ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記   作:チームメイト

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最後の試験、終了

 櫛田ちゃんへの協力依頼は、上手くいった。

 

『頼む。俺、退学になりたくないんだよ』と頼み込んだ結果、動いてくれることになった。

 

 泣き落しかよって思われそうだけど、勝算はあったので予想通りだ。

 

 櫛田ちゃんって、頼られるのに弱いところあるんだよな。

 最初は渋られたが、

 

「櫛田ちゃんしか頼れる相手が居ないんだよ」

 

 って言葉がクリティカルヒットになったっぽい。

 

 そこまで言われちゃったら仕方ないなぁって感じで、やたらもったいぶられて、ちょっとイラっとしたけど、無事に櫛田ちゃんが仲間になった。

 

 いつ裏切られるのか分からない仲間だけどな。

 

 信用はできないけど、能力の高さは折り紙付きだ。

 

 退学を避けるために綾小路に批判票を投票を集めたいって言ったら、一瞬無言になったものの、須藤君や寛治君は友達だもんねって納得してくれた。

 ターゲットの名前を聞くだけで、理由を察するあたり頭が回る。

 俺の次に退学になりやすそうなのが池や須藤。そこを避ければ、綾小路という選択肢が出ることは不思議ではない。

 

 綾小路グループができたとはいえ、大多数の生徒にとっての綾小路は、ちょっと陰気で足が速い生徒という認識止まりだからな。

 

 頼み込んだのは夜8時ぐだいだったが、その日のうちに5人の票を固めたらしい。

 流石すぎる。

 

 俺なんかせいぜい、池や須藤とお互いに賞賛票を固めようぜって約束したぐらいだ。

 まだ綾小路への批判票は依頼していない。

 

 体育祭での活躍以降、綾小路と距離を置いている池なら賛同してくれそうだけど、須藤の方がちょっと読めないからだ。

 なんだかんだ須藤は友情に熱いからな、批判票の依頼とかはしにくい相手だ。

 

 票数読みの段階で危なかったら頼むしかないけど、ギリギリまでは保留でいいだろう。

 三バカの票とか関係なく綾小路で決まってくれたら最高だな。

 

 そんな甘くねーんだろうけど。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 2日目にさらに7人追加して12人。

 3日目には合計23人と順調に票固めが進んでいる。

 

 俺がしたのは、櫛田ちゃんに電話しただけだ。あとはほとんど任せている。

 一応、坂柳にアドバイスされた狙うべき相手をそれとなく伝えたりはしているが、基本的には櫛田ちゃんのアドリブだ。

 

「順調っぽいとはいえ……軽井沢はダメだろ」

 

 誰の票を固めたかはその都度教えてもらっていた。

 

 初日は、櫛田ちゃんと仲の良いグループの票が固まった。2日目にクラスの無所属というか、ちょっと浮いてる子を狙って勧誘、この時点で保留にしていた池が櫛田ちゃんに捕まった。

 俺が勧誘するなら須藤とセットになってしまうが、櫛田ちゃんなら池単独でも不自然ではないから、何も問題は無い。

 

 この時点で残っているのは、既にグループを組んでいる連中ばかりだ。

 

 3日目の今日、どうするのかと思いきや、いきなり大きなグループを狙ったらしい。

 軽井沢のグループは、俺の見たところ7,8人ぐらいで票を固めていたと思われる。

 綾小路への投票に引き込めればでかいけど、軽井沢はダメだろ。

 

 軽井沢に知られたら、綾小路の耳に入ってしまうからな。

 

 櫛田ちゃんは、綾小路と軽井沢の関係を知らなかったのか、知ってて勧誘したのか。

 

 定期的にアドバイスをくれる坂柳が、次は軽井沢さんのグループをって提案してきたのは、絶対に知ってて、提案してきただろコイツって思ったけどさ。

 最初から軽井沢の名前を挙げるのではなく、狙いやすい相手から名前を挙げて、アドバイスに対する実績を作ってから本命と思われる介入をはじめるんだから、嫌らしい相手だ。

 葛城派が怖い相手と評したのがよく分かる。

 

「そうだよな、軽井沢のグループは人数多いし、引き込まないとダメだよな。ありがとう坂柳ちゃん」

 

 と感謝しながらそのアドバイスをスルーして伝えなかったのに、結局、櫛田ちゃんが自主的に勧誘するとか、この歴史の修正力ってなんだよ。

 神は俺にどうしろっていうんだ。

 

 綾小路を遠ざけたまま水面下で動く。

 これができればベストだったんだけどな。

 

