ガザC。
元々は作業機であり、それを高速航行が可能なモビルアーマー形態へと変形可能なモビルスーツへと改造したものであった。
そのためか、機体と一体化された高出力のビーム砲を用いた、集団での射撃戦以外は優れたものがない。
「高出力のビーム砲だけが取り柄の雑魚か。だが、インダストリアル5のターミナルは既に残党共の手に落ちている可能性が高い。……手早く片づける!」
アランはなおも加速を緩めることなく、二機のガザCとの距離を詰めていく。
コロニーをテロリストじみた手法で占拠するネオ・ジオン残党勢力に対する彼の怒りが、その加速を後押ししていた。
「どれだけ血を流せば、お前たちは気が済むんだ……!」
ミノフスキー粒子の散布下では、無線通信の類が機能しない。
そのため、状況に応じた指示や味方からの報告による戦況把握というのは不可能であり、モビルスーツのパイロットには敵味方の位置や自身の周囲の状況から戦況を把握する能力と、その情報を元に最適な判断を下す能力も求められる。
ただモビルスーツを操れるだけでは、一流のパイロットとは言えないのだ。
「いつにも増して、動きが速いッスよ隊長……!」
しかし、一年戦争から常にモビルスーツを駆って戦場を生き延びてきたアランたち三人は、それらの能力を含めて熟練のパイロットであった。
アランの動きに呼応し、ジム・グランツァで追従するジャン。
「アレがプルス・ディアスの動き……。流石です、隊長」
そして、アランとジャンの突撃を支援するため、マリアの乗るデミ・ドーガは静止してフェダーイン・ライフルでの援護射撃を行う。
発射されたフェダーイン・ライフルのビームを回避するため、それぞれアランたちから見て左右の方向へと別れて旋回する二機のガザC。
それこそ、アランたちの思うつぼであった。
「まずは、一機ッス……!」
ジャンは既に、左方向へと回避したガザCの進路にバズーカの照準を合わせている。
ジム・グランツァのバズーカは正式名称をハイパー・バズーカ改といい、カートリッジ式の弾倉には通常の炸裂弾から散弾、モビルスーツなどの熱核融合炉の反応を探知して自動で爆発する近接信管弾も装填可能。
そして、いまジム・グランツァのバズーカから発射されたものは、まさしくその近接信管弾であった。
炸裂。
ガザCは直撃こそ免れたが、至近距離での爆発によって自身の両脚部を破壊されて航行不可能になってしまう。
そこにもう一発、バズーカを撃たれてしまえば、もはやガザCに回避する術はなかった。
コクピット部分にジム・グランツァの放った炸裂弾が直撃。
ガザCは爆発し、四散した部品だけがその周囲に残っていた。
「一機撃墜、さぁて隊長はどうッスかね────」
ジャンは右方向に回避したもう一機のガザCの方へとジム・グランツァを向ける。
そして、その光景に言葉を失った。
プルス・ディアスはなんと、モビルアーマー形態のガザCに追いつき、ビーム・サーベルで一刀両断していたのである。
「そりゃあもう、調子がいいとか迷いがないとか、そんなレベルじゃないッスよ、隊長……!」
確かに、相手は旧式の中でもひときわ貧弱なガザCであり、パイロットの練度も低く、回避行動をとっていたために距離を詰めてきたプルス・ディアスに対して反応が遅れた可能性もある。
それでも、相手は可変機。
人型に近いモビルスーツは、高速航行を行えるモビルアーマー形態に変形できる可変機に機動力で勝てない。
グリプス戦役において可変機が登場してから、この事実は不変のものであった。
しかし、現にアランの駆るプルス・ディアスはガザCに対して速度で上回り、一刀のもとにそれを切り落としている。
まるで羽虫を叩き落とすようにあっさりと。
「……なんだ、このモビルスーツは。より速く、と俺が思ったとき、スラスターの加速だけではない、何かを感じた。デミ・ドーガとの性能差からくる違和感なのか……?」
当のアランですら、プルス・ディアスが見せた異常なまでの加速に驚きを隠せずにいる。
プルス・ディアスの至近距離にまで近づいたジム・グランツァは、その右指からミノフスキー粒子下でも通信可能なケーブルを射出する。
