ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記 作:チームメイト
「そして批判票の1位は、33票獲得した生徒。残念ながらおまえだ、山内春樹」
「さ、さんじゅうさんひょう!?」
想定していたけど、酷い数字だ。
クラスの人数が俺を除いて39人。池や須藤は賞賛票を入れると言ってくれたから、批判票投票者は最高でも37人だ。
37人の批判票-2(池・須藤の賞賛票)=35票
これが山内が取り得るマックスの批判票で、結果は33票だ。
残りの差が2票。
平田が自分を退学にして欲しいって申し出ていたことを考えると、退学候補の筆頭だった俺に賞賛票を回した可能性が高く、それで辻褄が合ってしまう。
つまり、池、須藤、平田の賞賛者以外は、全員批判票を入れたってことじゃん。
自分で誘導しておいてアレだけど嫌われたもんよ。
ゲーム仲間の宮本とか、数少ない友達の博士とかまで入れたのは地味にショックだったり。
「嫌だ嫌だ嫌だ! 俺が退学だと、冗談じゃねえよ」
見苦しく騒ぐ。
池や須藤は目を伏せていた。
そりゃそうか。批判票は、須藤が2位で池が3位。
一歩間違えれば、自分が俺のポジションにいたかもしれないんだから、見ていられないよな。
お前らは絶対に俺みたいになるんじゃねえよ。笑って卒業しろ。
それが俺の望みなんだからさ。
「なんでなんだよ。こんなふざけた試験。ふざけるなよ」
「この決定は取り消せないぞ山内」
「うるっせぇーーーーーー!!!」
茶柱の無情な声に対して心の限り叫ぶ。
「そうだ。坂柳。アイツに話聞いてくださいよ。俺に賞賛票入れるって約束だったんすよ。約束を守らないなんて許されないだろうがよ」
俺はAクラスの組織票によって守られるって約束だったのに、どうやらその票は綾小路に回ったらしく、綾小路が賞賛票42票集めてプロテクトポイントゲット。
綾小路は1回だけ退学を回避する権利を手に入れた。
そっか、山内を綾小路って書き間違えたんだろうな。Aクラスのうっかりさん。
って、んなわけあるか。
やっぱり裏切りやがったな。ここまで想定された裏切り行為というのも珍しいぐらいだ。
証拠を残さなかった時点で、私、裏切りますって言ってるようなもんだったからな。
Aクラスの坂柳は、要注意生徒だっつーのが、これでクラス内に浸透しただろう。
俺みたいな最下位生徒を切り捨てるために、能力の一端をばらすって、今後を考えたときの収支的には絶対マイナスじゃん。
その辺の計算どうなってんのよ、坂柳。ぶつかられた私怨に走り過ぎじゃね?
「ひでぇよ、ひでーよ」
気分は、投げれば大丈夫なメジャーリーガーのソングよ。
俺はアウトを取るんじゃなくて取られた側だけどな。
「早く退室したまえよ。君はみじめで醜く、救いようのない不良品というわけか」
高円寺の煽りを待って、最後のひと暴れといこうか。
大丈夫だよな、高円寺。てめーのことを信じてるぜ。
「ぁああああああああ!!」
椅子を握りしめて高円寺に向かって突貫する。
振り下ろそうとした椅子はあっさりと高円寺に止められて、さあカウンターが来るかってところで茶柱が止めた。
今のを見てたか?
性格に難があるけど、高円寺は本当に能力が高いんだぞ。
うまく使いこなせば絶対にCクラスの利益になるはずだから、簡単に切り捨てるんじゃねえよ。
高円寺が俺を煽ったのも、俺を切れさせて俺にヘイトを集めるのが目的だったんだろ?
普段は唯我独尊のくせに、必要だと思ったことなら、しっかりできる生徒じゃねえか。
このことに、どれだけのCクラスの生徒が気づいてるんだろうな。
問題は、高円寺が何を必要とするのかが分からないから、計算できないってことだけどさ。
そこは、今後の課題ってことで上手く使えよ。
「これ以上はやめておけ山内。退室だ」
これだけ見苦しく暴れたんだ。
山内は切られても仕方ねえって思ったよな?
ああは、なりたくないって思ったよな?
なら、頑張れよ。俺はここまでだけど、みんなはまだこっから戦い続けねえと行けねえんだからさ。
これで俺の仕事は、ぜーんぶ終わりよ。
もうCクラスのためにできることはない。
だから──だからさ。
「う、うああああ!」
ちょっとだけ泣いてもいいよな。
このクラスが好きだったんだからさ。
◇◇◇
教室を出た後は、無言で茶柱の後をついていく。
機械的に右足と左足を交互に出すだけだ。
「……落ち着いたか?」
「……茶柱先生こそ、冷静っすよね。教え子が1人消えるっていうのにさ」
「今年は例年になく粘ったが、毎年のことだからな」
その声色は淡々としていたようで、どこか暗い色が感じ取れた。
感情を殺す努力をしているだけなのかもしれない。
入学当初に見せていたやる気がなく生徒を突き放していたのも、茶柱先生なりの自衛だったのかもな。
「どうせ欠陥品が消えて、せいせいしてるんでしょ、いいっすよ、それで」
「山内。確かに私はクラスの生徒に対して欠陥品だと言った。それをどう受け止めるのかは自由だ」
反発させてやる気を出させようとしていたとでもいうのかよ。今は、そんな時代じゃないっしょ。
茶柱先生も色々抱え込みすぎて、ちょっとおかしくなってるのかもな。
まともな人間がこんな学校で教師なんかできるわけねえか。
「この結果もっすか?」
「この結果もだ。お前の退学は覆らない。大きな挫折になるかもしれん。だが、この学校で学んだこと、経験したことを今後の人生にどう生かすのかはお前次第だ」
「……意味分かんねー」
いや、分かるけど、山内くん的にはこう言うしかない。
この学校で学んだことって何だったんだろうな。
色々あった気もするけど『友達は裏切るな』これに尽きるかな。
ホワイトルームでは学べないことを1つでも学べたんだから、この学校に通う価値があった。
ま、そういうことにしといてやるか。