 投票日は明後日だ。

 せめて引き込むのが、明日であればよかったのに。

 

 今日知られてしまった結果、怪物に明日1日動く猶予を与えてしまった。

 これがどう影響してくるのか

 

 それにしても、しっかりというかちゃっかりというか、綾小路が軽井沢みたいな影響力のデカい生徒を抑えているあたりさすがだ。

 この辺も当然狙ってのことなんだろうな。

 

 綾小路グループだけで仲良くやってくれてたらいいのによ。

 まったく面倒な相手と戦う羽目になっているぜ。

 

 とはいえ、表面上は軽井沢グループも攻略してクラスの半数を抑えた。

 かなり有利にはなったといえる。

 

 全然、有利になっているように思えないけどさ。

 

 怪物がどう動くのか、予想がつかねえのが怖い。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 翌日。何事もなく一日が終わるかと思いきや、放課後になって綾小路ではなく堀北が動いた。

 放課後、クラスが解散する前に話し合いを求めてきた。

 

 綾小路が動かしたんだろうか。

 

 どう動くのかと思いきや、堀北が取った行動は俺にとっては最悪だった。

 

 堀北は、綾小路に投票しようとしている大きなグループが出来上がっていることを指摘して、その犯人として俺の名前を名指しであげやがった。

 

 綾小路と親しい堀北は、グループには勧誘していない。

 何よりも俺が犯人だと知っているのは、櫛田ちゃんと坂柳だけだ。

 

 綾小路が動いたとしても、俺まで辿り着くことはないと読んでいたが、見込み違いだったらしい。

 

 どこから情報が漏れたのか。

 

 こりゃ櫛田ちゃんが裏切りやがったな。

 坂柳ならもっとひどいタイミングで手札を切るはずだ。信用できない相手なのに、変な信用がある。

 

 終わった。

 俺の最初で最後の大勝負は、これで負けが決定だ。

 

 裏切らなければ勝ち目がある勝負は、裏切られた時点で終わりだからな。

 

「退学するべき生徒は山内くんよ」

 

 堀北の正論に、そのとおりと言いたくなるぐらいだ。

  

「あ、あれは俺じゃねえし!」

 

 それでも俺は、内心、拍手を送りながら、時間を稼ぐ。

 

 チェックメイトだ。もう俺の負けは決まった。じゃあ、これから俺はどうするべきかっつー話よ。

 最後に俺に何かできることがあるんじゃないか。

 

 

 僅かな時間を思考に費やす。

 

「…………」

 

 できることは2つか。

 

 1つ目はヘイトを徹底的に俺に集めること。

 堀北によって既に致命傷を与えられているが、見苦しくあがいて、こいつを退学させて良かったって空気を作る。

 こうなったらとことん、居なくなったのが山内で良かったって思わせてやるぜ。

 道化を演じるのは得意になっちまったしな。

 

 そして2つ目だ。

 

「犯人は俺じゃねえよ、あれは寛治に依頼されたんだ。なあ!?」

「は!? 俺は違うって」

 

 こういう時に利用させてもらって悪いが、池を1回クッションに使う。

 あとで何か奢るから許してくれ。

 

 さあ、動け堀北。新しい犯人を証言してやったぞ。

 

「そうなの? 池くん」

「いやいやいや、違う……」

 

 池は言葉に詰まっている。

 そりゃそうだ。自分以外の名前をあげれば否定になるとはいえ、ここで名前を挙げるってことはそいつを売るってことだ。

 簡単に名前を挙げるなんてできるわけがない。

 俺は池の名前を挙げたけどな。

 

「答えられないのなら、あなたが首謀者なのかしら?」

 

 堀北の追及に、ようやく池が音を上げた。

 

「違う、だから‥‥…桔梗ちゃんだよ。桔梗ちゃんに困ってる人を助けてあげてって頼まれたんだ。綾小路に入れて欲しいって」

 

 それだ。その言葉を引き出したかった。

 

 俺にできること2つ目だ。

 櫛田ちゃんの危険性を伝えることだ。

 

 別に、裏切られた腹いせってわけじゃねーよ。

 

 彼女の危険性を危惧してのものだ。

 綾小路に胸を揉ませた件で二面性があることは知っていた。

 それは別にどうでもいい。みんなに優しい櫛田ちゃんが聖人君子じゃなかったのは、かなりショックだったけど、世の中なんてそんなもんだろう。

 いや、本当にショックだったけどさ。

 

