ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記   作:チームメイト

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月夜の晩に

 あれから3日。

 

 池をすっかり怒らせちまった。

 好きな人の売春疑惑をネタに大騒ぎされたんだから、そりゃ怒るだろうな。

 

 すっかり友達付き合いは無くなり、自由な時間が増えていた。

 

 佐倉への告白に続いて身勝手なことした自覚がある。

 

 だから孤立化しちまったことに、後悔は……ここでないって言いきれないのがダメなんだろうな。

 須藤だけは俺のことをメールで気にしてくれているが、どう考えても俺の方が悪いので、表立って話しかけてくることはなかった。

 

 後悔は、正直あるっちゃーあるけど、これでいいはずだ。

 

 俺はもうすぐいなくなる。

 池はいい奴だから、俺がいなくなったら絶対悲しむ。

 だったら、アイツを悲しませるぐらいならいっそのこと今から嫌われてしまった方が良い。

 春樹が居なくなったな、ざまーって笑ってくれた方が気が楽っしょ。

 

 なんてもっともらしいこといってっけど、全部、俺の事情であって池は関係ねえんだよなぁ。

 

 友達を作ったのが失敗だったのかな。

 初期の頃の綾小路みたいにドライに接しとけば、こんなことに悩む必要なかったじゃん。

 

 ホワイトルームから送り込まれてるんだから、いつかこうなることは分かっていただろ。

 シャバの世界に浮かれ過ぎだ、過去の俺。

 

 

「はぁ……なにやってんだか」

 

 自分で傷つける選択肢を選んでおきながら、謝りたい気持ちでいっぱいなんだからしょうもないな。

 

 ここで謝って、元の関係に戻るのなら何のために池を傷つけたんだって話になる。

 

 謝ることこそ池への甘えで、選んではいけない選択肢だ。

 

 三バカの絆なんてもんは、ドライに切り捨てろ。もうアホを装う必要はないんだから、これからはソロ活動で十分だ。

 

「散々綾小路のことをさんざんボッチ呼ばわりしてきたっつーのに、今度は俺がボッチかよ。自ら望んだ結果だけどな」

 

 ザ、自業自得ってやつだ。

 

 ダメだ。気持ちを切り替えよう。

 こんな時は、暖房をガンガン利かせながらアイスクリームを食べるっつー贅沢に限る。

 冬に食べるアイスこそ至高。

 

 コンビニ行ってくっか。

 

 

 十九時半。

 夜としては遅いとは言えない時間だが、既に月が出ていた。

 

 学校と寮とのちょうど間ぐらいに位置するコンビニへ辿りつく。

 

「よー、春樹」

 

 コンビニに入ろうとしたら、入り口のドアが開き、今は会いたくない奴が出てきた。

 池と並ぶ三バカの一角、須藤だ。

 

 話しかけられたことに戸惑ったが、誰が見ているわけでもない遭遇だから、問題ないんだろう。

 

「……健。こんな時間まで部活か?」

「居残り練って奴よ」

「大変じゃん」

「本当はもっとやりてーけど、冬は下校時間が早えからな。ま、その分勉強できっからいいけどよ」

 

 自然と勉強という言葉が出てきた。

 今の須藤のことは、もう脳筋とは呼べねーよな。

 

 中学レベルの勉強からスタートしたため、まだ学習範囲が追いついてない。

 そのせいで大きな成果は出ていないみたいだけど、授業に追いつくようになるとあっという間に成績が伸びそうだ。

 

 そうなったら池が須藤に勉強を教わる日が来たりしてな。

 楽しそうな未来への想像は、ちょっと気分を腫らしてくれる。

 どっちにしろ俺が見れない未来だけど。

 

「楽しそうだな」

「お前のアドバイスのおかげだろ。なんか買いに来たんじゃねえのか?」

「ちょっとアイスをな」

「新作出てたぜ、おごってくれよ」

「……ま、いいけどさ」

 

