ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記 作:チームメイト
「寛治、名前出して悪かったな。……詫びってわけじゃねーけど、3人で飯食いに行かね? おごるからさ」
「ほんとだぜ、どうしようかと思ったじゃねーか」
「……部活サボるか。それどころじゃねーしな」
騒動が終わった後、3人で食事に行くことに決まった。
須藤に部活をサボらせたのはアレだけど、明日には俺が居なくなる。
最後の時間を惜しんで何が悪い。
どうせポイントを余らせても仕方ねーし、盛大に使いまくってやるか。
万が一、退学にならなかったらそんときゃ山菜定食の日々を送ってやんよ。
敷地内に用意された飲食店の中で、一番高額な中華料理の店を選ぶ。
「おい、いいのかよ」
「最近あんま使ってなかったからな、任せとけって」
「にしても、足りるのかよ。ここ下手すりゃ1人で1万超えるって聞くぞ」
「好きなもん頼んでいいから、こんぐらいしねーと詫びにはなんねーだろ」
残されたポイントは10万弱だ。
池と須藤で5人前食べたとしても十分対応可能な範囲だ。
テーブルが回る店とか、本当にあるのかよ。
無意味に回したくなるじゃん。
「…………」
メニュー表を開いた時に、金額にちょっとビビっちまったのは内緒な。
って須藤、流石に楽しみ過ぎじゃね?
お、おい、池、もっとバランスよく頼め、高い品ばっか頼もうとすんなよ。
内心、冷や汗をかきながらも余裕ぶって食事を進める。
せっかくの高級中華なのに、味はあんま覚えてないっていうね。
もったいねー。
ほんっと、贅沢な食事だぜ。
◇◇◇
1時間後。ようやく食事が落ち着いた。
地味に計算していたけど、どうやら足りそうだ。
「食った食った。これだけ食ったのは、夏以来だぜ」
「客船か、あれは良かったよなぁ。全部無料でさ」
「Aクラスに絡まれたのはうざかったけどな」
「あったあった。テーブルマナーとかくそくらえだっつーの」
思い出話に花が咲く。
豪華客船で入ったレストランは、メニューもフランス語で書かれており、池や須藤にはどうしようもなかった。
俺は読めたので、これなんかよさげじゃね? とか言って勧めたりしたっけな。
まともなコース料理が出てきたものの、テーブルマナーはフォローのしようが無かった。
ちなみに、今日の会場は個室なので、作法とかは気にする必要はない。
中華料理の作法とか知らねーしな。
個室というのも、わざわざこの店を選んだ理由だ。
カラオケボックスとかでもいいけど、騒がしいからな。
「夏といえば、寛治のパンツ泥棒な」
「あった、あれは酷かった」
「あれは本当に俺じゃねえよ」
あれはって言ったら、あれ以外の何かに池が犯人の奴があるみたいじゃん。
プールの盗撮失敗の件は、触れないでおいてやるか。
うかつに触れて、盗撮熱が再燃されても困る。
今の池ならそんなことをしないと信じたいけど、池はやるときはやりそうだから困る。
「大体、軽井沢なんか興味ねえっつーの」
「興味がある篠原とはどうなってんだよ?」
「う……まだ付き合ってねえよ」
「まだってなんだよ」
「そのさ……告るタイミングが、わっかんねー」
告る告らないまで来てたのか。
前はからかわれたときに大袈裟に否定していたのに、本当に池は変わったな。
お互い好きっぽいんだから、さっさとくっつけよと思うけど、素直になれないもの同士っぽいからタイミングは難しそうだな。
他人の恋バナは楽しいぜ。
「なっげーな。夏からだろ」
「うっせー。大事にしてんだよ。大体長いっつったら、健の方が長いだろ」
「あぁん?」
「痛い痛い痛いっ、冗談だって」
こんなところは変わらねえんだよなぁ。
いい加減、勉強しろよ。
「体育祭で名前呼びだっけ?」
「よく許してもらったよな。体育祭酷かったのに」
「うっせー、俺だって反省してるっつーの」
須藤の活躍と暴走が見れた体育祭。
最終的には、須藤が頑張って、堀北から鈴音呼びの許可をもらっていた。
あれからしばらくはことあるごとに鈴音、鈴音ってうざかったっけな。
名前を呼べるのがよほどうれしかったんだろうけど、連呼のたびに好感度は下がっていたような気がする。
「健はいいよな。体育祭はまだ2回あるだろうから、活躍のチャンスじゃん」
「おうよ、来年は今年以上にやってやるぜ。お前らも特訓しとけよ」
「と、特訓!?」
「基礎体力が足りてねえんだよ。春休みは走り込みな」
「勘弁してくれよ、春休みは休むって決めてんだ」
「起こしに行くから覚悟しとけよ」
「ひぃいいい、健、冗談だよな、冗談」
「俺はやるぜ」
「無理無理無理、無理だから。な、春樹からも言ってやってくれよ」
「…………」
「春樹?」
「あ。悪い、ちょっと考え事をな」
須藤のスパルタ教官役か。
冗談なんだろうけど、実現したら面白そうだな。
少なくとも明日には居なくなる俺には、絶対に訪れない未来だ。
くっそー、こんなんで退学したくねえな、とか思っちまうのが、悔しい。
「春休み、楽しいこと出来たらいいな」
「そのためにも、明日乗り切らねえと」
「……春樹は大丈夫なのか? かなりやばくないか?」
「な、なんとかなるっしょ。こうなっちまったのも自業自得だし」
避けようと思えば避けられた事態だ。
理由があったとはいえ、受け入れたのは自分の判断。
「鈴音も、あそこまで言わなくてもよ」
「堀北は、クラスのために動いただけだろ、悪かったのは俺だよ。綾小路には悪いことしちまったし」
「あれってやっぱ本当なのかよ」
「退学したくないから櫛田ちゃんに頼んだってのは本当だ。綾小路になったのは、なんか流れでそうなっちまった」
坂柳の判断で決まったことだから、嘘は言っていない。
「今からでも呼びかけようぜ、まだ出来ることあるだろ」
「そうだぜ、春樹。篠原に頼めば、結構女子の票集まると思うぜ」
「俺のことは大丈夫だから、止めとけ。今、動いたら健や寛治が狙われるっしょ」
「けどよ」
「いいから。ほら、湿っぽいのは終わりな。締めのデザート食おうぜ、デザート」
「……本当にいいんだな?」
「いいっつーの。俺、小籠包、1回食ってみたかったんだよなぁ」
「……うっし、食うか。俺は杏仁豆腐と、ゴマ団子と、ふかひれラーメン」
「ラーメン!? 健、まだ食うのかよ」
「締めはラーメンっつうだろうがよ」
須藤の食欲にポイントが怖くなったけど、空気をガラっと変えてくれたのは感謝しかない。
こいつらとまだまだ一緒に過ごしたかったな。
それだけが本当に心残りだぜ。
最後に、飯食いながら、思い出語り出来てよかった。
ありがとうな、健、寛治。
今日も1話投稿です。明日17時に。