 問題なのは、体育祭で見せた動きだ。

 櫛田ちゃんは、龍園のクラスに出場表をリークしていた。

 これは明確にクラスの足を引っ張る行為だ。

 

 はっきりと確証を得ているわけではないけど、船上試験のときも櫛田ちゃんが優待者だったグループが全員正解しているのも怪しいといえば怪しい。

 

 櫛田ちゃんは簡単に言えば、いつクラスに牙をむくのか分からない生徒だ。

 そして、そんな櫛田ちゃんがクラスのほとんどの生徒から信頼を得ている。

 これがどれだけ歪で危ない構図になっているのか。

 

 今のCクラスは、いつ爆発するのか分からない地雷原の上で、地雷が埋まっていることすら知らずに、無邪気に遊んでいるようなもんだ。

 

 彼女が地雷だったのなら、地雷が埋まっていることをクラスに伝えることが、俺がこのクラスにできる最後の貢献になるはずだ。

 

 

 ここからは、ぶっちゃけになるけど、今回、櫛田ちゃんに動くように依頼したのは、その辺を確かめておきたかったからだったりして。

 

 櫛田ちゃんが裏切らなければ、体育祭のリークについては、目を瞑ってもよかった。

 が、裏で綾小路や堀北とどんなせめぎあいがあったのかは知らないけど、退学が掛かったクラスメイトを裏切るような生徒なら、ここで追及しておく必要がある。

 

「そ、そうだ! 俺、櫛田ちゃんに誘われたんだよ! 綾小路退学にさせようって!」

 

 みんなの注目が櫛田ちゃんに集まっているうちに、最悪の裏切り行為をしてみせたぜ。

 ちょっとだけ気持ちいい。

 

「皆だって櫛田ちゃんから勧誘されたよな? な?」

 

 俺が橋渡しをしてもらったんだから、当たり前の話だけどな。

 

「そんな、ひどいよ山内くん……私、助けてっていうから頑張ったのに」

 

 机にうつ伏せになり、苦しそうな声をあげた。

 

 途端に被害者と加害者が入れ替わる。

 どちらが嘘をついているとしたら、俺が嘘をついたと思われるのは仕方ない。

 

 それだけ今までに積み上げた信用の差があるからな。 

 今この場では、覆しようがないだろう。

 

 俺にできることは、せいぜいその強固な信用に少しでもいいからヒビを入れることだ。

 

 頼まれたからとはいえ、クラスメイトを退学に追い込むために率先して動いた。

 そして、裏切られて追いつめられた結果とはいえ、秘密を守らずに、みんなの前で俺の名前を明かした。

 

 この2つが櫛田ちゃんの分厚い信用にどう影響するのか。

 

 無条件で信用してもいい相手じゃないってことに、皆が少しでも気づけばそれで十分だ。

 俺がクラスにしてやれる置き土産なんてこんなもんだろう。

 

 

 その後、坂柳のことまで追及されて、山内のクラスからの信用は地へと落ちて、その場は解散となった。

 

 堀北よ、一言だけ言わせてくれ。

 坂柳と付き合うために身勝手な行動を取っただって、冗談じゃねえよ。

 あんな化け物死んでも、ごめんだぜ。

 

 そう叫びたかったけど、俺の擬態が完ぺきだったって裏付けってことで許してやっか。

 

 

 さーてっと、あとは、明日退学を待つだけの身だな。

 

 坂柳が賞賛票をまとめてくれてる?

 あんなもん信用するほど、アホじゃねえっつーの。

 

 

 結局、俺がやったことは、坂柳に相談して坂柳の指示を受けて、櫛田を動かした。

 それで、失敗して、櫛田が危険な生徒であるってことをクラスの皆に伝えただけだ。

 

 

 もう少し、上手いやり方があっただろうって?

 

 仕方ないじゃん。

 

 池や須藤との絆のおかげで、友達は裏切らねーって決めちまったんだからさ。

 

 綾小路は化け物でムカつくけど、やっぱ友達なんだよ。

 友達を裏切らずにできるのは、誰かの操り人形になってみせるぐらいだろ。

 

 俺はあくまでも退学したくないから相談しただけで、ターゲットが綾小路になったのは坂柳の判断だし、票をまとめたのは櫛田だ。

 

 これぐらいが裏切りたくない友達と勝負しなければいけない事情を抱えた落としどころとして、いい塩梅ってもんっしょ。

 

 つっても、まともに勝負しても勝てたとは思わねーけどさ。

 

 最後の最後になって、後悔しない行動を取れたから、納得してるぜ。

 

 




今日も1話だけです。次回は明日17時に更新します。
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