機動戦士ガンダム 静かの海の守り人   作:ミズナス

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-Prologue- U.C.0079

「――――ハハッ、ハハハ! 見ろ、アラン! コロニーが落ちていくぞ! この戦争はオレたちジオンの、スペースノイドの勝利だ!」

 

 何がそんなに面白いのか、俺の戦友はずっと笑っていた。

 

 一年戦争。

 人類が宇宙にその生存圏を広げ始めて、七十年ばかりが過ぎた頃。

 地球から宇宙を支配し続ける地球連邦政府に対し、スペースコロニー・サイド3のジオン公国が宣戦布告。

 ジオン側は新兵器『モビルスーツ』を実戦に投入し、圧倒的に数で劣るはずの地球連邦軍を圧倒した。

 俺、アラン・ダレンも当時十六歳という若さと、モビルワーカーの操縦経験を引っ提げて志願兵となり、モビルスーツのパイロットとして従軍していた。

 地球連邦政府は傲慢な圧制者だ。我々、宇宙の開拓者たるスペースノイドを棄民のように扱い、我々の自治独立の権利を否定しながら、搾取を続ける憎むべき敵だ。

 俺はこの戦争が始まってから、いや始まる前からずっとそう教わってきたし、自身も地球連邦政府に対して反感を抱いていた。

 だから、俺は友人たちと共にスペースノイドの自治独立を勝ち取るこの戦いに参加したのだ。一抹の不安と、それを掻き消すほどの高揚と、使命感を胸に抱いて。

 自分たちならばこの悲しい歴史を変えられると、あの頃の俺は本気で信じていた。

 それほどの力を、このモビルスーツという兵器は俺たちに与えてくれていたし、次々と報じられるジオン軍大勝の知らせは、俺にこの幻想が真実なのだと錯覚させるのに十分なものだった。

 

 ブリティッシュ作戦が発動し、守らねばならないはずのスペース・コロニーが地球へと落下していく様をこの目で見るまでは。

 

 地球の大気圏に突入し、煌々と燃え盛るコロニーが、地球の重力に吸われて落ちていく。

 とてつもない質量を持つ赤い塊が、より多くの憎悪と怒りを乗せて、澄み渡った青い星に突き刺さっていく。

 そして、いま地球に向けて落ちていくコロニー、アイランド・イフィッシュは、間違いなく数千万人が住んでいたコロニーだ。

 住んでいた人たちはどうなったのか。全員を立ち退かせたところで、他のコロニーにそこまでの難民を養うほどの余裕はない。

 まさか――――。

 

 いま、こうして俺が呆然としている間にも、コロニーは地球に向かって落下していく。そうして、俺の見えないところで数えきれないほどの命が、跡形もなく消えるのだ。

 なるほど、地球連邦政府は悪なのだろう。人でなしなのだろう。

 だが。

 ならば、こんな悪魔の所業を必勝の策だと宣い、実行する俺たちは何なのだ。

 数億、数十億の命を一瞬にして奪い去る俺たちは、一体なんだというのか。

 戦友たちが歓喜の声を上げている中、俺は自分の震える手をモビルスーツの操縦桿から離していた。

 この宇宙には今、憎しみと怒りしかない。

 モビルスーツを操り、自分の庭のように駆け回っていた宇宙が、今の俺には冷たく、恐ろしいものに感じられる。

 そんな冷たさは、俺が持っていたスペースノイドの自治独立という浅はかな夢の熱量を、一瞬で奪い去っていった。

 

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