ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記 作:チームメイト
軽井沢が平田と別れたらしい。
合宿中も綾小路と軽井沢が怪しかったんだっけ。それが原因か。
綾小路の綾小路があまりにも大物過ぎて、そっちに気を取られて日記に書くのを忘れていたけど、名前呼びって結構な出来事だよな。
女子の方は、割と気軽に話題に出ているみたいだ。
男子の方は、誰も触れられなかった。
軽井沢が振った形みたいだからこんなもんか。
クラス1のモテ男が振られたせいで、男子には暗雲が漂っている。
平田ですら振られる世界で、俺達はいったいどうすりゃいんだよ。って感じか。
俺から言わせてみれば、そもそも本気で付き合っていたのか怪しい2人だったけどよ。
「…………」
ちょうどいいのかもな。
山内の学園生活は、残り少ない。
Dクラスの生徒が1人減ることは確定している。
山内が消えてもクラスは、ノーダメージであって欲しい。
居なくなったときに、せいせいされる。
それぐらいの立場へと移行していった方がいいだろう。
今でも三バカとして疎まれ気味だけど、嫌われるまではいってないし、ここいらでもう一歩、踏み込んでおくか。
山内なんてやる気のない足を引っ張るだけの生徒は、最初から居なければよかったんだから。
傷心の平田へと突撃する。
「振られたんだって? どんまいどんまいー」
レモン牛乳が売りの県の某芸人の謝罪ギャグっぽくウザ絡みしてみたら、すぐに須藤と池に悪趣味だと止められた。
周囲がドン引きする中での2人の優しさだった。
出会った当初の2人だったら、俺に同調して平田に絡んでいた可能性が高かったと思うけど、どうやら2人も成長しているらしい。
こいつらも変わっていっているんだな。
俺は、観察者だとか言いながら、一番身近な親友たちのことすら分かっていなかったらしい。
2人の優しさも成長も嬉しいけど、苦しくもあった。
こいつらの成長が見れるのも、あと僅か、か。
こいつらだけは、俺が居なくなったら悲しむんだろうな。
どうにかした方がいいのか、しないほうがいいのか。
他のクラスメイトから嫌われることは覚悟の上だが、親友達の扱いだけは簡単に答えが出ねえよ。
すっかり三バカが定着したな。
こんなんでホワイトルームに戻されて、俺はやっていけるんだろうか。
しばらく勉強らしい勉強もしてねえし、ちょっくら気合を入れた方がいいんじゃね。
よし、今日は帰ったら久々勉強すっか。テストも近くなってきてるしな。
なんて気合を入れて帰ろうとしたら、坂柳に呼び出された。
直接乗りこんで来るとか何事じゃ。
呼び出すだけ呼び出して、俯き加減に消えていったのが超怖い。
あれ絶対照れ隠しとかじゃなくて表情を読まれないための工夫だろ。池とか須藤がなんか騒いでるけど、その可能性は100パーねえよ。
俺の目には死神に見えたから間違いないな。
本能が行きたくないと訴えているのを何とか抑えて、鞄を持って追いかけていく。
「いやー、ぜんぜん、暇だったから大丈夫だぜ。どんどん誘って」
何この坂柳さん怖い。
当たり障りのない内容なのが超怖い。
ゆっくりと首を絞められているような息苦しさがある。
もういっそのこそ本音でスパッと切り捨てられた方が楽なぐらいだ。
こうなってしまった以上は仕方ない。佐倉に振られて以降封印していたあのキャラを復活させよう。俺は山内、坂柳みたいな可愛い子に声をかけられて惚れてしまった愛の戦士だ。
佐倉のときの失敗は、佐倉に嘘が無かったから。
一方的に騙したことが失敗の原因だったはずだ。
今回は最初から相手が演じているんだから、こっちが演じ返しても文句を言われる筋合いは無い。
ノリノリで誇張されまくった嘘を交えつつ、話を盛り上げる。
坂柳もそれに乗っかって笑ってくれているので、事情を知らない人から見たら盛り上がっているように見えるかもしれないが、内心は冷や汗だらだらだ。
坂柳が笑うたびに俺の精神が削られていく。
ちゃっかり綾小路の連絡先を聞かれたから教えておいたが、俺から聞いたことをばらされたりしないよな。
それ以外で話したのが、山内はどんな人なんだってのがテーマだ。
あなたに興味持ってます。理由は考えてくださいねって感じだ。
