ズサを一刀両断したガンダム・ユリシスに襲い掛かる、死角から放たれたシュツルム・ファウスト。
その弾頭は外れることなく真っすぐに、ユリシスのコクピットに座るシャーラ・サザナミへ。
そして、シャーラは目撃する。
一秒が無限に思えるほどの瞬間を終わらせるように、コクピットの彼女と弾頭の間に割り込むグスタフ・カールの姿を。
守るべき少女の盾となるべく、迫りくる死に立ちはだかる大人の背中を。
炸裂。
シュツルム・ファウストとは、端的にいえばギラ・ドーガをはじめとしたジオン系モビルスーツで運用されている使い捨てのロケットランチャーである。
モビルスーツが片手で運用可能なサイズの弾頭は、コクピット部分に命中すれば並大抵のモビルスーツではひとたまりもない代物だった。直撃すれば表面の装甲を貫通してコクピットや動力炉諸共、一機のモビルスーツを破壊するだろう。
シュツルム・ファウストの爆発が空気を揺らし、シャーラのコクピットも震えた。
「少尉……! ナヴァロ少尉ッ!」
そんな揺れなど意に介さず、シャーラは叫ぶ。
しかし、そこで気づいた。
グスタフ・カ―ルが、ナヴァロ・リードの乗機が彼女の無事を知らせるように、
「…………ッ! ナヴァロ少尉!」
シャーラの呼びかけに、ナヴァロが応じる。
「
グスタフ・カールには、フレキシブル・アームによって自在に稼働するシールドがあったのだ。
シャーラを救うために割り込んだ一瞬、ナヴァロはグスタフ・カールに前方へ向けてシールドを構えさせていたのである。
単なる成形炸薬弾ではない可能性を考慮して少し斜めに構えたシールドと、爆発の衝撃をもろに喰らう形となったフレキシブル・アームは破壊されたものの、ナヴァロも機体も大きな損傷はなし。
迫りくる死を、ナヴァロ・リードは見事なまでの技量によって凌いだのである。
シュツルム・ファウストを放ったギラ・ドーガは、自身の不意打ちが失敗に終わったことで自棄になり、右腕部で構えていたビーム・マシンガンを乱射しようとした。
もちろん、それを許すナヴァロではない。
ギラ・ドーガが右腕部を動かすより先に、グスタフ・カールの90ミリショートマシンガンが敵のコクピットを蜂の巣にする。
金属の棺桶となったギラ・ドーガが倒れ伏した後も、しばらくグスタフ・カールはマシンガンの銃口をギラ・ドーガに向けつつ、頭部を左右に動かして周囲を警戒。
敵影がないことを確認したうえで、グスタフ・カールはマシンガンの銃口を下げた。
「ふぅ。なんとか、なったみたいね」
我ながらよく生き延びられたものだと、ナヴァロが心のなかで自画自賛していると。
「少尉……、その。すいません」
近づいてきたガンダム・ユリシスの右腕部がグスタフ・カールの肩部にのせられ、気まずそうに謝るシャーラの声が彼女の耳に届く。
ズサの弾幕を潜り抜け突撃するという自らの判断が、結果としてナヴァロを殺しかけたことに罪悪感を覚えていた。
「謝る必要はないって。もしあのときに全員が守りに回っていたら、ズサのミサイルは部隊の誰かに命中していたかもしれない。ちょっと危なかったけれど、これで良かったの」
「でも、そのせいで少尉が……! アタシが、あのギラ・ドーガの不意打ちに反応していれば……」
「ははっ、何を言うかと思えば。人間が一人でできることなんて、そう多くないって」
けらけらと笑うナヴァロ。
「
「一人じゃ、生きていけない……」
ナヴァロのその言葉は、これまでのシャーラ・サザナミの人生を否定するような言葉であった。
このブリュタールに来る前の彼女なら、この言葉に強く反発しただろう。
それは弱者の理屈。強者は誰にも依存せず、誰にも頼ることなく、ただ一人で立ち向かえる者のことだと反論しただろう。
しかし、いまのシャーラならナヴァロの言葉の意味を理解できる。
幾つもの出会いのなかで変わってきたシャーラ・サザナミなら、その言葉の意味を実感できる。
──私は強くなどない。本当の強さとは、守りたいものを守れる力のことだ。失くしてはいけないものを、見失わない心のことだ。
シャーラの心のなかで、亡き養父リムド・リンクリッツの声が再生された。
「そうか……。だから、強くなるんだ。一人で生きていけないから周りを守るために、誰かと少しでも一緒に居られるように、強くなるんだ」
シャーラはいま、リムドの墓前で戦士になるのだと誓った日のことを思い出している。
オーストラリアの荒涼とした大地に立てられた墓標の前で、シャーラの心に湧き起こった原初の思い。
誰かが残してくれたものや、誰かが与えてくれたもの。
そういうものを守れるように、受け継いでいけるようになりたいと思ったからこそシャーラは強くなることを誓ったのだ。
「父さんも
リムドがシャーラを守ったことは、罪悪感からではない。
シャーラがエインズを守ったことは、気まぐれからではない。
ナヴァロがシャーラを守ったのは、義務感からではない。
自分にとってその人が大事な人だから、残していきたい大事な人だから、帰るべき居場所だから守ったのだ。
この瞬間、少女は
シャーラにとってなにか思うところがあったのだろうと納得したナヴァロは、その背中を叩いて励ますように、ひとつの言葉を贈る。
「貴方の後ろには、誰かがいる。その背中で守るべき者の顔と同じくらい、その背中を預ける者の顔を忘れないで」
「……はい!」
いま、シャーラの瞳はまるで星海に光る一等星のように輝いている。
意志の力が、希望の力が。
何よりも誰かからの、そして誰かへの愛の力が少女の心と身体に強さを生んでいた。
「まぁ、いまの言葉はバルカ司令の受け売りなんだけどね」
「なんだ、感動して損しました。少尉にしては、やけに深い言葉だったので」
「……それだけ生意気になったなら、もう大丈夫ね」
グスタフ・カールが再び搬入口からメンテナンスドックへと繋がる通路を進み始め、
メンテナンスドックではさしたる抵抗を受けることなく、シャーラたちはいよいよ宇宙へとたどり着いた。
全員がノーマルスーツのヘルメットを着用し、五機のモビルスーツはいよいよ決戦の舞台へと上る。
「準備はいい、シャーラ?」
ナヴァロの呼びかけに対して、迷いなど何もないシャーラが溌剌とした声で応えた。
「はい。────シャーラ・サザナミ! ガンダム・ユリシス、行きます!」