ホワイトルーム出身の山内による綾小路清隆観察日記 作:チームメイト
豪華客船最高すぎるだろ。
4月にポイントを使いきって以降、5月は0ポイントのまま過ごし、6月7月は多少はポイントが入ったものの、山菜定食以外の昼食を食べたら使い終わる雀の涙程度のものしかなかった。
来る日も来る日も生物の森に明け暮れた日々からの豪華客船の無料開放とかたまんねえ。
ここぞとばかりにすべての施設を網羅する勢いで、食べたり遊んだりとあばれまわっている。
特別試験もやってるけど、アホの山内くんは出る幕が無い試験だからほとんど関係ねえし。
こういう頑張りたい奴が頑張るだけの試験は楽でいい。
何もしなくてもクラスの足を引っ張らないってのが最高すぎる。
試験以外は、ほとんど一日中遊びまくって、夜も最高だった。
そんな夜の一幕。
「どうせなら春樹も同じグループなら良かったのに」
「それな。なんで俺だけ別なんだよなぁ」
俺の部屋は、三バカ+博士を加えた4人が同室のメンバーだ。
気心の知れた奴らと寝泊まりするのは、気楽でいい。
交代で風呂とかも済ませてあとは寝るだけだが、ベッドに座ったまま身体を起こして池や須藤と語り合っている。
だべっているのはいつもと変わらないのに、いつもなら解散している時間だってだけで妙に楽しい。
「一緒のグループになりたかったのは、俺らじゃなくて佐倉だろ」
「ちょっ、博士がいるところでいうなよ」
「いいじゃん別に。隠してないんだろ」
「そうだけどさー、はずいじゃねえか」
こういう恋バナみたいなのを1度してみたかったから、夢がかなった形だ。
ただ、その恋バナ対象で出てくる相手が惚れたって言う設定にした佐倉じゃなければ、なおよかったが、そこまで求めるのは我が儘すぎるか。
「佐倉殿がどうしたでござるか?」
「なんでもねえよ、気にするな」
博士だけは離れた位置で携帯端末を操作していた。
話に入ってきそうになったので、し、し、と手を振って追い払う。
博士は、きょとんとしたものの再び携帯端末と向き合った。
流行りのアニメを見ているらしい。面白かったら教えてもらいたいが、山内のキャラクター的にどうなんだ。控えた方が無難か。いっちょん分からんとかうかつに使わないようにしねえとだな。そんなもんアニメキャラぐらいしか使わねえよ。
「いいよな、佐倉と松下と一緒とか」
今回の試験は各クラスの生徒を12の干支グループにそれぞれ分けて、干支ごとに集合してその中から選ばれた嘘つきを当てると言った感じの試験だ。
池たちのグループは、池、須藤、佐倉、松下が同じグループの仲間だ。
俺が佐倉に惚れている設定というのもあって、佐倉と同じグループなのを何かと自慢してくる。
佐倉のおっぱいを眺められるのは最高だと思うが、佐倉もいいが松下も気になるところだ。
猫被りといえば大げさだけど、松下も俺と似ているっつーか、どっか演じているものを感じるんだよなぁ。
試験の結果発表の時とか分かりやすい。
結果が出た時に、池みたいに感情を出す奴は出すし、綾小路とか幸村みたいに出さない奴は出さない。
基本その二択だが、松下の場合は違った。
友達の前では、わーって喜んで見せるものの、友達が離れたらすぐに感情を消している。あれは周りに合わせているだけっぽいんだよなぁ。
俺がそうならないように注意しているから気づいたことで、1回気づいてしまうとどんなキャラなのかが気になってしまうのは、観察者としての性だろうか。
変に目立ちたくないから遠くから見守るだけだけどな。
これが試験なら合法的に堂々と接触できたのに、別グループになったのが残念だぜ。
「俺と佐倉はいいけど、健はどうなんだよ。堀北を下の名前で呼ぶってのはどうなったんだ?」
「……まだだよ、どうすりゃいいんだ。聞いたら許可出してくれんのか?」
「無理じゃね?」
「なんだと寛治」
「痛い痛いやめろ、冗談だって」
池と須藤はベッドが隣なため、ちょっと身を乗り出せば攻撃できるからこんな悲劇が起きる。ベッドを決めるときに須藤から離れた位置を確保したのはこのためだ。
池は計算が甘いんだよ。
「なあ、どうやったら俺が鈴音と付き合えると思う?」
「あきらめ──痛いってじょうだん、タップ……タップしてるからぁああああ」
池は少しは学習しろ。
「うーーん、堀北か。堀北……」
冗談で返すのは簡単だが、たまには親友のために真面目なアドバイスでもしてやっか。
須藤と堀北が釣り合っているとは思えんが、応援ぐらいはしてやらないとな。
応援するのは付き合うまでで、いざ付き合ったら堀北みたいな美少女と付き合うとは、うらやまけしからんってなるんだけどさ。
「勉強したら?」
「よーし、春樹もこっち来い」
