「アナハイム警備部のアラン・ダレンだ。いま鳴っている警報を解除し、周囲には警報機の誤作動だと伝えろ。このターミナルは本社の処理部隊が来るまで封鎖。苦情や意見は、アナハイム本社に伝えてくれ」
工業用コロニー、インダストリアル5での騒乱を終結させたアランは、現地の警備員たちに後始末の指示を出している。
ターミナルの通路でアランの指示を聞く警備員たちの表情からは、納得していないという感想がひしひしと伝わってきていた。
しかし、それを現場のアランに言ったところで仕方がないことも、警備員たちは理解していた。
彼らは互いに、アナハイム・エレクトロニクスという陰謀と謎多き大企業で動く、歯車の一個に過ぎないからだ。
「アラン隊長、ストラダーレ号がこのターミナルに到着しました。グラナダまで護衛予定のサザナミ親子も搭乗済み。いつでも発艦可能です」
ひと通りの後片づけを終えてため息をつくアランに、マリアが話しかける。
「……分かった。こっちも後始末が済んだところだ。十五分後に出発するぞ。俺たち三人はモビルスーツに搭乗し、ストラダーレ号を警護する。あの
「了解です。……ところで、あのサザナミ親子の件ですが」
通路を進み、自分たちの船であるストラダーレ号に向かうアランとマリア。
現在はテロリストの襲撃によって開いたままだったターミナルの隔壁も閉じ、内部に空気も供給されているため、二人はノーマルスーツのヘルメットを外している。
「アキオ・サザナミ氏が、出航の前に隊長と話がしたい、と」
マリアのその言葉に、アランの動きが一瞬止まる。
「分かった。モビルスーツに乗り込む前に向かおう」
「……隊長。何があったかは尋ねませんが、人質救出の作戦も含めて、今回の一件で隊長に落ち度はなかったと思います。どうか、悩まないでください」
「ありがとう。だが、悩んでいるわけじゃない。自分がどれだけ度し難い生き方をしているのか、再確認しただけさ」
強がった笑みをマリアに向けて、再びストラダーレ号へと進み始めるアラン。
「隊長。貴方は戦士として、そして上官として、いつも私たちに進むべき道を示してくれている。貴方がいなければジャンも私も、こうして生きていない。……けれど、私は貴方が道に迷ったとき、何もできない」
離れていくアランの背中を見て、マリアはひとり呟いた。
ストラダーレ号に入り、マリアはAIの航路を設定するために操縦室へ。
アランはリン・サザナミの父であるアキオ・サザナミに会うため、モビルスーツ格納庫へと向かった。
ストラダーレ号はあくまで短距離のモビルスーツ運搬船として設計された艦船のため、居住空間と呼べるものはほとんどなく、仮眠用に二段ベッドだけが置かれた部屋ふたつのみ。
食堂や娯楽室などは当然存在しないため、話すとなると操縦室かモビルスーツ格納庫しか場所がないのだ。
アランの搭乗するモビルスーツ、プルス・ディアスの前で向かい合うアキオ・サザナミとアラン・ダレン。
開口一番、
「……それで、お話とはなんでしょうか。サザナミ会長」
「アキオでいい。このモビルスーツは、キミが乗っているものかアラン隊長」
「……はい、私の乗機です。型式番号は不明ですがプルス・ディアス、という名称です」
なぜモビルスーツの話をするのか、理解できないアラン。
しかし、アキオは話を続ける。
「いい機体だ。強力な武装や重装甲で誤魔化すことなく、あくまでモビルスーツ本来の持ち味である、機動力と汎用性の高さを活かしている。だが、それを戦場で十全に発揮できるのは、乗り手がそのことを理解しているからだろう」
そびえ立つプルス・ディアスを見上げ、満足げに笑みを浮かべるアキオ。
アランはこの時点で、このサザナミ商会の長が単なる商人ではないことに気がついた。
「俺も一年戦争で色々な機体に出会ったが、これほどの機体となると、そう多くない。管制室での戦いも見事だった。一年戦争で、キミと戦わずに済んだのは幸運だな」
目を開いて驚くアラン。
「……気づいていましたか、私が元ジオン兵だということに」
「あの動き、そして乗機の様子を見れば一目瞭然だ。だが、キミはかなり若く見えるな。俺はあの戦争のときにもう二十歳を超えていたが」
「はい。元々、ロクに学校へ行かず、モビルワーカーに乗って働いていた子供でしたから。十六歳でジオン軍に入隊して、終戦のときは月に駐留していました」
「月、ということはキシリア・ザビの突撃機動軍か。俺はソロモンで負傷して、それで終わりだ。幸い後遺症も残らなかったが、あの地獄のような戦場を、怪我だけで生き残れたのは奇跡だと思う」
そこから、アランとアキオは時間を忘れて話し込んだ。
当時の連邦軍とジオン軍のモビルスーツの違い。
軍内部のいざこざや軋轢に対する不満。
話題は星の数ほどあり、会話が途切れることはなかった。
やがて、かつては敵だった者とは思えぬほど、アランはアキオに対して親近感を抱きはじめていた。
「……本当に、なぜあんな無意味な戦争が起きたんでしょうか。いま、こうしてアキオさんと話していると、そういう思いが強くなる。途方もない数の命が、ただ散っていっただけのあの戦争が……」
「互いに、理解することを止めてしまったからかもしれん。スペースノイド、アースノイド、そしてニュータイプ。色々なレッテルばかりを貼って自分たちも、相手も人間だという当たり前の事実を忘れてしまった。そして、戦いという最も残酷な手段で訴えることしかできなくなったんだ」
アキオの言葉には、確かな重みがあった。
かつて戦士として戦い、いまはその戦いから解放された者の持つ言葉の重みと意味に、アランは言葉を失う。
自分は、何をやっているのか。なぜ、アラン・ダレンはまだ戦い続けているのかと。
だが、アキオはそんなアランの肩を叩き、にこりと微笑む。
「……はじめ、元ジオン兵と気づいたときは、娘のことも含めて殴ってやるかとも思っていたんだ。だが、今なら言える。娘と、リンとこれからも仲良くしてやってくれ」
突然アキオの口から放たれた想定外の言葉に、アランは目を丸くした。
「キミはあの戦争を悲しみ、悔いている。そして、そんな悲しみから目を背けず、悔いを背負いながらもまだ戦いの中で人を救っている。誰にでもできることじゃない」
「……ただ、戦いしか知らないだけの愚か者ですよ」
「そうかもしれん。だが────」
アキオは、おもむろにアランの背後を指さす。
そこにはプルス・ディアスの脚部の陰から、武器になりそうな工具を持ってアキオを睨みつけるジャン・ミンウェイの姿があった。
「……ジャン。そこで何をしているんだ」
「えっ? いやぁ、その、ははは……。もし隊長が、その地球生まれの金持ちおっさんに何かされそうになったら、ちょいと加勢しようかと……」
思わずあきれ返るアランであったが、アキオはそんなアランとジャンの様子を見て大いに笑っていた。
「部下からも慕われる、いい隊長のようじゃないか。そういう男は、決して悪いやつじゃない。俺は信じるぞ、アラン・ダレンという一人の男を。リンも必ず分かってくれる。今はまだ、戦いというものを飲み込むのに時間がかかっているんだろう」
見るべきものは見たと言わんばかりに、アキオはその場を後にする。
「……で、隊長。あのおっさんから何か言われたんスか?」
ばつが悪そうに頭を掻きながら、ジャンがアランに近寄ってきた。
そんなジャンの頭を軽く叩いて、それからわしゃわしゃと荒っぽく撫でた。
「気にしなくていい。──やはり