「隊長、そのモビルスーツすごいッスね。いまの隊長なら、赤い彗星や連邦の白い悪魔と肩を並べられるかもしれないスよ?」
「おだてるなよ、ジャン。俺自身も、こいつの
「その言いぐさ、まるでガンダムみたいッスね。とにかく、雑魚は片づけたんでコロニーに向かいましょうよ。後ろからマリア副隊長も来てるッス」
通信ケーブルを戻し、コロニーの方へと向かっていくジム・グランツァ。
アランもそれに追いつこうと加速するが、先ほどプルス・ディアスが見せた異次元の速度は出せなかった。
データ通りの推進力、予想されている通りの加速。
先ほどの何かが作用するような兆候は全く見られない。単なる高性能モビルスーツであった。
「……こいつが、ガンダム? いや、そんなはずはないか」
ジャンの言ったガンダムという言葉に少し心を引っ張られながらも、アランは目の前の任務を遂行することに集中した。
向かう先は、工業用コロニー・インダストリアル5の三番ターミナル。
アランたちから最も近く、大型の艦船が停泊可能なターミナルであった。
インダストリアル5は主に、周辺で採掘された資源の貯蔵と加工を目的に作られたものである。
そのため、日夜多くの採掘船や資源運搬船がこのコロニーを出入りしており、そこに紛れ込む形で残党勢力はコロニー内部に侵入したのだろうとアランは予想していた。
「もうすぐコロニーの三番ターミナルだが、敵の目立った動きはないな。さっきのガザCが偵察隊だとして、高性能機が迎撃してくるならタイミングは今しかないが……」
アランがそう呟いていた時、三番ターミナルからある艦船が顔を出す。
ネオ・ジオンの主力宇宙巡洋艦のひとつ、エンドラ級軽巡洋艦であった。
「エンドラ級か!」
エンドラ級の搭載可能なモビルスーツは六機。
その六機全てがドライセンやバウ、ドーベンウルフのような高性能機であれば、アランたちにとってはかなりまずい状況になる。
固唾を飲むアラン。
しかし、エンドラ級から発艦してきたのは先ほどと同じガザC、それどころか一年戦争時代の旧式機であるゲルググやザクⅡ改ばかりであった。
「馬鹿な、これが敵の総戦力だと……?」
アランが驚いているのを後目に、マリアのデミ・ドーガが発艦したばかりのザクⅡ改を一機、狙撃によって撃墜する。
回避される前提であったマリアはこれに困惑したのか、横にいたプルス・ディアスの方を
「と、とにかくテロリストには違いない。いつも通り、可能なら捕縛、できなければせん滅するだけだ」
一時的に静止していたプルス・ディアスはスラスターを噴射。ジム・グランツァやデミ・ドーガもそれに追従し、戦闘が開始される。
もっとも、その戦闘は二十分もかからず終了。
残党勢力のモビルスーツ三機とエンドラ級巡洋艦がアランたちによって撃墜され、その練度の違いに恐怖した残りの二機は降伏。
エンドラ級が行っていたミノフスキー粒子の散布は止まり、通信やレーダーは回復した。
「おい、本当にお前らだけなのか? 他に敵は?」
武装を解除して投降したザクⅡ改に通信で尋ねるジャン。
そのパイロットは恐怖と動揺で声を震わせながら答えた。
「タ、ターミナルの管制室に立て籠もるって息巻いていた連中がまだいるよ……! なんでも、偶然視察に来ていたサザナミって名家の親子を捕まえたから、身代金はたんまりとれるって……!」
その言葉を聞いたアランは、自身の顔からさっと血の気が引くのを感じた。
プルス・ディアスのスラスターを全開にし、ターミナル内部へと侵入するアラン。
「た、隊長! ジャン、貴方は捕虜の対処を続けて! 隊長は私が!」
「り、了解!」
あまりに突然のアランの行動に慌てふためくマリアとジャン。
そんな二人を顧みることなく、アランは誰もいないターミナルの内部でモビルスーツを止め、コクピットのシート後方に白兵戦用として備え付けていた自動小銃、それからタブレット端末を手に取る。
端末でインダストリアル5、三番ターミナルの地図を開いてから、管制室までの最短ルートを一瞬で頭に叩き込むアラン。
そしてコクピット内部にその端末を放り捨てると、自動小銃の安全装置を外して遊底を後退させ、あっという間に戦闘準備を完了させた。
「サザナミなんて名前の名家、二つもないはずだ。あの子は、ここにいる……!」