 アドバイスのおかげだって褒めておいて、アイスを奢れはずるいだろ。

 これを櫛田ちゃんがやったら狙ってんな―って思うが、須藤は天然でやりやがるから憎めねーんだよ。

 

 勉強をアドバイスしたのは夏だっけ。それをずっと続けている須藤が偉いんであって、俺のアドバイスなんか大したことなかったのにな。

 

 新作のアイスが2種類出ていた。食べたい方を2つ選んで買い物を済ませる。

 須藤に選択させてやらねーのは、ささやかな抵抗だ。

 

 夏ぐらいまではアイス買うのも頭を悩ませたが、今はこうやって何も気にせず、おごれる程度には、ポイントに余裕があった。

 Cクラスも色々変わったよな。つーか、0ポイントからよくCまで来たわ。

 あ、日記に書いて無かったっけ。俺達のクラスは龍園のクラスを抜いてCクラスになっている。

 

「ほら」

「どうせ食うのは寮だろ、持ってろよ」

「……しかたねえな」

 

 学校帰りの須藤よりも、手ぶらな俺が持ってろって言われたら断りにくい。

 

 だべりながら月夜を歩いて、寮まで帰って行った。

 

 須藤は今、勉強が楽しいらしい。

 ようやく教科によっては高校の範囲に入ったらしく、4月には何言っていたのか分からなかったことが、こういうことだったのか、と理解できたのがよほど嬉しかったみたいだ。

 

「知ってっか、ベーコンって帰納法を提唱したんだぜ」

「すっげーな」

 

 1学期の中間テストで堀北主催の勉強会で習った内容だ。

 そのときも須藤は覚えたばかりのベーコンと帰納法の話を披露してくれたんだが、半年以上空けてまた聞くことになろうとは。

 ほんとすっげーな。

 一度覚えて忘れたことにすら気づいてないんだろうな。

 

 やっぱ、須藤はこうじゃなけりゃな。

 変わりつつある親友の変わらないところが見れたのが、妙に嬉しく思えた。

 

「ほら、寮についたぜ」

「なんだよ、部屋まで持ってきてくれねえのかよ」

「は?」

「一緒に食おうぜ、部屋掃除したばっかだから来いよ」

「……強引だな」

「一人で食っても味気ねーだろうが」

 

 暖房をガンガンに利かせて食う計画は、頓挫か。

 

 ま、いいけどさ。すっかり須藤のペースなせいで、気分も崩されちまったしな。

 

 エレベーターを降りて、家主の須藤が扉を開けるのを待つ。

 

「おっせーよ、健。なんだよ、掃除しとけって」

「おら、入りやがれ」

 

 中から聞こえた声に回れ右をしたかったが、須藤の腕力に捕まって強引に部屋の中へと連れ込まれてしまった。

 

 ガシャンとガサツに鍵をかける音が聞こえる。

 

「……春樹」

「……寛治」

「何ボサっとしてんだよ、アイス溶けちまうだろ、入れ」

 

 強引に押し進められて、向き合うようにクッションに座らされる。

 仕方なくテーブルの上に買ってきたアイス2個を広げた。

 

「なんだよ、お前もそっちにしたのかよ」

「買ってたのかよ」

「それ寛治に渡せよ」

 

 須藤もカバンの中からコンビニ袋を取り出してアイスを広げた。

 新商品のうち俺が選んだものと同じものだ。

 

 期せずして、同じアイスが3つ並ぶ。

 

「……ほら、寛治」

「わりーな」

 

 ぎこちないなりに、池はアイスを受け取ってくれた。

 

「うっし、仲直りな」

「は?」

「ちょ、健」

 

 3人で向き合ってアイスを手にしているだけだ。仲直りの要素は弱いだろ。

 

「ああん? できねーのか」

「強引すぎるだろ」

 

 自分の意見を否定されるとすぐにこれだ。須藤はやっぱり成長しきれてないのかもな。

 