「絶対殴る気だろ、いかねーよ。つーか、マジな話だから聞けよ」
池をアイアンクローしながらこっちに来いって言われても誰が行くかっ。
俺の言葉に耳を傾ける気になったのか、須藤は池を離した。
池が心なしか小顔になってイケメンに──なるわけねえか。
「堀北って付き合い悪いだろ?」
「ああん? 鈴音の悪口言ってんじゃねえよ」
「最後まで聞けって。遊びとか飯とかはお断りって感じだけどよ、期末試験も俺らの勉強に付き合ってくれたじゃん。クラスのためとか理由はあるんだろうけど、勉強なら付き合ってくれるんじゃねえの」
三バカは平田への反発で、平田主導の勉強会から距離を置いている。そんな池や須藤を期末試験から救ってくれたのは堀北だ。
嫌味とセットなのが玉に瑕だが、今のベタ惚れ須藤なら嫌味を言われても不機嫌になったりはしないはずだから、何も問題は無い。
いや、須藤なら怒りだしても驚かないけどさ。
「勉強か……勉強」
須藤は嫌がっている。
そりゃそうか。勉強嫌いじゃなければここまでひどい成績になっていないはずだ。
「まずは接点を増やさないとどうしようもないじゃん。それに、勉強する気になったけどやり方が分からないから教えて欲しいって頼めば、夏休み中に合う口実にもなるっしょ。おまけで、健が勉強できるようになったら堀北も見直すかもよ」
見直しても惚れはしないと思うけどな。
それは言わないでおこう。アイアンクローを避けるために。
「会う口実か、そうだよな。夏休みどうするか悩んでたんだ。春樹、お前天才だな」
「完璧な作戦じゃん。どうしたんだ春樹」
「いつも言ってるじゃん、俺はやるときはやる男だっつーの。恋愛マスターに任せろよ」
問題はそのやるときがいつ来るのかだったりして。
親友の恋愛相談ぐらいしかやらない男とかどないやねん。
「なあ、なあ、春樹。俺は、俺は何をやったらいいんだ?」
須藤が堀北から見直される前に、池から俺が見直されてしまった。
「寛治は……自分の気持ちを考えるとこからじゃね?」
「どういうこと?」
説明が難しいな。どうすっか。
「健は櫛田ちゃんのこと好きだろ?」
「好きか嫌いかならそりゃあな。ただ1番は鈴音ってとこは譲れねえけどな」
「俺も櫛田ちゃん好きだ。可愛いし、気さくだし、胸もあるしさ。櫛田ちゃんのことを好きにならない男なんていねーじゃんって思うわけよ」
「…………」
「櫛田ちゃんと付き合えるなら付き合いてえし、エッチできるならエッチしてえよ。ただこの好きはなんつーか、アイドルを好きっていう感覚っつーか。健なら分かるだろ」
「なんとなくわかるわ。ちょっとちげーんだよな」
ぶっちゃけるなら、あんな二面性のあるダークビッチちゃんは無理だけどよ。
やれるチャンスがあっても裏を考えてしまって萎えそう。
「寛治の好きが俺らと同じなのか、特別なのかはわかんねーけど、焦らずに考えてみてからでいいんじゃねえの」
「……一回、考えてみるわ」
池の中で一応折り合いがついたらしい。
佐倉のことを好きだと設定している山内くんのあり得ないアドバイスだったぜ。
自分のことを棚に上げまくりですまんな、池。
池と櫛田ちゃんは似合ってないから諦めてくれた方が嬉しい。
スペック的にもそうだけどさ、櫛田ちゃんはダークサイド的にねーよ。付き合う難易度も高いし、付き合えても地雷持ちじゃん。
それにさ、池には別の相手が居る気がするんだよな。
最初は敵対してたけど、無人島で頼りになる池と篠原は結構いい感じだったし、池の相手が篠原なら素直に応援できるってもんよ。
軽井沢の下着事件で好感度がリセットされた感だけがもったいないな。
「うっし。じゃあ、これで3人の目標は決まったな」
「は?」
パシっと右こぶしを左手で包み込むように叩いて、須藤が話を締めだした。
「夏の目標だよ。俺は堀北から勉強を教わる。寛治は好きかを考える。春樹、お前は佐倉に告白な」
「は、なんで告白!?」
「恋愛マスターなんだろ。じゃあ、それぐらいやれよ。なあ、寛治」
「寛治、それはないよな。な? な?」
「そ、そうだな、健さすがにそりゃ……」
「あぁん?」
「3人の目標が決まったじゃん、頑張ろうぜ、春樹」
池、人がせっかく真面目に恋愛相談に答えてやったって言うのに、その裏切りはないんじゃないか。
須藤の暴君っぷりがここに極まる夜になってしまった。
佐倉に告るとか、ねーよ。
本日の報告(表)
特になし
本日の報告(裏)
綾小路の部屋は、平田と幸村と高円寺か。うわー、必要な会話しかしてなさそうじゃん。俺の楽しい青春を自慢したいぜ。
──夜のトークが盛り上がりすぎたら碌なことにならないなんて知りたくなかったけどな。佐倉への告白とかどうすっかなぁ。