スペースコロニー、ブリュタール。
地球から最も離れたサイド3にあるこのコロニーの宙域で、百年の憎しみを絶つための戦い、或いはそれを次代にまで持ち越すための戦いが繰り広げられていた。
シャーラ・サザナミとナヴァロ・リードが属する地球連邦軍の部隊は、ブリュタール内に散布される毒ガスの設置を阻止、それが不可能な場合は毒ガスのタイマー起動を行うザクス・ランツフートを倒そうとする。
対するザクス・ランツフートが率いるジオン残党勢力は、計画通りに毒ガスを散布して住民を虐殺し、憎悪と憤怒の種を次代へと蒔くために、それを妨害せんとするシャーラたちを倒そうとしていた。
「くそっ、乱戦になった。少尉も他のみんなも無事でいてほしいけど……」
ガンダム・ユリシスを駆る少女、シャーラ・サザナミはそのコクピット内でノーマルスーツのヘルメットを外す。
「息苦しい……! 胸の奥から
この息苦しさの原因を、彼女は感覚で理解していた。
それはいまこの瞬間にも散っていく命の叫びと、宇宙に広がっていく憎しみと怒り。
シャーラの持つニュータイプ能力を
「戦争なんだ、これが」
シャーラはユリシスの操縦桿を握り直し、呼吸を整える。十代の少女が到底抱えきれないほどの情報が彼女の心と脳を圧迫するが、それでもシャーラ・サザナミは戦い続けた。
自分が戦わなければ、自分の後ろにいる誰かが死ぬ。
自分が戦わなければ、自分の大切な誰かが、大事な居場所が無くなってしまう。
それをシャーラは理解していたからだ。
そんな彼女は、自身の背後から向けられた殺意を察知する。
「……敵!」
察知、認識、回避。
この一連の行動にシャーラがかけた時間は、一秒もない。
彼女の背後をとったギラ・ズールがビーム・マシンガンから放ったビーム、亜光速で迫る光の槍を上方に移動することで紙一重で回避する。
ギラ・ズールのパイロットはその人間離れした芸当に驚こうとするが、シャーラはその時間すら与えない。
上方へと回避した直後、彼女はユリシスの背部に備わる四本のスラスターアームを駆動させて宙返りを行いながら、ビームライフルを発射。
その一撃は的確にギラ・ズールのコクピットを穿った。
回避と攻撃をほぼ同時に実行するという荒業で、シャーラは背後のギラ・ズールの撃破したのだ。
「機体が、アタシの思うように動く。これなら……」
青い翅を持つモビルスーツが、戦場と化した宇宙でひと際輝く。
ギラ・ズールやギラ・ドーガのような量産機では、いまのシャーラとユリシスを止めることなどできるはずもない。
「一機!」
手近な機体に、飛びかかるような勢いで攻撃を仕掛けるシャーラ。
常人では反応すら厳しい速度で攻撃されたギラ・ドーガは、為す術なく撃破された。
「二機!」
その勢いを殺すことなく、彼女とユリシスは次なる標的へと襲い掛かる。機体性能と技量、そして熱量の差に圧倒された二機目も撃墜。
こんな戦争など自分の力で終わらせてみせるという意思と力が、シャーラを強く動かしていた。
しかし。
「三機目は……。────ッ、なにか来る!」
シャーラは感じ取った。
乱戦の向こう側から氷よりも冷たく、宇宙よりも黒いものが迫りくることに。
直後、まるで心臓を見えない手で握られたような圧迫感を彼女は覚えた。
自らへと向けられた強烈な殺意を防ごうと、シャーラは脊髄反射でユリシスのシールドを前方に構える。
その急速に接近する殺意の正体が、ザクス・ランツフートの
「ぐぅっ! シールドが!」
ファンネルミサイルの直撃によって盾としての機能を喪失したシールドを放棄し、シャーラはその殺意の発信源、
彼女はザクス・ランツフートについて、作戦会議でナヴァロから伝えられた情報以外にほとんど何も知らない。
それでも、シャーラは理解していた。
いま彼女が立ち向かおうとしている存在は、これまでにシャーラが出会ったどんな人物よりも狂気に満ち溢れ、その狂気を肯定して陶酔している忌むべき者だと。
依然として繰り広げられている乱戦のなかでも、嫌になるほど感じ取れる不快なオーラ。
シャーラはそれをひしひしと感じ取っていたからだ。
「こんな戦争を起こして、無事でいられると思うな!」
怒りが少女と、少女の搭乗するユリシスを加速させる。
一発、二発とドルニエから放たれるファンネルミサイルを、驚異的な機動力で避けながら進むユリシス。
だが、シャーラが回避したミサイルは単なるミサイルではない。
「このミサイル、振り切れない⁉」
回避したはずのミサイルが、ユリシスの背後に再び迫っていた。
「それなら!」
そう言ってシャーラは思いきり操縦桿を手元に向かってぐいと引っ張りながら、フットペダルをぐっと踏み込む。
その操作によってユリシスは一気に後ろを向き、その状態で出力を最小に調整した腰部のビーム・カノンを数発放つ。
ビーム・カノンから放たれた細い光の矢は、猟犬のように彼女を追いかけていたファンネルミサイルを破壊した。
振り切れないのなら壊してしまえという理屈だが、それを実行に移す技量と度胸は並大抵のものではない。
しかし、いまのシャーラにはもし撃ち落とせなければという発想はなかった。
「小賢しい真似して、とっとと出てきなさいよ!」
心をじりじりと焦がすような苛つきを発散するように叫ぶシャーラ。
「────流石はガンダム、ですか。それでこそ、この闘争の
その叫びに呼応するように、ザクス・ランツフートとドルニエが彼女へと接近する。
この戦いの趨勢がまだ決していない以上、ファンネルミサイルをこれ以上浪費するのは得策ではないと判断し、接近戦へと持ち込もうとしたのだ。
「ようやくご登場ってワケね、悪党どもの親玉が!」
シャーラも望むところだと言わんばかりの勢いでドルニエへと近づく。
白と青、そして赤のトリコロールカラーが目立つガンダム・ユリシス。
華やかさなど欠片も意識していない、ブラックグリーンとフラットグリーンのドルニエ。
二機がいよいよ、白兵戦の間合に入る。
「毒ガスなんて、何のために!」
「増えすぎた愚民を、消すんですよ! そうすれば、
「命の価値を、自分の理屈で歪めるな!」
ガンダム・ユリシスとドルニエが、互いに構えたビームサーベルをぶつけ合った。
同時に、シャーラ・サザナミとザクス・ランツフートの意識も衝突する。
ビームサーベルの鍔迫り合いによって発生した閃光と同じか、或いはそれ以上の激しい火花が二人のパイロットの相克によって生まれていた。
「そういう甘ったれた倫理が、人類をここまで腑抜けにさせたんですよ!」
「そんなに殺し合いがしたいなら、野生に帰れ!」