「だったら、俺に話があるぞ」

「話?」

「春樹、よく聞け。お前、寛治のことを怒らせたよな?」

「……まあな」

「あの騒動の後、寛治がなんつったか分かるか?」

「ちょ、まてよ、健、それは──んぐ」

「今、俺と春樹が話し中だ」

 

 話を遮ろうとした池を逆に腕力で黙らせる須藤。

 

「……どうせ、俺の悪口でも言ってったんじゃねえの?」

「だよな。普通はそう思うよな」

 

 普通はってことは、違うんだろうか。

 

「寛治はよ。大好きな篠原のことでからかわれて怒ったあとでよ、こう言ったんだぜ」

「……んぅ……も……やめ」

「春樹の奴、大丈夫なのか? 何かあったんじゃねえかって」

「…………」

 

 須藤にネタバレされて、池の抵抗が止んだ。

 

「空気読めねーとこあるけど、いつもの春樹だとあんなこと言わねーよなって」

「なんだよ、それ……」

 

 やらかした俺の心配かよ。

 どんだけ優しいんだよ、池。

 やばい、目頭が熱い。さっきまでドライに切り捨てて、ボッチで過ごすとか考えてたくせに、泣くな、俺。

 

「……寛治、その……悪かったな」

「……いいけどよ。大丈夫なのか?」

「もう……あんなこと言わねーよ、悪かった」

 

 こうなった以上は、もう俺の負けだな。

 

 佐倉のときにやっちゃいけないことって分かっていたはずなのに、本当に俺は最低な人間だ。

 反省しかない。

 

 言い訳しながら人を傷つけるのは、もう終わりだ。

 ホワイトルームの事情で他人に迷惑をかけちゃダメだな。

 

 友達との関係よりも、ホワイトルームを優先させたらダメなんだ。

 友達を裏切らずに、決着をつけないと。それぐらいの制限、どうにかしてみせろよ、俺。やらかしたことを反省して、新たな決意を固めていく。

 

「よーし、仲直りな。いい加減食わねえと溶けちまう」

「俺のアイス、形がメチャクチャなんだけど」

「さっき力強く握ってたじゃん」

 

 須藤に止められて、もがくときに池はアイスを握りしめていた。

 カップアイスが歪に歪んでいる。

 

「春樹、交換しようぜ交換」

「やだよ。おごりなんだから、それで我慢しろ」

「……ま、いっか」

 

 3人で食べるアイスは美味しかった。たぶん暖房をガンガン利かせながら一人で食べるアイスよりも何倍も。

 

「なんかあれだな、桃園の誓いみたいだな」

「なんだそれ」

「知らねーのかよ、三国志だ、三国志」

 

 須藤の覚えた知識、第二弾だ。

 

「義兄弟の奴だろ、桃園でもねえし、宴でもねえじゃん」

「こまけーことはいいだろ、雰囲気だよ、雰囲気」

「健と義兄弟はちょっとなぁ」

「俺もちょっと無理だわ」

「あぁん?」

 

 その後も楽しくワイワイいいながらアイスを食べた。

 持つべきものはいい友達だけどさ、桃園の誓いは無理だわ。

 

 俺は2人とは一緒に卒業することなんてできやしねーんだからさ。

 一緒に死ぬなんて約束はできない。退学するのは俺1人で十分だ。

 

 結局、桃園の誓いはバラバラに死んだはずだけどな。

 

 

 

 

 本日の報告(表)

 なし

 

 本日の報告(裏)

 こうなっちまった以上は仕方ねーな。

 俺は池と須藤の友達で居続けないとダメだ。

 退学のことなんか欠片も知りませんでしたって感じでな。

 

 そんな道化で居続けること。それが嘘つきの俺が、親友たちに対して出来る最後の恩返しだろうから。

 それが裏切ることになるのか、ならないのか分かんねーけど、自分から友達を裏切ったりはしない。

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