスの皆よろしく頼む。
やる気はないなりに頑張るから、ドバドバ情報を吐き出してくれよ。
◇◇◇
「クラスを離れたのは大正解だったのかもな」
完全にお客様状態だ。山内は何もすることが無い。
せいぜい足を引っ張りすぎないように用意されたカリキュラムをこなすだけで、他には一切やる必要が無かった。
朝食は各グループで用意だったけど、俺は起床時間のギリギリに起きればそれでよく、Aクラスの連中が俺の分まで美味しい朝食を用意してくれていた。
本来なら、楽で喜ぶべき立場なのに、ちっとも嬉しくないというか楽しくなかった。
なんだかんだ俺はDクラスが好きなんだろうな。
池とかと『なんで俺達が作らないんといけねーんだよ』『誰も料理できねーのかよ、どうすんだ』とかぼやきながら焦げた目玉焼きでも食べた方が、よほど楽しかっただろう。
ダメだな。退学になるって決まってからDクラスを惜しんでどうする。
割り切って徐々に距離を取っていくべきだろ。
それが俺のためでもあり、Dクラスのためにもなるんだろうから。
楽しい思い出は、もう2学期までで十分作ったじゃないか。
ホワイトルームにいた頃じゃ考えられなかった青春だっただろ。
あとは自分の役割に集中するべきだ。
つーわけで、潜入したAクラスグループで分かったこと。
葛城派と坂柳派の争いは、そろそろ坂柳派の勝利で決着が付くようだ。
男女別の試験ということで男子のAクラスグループのリーダーは葛城が務めていたが、リーダーに立候補したというより雑用係を押し付けられただけのようだ。
主導権を持っているのは坂柳派で、グループに参加している人数も坂柳派の方が多い。
葛城も相当有能な生徒だけど、それを上回るとは坂柳とはどんな生徒なんだろうか。
体育祭の後で綾小路を呼び出していたのは知っているが、それ以外の情報はほとんどもっていない。せいぜい、Aクラスのリーダーだってことと足が悪いらしいということだけだ。
無人島→不参加
船上試験→不参加
体育祭→見学
足が悪いらしいこともあって、俺以上に徹底して能力を見せていないのが坂柳だ。
シャッフルテストは、Dクラスが争ったのはCクラスだったしな。
これだけ足を引っ張ってもリーダーを務めていて、葛城派を追いつめているんだからよほどの傑物かもしれない。
少し葛城派に探りを入れてみたらなんでも「怖い相手」ということだ。
怖い相手か。化け物は綾小路だけで十分なんだが、動いてみる価値があるんだろうか。
いや、動けるうちに動いた方が良いか。
いざってときに武器を持っていないのは困る。タイムリミットは確実に近づいている中で、悠長にしている余裕はない。
こうやって接していて分かったが、葛城は能力が平均して高いものの、優等生の枠組みの中に納まっている。何か突き抜けたものがなければ、綾小路には勝つのは難しいわけで、葛城では無理だろう。
となると、どっちにしろ残されている坂柳に賭けてみるしか道はなさそうだ。
命令さえ無ければ、動く必要なんか無かったのに。
まったく、ホワイトルームの下っ端やるのも面倒なこった。
◇◇◇
「悪い悪い、大丈夫か?」
動くと言っても、アホの山内にできることは限られている。
偶然を装ってぶつかって相手を転ばしただけだ。
足になんらかのトラブルを抱えているらしい坂柳は、あっさりと転がった。
これで良くも悪くも山内という生徒を認識させることは、できただろう。
念のために追撃しとくか。
「可愛いけど、どんくさいところあるよな」
ぶつかったのは俺のせいじゃなくてお前のせいだからなってふんわりと主張しつつ、軽く笑ってやる。
さあ、どうでるよ、坂柳。
「…………」
──げ、今なんか背筋に変な汗が流れてきた。
この子、たぶん綾小路側の人間だわ。
分かりやすく反撃してくれれば、話は早かったのに内側に秘めて表に出さないあたりが怖すぎる。
しまった。この接触は、失敗したかもしれない。
ただ、こうでもしないと山内が関わり合いが無い生徒なんだよな。
坂柳の視界に入るためにも、こっちは必死なんだよ。
この生徒を利用できるかどうかは分からないが、スタートラインにすら立てなければ話にならないからな。
綾小路に対抗する武器っていうより、使ったら自滅しそうな予感がプンプンだが、これぐらいの生徒じゃないと綾小路に対抗できないんだよなぁ。龍園が沈んだっぽいのが悔やまれるぜ。
この接触がどう影響するのか‥‥…うーん、いっちょん分からん。
なお、試験は無事に可もなく不可もなく、いつもどおり目立たず騒がず終わった。
Aクラスが有能で頑張ってくれたので、いつも以上にサボれて楽だったぜ。
本日の報告(表)
別グループに配置になったため観察できず。対象は無難に試験をこなしていたようだ。
本日の報告(裏)
なにあのTレックス。デカすぎだろ。つーか、そんな立派なものを持っててなぜ積極的に使わねえんだよ。宝の持ち腐れじゃねえか。巨乳好きなのは、それを収めるためにちょうどいい鞘を探していたとかなのか。
そんなところまで化け物じゃなくていいだろうがよ。