宇宙世紀0100に起こった戦いから、半年ほどが経過した。
あの戦いでガンダム・ユリシスに乗ったシャーラ・サザナミはいま、地球で暮らす平凡な学生に戻っている。
事後処理という名の煩雑なお役所的手続きから解放された彼女は、世話になったバルカ・モリソンや連邦軍兵士への挨拶を終えた後、ある人物と小さなアパートで同居生活を送っていた。
「……あー、もう! アンタ、お金持ちのお坊ちゃんなのに服装がダサすぎ! 初デートにザクⅡがプリントされたTシャツを着ていくとか、ホントにありえない!」
その同居相手とは、もちろんエインズ・マーレイである。
アパートの一室に、シャーラの怒声が響き渡っていた。
「ち、違うよシャーラさん。これはMS―06Fじゃなくて、MS―06FZ。つまりはザクⅡ改で……」
「もう黙ってろ、モビルスーツオタク!」
彼女はエインズのオタク的ファッションセンスに激怒し、ザクⅡ改がプリントされた服を強引に剥ぎ取って彼を着せ替え人形にしようとしている。
顔を真っ赤にしながら抵抗を試みるエインズであったが、腕をぶんぶんと振るうだけで抵抗というよりは駄々をこねているだけであった。
そんな彼の無駄な抵抗がしばらく続いたあと。
白いシャツとベージュのチノパンという、極めて無難な服装を強要されたエインズがしくしくと床で泣いている。
「うう、僕のザクⅡ改が……」
「ふん、当然よ」
鼻を鳴らして勝ち誇った顔をしているシャーラは、衣装棚にザクⅡ改がプリントされたTシャツを仕舞おうとした。
そのとき、棚の一角を占有するあるものがシャーラの視界の片隅に映り、彼女はそれを見て微笑んだ。
「棚の上、写真でいっぱい……」
そこには、いくつものフォトフレームが置かれていた。
そこに収まっているのは、シャーラにとって大切な人々の写真。
幼い頃のシャーラと共に、仏頂面で映るリムド・リンクリッツ。
照れるアラン・サザナミを他所に、彼と手をつなぐリン・サザナミ。
逃げ回るジャン・ミンウェイと、そんな彼を追うマリア・ミンウェイ。
記念館の裏手で笑顔を浮かべて敬礼するナヴァロ・リードと、杖をつくバルカ・モリソン。
そして、微笑んでいるエインズ・マーレイ。
これらすべてが、シャーラ・サザナミという人間にとってのかけがえのない居場所、与えられた大事なものであった。
「……
動きを止め、小声でそう呟くシャーラ。
そんな彼女の様子が気になったのか、エインズはシャーラの横からひょっこりとその顔を覗く。
「どうしたの、シャーラさん。僕の写真なんか眺めなくても、本人がここにいるよ」
「ふんっ、写真の方がまだ男らしいって思ったのよ。このときは学生服を着ているから、ファッションセンスが壊滅的だって分からなかったし」
「突然、怒涛の悪口!」
わざとらしくショックを受けたジェスチャーをとるエインズを他所に、シャーラは出かける準備を手早く済ませると、まるで早く手を握れと言わんばかりに彼へと手を伸ばした。
「で、初デートは何処に連れて行ってくれんの?」
差し出されたその手を、エインズは恥ずかしそうにおっかなびっくりという具合に握った。
「それは、まぁ着いてからのお楽しみってことで……」
そんな彼の手を、強く握り返すシャーラ。
「ふーん。まさか、モビルスーツの博物館とかじゃないでしょうね」
「……はは、そんなまさかぁ」
「ぶっ飛ばすわよ」
他愛ない話を続けながら、シャーラとエインズは部屋を後にする。
外に出た彼女たちは、青い空から降り注ぐ朗らかな陽光に照らされながら日常を謳歌する。
取り留めて描くこともない、平凡な日常。
だが、これこそがリムドやアラン、ナヴァロたちがシャーラ・サザナミという少女に享受してほしかったものであり、己の命を削っても守りたかったものなのだ。
そしてシャーラもエインズも、その価値をよく理解している。
この日常が、自分たちの帰ってくるべき居場所なのだと確信している。
だからこそ、二人は誓う。
例えまた戦争がこの日常を破壊しようともその価値を忘れることなく、守っていこうと。
かつて、大人たちがそうしてくれたように、自分たちも日常という居場所を守り、受け継いでいける人間になろうと。
ありがとう。
その短くも大きな意味を持つ言葉が、いつまでもシャーラとエインズの心には宿っていた。
─完─