理由ぐらい分かる。皆まで言うな、復讐だろ。
山内がどんな人なのか、今となってはむしろ俺が聞きたいぐらいだぜ。
アホな山内くんもそろそろ限界が近いんだから、新しい山内くんをどうにかする必要性を感じているからな。
とりあえずお調子者でアホだという印象を持ってくれたのなら良いんだが、どこまで俺の演技が通じたことやら、怪しくて泣きたくなっちまう。
ま、とにかくだ。坂柳とこうして繋がりを持てたことは、収穫だと前向きに捉えるか。
プラスになったのかマイナスになったのかは、怪しいけどな。
◇◇◇
バレンタインに櫛田ちゃんから、ザ・ギリチョコって名付けたくなるようなチョコレートを貰った。
人生初めてのチョコレートが腹黒女からのギリチョコかよ。
こういうので嬉しかったりするから、バレンタインってイベントは厄介なんだな。
貰ったのはいいけど、ホワイトデーまで俺は、ここにいるんだろうかね。
「……なんてなって、ん?」
義理チョコへの返しをどうするかを考えながら、教室に登校したら、変な空気になっていた。
何事かと周囲を伺うとすぐに理由は分かった。
変な噂がばらまかれたらしい。
元々は一之瀬が噂のターゲットだったはずだが、ここにきてターゲットが俺達のクラスにも広がったようだ。
本堂はデブ専だの、篠原は売春婦だの酷い噂だ。
噂が立つのはどうでもいいんだが、噂が立って話題になっているときに、綾小路がこちらの様子を窺っているのはどうしろっていうんだ。
いや、分かってますよ。空気の読めない山内に空気の読めない行動をしろってことですよね。それぐらい空気を読めますよ。綾小路の言いたいことぐらいばっちりわかるぜ。
こないだの平田の再現ってことだ。
つーことは、この噂を流したのは綾小路か。何の意味があるんだか。
どうすっかな。
クラスメイトと距離を置くことは、望むところだ。
ただ、噂の中に篠原が入っているのが問題だ。篠原をからかったら、流石に池も怒るだろうな。
この噂の意味が分からない以上、乗っかってみるという手がよさそうにみえる。
うーん。
三バカの関係をどうするのか、決め切れていなかったのが悪いな。
先延ばしにした結果が、急に選択肢として現れるんだから参ったもんだ。
池と須藤への思い入れが強すぎるな。それだけ心地いい関係だったんだろうけど、足かせになっているんじゃないか。
前向きに捉えるなら、三バカの関係性が消えれば、より自由に動けるようになる。
全部を捨てる覚悟で挑まない限り、化け物の相手なんかできないか。
いいさ、綾小路。お前の掌の上で、踊らされてやるよ。俺を躍らせたことを後悔するなよ。
覚悟さえ決まれば、やることは簡単だ。
「おい、篠原売春婦だったのかよ」
「池、怒るなよ。そっか、篠原のこと結構好きだもんな、認めたくないよな」
「本堂ー、お前はデブ専なん? タイプがあんま居なくて残念だったな」
クラスのヘイトを集める三連続ホームランでいかせてもらったぜ。
やっぱり、池に激怒された。
そして、須藤にも一緒に怒られた。
三バカの絆もこれで終わりだな。楽しかったぜ、池、ありがとな。
こんな形でしか終わらせることのできない俺を恨んで良いぞ。
その代わりといっちゃーなんだけど、化け物相手にやれるだけのことはやってみっから。俺の散りざまを楽しみにしてくれよ。
さってと、これで山内のクラスのポジションが、うざいけど仕方ないぐらいの立場から、ちょっとフォローできないよねってレベルにまで後退したな。
デッドラインは超えてしまっただろう。
デッドラインの魔術師の称号は返上しないといけないか。
ま、いいさ。
俺はもう居なくなるんだから。
チャンスは何度も来ないだろう。
おそらく次の特別試験。それが俺の最後の晴れ舞台だ。
そして、勝っても負けても、あとは消えるだけよ。
本日の報告(表)
噂に対して違う噂を流して封じることに成功していた。絡め手にも強い。
以後は、集中するため報告は控えます。
本日の報告(裏)
さーって、山内春樹一世一代の大勝負と行こうじゃねえか。
ところで綾小路が一之瀬の部屋に行ったって本当か?
一之瀬といえば佐倉や長谷部と並ぶ巨乳。やっぱり綾小路清隆は巨乳好きなのか。
だったら噂に対して軽井沢が好きではないと本人が否定したのも頷けるけどよ。